糸井 |
「女教師は二度抱かれた」を観ながら
僕は勝手に太宰治のことを考えてたんですよ。
松尾さんはお好きですか? |
松尾 |
あんまり読んだことないんです。 |
糸井 |
でも、全く読んでないわけじゃないですよね? |
松尾 |
『人間失格』ぐらいかな。
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糸井 |
大人になってから太宰治読むって、
ものすごい面白いですよ。
今言ったような危なっかしさが、
全部てんこ盛りになってますからね。
さっきの、『メリーに首ったけ』の
監督みたいな人って、時々いますよね、
あっちこっちにね。
『ジャッカス』は、どうですか。 |
松尾 |
『ジャッカス』は、
好きなのと嫌いなのがあります。 |
糸井 |
全部は好きじゃない? |
松尾 |
ちょっと汚すぎるのは。 |
糸井 |
汚すぎるのは勘弁してくれと。
あれの成り立ちは、
一方ではスケボー関係の人たちですよね。
で、一方ではスタントマンですよね。
どっちも、動きを見せる人から、
あのアイディアが生まれて。
で、それが、MTVから出て行ったっていう、
その成り立ちが、すごい面白いなと思って。
芝居やってる人でも何でもなくて、
芝居の端っこにあるスタントと、
スケボーっていう、いわば何だろう、
サブカルチャーの運動部みたいなやつらでしょ。
それが、自分たちを賭けてやると
ああなるんだっていうのが、
系統図が面白いなと思って。 |
松尾 |
面白いですね。それがまた、
笑いに行き着いてるのが面白いですね。 |
糸井 |
そうですね。そうですね。
獲物は笑いでしたね。
で、あの中にもちっちゃい人とか。 |
松尾 |
あと、極端にでぶな人とか。 |
糸井 |
そう、そう、そう。
だいたいでかいやつがちっちゃいやつを
追いかけてますよね。あれは大人計画に
ちょっと通じるものもないことないね。
劇団の活動とかって、やっぱり面白いのは、
All OKってことじゃないですか。
「おまえの役はあるぞ」っていう感じ。
そういうのが、僕らは観てて憧れますね。
競争して、2番目まではOK、っていうんじゃなく、
16番目のやつにも、「おまえの役はある」。
そういうのが、一種の新しい組織論として
知りたいところなんですよね。
昔、松尾さんに1回会った時に、
今でも覚えてるんだけど、
「自分の好きなことやりたいって言って、
やめていくやつがいるんですよね」って、
あれがおかしくてさ。
「え? 劇団は自分の好きなところじゃ
なかったのか」って、あれは名台詞です。 |
松尾 |
そうですね。
「このままじゃ、自分の好きな時間が
持てないんでやめます」って(笑)。
何の時間だったんだよ、今まで。
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糸井 |
あれは、今でもそういうようなことは
あるんでしょうかね? |
松尾 |
さすがにいないと思いますけど。 |
糸井 |
昔はやっぱりそういう人は多かった? |
松尾 |
昔はまあ、本当に烏合の衆でしたからね。 |
糸井 |
でも、今、あらゆる会社で
あの台詞はあると思うんですよ。
おそらく、あらゆる会社で。 |
松尾 |
いや、多分ね、僕らの当時でも
そいつは新しいやつだったと思いますよ。 |
一同 |
(笑)
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糸井 |
本当の本当は、そういうやつばっかりでも
成り立つような仕事の仕方があれば、
一番いいんでしょうけど。
だって、やっぱり面倒くせぇなと思いながらも、
目覚まし時計かけてるっていうこと自体が、
本当は無理なこととも言えるんで。
「台詞覚えなきゃならないんですか」
って訊かれたら、
「覚えなきゃなんないんだよ」って
説明しなきゃなんないわけで、
大変なことなんですけど(笑)。
松尾さん自身は、我慢するとかっていう
気持ちはなかったんですか。
結構大変なことやってたと思うんだけど。 |
松尾 |
うーん・・・・、それは僕、
好きで始めたことですからね。
やらされてやってるんだったらともかく。
ただ、やっぱりどんどん年とともに、
台詞を覚えるのが面倒くさくなっちゃって。
どうやったら、台詞をうまく覚えないで
言えるかっていうことをね、
研究してるんですけど(笑)。 |
糸井 |
すると、この間、ラリってるような台詞は
そういう研究の一部ですか。 |
松尾 |
そうですね。
どこまで人が聞き取れない台詞を言って、
場を持たせることが出来るか。 |
糸井 |
ものすごく持ってましたね(笑)。
ていうことは、あれ、
その都度やっぱり微妙に違う? |
松尾 |
もうでたらめです。 |
糸井 |
いいですねぇ。
やれったって、出来ないですよ、なかなか。 |
松尾 |
それはやっぱり研究の成果です。
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一同 |
(笑) |
糸井 |
人生賭けて。 |
松尾 |
でも、その研究してるところは
人には見せられないですね。
一所懸命やってるんですけど。
こんなに一所懸命やってることが、
こんなに人に見せられないとは。 |
糸井 |
やっぱり練習は要りますよね、あれ。 |
松尾 |
要ります。 |
糸井 |
要りますよね?
で、人が見たらどう思うかは別として、
本人としてはものすごいちゃんとやらないと、
出来ないですよね? |
松尾 |
ええ。 |
糸井 |
はあ~。 |
松尾 |
だから、1日中、
家の椅子に座って、でたらめな
フランス語を復唱してるんです。 |
糸井 |
その、ヒントになる、
降りてくるものっていう材料が
熟成していくわけでしょ? |
松尾 |
まあ、実際口にもしますし。 |
糸井 |
なるほどね。耳から聞くわけだ。
自分で口からしたものを。
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松尾 |
そうです、そうです。 |
糸井 |
「いいぞ」って。 |
松尾 |
こう言ったらフランス語っぽく聞こえるかなとか。
僕、どう考えても、
昔のタモリさんの芸がすごい好きで。 |
糸井 |
いや、分かる、分かる。
タモリさんは一発で出来てたみたいね。
あんまり練習してなかったみたい。 |
松尾 |
耳が相当よかったんだと思いますよ。 |
糸井 |
「俺はやっぱり自信がある」って言いますよね。
普通の人とは違いますよね。 |
松尾 |
違います。僕だって、そもそも子どもの頃、
芸人になりたくて。
芸人か漫画家になりたかったんです。
で、どっちかなっていうのを迷ってる時に、
タモリさんが現れて、
「あ、この人には勝てない」と思って、
芸人はやめたんですよね。 |
糸井 |
どっちでもなかったんですね、結局はね。 |
松尾 |
まあ、そうですね。 |
糸井 |
漫画家に近いんですかね。
それは僕、人のこと言えない。
僕も漫画家になりたかったんです。
漫画家になりたいっていうタイプの仕事を、
思えば、今も、してますね。
漫画家を分解して、ある形にすれば、
僕の形になりますね。 |
松尾 |
なんかもう完全に一人の中で世界作ったものを
発信していくわけじゃないですか。
だから、置き換えが効くなっていう感じが
するんですけど。
シナリオライターとか、
そういう分化したものじゃないですもんね。 |
糸井 |
台詞で展開を作っていくっていう意味では、
劇と漫画はもう全くそっくりですしね。
僕もいつまで経っても、書き言葉じゃなくて、
しゃべり言葉の形を取って
表現してるっていうところは、
変わってないですね、そこから。 |
松尾 |
ああ、そうか、そうか。 |
糸井 |
書き言葉の振りをしている時は、
逆にちょっとパロディですね。
だから、書き言葉の形を取ってる時、
「私」って書いてましたからね、自分のことを。
それはもう、パロディですね。 |
松尾 |
そう考えると、糸井さんの文章は
ほとんど独白に近い感じですもんね。
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糸井 |
で、どこかのオヤジの
真似をしたようなことを言って
茶化してみたりしてるだけで。
そんなことを繰り返してるだけですね。
そういう意味ではフキダシの中に書ける。 |
松尾 |
ああ~、そうか、そうか。
コピーとかもそうですもんね。 |
糸井 |
コピーもそうですね。
コピーもそうじゃない書き方はあって、
それはそれでやるんですけど。
でも、追認して欲しいんですよ、
自分で出した言葉なんだけど、
相手の口から聞いてみたい、
っていうところがあって。
その意味では、完全にフキダシですよね。
松尾さんの構成、そういえばそうだ、本当に。
大道具の作り方なんかも、
絵で描いてる感じしますね。あの絵ですよね。 |
松尾 |
実際僕が描いて渡すことは多いです。 |
糸井 |
こんなにでかく作れるかな、
みたいに心配なものも
でかく作ったりしますよね? |
松尾 |
(笑)そういうこともあるかもしれない。 |
糸井 |
大道具や作り物のチームも
素人から始まってるんですか。 |
松尾 |
あの人たちはプロの集団です。
でも初期は自分たちで作ってましたね。
手作業ですね。 |
糸井 |
どこかからほかの人たちの手を
借りられるようになっていった? |
松尾 |
最初、横の繋がりが全くなかったから、
誰に頼んでいいかも分かんないんですよ。
で、公演を打つごとに手伝ってくれる人が増えて、
そうしたら、まあ、プロの人も
だんだん付いてくれるようになって。
やっぱりプロの人が付いてくれたら、
こんなにやることに広がりが
出来るんだっていうことが分かって
よかったです。
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