弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その11 予定のない僕。
糸井 45歳はちょうどいいですよね。
その、「釣りしてました」っていうのも、
それがあってよかった。
さっきのボーっとしてるじゃないですけど、
コップの水、空にしないと、
次のもの入れられないじゃないですか。
その感じって、どこかでやらなきゃならなくて。
大病してる人とかってやっぱり、
たいしたもんだなっていう人が
結構いるじゃないですか。
あれと同じことを自分でもやらなくちゃならなくて。
それは、自分から望んでやれないんで、
そういう意味では、
45の時にああやって釣りしてたのは
よかったなって、
今でもつくづく思いますね。

松尾 今、じゃあ、そういう時期なのかもしれないなぁ。
糸井 釣りしてて、「ああ、しなきゃ」って思ったのが、
代わりにやっといてもらうっていうのが、
釣りって一切ないんですよ。
だから、一所懸命やると、
朝の大会に出る時なんかだと、
前の日からホテル予約して、
自分で運転して、全部準備して、泊まって。
目覚ましかけて、自分で起きて、
学生さんたちと一緒に列に並んで受付して、
ゼッケン貰って。
で、誰のせいにも出来ないことを
1日中やってるわけ。
これはよかったですね。
さっきの一人旅なんていうのは、
誰のせいにも出来ないから、
こんなとこ来るんじゃなかったっていうのも
自分のせいですから。それは、いいですよね。
松尾 だから、それに当たってるんですかね、
僕の今、ボーっとしてる状況は。
糸井 そんな気もしないことはないね。
松尾 すっごい、でも真剣なんですよね。
糸井 それは。
松尾 力抜いてるわけじゃないんですよね。
糸井 それはだって、その時期なんじゃない?
水が、こうこぼれちゃったっていう
時期なんじゃないですかね。
松尾 でも、これもまた、傍から見るとね、
気持ち悪いと思うんですよね。
点いてないテレビの前で
じっとしてるわけですからね。
糸井 しょうがないよね。
だから、旅って、車窓を見るだけでも、
人に変に思われないから、
やってることは点いてないテレビと
同じじゃないですか。
乗り物に乗ってたら、誰もが同じように
ボーっとしてますから、
その意味で旅っていうのは
やっぱり、すごいですね。
あと、自分を知らない人に会いますからね。
牛丼屋だらけですから。
松尾 (笑)

糸井 若い時に、そういうのを味わいたいと思って、
一人で出掛けた時があって。
ジージャンで、荷物も小さくて出てたら、
怪しい人だと思われて。
自殺とかするんじゃないか、みたいな。
松尾 あ、僕もそういう時ありました。
なんか売店のおばさんとか優しくしてくれるんです。
「イカ食べない?」とか(笑)。
糸井 それもちょっと困るんですけどね。
温泉町のストリップ劇場があって。
で、夕方その前を一人下駄履いて、
一人旅で歩いてたら、水撒いて掃除してて。
で、目が合ったの、掃除してるおじさんと。
で、「ん?」って言うから、
「お」って言ったら、
そこからスイッチ入れて、
あちこちの電気がチンチンチンって点くんですよ。
それまで暗かったんですよ。
で、そこから入ったら俺一人しかいなくて。
どうなることやらと思ったら、
一人のおばさんが、何度も出て来るの。
一同 (笑)
松尾 辛いですね(笑)。

糸井 それで、どうしたらいいのか分からなかったけど。
松尾 マンツーマンでしょ?
糸井 マンツーマン。
だから、見ないなら見ない、見るなら見る、
全部お見通しなんですから。
やがて結局どうしたかって言ったら、
3曲目ぐらいの時に、
「なんか飲む?」って言ったんです、おばさんが。
で、「ああ」って言ったら、
2つ持って来て、マンツーマンでこう、
プシュって。
松尾 へえ~。
糸井 飲んで、「ここから後はずっと同じだけど」。

一同 (笑)
糸井 「まだいる?」
松尾 直談判ですね。直談判されたんだ。
糸井 3曲目ぐらい。で、「まだいる?」って言われて、
いや、僕はどっちでもいいんだけれども、
帰ったほうがいいような気がしたんで、
「じゃあ、帰ろうかな」って言ったら、
「水中ショーあるけど」って。
一同 (笑)
糸井 「あるけど」って言うのは、
松尾 水中ショー?
糸井 そう。水槽があるんですよ。
で、「水中ショー見てから帰れば」
っていうことになって、また同じおばさんが、
水に入ってユラユラしてるんです。



で、水の中の人にバイバイして、出た。
松尾 水の中の人(笑)。
糸井 もうほとんど作り話みたいでしょう?
松尾 不思議な体験ですね。
糸井 でも、旅ってそういうことが
やっぱりね、ありますから。
どこの誰さんでもなく、
水中の人とね、バイバイするんですよね。
ああいうことはやっぱり
旅じゃないとあり得ないですよね。
いいですよ。修善寺でも何でも。
松尾 いっぺん、津軽海峡に一人で旅したことあるんですけど。
いや、本当にあの時はね、
もう売店中の人が自殺者を見る目でね。
断崖絶壁の上に宿があるわけですよ。
一同 (笑)
松尾 本当に死ねる崖があって。
で、そこに泊まってる人、
みんな一人旅なんですよね。
僕ぐらいの年で。
糸井 何なんですか。鉄ちゃんとかですかね?
松尾 何ですかねぇ。
バードウォッチャーもいるでしょうし。
まあ、みんな、一応旅館だから、
一人一膳豪華な食事が並んで、
一人で食べてるんですよね。誰も声掛けずに。
で、なんか津軽海峡の碑っていうのが、
断崖絶壁にあって。赤いボタンが付いてるから、
なんだと思って、ボンと押してみたら、
『津軽海峡冬景色』が大音量で流れて。
恥ずかしくてしょうがなかったです。
絶対、みんな周りのオヤジも、
これ押したなと思って。
一同 (笑)

糸井 押しちゃったな。
ああ、それ、でも人に言ってたら、
ちょっとしたい気分あるなぁ。
全く嫌なことではないですね。
ちょっといいですね。
松尾さん、外に出たら
分かられちゃいますか、やっぱり?
松尾 まあ、微妙ですね。
糸井 髭とか剃っちゃったら分かんないかな。
松尾 あ、そうか。
糸井 分かられないギリギリがいいよね、
やっぱりね。東北はいいんじゃないですかね。
松尾 東北は大丈夫だと思います。
糸井 やっぱりね。この間東北に行ったけど、
よかったですよ。
何だろう、遅れて電波が到着する感じが
東北にはありますよね。
今でも、あ、行ってよかったなと思ってますね。
それはまあ、ふざけた旅でしたけどね。
じゃあ、特にこう、ぶちかますような予定もなく?
松尾 なく。
糸井 なく?
松尾 ええ。
糸井 ボーっとしたり?
松尾 そうですね。空想してます。
糸井 かといって、倒れてるわけでもなく。
松尾 変な状態ですね。
糸井 じゃあ、またそんなようなことの続きを
よろしければお聞かせください。
松尾 すいません(笑)。
糸井 こうなりましたっていうのも、
ちょっと知ってみたいです。
松尾 結果が?
糸井 僕も、だから、その釣りの期間って、
本当に釣りが面白かったんですよ。
で、どんどん面白くなっていって。
で、そのうちには、なんかさっきの、
やりかけの仕事があるうちに、
次の仕事があるみたいな状態で、
呼応されてって、
移行出来たっていう気がするんで。
ボーっとしてる間に何かあるんですよね、きっとね。
いや、ありがとうございました。
松尾 いやあ、すいません。
ありがとうございました。

 
2008-10-22-WED