松尾 |
あとはね、人が何かに変わろうという瞬間に、
もしかしたら立ち会ってるんじゃないかなって
思うことが好きなんですよね。
それは知り合いじゃなくて、
町で牛丼とか食べてる時に、
隣にいる人が、今ブレイクしてるんじゃないかとか。
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一同 |
(笑) |
糸井 |
それ、いい。それ、いい。
ヒットですね、それ。 |
松尾 |
知らず知らずのうちに、
この人の価値が上がっているんじゃないかとか
考えるんで。そうしたら、
「なんか只者じゃないぞ」とか思い始めたりとか。 |
糸井 |
それ、いいですねぇ。それ、貸してくれる?
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一同 |
(笑) |
松尾 |
それを思い始めたのが、
乳母車を押して、
向こうから来るお母さんがいたんですけど、
その乗ってる子どもの目に知性が見えたんですよ。
パッと僕と目が合った時に、
「今僕は乳母車に乗ってるけど、今日立つから」
みたいな。
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一同 |
(笑)
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松尾 |
変わり目。
乳母車から立つことへの変わり目を
見た気がしたんですよね。 |
糸井 |
ああ~、いいですなぁ。 |
松尾 |
そうか、乳母車から、
必ず人は立つ瞬間っていうのがある時期ある。
その瞬間に俺はもしかしたら、
立ち会えたんじゃないかなっていうか、
今、乳母車に押されてる自分は
違うっていう感じで見られたんですよね。 |
糸井 |
脱皮ね? |
松尾 |
そう、そう、そう。だから、その日、
押されてる彼は、町中の人に向かって、
これは仮の姿だとね。
「その日のうちに立つから」って
言ってるような目に見えてしょうがなかった。 |
糸井 |
まあ、関係の問題ですからね。
それがもう牛丼にまで行ったんですか。はあ~。 |
松尾 |
だから、本気の牛丼なのか、
仮の牛丼なのかが気になるんです、
そこにいる牛丼食べてる人の。
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糸井 |
つまり、生活の中に馴染んで、
牛丼が当たり前になってる人の牛丼と、
ここから出て行く瞬間の? |
松尾 |
そう、そう、そう。
牛丼屋から出る瞬間の人ですよね。 |
糸井 |
それはきっとスポーツ選手なんかには、
頻繁にあることでしょうね。
「ある日」っていうのがね。
町の中にもあると。
貸してください、その目、1日やってみます。 |
松尾 |
そう、今日牛丼を卒業しようと思ってる人が
いるかもしれないって思うんですよね。 |
糸井 |
いや、いますよ、きっと。
一昨日、隣でもんじゃ焼き焼いてるカップルが、
男が財布出してっていう状態の時に、
女の子が、「あ、私、ここ払うよ。
大変な時だもんね」って言ったんです。
で、男が「ありがとう」って言う、
その会話を聞いて、本当によかったなと思った。
すごいことじゃないですか。 |
松尾 |
すごい、想像力を刺激しますよね。 |
糸井 |
何だろうね、大変な時。 |
松尾 |
大変な時ってね、想像しますよね。 |
糸井 |
言ってもいない台詞とか考える時ありますよ。
男女が、なんか言ってから
別々のほうに歩いていく時って
あるじゃないですか。
あの時に言ってもいないのに、
「お湯沸かして待ってるね」
って言ってるんじゃないかって、
僕、考えて。すっごい好きで。
なんでお湯沸かすんだろうって(笑)。
でも、それは俺が考えたことなの。 |
松尾 |
(笑)なんか不毛なんだか、なんだか。
本当の自分だと思っているのか、
仮の自分だと思っているのかが気になるんですよね。
僕は一応、牛丼屋にいる時は、
仮の自分だと思ってるんですよ。
本当はこんなもんじゃないぞと。
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糸井 |
こんなもんじゃない。牛丼を食べてるが。 |
松尾 |
牛丼でも食べてやろうかぐらいの気持ちでいる。 |
一同 |
(爆笑)
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松尾 |
手加減してるっていう気持ちで言ってるんですけど。 |
糸井 |
すっごい武者ですね。すげえなぁ。 |
松尾 |
大好きですけどね。 |
糸井 |
そういうこと考えてる限りは、
永遠にネタはありますね。 |
松尾 |
そうですかね。 |
糸井 |
だって、ファーブルが
昆虫見てるのと同じじゃないですか。 |
松尾 |
ああ、そうか。 |
糸井 |
必ずやらかしてくれますからね、人ってね。
何かね。まあ、そろそろお時間もあれなんですけど。
このボーっとの先が、仕事は詰まってるんですか、
やっぱり? |
松尾 |
うーん・・・・、そんなには詰まってないです。 |
糸井 |
詰めなきゃ詰まらない。
セーブする時期を
迎えようとしてるんですか、じゃあ。 |
松尾 |
そうですね。私生活でゴタゴタもあったりしたんで。
なんか立て直したいなっていうか。 |
糸井 |
大事業ですからね。大変ですよ。 |
松尾 |
そうですよね。 |
糸井 |
大変だと思いますよ。
やっぱりやり直しは大変ですよ。
昔、いろんな人がそのことについて
語ってましたけど、
二度と出来ないくらい大変なことだっていう。 |
松尾 |
そうですね(笑)。
糸井さん、一度ですか。 |
糸井 |
一度。でも、すごいですよ、やっぱり。
大変なことですよ。
体力ですよ。 |
松尾 |
そうですよね。
身に染みました。
染み続けてますね。 |
糸井 |
染み続けてるんですか。
何にもヒントはないですね。 |
松尾 |
(笑)がっかりだな。 |
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