糸井 |
『Wii Fit』も『マリオギャラクシー』も、
宮本さんの立場はプロデューサーですよね。 |
宮本 |
ええ、プロデューサーです。 |
糸井 |
おおきな方針やテーマを決めて、
ある程度組み立ててもらったものを、
途中で入っていって確認していく
みたいなことをやってるんですかね。 |
宮本 |
そうですね。『Wii Fit』なんかだと、
基本設計の部分から決まってない商品だったので、
ハード自体もつくりながら、
簡単なテストとミーティングを
何度もくり返していって、
「こうつくろう」と決まってからは、
現場がダーっとつくるのを
半年くらい平気で放っておいて、
まとまってきたらチェックして
どんどん直していくという感じで。 |
糸井 |
その、「放っておく半年間」って、
口を出し過ぎるとよくないんですか。 |
宮本 |
あんまり最初からいろいろ言うより、
ある程度、現場が納得するまで
つくったほうがいいと思うんです。
とはいえ、気になるときには
現場に張りつくこともありますけどね。 |
糸井 |
あー、ぼくと同じようなスタンスですねぇ。
なんか、だんだんやってる仕事が
宮本さんたちとシンクロしてくるなぁ。
年のせいかな。 |
宮本 |
(笑) |
糸井 |
あの、昔だったら、
「こういうことで行こうぜ」と言ってから
「どうなった、どうなった?」って、
2日後には訊いてたような気がしませんか。 |
宮本 |
はいはいはい(笑)。
だからね、わりと意図して放っておくというか。
とくに、今回の『Wii Fit』は、
任せておいて大丈夫なメンバーだったので、
原型がだいたいできてたら
もう大丈夫だろうというところもあって。 |
糸井 |
なるほど。そういうふうにやって
「つくっている気持ち」が減るかというと
そんなことはないですしね。 |
宮本 |
そうなんですよね。
だから、そこは説明が難しいところなんですけど、
『Wii Fit』にしろ『マリオギャラクシー』にしろ、
直接ぼくがつくっているところって、ないんです。
だから、こういうところでこうしてしゃべると、
「あなたはなにもつくってないんじゃないの?」
というふうに言われるようなこともある。
たしかに、それはそのとおりなんです。
でも、ぼくが決めることを決めてないと、
これはできていないぞ、というプライドもあって。 |
糸井 |
それはそうでしょう。 |
宮本 |
その意味からいうと
「これはぼくがつくりました」なんですが、
じゃあ物理的にどこをつくったかと言われると
「すいません、なにもつくってません」
っていうことになる。 |
糸井 |
ああ、わかる、わかる(笑)。 |
宮本 |
ファミコンのころのゲームならね、
細かいデータも自分で決めたし、
仕様も全部自分で書きましたから、
ある程度「つくりました」と言えたんですけど、
もうここ15年くらい、
自分で直接は作業してないですからね。
でも、どっちにしろゲームって
組織じゃないとつくれないし、
たったひとりが欠けてもそれは完成しない。
そういうものをつくってるわけです。
そうなると、全員のクリエイティブを
どれだけ引き出すかというのが
やっぱり自分の大切な仕事になるんです。 |
糸井 |
そうですね。 |
宮本 |
現場が淀まないように見渡しながら、
「淀まないためのクリエイティブ」をやる、
みたいなところがぼくの仕事で、
それは、ネタ出しもあるし、肩もみもあるし、
日によって変わってきますね。 |
糸井 |
「ちゃぶ台返し」も(笑)。 |
宮本 |
「ちゃぶ台返し」もあるし(笑)。
そういうことをやってるねんな、と
自分では分析しているんですけど、
なかなかうまく説明できなくて、
で、久しぶりに会う人なんかから
「最近、つくってないですね」って言われると、
「ああ、そう言われるとつくってないですね」
って、しょうがなく答えたりして。 |
糸井 |
つまり、プレイング・マネージャーじゃないと、
「つくっている」と思わない
タイプの人がいるんですよね。 |
宮本 |
そうなんですよね。
だから、最低限のこととして思うのは、
開発チームの中心メンバーがぼくを
「いてくれてよかった」と思っているかどうか。
ま、そこが、ぼくの存在価値かな(笑)。 |
糸井 |
わかる、わかる(笑)。 |
宮本 |
ただ、うちの組織としては、もう、
ぼくがいなくてもできる組織にせなあかんので、
そこが悩みどころなんですけどね。 |
糸井 |
いや、ぼくも、自分をどれだけいなくするかが
これからの自分の仕事だって本気で言ってますよ。 |
宮本 |
そうですよね。けど、やっぱりね、
「いてもらったほうがいいな」
と言われるほうがうれしいのが本音で(笑)。 |
糸井 |
いや、そりゃそのほうがうれしいよ! |
宮本 |
(笑) |
糸井 |
もう、オレなんかはね、
みんなの相談を受けるのとかね、
決してイヤじゃないね! |
宮本 |
あははははは。 |
糸井 |
「しょうがないな」とか言いながらね(笑)。
あと、もうひとつ理想的な姿としてあるのは、
みんながすごくうまく回っているときに
わざわざ出て行ってジャマする役。 |
宮本 |
あ、なるほど(笑)。 |
糸井 |
物事がすごくうまく運んでてね、
「ワンといえば、つぎはツーですね」
みたいなところに顔を出して、いろいろ言って、
「糸井さん、ワンとツーの話をしているときに
急にイロハのロを言わないでくださいよ」
みたいなことを言われたりする人。
そういう、わがままな人に
ぼくはなりたいですねぇ。 |
宮本 |
でもね、いちばんわがままなことというのは、
権力がある人が言わないとダメなんですよ。
そうじゃないと通らないから。 |
糸井 |
ああ、そうか。そうか。 |
宮本 |
だからね、年を取ったら、
わがままを言ったほうがいい。 |
糸井 |
そうですねぇ(笑)。
だから最終的にぼくは、
自分がまったく手を出さなくても
平気なチームができるのが理想で。
だけど、そのチームのメンバーが
「あいつにジャマされたいな」と思って、
来るのを待っている、という老人になりたい。 |
宮本 |
いいですねぇ(笑)。 |
糸井 |
ちなみに、
山内さん(元任天堂社長、現相談役)は
宮本さんたちにどういうことを言うんです? |
宮本 |
ようするに、
素直なことを言われる人なんですよね。
それで、「そうなのかな?」と思って、
実際に物事をすすめてみると、
やっぱりそこに真実がある、というような。
あとは、わかってることでも、
あらためて言ってくれたりね。
そういうことって、言われないとダメでしょう? |
糸井 |
そうですね。 |
宮本 |
言われると困るようなことを
はっきり言ってくれたりね、
あるいは「うぬぼれるな」とかね、
たまに言われないとダメだと思うんです。 |
糸井 |
うん、うん。
(続きます)
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