松尾 |
僕らはもう、本当、若い頃は
公演をめちゃくちゃ打ってたんで、
瞬発力のことしか考えてなかったっていうか。
降りてくるのを待ってる場合じゃないっていう。
会場に着いたらもう、
「はい、出て」って言われたら
バッと変わるみたいな。
なんかやっぱりちょっと
コメディアンに対する憧れみたいなものが
あるかもしれない。
瞬時にして場を作って、
また、解体していくっていう。
拘らないっていうかね。
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糸井 |
瞬時といえば阿部(サダヲ)さんの普段の表情と
芝居の時の表情との違いとか、
ものすごいですよね。
普段、ああなんですか。 |
松尾 |
普段は、ただうつむいて
ボソボソ言うだけの人だから(笑)。 |
糸井 |
温泉に行ってもああですか。 |
松尾 |
温泉に行ったことないから
分かんないですけど(笑)。 |
糸井 |
そうか。いや、その差って、
ものすごいじゃないですか。
ウォームアップ要らないみたいな。
すごいですよね。 |
松尾 |
前、阿部が客演した時に、
そこの劇団の人が驚いたことがあって。
本番だと、自分の出番の前に
舞台袖に行って出番を待つのに、
阿部は待たないっていうんです。
楽屋からすうっと来て、
止まらずにそのまま舞台に出て行くって(笑)。 |
糸井 |
ああ~。儀式がない。 |
松尾 |
ないの。 |
糸井 |
ああ~。
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松尾 |
それ聞いて、
「こいつ、すげえな」って思いましたね。
僕、すごい緊張しぃだから。
いろんなところに保険かけておくんですよ。
自分の出番の。 |
糸井 |
松尾さんが? |
松尾 |
台詞貼ったりとか(笑)。 |
糸井 |
松尾さんはそうなんですか。
瞬発力じゃないんですか。 |
松尾 |
瞬発力はあるとは思うんですけど、
台詞が飛びやすいという(笑)。 |
糸井 |
そういえば、前に
欽ちゃんと仲代達矢さんが共演した時の話を
仲代さんに聞いたことがあって。
出番の前に仲代さんが、
「さあ」と思って準備してると、
萩本さんが、出番の直前まで話しかけるんだって。
いろんな面白いことを。
本当に直前までしゃべってる(笑)。 |
松尾 |
それはちょっと困りますね。 |
糸井 |
本当に困ったことがあるんだって。
ものすごく素晴らしい人なんだけど、
それはもう、育ち方が違うんです。
きっと欽ちゃんは、
そういう育ち方なんでしょうね。
それはお笑い系の人たちの瞬発力ですよね。 |
松尾 |
もう半端じゃないなと思いますよね、
一緒に共演したりすると。
でも、深いところには行かないんですけどね。
お笑いの人って、シリアスな芝居をすると、
すごく語弊がありますけど、薄いというか。 |
糸井 |
本当に深いところで出る台詞とかに関して
真剣になったら、
普段のお笑いが、やりにくいでしょうね。 |
松尾 |
そういうことかもしれないですね。
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糸井 |
お笑いの人の宿命なんじゃないかな。 |
松尾 |
でも、たけしさんの演技は、
ちょっとほかのお笑いの人とは違うなと
思いますけどね。 |
糸井 |
両方に足が掛かってますよね。 |
松尾 |
やっぱり、なんか独特の暗さがあるというか。
ほかのお笑いの人は、
暗い人っていうステレオタイプを
やってるようにしか見えない人が
やっぱり多いですよね。 |
糸井 |
松尾さんが、面白い動きと同じように
暗さを要求するっていうのは、
それはもう性質(たち)みたいなもんですか。 |
松尾 |
うーん、やっぱり自分が
そういうの好きなんでしょうね。 |
糸井 |
自分を脅かしてるみたいなところ、
あるじゃないですか、全体的に。 |
松尾 |
自分を脅かしてる? |
糸井 |
自分を嫌な気にさせるみたいな。 |
松尾 |
それは考えたことないです。 |
糸井 |
これやったら嫌な気になるだろう、
みたいなところが、僕にはちょっとあって。
今はそういうのを出す機会はないんですけど、
これやったら嫌だろうなっていうことを考える時に、
ものすごい嬉しいんですよね。
面白いだろうなって考えるのと、
嫌だろうなって考えるのが、ものすごい好きで。
松尾さんの芝居、いつも入ってますよね、
それがたっぷり? |
松尾 |
ああ、嫌な感じですか。
うーん・・・・、やっぱりそういうものを
見るのが好きなんでしょうね。
ファレリー兄弟っていう監督がいるのって、
ご存知ですか? |
糸井 |
ファレリー兄弟? |
松尾 |
ジム・キャリーとかと組んだりして、
コメディ映画撮る人。
それから『メリーに首ったけ』。 |
糸井 |
あ、知ってます。 |
松尾 |
あの人の作るものがすごい好きで。
あの人も必ず、嫌なことをね、やるんですよ。
嫌がらせ的な。 |
糸井 |
笑わせてるだけじゃない。
うん、うん、うん。
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松尾 |
それが、なんか最終的には嫌にならないぐらい、
どこか違うところに愛が注がれてるというか。
すごい追いかけてますね、彼の作品は。
『ふたりにクギづけ』っていう映画があって、
すごくそれは観て欲しいんですけど。
結合双生児で、一人は俳優になりたいんですよ。
で、一人はハンバーガー屋やりたいんです。
一人が舞台に立つ時に、そいつは黒い幕で覆って、
半分隠してるっていう。
そっちは上がり性だから、その間ずうっと
汗をボタボタかいてる。 |
糸井 |
それは、日本でも
公開されてる映画ですよね。 |
松尾 |
そうですね。 |
糸井 |
『フリークス』って、昔の映画、観てますよね?
あれなんかでも、あれは嫌な気にさせるというよりは、
作った人の気持ちは、
ああ、応援してるんだなあと思って観てたけど。
どこかのところで、
人が触らないようにしてるおかげで、
かえって変なことになっちゃってるものに対して、
置いてみようよ、みたいなことは多いですよね。 |
松尾 |
そうですね。だから、昔はそれを、
直接的に出してたんですけど、
最近はちょっとそういう直接的なのは
もういいかなとか思って、
裏に隠すようにしてるから、
ちょっと分かりにくい感じで、
嫌な部分が出てるのかもしれない。
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糸井 |
心のほうにも、そういう形したものっていうのは
いっぱいあるわけで。
心の中の双生児だとか、いっぱい入ってるわけで。
この間の「女教師は二度抱かれた」の
大竹しのぶさんなんかは、
ものすごい上手にそれ、見えてましたよね。
本当にピタッとはまられちゃった。
外見じゃなくて、ハートの問題ですよね。 |
松尾 |
大竹さんは、やっぱりすごい女優だなと思うのが、
役柄の説明をしている時に、聞きながら
その役の目になってくるんですよね。
だから、怖い女優だなと思いますよね。
「これでこれでね」って言うと、
「うん、うん」って聞きながら、
どんどん入り込んで行きますよ。
もう役作り始まってるの、みたいな。 |
糸井 |
「降りてくる」とか言わないで。 |
松尾 |
そう、そう、そう。
その速さがいいですよね。 |
糸井 |
そういう人はまれにいるっていうことなんですね。 |
松尾 |
うーん・・・・。それで、ちゃんと
山田洋次さんにも愛されてるわけでしょう? |
糸井 |
「女教師は二度抱かれた」は、
僕は、もしかしたら今までの中で
特にすごいと思ったな。
圧倒的に面白かったですね。
逃げようがないというか。 |
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