糸井 |
なにか新しいものをイメージしたとき、
宮本さんは仕様書にするのではなくて、
とにかく実際に触れるモデルをつくって
みんなでそれを触りながら形にしていく。 |
宮本 |
そういうパターンが多いですね。
そうやって、「どうなるのかな?」って
考えながらつくるのがいちばん早いし、
なにより、たのしいんですよね。
たとえば『マリオギャラクシー』でいうと、
「星の核にあたる中央の部分が
空洞になっている立体って
ありえるのかな?」とか、
おもしろ半分で言い合いながら、つくっていく。
そういうときってやっぱり自分たちが
新しいものをつくってるという
わくわくする感覚がありますから、
こう、みんなが、元気になるんですよね。
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糸井 |
やっぱりすごいね、そのやり方はね。
つまり、ぼくが最近、よく考えるのも、
けっきょくはそういうことなんだけど、
‥‥‥‥ちょっと話が飛ぶけど、いい?
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宮本 |
どうぞ(笑)。 |
糸井 |
あのね、ま、言いづらい話なんですけど、
世の中には「頭のいい人になりたい人」というのが
すごくたくさんいてね、多くの場合、
その人たちが迷惑をかけるんですよ。
なぜかというと、頭のいい人になりたい人たちは、
すごく頭のいいことを考えて、
みんながそれに従えば
世の中がよくなると思ってるんです。
で、法律や、決まりや、
マニュアルをたくさんつくる。
それに従えば幸せがやってくると思って。
「1、こうするといいぞ」とか、書くんです。
でも、みんなは、頭のいい人の思惑を外れて、
「えっと、4番はなんでしたっけ?」とか、
「俺、じつは読んでないんですよ」とか、
「まぁ、いいじゃないですか」とか言うわけです。
そうすると、頭のいい人になりたい人たちは、
「どうして大衆ってバカなんだろう」って
もう、涙を流しながら思うんです。
「だから戦争が起こるんだ」とか言うんです。
でもね、彼らが言うようなことが、
世の中を変えたことは一度もないんですよ。
まあ、変える手伝いくらいにはなるにしても、
本当になにかを変えるようなものっていうのは、
「こっちのほうが美味しかったぞ」とか、
「つかってみたら便利で、もう戻れないや」とか、
そういう「事実が先に突っ走ったこと」ばかりで、
決まりやルールは、あとからできるんです。
で、宮本さんがやってる方法というのも、
そういうことだと思うんですよね。
まずは事実を先に動かしてしまう。
それがないと、ことばもまとめられないから。
最初の『マリオ』のころからそうでしょう? |
宮本 |
わりとそうですね。
というか、それしかできないですから(笑)。
けっきょく、早いんですよね、それが。
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糸井 |
うん。早い。 |
宮本 |
早い。だから、ゲームをつくる勘のいい人とか、
ものすごく反応のいい人たちと仕事をしていると、
テレビ画面に直接絵を描くんですよね。
できかけのものをモニターに映して、
「これ、こうしてこうしたら」
ってしゃべってるうちに、
「もう、画面にトレペ貼って書けよ」
っていうような話になるんです。 |
糸井 |
あああ、なるほどね。 |
宮本 |
で、そこにさらさらって書くと、
いちばん勘のいいような人は
「わかりました」って言って、
仕様書もないのにすぐ仕上げてくれる。 |
糸井 |
事実なんですよね、先に動くのは。 |
宮本 |
そうですね。
だから、これは極端な例ですけれども、もしも、
ゲームがいつまでたってもまとまらないときは、
「タイトル画面をつくれ」って言うんですよ。
で、タイトル画面をつくると、そのつぎは
「『1人用、2人用』って出てくるの?」って
質問できるようになるじゃないですか。
「いや、出てこないですね」ってなったら、
そういうふうにすればいいわけで、
「じゃあ、つぎはなにが出てくるの?」
って訊いていくと、流れやフローチャートが
どんどんできていきますからね。
それは、自分に対しても、やるんです。
そういうふうにしていくと、
自分の残りの仕事が見えるようになりますから。
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糸井 |
ああ、なるほど、なるほど。 |
宮本 |
この、「見える」というのが重要で。
漠然と考えているときというのは、
自分の残りの仕事が見えてないんですね。
だから、なにをどれだけ
考えているのかすら見えない。
そうすると、もう、チームって、
「なにを悩んでいるのかわからないのが悩み」
みたいな状態になっていくから、
そういうときはできるだけ、
形で見せるようにしなくちゃいけない。
見ながら出たネタにはハズレは少ないはずです。 |
糸井 |
うん、うん。
そういうふうにして、具体的な形とか動きとかで
ミーティングが進んでいくときというのは、
いわゆる「頭がいい」ということとはまったく別の
ものすごい能力が、ピカピカ光りだすんですよね。
で、そういうときに、誰かが
「うまく言えないけど、こうですか?」
って言ったら、たいてい、それが答えですよね。
で、そのピカピカの能力って、
じつは、ほとんどの人が持ってるんですよね。 |
宮本 |
持ってるんですよ、たぶん。
それが勝手に膨らませてくれるんですよ。
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糸井 |
そうですよね。で、なまじ、
「え、それは勉強のパターンでいうとどれかな」
って言ってる人は、遅れちゃいますよね。
「1回言語に直してください」とか、
「仕様が決まってないとやれません」
という人がもしも混じっていると、
えらくたいへんなことになる。 |
宮本 |
うん。そうですね。
だから、漠然としているイメージがあったら、
その要所要所に杭を打ち込んでいくわけですよね。
だから、実際につくるといっても、
最終的な完成形をつくるんじゃなくて、
物理モデルにあたるものをつくる。
その杭が、何本か上手に打ち込めたら、
もう、完成が読めるんですよ。 |
糸井 |
うん、うん。
(続きます)
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