糸井 |
45歳はちょうどいいですよね。
その、「釣りしてました」っていうのも、
それがあってよかった。
さっきのボーっとしてるじゃないですけど、
コップの水、空にしないと、
次のもの入れられないじゃないですか。
その感じって、どこかでやらなきゃならなくて。
大病してる人とかってやっぱり、
たいしたもんだなっていう人が
結構いるじゃないですか。
あれと同じことを自分でもやらなくちゃならなくて。
それは、自分から望んでやれないんで、
そういう意味では、
45の時にああやって釣りしてたのは
よかったなって、
今でもつくづく思いますね。
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松尾 |
今、じゃあ、そういう時期なのかもしれないなぁ。 |
糸井 |
釣りしてて、「ああ、しなきゃ」って思ったのが、
代わりにやっといてもらうっていうのが、
釣りって一切ないんですよ。
だから、一所懸命やると、
朝の大会に出る時なんかだと、
前の日からホテル予約して、
自分で運転して、全部準備して、泊まって。
目覚ましかけて、自分で起きて、
学生さんたちと一緒に列に並んで受付して、
ゼッケン貰って。
で、誰のせいにも出来ないことを
1日中やってるわけ。
これはよかったですね。
さっきの一人旅なんていうのは、
誰のせいにも出来ないから、
こんなとこ来るんじゃなかったっていうのも
自分のせいですから。それは、いいですよね。 |
松尾 |
だから、それに当たってるんですかね、
僕の今、ボーっとしてる状況は。 |
糸井 |
そんな気もしないことはないね。 |
松尾 |
すっごい、でも真剣なんですよね。 |
糸井 |
それは。 |
松尾 |
力抜いてるわけじゃないんですよね。 |
糸井 |
それはだって、その時期なんじゃない?
水が、こうこぼれちゃったっていう
時期なんじゃないですかね。 |
松尾 |
でも、これもまた、傍から見るとね、
気持ち悪いと思うんですよね。
点いてないテレビの前で
じっとしてるわけですからね。 |
糸井 |
しょうがないよね。
だから、旅って、車窓を見るだけでも、
人に変に思われないから、
やってることは点いてないテレビと
同じじゃないですか。
乗り物に乗ってたら、誰もが同じように
ボーっとしてますから、
その意味で旅っていうのは
やっぱり、すごいですね。
あと、自分を知らない人に会いますからね。
牛丼屋だらけですから。 |
松尾 |
(笑)
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糸井 |
若い時に、そういうのを味わいたいと思って、
一人で出掛けた時があって。
ジージャンで、荷物も小さくて出てたら、
怪しい人だと思われて。
自殺とかするんじゃないか、みたいな。 |
松尾 |
あ、僕もそういう時ありました。
なんか売店のおばさんとか優しくしてくれるんです。
「イカ食べない?」とか(笑)。 |
糸井 |
それもちょっと困るんですけどね。
温泉町のストリップ劇場があって。
で、夕方その前を一人下駄履いて、
一人旅で歩いてたら、水撒いて掃除してて。
で、目が合ったの、掃除してるおじさんと。
で、「ん?」って言うから、
「お」って言ったら、
そこからスイッチ入れて、
あちこちの電気がチンチンチンって点くんですよ。
それまで暗かったんですよ。
で、そこから入ったら俺一人しかいなくて。
どうなることやらと思ったら、
一人のおばさんが、何度も出て来るの。 |
一同 |
(笑) |
松尾 |
辛いですね(笑)。
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糸井 |
それで、どうしたらいいのか分からなかったけど。 |
松尾 |
マンツーマンでしょ? |
糸井 |
マンツーマン。
だから、見ないなら見ない、見るなら見る、
全部お見通しなんですから。
やがて結局どうしたかって言ったら、
3曲目ぐらいの時に、
「なんか飲む?」って言ったんです、おばさんが。
で、「ああ」って言ったら、
2つ持って来て、マンツーマンでこう、
プシュって。 |
松尾 |
へえ~。 |
糸井 |
飲んで、「ここから後はずっと同じだけど」。
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一同 |
(笑) |
糸井 |
「まだいる?」 |
松尾 |
直談判ですね。直談判されたんだ。 |
糸井 |
3曲目ぐらい。で、「まだいる?」って言われて、
いや、僕はどっちでもいいんだけれども、
帰ったほうがいいような気がしたんで、
「じゃあ、帰ろうかな」って言ったら、
「水中ショーあるけど」って。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
「あるけど」って言うのは、 |
松尾 |
水中ショー? |
糸井 |
そう。水槽があるんですよ。
で、「水中ショー見てから帰れば」
っていうことになって、また同じおばさんが、
水に入ってユラユラしてるんです。
で、水の中の人にバイバイして、出た。 |
松尾 |
水の中の人(笑)。 |
糸井 |
もうほとんど作り話みたいでしょう? |
松尾 |
不思議な体験ですね。 |
糸井 |
でも、旅ってそういうことが
やっぱりね、ありますから。
どこの誰さんでもなく、
水中の人とね、バイバイするんですよね。
ああいうことはやっぱり
旅じゃないとあり得ないですよね。
いいですよ。修善寺でも何でも。 |
松尾 |
いっぺん、津軽海峡に一人で旅したことあるんですけど。
いや、本当にあの時はね、
もう売店中の人が自殺者を見る目でね。
断崖絶壁の上に宿があるわけですよ。 |
一同 |
(笑) |
松尾 |
本当に死ねる崖があって。
で、そこに泊まってる人、
みんな一人旅なんですよね。
僕ぐらいの年で。 |
糸井 |
何なんですか。鉄ちゃんとかですかね? |
松尾 |
何ですかねぇ。
バードウォッチャーもいるでしょうし。
まあ、みんな、一応旅館だから、
一人一膳豪華な食事が並んで、
一人で食べてるんですよね。誰も声掛けずに。
で、なんか津軽海峡の碑っていうのが、
断崖絶壁にあって。赤いボタンが付いてるから、
なんだと思って、ボンと押してみたら、
『津軽海峡冬景色』が大音量で流れて。
恥ずかしくてしょうがなかったです。
絶対、みんな周りのオヤジも、
これ押したなと思って。 |
一同 |
(笑)
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糸井 |
押しちゃったな。
ああ、それ、でも人に言ってたら、
ちょっとしたい気分あるなぁ。
全く嫌なことではないですね。
ちょっといいですね。
松尾さん、外に出たら
分かられちゃいますか、やっぱり? |
松尾 |
まあ、微妙ですね。 |
糸井 |
髭とか剃っちゃったら分かんないかな。 |
松尾 |
あ、そうか。 |
糸井 |
分かられないギリギリがいいよね、
やっぱりね。東北はいいんじゃないですかね。 |
松尾 |
東北は大丈夫だと思います。 |
糸井 |
やっぱりね。この間東北に行ったけど、
よかったですよ。
何だろう、遅れて電波が到着する感じが
東北にはありますよね。
今でも、あ、行ってよかったなと思ってますね。
それはまあ、ふざけた旅でしたけどね。
じゃあ、特にこう、ぶちかますような予定もなく? |
松尾 |
なく。 |
糸井 |
なく? |
松尾 |
ええ。 |
糸井 |
ボーっとしたり? |
松尾 |
そうですね。空想してます。 |
糸井 |
かといって、倒れてるわけでもなく。 |
松尾 |
変な状態ですね。 |
糸井 |
じゃあ、またそんなようなことの続きを
よろしければお聞かせください。 |
松尾 |
すいません(笑)。 |
糸井 |
こうなりましたっていうのも、
ちょっと知ってみたいです。 |
松尾 |
結果が? |
糸井 |
僕も、だから、その釣りの期間って、
本当に釣りが面白かったんですよ。
で、どんどん面白くなっていって。
で、そのうちには、なんかさっきの、
やりかけの仕事があるうちに、
次の仕事があるみたいな状態で、
呼応されてって、
移行出来たっていう気がするんで。
ボーっとしてる間に何かあるんですよね、きっとね。
いや、ありがとうございました。 |
松尾 |
いやあ、すいません。
ありがとうございました。
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