糸井 |
ポテンシャルこそが
ものごとの価値のすべてなんだ、
ということにぼくが気づいたのは
赤城山の埋蔵金を調べた時なんですよ。
徳川埋蔵金を掘っていてわかったのは、
江戸幕府がフランスから借金をしたのですが、
フランス側からして見れば、
徳川埋蔵金があろうがなかろうが
日本にお金を必ず貸すという事実がありました。
フランスの銀行に取材をしたら、
当時、現地に金を貸すグループがあって
日本にお金を投資しまくっていたんですよ。
「あれだけの小さな島国で、
あれだけの多くの働き者がいれば、
密集していて人数的にも工場としても
いくらでもものを生産できるだろうし、
人数としても市場として成り立たせられる」
・・・だから、やっぱり、埋蔵金がなくても、
フランスがお金を貸したんだろうなあ。
それに気づいたら、経済の仕組みを
ぜんぶわかったような気がしたんです。
「働き者がたくさんいさえすれば、
それは力になって、必ずもとがとれる」
この事実を、フランス人たちは江戸時代に、
とっくに知っていたんだなあと思いました。
噂だけで経済は動くし、早い話が、
ポテンシャルというのが通貨だと感じるし。 |
末永 |
それがお金というものの本質です。
例えば南太平洋のヤップ島では、
石がお金ですけど・・・そこの石貨は、
石が大きければ大きいほど価値があります。
みんな、お金を、どこかほかの島から
掘り出してくるらしいんです。
で、ヤップ島いちばんのお金持ちは、
その人の先祖が、ある島からものすごい
大きな石を掘り出してきたからですが、
でも、その祖先は、大きな石を、船で
運んでいる途中に沈没しちゃったんですよね。
でも、その子孫たちは、やっぱり、
村一番のお金持ちでありつづけるそうです。 |
糸井 |
いいなあ、その話。 |
末永 |
引き上げられる可能性はゼロなのに、
その沈んだ石が、この世にあるものとして
子孫たちの財産として、通用してしまう。 |
糸井 |
ヤップ島のお金って、
あんまりでかいから交換しないよね? |
末永 |
ええ。金は動かない。もともと、
不動産はそういう仕組みですから。 |
糸井 |
なるほどね。
バブルの時にも、そういう仕組みを
ちゃんと説明してもっていれば、
みんなが、不動産についても
もっといろいろとわかったはずのに、
なんか絶対価値のように誤解しちゃうよね。 |
末永 |
そう。
ヤップ島の話は、みんな笑うんだけど、
でもぼくたちは金(きん)を使って
おんなじことをやってたんですよね。 |
松本 |
(笑) |
末永 |
一生懸命掘り出した金(きん)を
中央銀行の金庫に入れて、
これと交換できるのが通貨だとしただけで。 |
糸井 |
ニクソンが、
「もう、金(きん)に変えなくていいのな!」
と言ったあとに、それがもっと本質的になって。 |
末永 |
東洋では早くから紙のお金がありましたが、
ただの紙切れが正統なお金になったというのは、
西欧の歴史では、1971年の金・ドル交換停止が、
はじめてのことなんです。
それまでは、ただの紙切れというのは
戦争なんかで困った時に政府が出すもので、
その後、ものすごいインフレで
紙くずになってしまうようなものだった。
でも、1971年までだって、やっぱり
ほんとうに価値があったのは約束だったんですよね。
石なり金属なりが、約束の裏付けだっただけです。
お金って「約束だけ」なんですよ。
持っている人が、他の人に
何かをさせることができるという。 |
糸井 |
「肩たたき券」ですよね。 |
松本 |
そうそう(笑)。 |
糸井 |
「こいつの肩たたき券は、
ほんとに叩いてくれるか」
が、約束で。 |
末永 |
肩をたたかない奴が罰せられるという仕組みを、
政府が保証してくれているという。 |
糸井 |
ぼく、前に、
「100円を捨ててきなさい」
という授業を、やったことがあるんです。
その授業というのは、
俺の職業になりたい人が集まってきているから、
少し乱暴をしてもいいんです。
だから、さっき言った小学生とは
違うことができるんだけど。
「今からみんな、100円を持って外に出て、
捨ててきて戻ってきて、その感想を述べてね」
と言ったんです。 |
松本 |
おもしろいですね。 |
糸井 |
うん。
「お金」というものが生む「約束」を
いかに壊してしまうかという瞬間だからね。
で、授業に参加していた子たちでも、
女の子は、みんな快感を感じたんです。
感想を言わせても、基本的には、
「すっごい気持ちよかったです!!」って、
たった100円なのに、イッた目をしてるんですよ。
まあ、もちろんおばさん型の人はいて、
「私にはそんなこと、できませんでした」
という感想だって、あるはあったけど。
それに比べたら男は理屈っぽくて、
「歩道橋の上からトラックの荷台に
100円を落としたんだけども、
あれが旅にゆくと思うとおもしろかった」
「公衆電話ボックスのお金の戻り口に
入れておいたから、誰かが使うんじゃないか」
とか何とか言っている。
ブラックホールに向けて
ものを投げることが、できないんです。
もっとセンスのないひどい奴は、
自動販売機で要らない飲み物を買って、
それを飲んだとか言っていて・・・・
それを「捨てたとおんなじ」だとか。 |
松本 |
ダメですね〜。 |
糸井 |
それ、答案として最悪ですよね? |
松本 |
そうですよね。 |
糸井 |
だったら、捨てられませんでした、のほうが
どきどきしているという意味では、
点数が高いでしょう?
その授業をやっていて、つくづく思ったのは、
女の突破力というか、約束というものに対して
「破る可能性がある」と思って生きているのが
女という種族なんだよなあ、というか・・・。
それがわかって、おもしろかったですよ。 |
松本 |
それはおもしろいですけど、
それをさせようとした発想が、
ぼくにはいちばんおもしろいですね。
(つづきます)
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