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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

2. 番組は、ひとりだけで作るもの?


すこし前の「ほぼ日」で紹介した、
スタジオジブリの宮崎駿さんのいちばんの相棒、
プロデューサー・鈴木敏夫さんによる発言には、

「宮崎駿という人は、本来は、長編映画を、
 ひとりでぜんぶ作りたいみたいなんです。
 どんなに細かい部分も、
 ほんとはひとりで作りたいようでして。
 映画を作るときの、宮崎駿の最大の特徴は、
 細部から、はじめるところなんです。
 その細部というのは何かと言うと、彼は
 『主人公の洋服どうしよう?』と考えだすんです。
 まだ、何を作るのかさえわからないときに、
 まずそこを考えているものだから、
 他の人はそんなときにはクチを出せないですよね」

こういうものが、ありました。
集団でしか制作できないような映像ではあるけれど、
演出は「ひとりで作りたい」と考えてしまうもので。
「ひとりでやりたい」という気持ちが突出したまま、
今年のフジテレビの『27時間テレビ』を演出した、
片岡飛鳥さんという演出家についての話を、
きょうは、おとどけいたします。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 さんまさんが、
あそこまで怪獣化したのは、
「いつも周囲の人と
 化学変化を起こしているから」
でもあるんでしょうねぇ。
土屋 このあいだの、
フジテレビの『27時間テレビ』でも、
さんまさん、おもしろかったですね。

あのSMAPの
中居くん以外の四人が出てきて
「最終的には、
 フジとテレ朝の絵が、
 同じになっていくというところ」
にまで持っていった演出の力が、
わざとらしさのテクニックも含めて
おもしろかったんですけど。

あれが終わったあとに、さんまさんが
「……いやー、
 あのテレ朝のプロデューサーの
 小芝居には、ドキドキした」
と言った瞬間に、
ちゃんとあそこのコーナーが
終わった感じがありましたし。
三宅 さんまさんは、絶対に
「セックス」という言葉を使わずに
「エッチ」と言うんですね。

自分の発言が、テレビを通して
どう映るかということは、
ものすごく考えていますよね。
だから、
そういうことに気づくことができる。


このあいだの
『27時間テレビ』の生放送でも、
そのへんの
「言っていいところと
 いけないところの境界」
の微妙なところまで、
さんまさんから伝わってくるから、
おもしろいんですよね。
土屋 片岡飛鳥さんをはじめとした
フジの演出も、そういう芸人たちの
ギリギリの、細かい呼吸をわかって、
生放送で対応していける……。

あのスタッフたちっていうのは、
すごいなぁというか、
うらやましいと思って見ていました。
糸井 それにしても、
『27時間テレビ』、おもしろかったです!
三宅 フジテレビが
「元に戻った感じ」があるのがうれしいです。
糸井 おもしろかった原因は、
なんだと思いますか?
三宅 内部的に言うと、
制作が一本化できたからだと思います。
報道とバラエティが
一緒にやるとかいうのだと、
どちらもおたがいに
「あっちが悪い」とか、かならず
そういうことになっていましたから。

ただ、
「日テレさんの24時間テレビの
 パロディとしてはじまっているんだから」
ということで、ようやっと、
バラエティのみに差別化した番組が
成立したなぁと言うか……

前にも、
土屋さんや糸井さんとお話をしたような
『大反省会』に至るまでの話に、
ようやく決着がついた、と思っています。
土屋 さらに言うと、
制作の一本化の先に、やっぱり
今回の演出の片岡飛鳥という個人に
帰結していくところがすごかったと思います。

『27時間テレビ』の時期の「ほぼ日」に
「宮崎駿さんは、ほんとは
 ひとりですべてを作りたい人なんだ」
という話が載っていましたよね。

それを読んだあとに、
「片岡くんも、たぶん
 そういうタイプなんだろうなぁ」
と思ったんです。
三宅 そうなんですよ。
土屋 ひとりでやりたい人なんですよね。

だから、27時間、
片岡くんの匂いが、
ずーっとあった気がしました。

全部見たわけではないんですが、
「ここは、まかせたよ」
という画面の雰囲気がなくて、
「これは、ぜんぶ、やってるわ……」
という気がして。
三宅 そういうタイプです。
だから、ぼくなんかとは違いますね。
糸井 三宅さんは、ゆだねるほうですか?
三宅 『ひょうきん族』について、
いろいろしゃべってると、
ぼくだけが
やっていたようですけれども、
ディレクターは5人いまして。

ぼくの場合は、
それがよかったなとは思っているんです。
ひとりだけでやろうとすると、
限界が来るから……。
糸井 そういう、ディレクターの
「ゆだね型」と「ひとりでやる型」って、
生まれついてのタイプなんでしょうか?
それとも、変化していくんでしょうか?
三宅 どこかでやっぱり、
「ひとりではできないんだ」
と気づくというか……。
糸井 あ、わかります。

なんとなく思うんですが、
もともと、三宅さんも、
かつては、ひとりで考えて作りたい
片岡飛鳥型だったんですよね?
三宅 それは、
あるとは思いますけどね……。

そうでないといけない部分って、
絶対、どこかにあるじゃないですか。

いま、
『さんま先生が行く』をやっていても、
ディレクターは四人いるんですが、
やっぱり、見ていて
腹が立ってくるような回もあるんですね。

ただ、でも、
一応おなじディレクターだから、
今週から三週ぶんは自分の担当だから、
ということで、
「よーしあの野郎、
 コレを見てろよ……!」
というつもりでは作るときもありまして。
土屋 わかります。

ディレクターの基本は
「ひとりでやりたい」だと思うんです。

何人かで作っていた『ひょうきん族』でも、
タケちゃんマンの部分が、
三宅さんにとっては
「これがオレの番組だ!」
というところがあったでしょうし。
三宅 そうですね。

『ひょうきん族』の中でも、それぞれ、
報道班、ドラマ班、歌班、というように、
違う番組を作りあうことを、
おもしろがっていたところはあります……。
土屋 宮崎駿さんが
「ほんとは、
 ぜんぶひとりでやりたいタイプだ」
という話を読んだとき、ぼくも、
「あ、オレもそうだ」と思ったんです。

できれば、
カメラから照明から音声から、
自分でやりたいんですよね……。
糸井 もとがそっちではない人って、
やっぱり、基本的には、いないのかなぁ。
三宅 いないと思います。
糸井 ぼくも、かつてはそうだったけど、
どこかで、どんでん返しが来たんです。

ひとりでやっているだけだと、
ともだちがいなくなるじゃないですか。

だけど、ぼくは、
ともだちと遊んでいるのが、
いちばんおもしろいと思うんです。

ひとりでコツコツものを作っていることも、
ものすごくいいけど、ほんとは、
誰かがそれに褒めてくれるとか、
突っ込んでくれるとか、
他人がいるおかげで
おもしろいものなんだと思うんです。

ぼくの場合は、
そういうことがわかってくると、
どんどん、
自分のやることが、まわりに
受け渡せるようになった気がします。
土屋 ええ。
  (明日に、つづきます)


今日のひとこと:

「さんまさんは、絶対に
 『セックス』という言葉を使わずに
 『エッチ』と言うんですね。
 自分の発言が、テレビを通して
 どう映るかということは、
 ものすごく考えていますよね。
 だから、
 そういうことに気づくことができる。

 このあいだの
 『27時間テレビ』の生放送でも、
 そのへんの
 『言っていいところと
  いけないところの境界』
 の微妙なところまで、
 さんまさんから伝わってくるから、
 おもしろいんですよね」
               (三宅恵介)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
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 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-02-THU

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