弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その5 バンドな僕。
松尾 僕、もともと、アングラの影響があるから、
笑いだけじゃなくて、
なんかゴチャゴチャしてるんですけど。
人前に立って笑わせるって、
相当なもんだなとは思いますね。

糸井 それが学生の時、
もう出来ることは出来ちゃったんですね。
松尾 後半は出来てましたね。
だから、逆に言うと、学生の時のは、
同じ仲間だったから出来てたんです。
でも東京に来て、一人で始めたら、
笑わせるのが難しくて難しくて。
こんな大変なものかって思ってた時期が
結構長かったですね。
おかしいことばかり書いても、
やっぱり下手に言うと、伝わらないから。
糸井 劇団を、九州でやってたんですよね?
松尾 はい。
糸井 で、東京で再結成になるんですよね?
松尾 いや、九州でやってたっていうほど、
やってないんですよね。
要するに、クラブ活動の延長で、
ちょっとやったぐらいのものなんで。
糸井 バンドをやるようなものなんですか。
松尾 それに近いかもしれないですね。
糸井 僕、興味あって追っかけてる、
シルク・ドゥ・ソレイユっていう
サーカスの人たちがいて。
カナダのケベック州で、
みんながバンドやってる時に、
自分たちはパフォーマンスをやる、
っていうつもりで
大道芸をやってたって言うんです。
そこから今のサーカスが始まったと。
だいたいのことって、
なんか一緒のものなんですね。
松尾 なるほど。
僕らの大人計画の形態は
バンドに一番近いかもしれないですね。
だいたい、ほら、劇研から上がってきたりとか、
まあ、養成所から仲間集めてとか、
そういうのが多いけど、僕らは本当に
「ドラム募集します」じゃないですけど、
情報誌に載っけて、集めてたクチですから。
糸井 で、松尾さんは、演出と脚本と、
いわばリーダー役。
どこかに入ろうというよりは、
自分でやりたかったんですね?

松尾 そうですね。全部やって、ひとつというか、
まあ、もともと漫画描いてたんで、
漫画って、キャラクターと台詞と
演出も構成も全部自分じゃないですか。
要するに、漫画に描いてたような動きを
やりたかったっていうことなんですよね。
糸井 すっごい分かりやすいですね、それ。
で、芝居ってこうだよな、みたいなことを
習わなきゃならない時期っていうのは、
上手に端折れたんですか?
自分がまだ自信のない若い時って、
全部無視してやれって気分とか、
あるいは、基礎をちゃんとやっとかないと
いけないんじゃないかっていう不安だとか、
ゴチャゴチャにありますよね。
その辺の時代っていうのはありましたか。
松尾 強いて言えば、東京に来て、
サラリーマンやりながら観てた演劇からは、
何かを学び取ってるとは思いますけど、
うーん・・・・、基礎に関してはね、
考えてなかったですね。
もともと座長芝居しかやるつもりがなくて
作った劇団なんで。
俳優としてのきちんとしたことは、
皆さん、やってくださいよっていうことだったから。
糸井 座長として俳優さんたちに要求しますよね。
要求されたものは、
そんな簡単に素人は出来ないですよね。
そこでのやり取りみたいなのは、
自分のイメージで「こうしてくれ」っていう
演出をしていくわけだ?

松尾 いや、やっぱり、
やってみせるしかないっていう感じでした。
本当に回りに集まったのが
素人ばっかりだったんで。
今うちにいる連中のほとんど、
前に何かやってたとかっていう人、
いないですからね。
糸井 でも、そういう育ち方をして、
ちゃんと育ちますよね。
松尾 うーん、それはびっくりですよね。
最初、やっぱり、劇評家の人たちに、
「こういうやり方してたら、俳優育たないよ」
って叩かれたりしてたんですけど(笑)。
糸井 叩かれたんですか。
松尾 ええ。
糸井 はあ~。その時に、松尾さん、
なんて思ったんですか。
松尾 「でも、面白いんだからいいじゃない」
としか思わなかったですけど。
糸井 (笑)今、よその人たちにも求められて、
俳優さんたちが出て行くじゃないですか。
つまり、よその人たちも
こういう育ち方してた人、
欲しがってるわけじゃない?
いわば、「勝った」ですよね。
松尾 そう、まあ、よそよりも、
というところもありますよね。
糸井 それは、何だったんですかね?
松尾 うーん、でもまあ、
受け入れてもらうまでには、
すごい時間が掛かったと思いますね。
演劇界の横の繋がりとかも全くないし。

糸井 大丈夫だぞって思うまでに
どのくらい掛かりました?
松尾 それは、やっぱり宮藤(官九郎)とか、
阿部(サダヲ)が、世間で認められて、
よそに出て行くようになった辺りですかね。
糸井 じゃあ、そんなに昔じゃないですね。
松尾 そうですね。
ここ10年って感じじゃないですかね。
糸井 僕らも夢なんですよ。
基礎があるっていう幻想なのか、
基礎があるっていうのは本当なのか。
今の年になっても、まだ分かんないですよ。
松尾 俳優はやっぱり特に幻想じゃないですか。
ミュージシャンの人が映画に出て出来たりとか、
リリー(・フランキー)さんとかも、
この間映画(「ぐるりのこと。」)観て、
悔しいぐらい面白かったし。
糸井 そういうのがあり得るぞっていうことは、
もう若い時から知ってたのね?
バンド的だから。
松尾 そうですね。
やっぱりガッツ(石松)さんとかが
映画に出てるのを観ると、
何でもありだなって(笑)。

糸井 ああ、そうか、そうか。
昔からの演劇に対して、
一家言あるみたいな人も混じってたんですか。
中には?
松尾 ないですね。
糸井 そういう人は全く入って来なかった?
「僕、文学座もやってたんです」
みたいな人は来なかったんですか。
松尾 入って来なかったですねぇ。
ない、一切ない。
糸井 来てたら居づらかったでしょうね。きっとね。
松尾 一人だけ、
アクターズ・スタジオにいました」
っていう人がオーディションに来た時があって。
そいつがね、最悪だったんですよね。
一同 (笑)

糸井 はあ、はあ。
松尾 なんかエチュード(即興芝居)をやらせてたんですよ。
で、新聞配達員たちが集まる設定で。
「あなた、一番年上だから、
 アクターズ・スタジオにもいたことだし、
 配達所のおやじ役をやってくれ」って言って。
で、みんなこう、まあそれなりに始めるんですけど、
おやじだけね、始めないんです、ずーっと。
で、「何やってるんだ」って言ったら、
「いや、まだ待ってますから」って。
一同 (笑)
松尾 「まだ来てないんで」って(笑)。
「イメージが」。



ほかの人たちはもう必死に
繋ごうとしてるんだけど。
糸井 おやじは来てない?
松尾 おやじは来てないから、始めないんですよね。
で、最後まで始めなかったです。
一同 (笑)
糸井 はあ~。
松尾 それは僕、ちょっと
アクターズ・スタジオって厄介だなと思って。
糸井 それはまあ、アクターズ・スタジオの中でも
いろいろいるんでしょうけど、
昔からの芝居やってる人たちが、
「とは、こういうものだ」
みたいにしゃべってるのって、
時々面白い時があるじゃないですか。
「なるほどな」みたいな。
ああいうのを聞いたことはあります?
松尾 断片的にはありますね。
芸談って面白いじゃないですか、
心打たれる話。
やっぱり一人一人違うし、
欽ちゃんが言ってることと、
タモリさんの言ってることも違うし。
だから、話は6分目ぐらいで
聞いておいたほうがいいんだろうな
とは思いますけど。
でも、そういう人たちの話を聞くのは
すごく面白いですね。
糸井 真似しちゃだめなんだろうなと思いながら
聞くのが多分コツなのかな。
やっぱり彼なりに彼女なりに、
発見するまでに時間掛かったんだろうな、
っていう気がするのが面白いですよね。
松尾 そうですね。一人一人言ってることは
真反対だったりもしますし。
  つづきます。
2008-10-14-TUE