弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その3 無な僕。
糸井 でも、松尾さん、
次々にやりたいことが出来ますよね?

松尾 そうですね。でも最近は、
あんまり次々にって、
思わないようにしてるんですけどね。
糸井 ふうん・・・・。
松尾 自分を急かすのがもう嫌になっちゃって。
いまの僕の年は、それこそ、
糸井さんが釣りをしてた時期ですから。
糸井 そうですね。
45歳は面白いですよ。
逃げ出してるわけではないんだけど、
局面を変えたいっていう気がすごくありますよね。
松尾 今年になって、やっと
ボーっとすることが
出来るようになったっていうか。
今まで、ボーっとすることが
出来なかったんですよね。
ただ座ってじっとしてるってことが。
そういうことは、ほかの人は普通に
出来ていることなのかどうか分からないですけど。
ただ座ってるっていうことが、
やっと出来るようになって。
ここ2週間ぐらいずっとそうしてるんですけど。
糸井 いや、俺ね、こういう人って
嘘ばっかり言ってるんじゃないかっていう
疑いがあってね。なんかね、どうも
舞台の上の台詞と、ゴッチャになるんですよね。
だから、松尾スズキっていう人と
しゃべっていても、半分は、
なんか本当のことを
言ってないんじゃないかなっていう。
松尾 いやいやいや、そんなことはないです(笑)。

糸井 だって、考えてみてくださいよ。
今までボーっとしてなかった人が、
ここ2週間ぐらいボーっとしてるって。
松尾 まあ、釣りとかしてたら、
ボーっと出来るじゃないですか。
まあ、波とか見てるから、
完全なボーっと、とは
言えないのかもしれないですけど。
糸井 釣りはね、実はね、
ものすごくボーっとしてないです。
松尾 あ、そうなんですか。
糸井 ボーっとして見えるんですけど、
ものすごく忙しいんです。
ああしよう、こうしよう、
間違ってるんじゃないか、
正しいんじゃないか、
いいぞ、いいぞ、
こうなったらどうしよう、
‥‥もうひっきりなしに考えてるんです。
ただ、人からはボーっとしてるように
見えるんですけど。
松尾 ああ~。なるほどね。
糸井 その意味で、今の松尾さんの
「ボーっと」は、
本当にボーっとしてる?
松尾 はい。「無」ですね。

糸井 嘘だ(笑)、嘘だ。

松尾 本当に。
だから、今日の対談も不安だったのは、
その2週間の間に、
急速にボキャブラリーがなくなっちゃって。
45になって、ボーっとすることと、
トマトが食べられるようになったっていうのは、
すごく僕にとってやっぱり大きいんです。
それまではお風呂に入っても、
本読んでなきゃいけないとか、
なんかもう時間を埋めなきゃ
気が済まないっていう性質で。
糸井 うん、うん。そう言われると、
ちょっと分かるかもしれない。
松尾 だから、ちょっと温泉に
行ってみたいなと思うんですよね。
積極的に。
糸井 温泉行く時に、
誰かと行くんですか、一人で行くんですか。
松尾 一人ではほとんど行ったことないですけど、
一人で行くのもいいかなっていうかな、
ボーっと出来るようになったんで。
糸井 はあ~。
松尾 温泉のあの朝って、辛くないですか。
糸井 起こされますからね。
松尾 起こされて、ご飯詰め込まれて。
糸井 忙しいですよね。
松尾 それで、「10時に出ろ」って言われて、
8時にご飯食べて、
2時間はあるじゃないですか。
その朝から出るまでの2時間が
苦痛でしょうがないんです。
糸井 朝のテレビを見るとか。
松尾 そうなんです。
でもテレビは家で見れるし、
なんで温泉来てテレビ見てるのって、
いっつも思うんですよ。
だから、朝ごはんをもうちょっと
ずらしてくれたら(笑)、
10時に食べ終わったら出る、
がいいじゃないですか。
糸井 はい、はい、はい。
松尾 朝ごはん食べた後、お風呂とか入るのもねえ。

一同 (笑)。
糸井 どうしてみんなが笑うか分かりますか。
松尾 いや、分かんないです。
糸井 多分、ご飯食べないっていう手もあるし。
松尾 ああ。
一同 (笑)
糸井 「起こさないでください」っていう手もあるし。
それから、テレビは家でも見られるけども、
別にそこで見てもいいっていう手もあるし。
いろんなところで、非常にこう、
なんか被害を受けてる感じがおかしい(笑)。

松尾 ああ~。だから、ちょっとだから、
温泉に対する考え方を改めるためにも。
気ままにやるっていうね(笑)。
糸井 気ままじゃないもんね。
聞いてると。
松尾 なんかね、考えるんですよね。
冷え性なんで、離れたところにお湯があったりすると、
もう帰ってきた時、風邪引く時があるんですよ。
一同 (笑)
松尾 それが不安で、不安になったり。
あとやっぱり、
お湯にポチャンって浸かってる時に、
ボーっとするしかないのが苦痛でしょうがない。
糸井 はい、はい、はい。
松尾 あと、普通のお風呂と、
温泉の泉質の違いが分からない。
一同 (笑)
糸井 はい、はい、はい。
松尾 よく、温泉番組とかで、浸かった瞬間に、
「ああ~っ」っていうのがね、
すっごい許せないんですよ。
だって、お湯じゃないですか。

糸井 はい。お湯です、お湯です、はい。
松尾 家のお風呂で、
「ああ~」って言えばいいと思うんですよね。
糸井 家では「ああ~」って言いにくいですよね。
松尾 (笑)。
糸井 いや、確かにそうですよね。
この間も温泉に、
南伸坊っていう人と行ってて。
で、浸かった途端に、二人で
「ああ~っ」って言って。
暫く「ああ~」「ああ~」言って。
「俺たち、『ああ~』『ああ~』、
 うるさいなあ」って。
「温泉にせっかく入ったんだから、
 こんなうるさくすること
 ないんじゃないか」って。
でも、「『ああ~』言っちゃうよね」って。
松尾さん、「ああ~」言わない?
松尾 思わず言うんですけど。
一同 (笑)
松尾 ただそれは、
温泉へ着くまでの道のりに
結構くたびれてるっていうのがあるんですよね。
くたびれて、やっと温泉の中に入って、
「ああ~」って。
温泉の泉質とは関係ないっていう感がすごくある。
一同 (笑)

糸井 辛い旅を、吐き出してるんですね。
松尾 そこと温泉の泉質を、
なんかゴッチャにするのが嫌なんですね。
  つづきます。
2008-10-10-FRI