第10回 出なかったら、出なかったなりのものに

宮本 これは、うちの山内からも、
あるいは糸井さんからも学んだことなんですが、
自分のやった結果を
「謙虚に受け止める」というのと
「必要以上に卑下しない」という
両方ができてないとダメですよね。
自分がやった結果に対しての距離感というのかな。
そういうのってすごく大事で、若い人を見てると、
できてないんですよ、やっぱり。

糸井 なんでしょう、
自己認識っていちばん難しいですね。
宮本 難しいですねぇ。
自分でも、完全にはできてへんし。
だから、若い人を見ると、つい、
つついてみたくなりますよね。
うまくいってる子にも、そうでない子にも。
糸井 そうですね。むつかしいんだけどね。
どれだけつついても響かない子もいるし、
触っただけでパンクしちゃう子もいるし。
宮本 そう。手伝うしかない人もいるし。
糸井 そうそうそう(笑)。
やっぱり、よくない循環でいうと、
お利口な子どうしがチームになって、
「1のつぎは2で、2のつぎは3で‥‥」
という順番でものをつくるときですね。
知らず知らずにお客さんが
見えなくなってしまうから。

宮本 そうですね。
だから、ぼくはよく若いスタッフに、
自分のやり方をこう解説するんです。
まず、ネガティブな問題をぜんぶ挙げて、
理屈で固めてつくる。
でも、最後は、理屈を度外視して決める。
糸井 あ、なるほど。
宮本 どうしてそういう解説をするかというと、
ぼくが理屈でしゃべっているところ
ばっかり聞いていると、勘違いするんですよ。
最後に「度外視して決める」があるから、
最初に理屈でつくるわけで。
糸井 そうか。2回あるんだね。
建前でつくって、本音で決めるというか。
宮本 そうなんですよ。
だからね、ほんとうに、
「そのくり返しで
 いままで来てると思わへんか?」
とまで言うんですけどね。

糸井 その都度、その都度の、真剣さで
理屈でつくったり、度外視して決めたり。
宮本 ええ。だから、理論は一貫はしないし、
ぎりぎりのところでなにかが生まれたりするけど、
そういうふうに進める以外になくて。
糸井 うん、うん。
宮本 たとえばWiiのコントローラは
最初、ポインター(ある地点を指し示すもの)の
機能を軸にしてつくったんです。
でも、ゲームを新しくしているのは
じつは加速度センサーの役割が大きいわけです。
糸井 ああ、なるほどね。
宮本 加速度センサーというのは
ポインティングデバイスをつくっていくうえで
「こういうのもいいな、入れてみようか」
というふうに派生的に出てきたわけですけど、
そこでそれを取り入れる判断ができたというのは
ものすごく大事なことだったわけですよね。
糸井 そうですね、そうですね。
「いや、これはポインターだから」って
理屈で進めてたら、ないわけだからね。
宮本 そういうことのくり返しなんですよ。
かといって、最初から加速度センサーを
メインにしてつくっていたら、
いまのWiiになってないんです。
加速度センサーを入れたことで、
ボタンを減らした意義や効果も
相乗的に現れてきたわけですし。
糸井 まったくそうだ。
だから、サドンデスのゲームを
ずっとやっているわけだよね。

宮本 うん。そう。毎回、そうなんです。
糸井 最初のルールとは、平気で変わっていく。
宮本 だからね、今回の『Wii Fit』でいうと、
「このゲーム、バランスWiiボードという
 アイデアがもしも出なかったら、
 どうするつもりやったん?」
ということを内部で訊かれることがあるんです。
糸井 つまり、結果的には、
あのバランスWiiボードが
いろんなむつかしい要素を
うまくまとめてくれてるから。
宮本 そうなんです。だから、
「これがなかったらどうなってた?」と。
でもね、
「出なかったら、
 出なかったなりのものになってるのと違う?」
というのがぼくの答えなんです。
糸井 ああ、そうだね。そうなりますね。
なにかべつなことを思いつくだろうし、
極端にいえば、それを思いつかなければ、
『Wii Fit』は出ない。
宮本 そうなんですよ。
そこは、理屈だけでは説明できへんし、
偶然といえば偶然、出会いといえば出会い、
不思議だなあと自分でも思うんですよ。
「ご先祖さんがついてはるから」って言われたら
「そうかもしれん」と思うくらい(笑)。

糸井 逆にいうと、思いつくまで考えるということだね。
つまり、負けたっていうまでは
負けてないという話ですね。
宮本 そうそう(笑)。
糸井 卑怯だろうとなんだろうと、
9回表に53点くらい入れられても
「9回裏に54点入れればいいじゃないか」
って言い続ければ、いいんだよね。
宮本 そうです。
だから、ほんとうに重要なのは、
18回までやる根性があるかどうか、
ということなので。
糸井 そういうことだよね。
宮本 ほかではマネできないかもしれない、
と感じるのは、むしろそこですね。
糸井 なるほどね。

(続きます)
2008-02-07-THU