糸井 |
「理屈で固めてつくって、理屈抜きで決める」
「思いつくまで、やめない」というのは、
足腰の強さも必要ですけど、
なにより柔軟性が要りますよね。 |
宮本 |
そうですね。
だから、「核となるアイデア」を見つけたときと、
それが見つからないときのメリハリは
はっきりしてないとダメですね。
どれに対しても同じ温度で取り組んでると、
「仕事が増えるばっかりよ?」
という話になってきますから。
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糸井 |
けっきょく、
おもしろいテーマほど広がるんですよ。
で、広がるほど難しくなる。
なぜこんなに難しくなったかというと、
やっぱりおもしろいからなんだな、
ということが最近よくあるんです。
つまらないものは、スッとできるんですよ。
おもしろいものも、狭くつくっちゃえば、
とりあえず形にはなったりするんです。
でも、広くなる可能性のあるものを
どうやって形にするかを
どうしても考えてしまうんですよね。
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宮本 |
それが新しい構造をつくるということですからね。
ゲームのパッケージもそうなんです。
『ドラクエ』型パッケージとか、
『マリオ』型パッケージみたいなのがあって、
一時期、みんなどれかに
当てはめようとして苦労してたんですけど、
DS以降というのは、みんな、新しいパッケージを
おもしろがってつくるようになりましたよね。 |
糸井 |
『Wii Fit』なんかはその典型ですよね。
その意味でいうと、DSもWiiも、
まだまだ触ってないことがあると思う。 |
宮本 |
そうですね。
たとえば家でテレビを観ることも
遊びといえば遊びなので、
そこに違う遊びを混ぜることができたら
また新しいことができると思うんですけどね。
あの、極端にいってしまうと、
「毎朝宝くじが売り出されて夕方に発表がある」
というチャンネルがもしWiiにあったら、
一日の生活のなかに
また違う遊びが組み込まれますよね。 |
糸井 |
なるほど(笑)。 |
宮本 |
それをゲームのパッケージとして
きちんと売ることができたら
それはゲームのデザインになるわけだし。
そういうふうに考えると、
もう、無限の広がりがあるわけで。
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糸井 |
ぼくが毎日考えていることも、
そういうこととかなり近いですね。
お客さんに「どう?」っていうだけで
毎日遊べるような、
そんなつき合い方をしていきたいというか。 |
宮本 |
そうですね。
「一所懸命つくったから、永遠に遊んでくれ」
というのは無理がありますから。 |
糸井 |
そう考えると、あれだね、
なんていうか、宮本さん、
長くこの仕事に関わる理由ができちゃったね。 |
宮本 |
ああ(笑)。 |
糸井 |
DSやWiiができたおかげでね(笑)。
つまり、過去のタイプのゲーム機しかなかったら、
「宮本さんはどう引退するんだろう?」って
ぼくは興味深く見守ったと思うんですよ。
どういうふうに仕事を変えるのかな、って。 |
宮本 |
そうかもしれへんね(笑)。 |
糸井 |
でも、こんなことになっちゃったらね、
なんか、本田宗一郎がずっと乗り物作ってる、
みたいになりますよね。 |
宮本 |
ああ、だからね、
いま、おもしろいですよ、仕事が。 |
糸井 |
ですよね。 |
宮本 |
うん(笑)。
なんていうんでしょうね、
まだまだ興味があるんですよ。
たとえば、今回のDSとWiiというのは、
はじめて「ハードをつくった」という達成感が
ぼくのなかにあるんですね。
いままでのマシンにも、
熱心に取り組んではいましたけど、
リクエストを出していたという感じだったので。
それがDSとWiiでは、
「どういう遊びをつくるか」というところから
設計にかかわらせてもらえたので、
これからつくるハードというのにも
まだまだ興味がある状態なんですよ。
で、「『マリオ』をつくる」というようなことは
たんにぼくのテクニックのようなものなのでね。 |
糸井 |
うん、わかる、わかる(笑)。 |
宮本 |
手を抜くわけでも、やらないわけでもなく、
「『マリオ』や『ゼルダ』をつくる」というのは
ずっとついてまわるぼくの技術ですから、
必要なときにはそれを使う、と。 |
糸井 |
ようするに、歌がうまい、みたいなことね。 |
宮本 |
はははははは。 |
糸井 |
歌がうまいのは、ずっとそうなんだから、
うたうべきところでちゃんとうたう、と。
違う場面でうたうべき歌もある、
というようなことですね。 |
宮本 |
そう、ですね。
まぁ、歌はうまいほうがいいですね(笑)。 |
糸井 |
しかし、まだまだうまくなるんだね。
それは、すごいことだよね。
やっぱり、仕事がおもしろいんですねぇ。
それはなんというか、頼もしいなぁ。 |
宮本 |
うん、なんか、あいかわらず、
おもしろいですよ、仕事は。
|
糸井 |
逆に、なんか困ってることってあります? |
宮本 |
困ってること‥‥あ、最近のストレスはね、
どんどんことばが出なくなってくることなんです。 |
糸井 |
ほう。 |
宮本 |
ところがね、その「出ないことば」が、
「もともと自分が知ってたことば」なのか、
「もともと自分が知らないことば」なのか、
それがわからなくってきてるんです。
たとえば若いスタッフとしゃべってて、
あることを表現しようと思って
「なんと言ったかな、あれ、あれ」って
一所懸命言おうとしているけど、
「そんなことば、自分は知ってたっけ?」
と思うことがよくあるんです。
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糸井 |
はははははは。 |
宮本 |
それは、ものすごくボケたのか、
あるいは糸井さんが昔からいう
「世の中になかった概念」を
持ちはじめているのか、
そのあたりがよくわからない。 |
糸井 |
両方じゃないですか(笑)。 |
宮本 |
両方か(笑)。 |
糸井 |
ぼくもありますよ、そういうことは。
そういう「ことば」のことでいうと、
社長の岩田さんは説明が上手ですよね。
昔から、うまかったけど、
最近、ものすごいレベルになってる。 |
宮本 |
ああ、最近、それで妙に助かってるのは、
ぼくが、あることを理解して、
何人かでそれを共有しようとして
「ようするにこういうことよね」って
説明をしているときに、岩田さんが、
「宮本さんはこう言いたいわけですよね」って
さらに解説してくれることなんですよ。
その解説を聞くと、
「あ、そう言いたかったのか」って、
自分でわかる(笑)。 |
糸井 |
はははははは。
得意なんだよね、岩田さんは。 |
宮本 |
そうですね。 |
糸井 |
ぼくが言うまでもないことですけど、
ふたりでいることが
互いにとっていいんでしょうね。
宮本さんにとっても、
岩田さんが聞き手としていてくれることで
ずいぶんしゃべりやすくなってますよね。 |
宮本 |
うん。そうですね。 |
糸井 |
やっぱり同じ地平から聞いてくれないと、
本当にいいことは言えないですよね。
上や下の人としゃべるのと、
平らな場所でしゃべるのはぜんぜん違いますから。 |
宮本 |
そうですね。
役職の違いはありますけれども、
任天堂という同じ共同体にいるので
「つぎはなにをつくりましょうか」みたいな話は
ツーカーで、すごく速くやり取りできるんです。
とくに「よさそうな案」みたいなことについては
ほとんど障害なく互いに理解しているので、
楽チンですね。 |
糸井 |
うん、そうだろうね。
いやぁ、そんなこと、できないよ。 |
宮本 |
なかなかね。
「この会社はなにを考えているのか」というのを
岩田さんがタイミングよく説明しているおかげで、
若い子の理解や意欲もここ数年で
ずいぶん高まってると思いますし。 |
糸井 |
ああ、いいですね。 |
宮本 |
ぼくもみんなにしゃべるようになったんですよ。
やっぱり岩田さんがみんなに
きちんと説明しているのを見るとね、やっぱり
「わかれよ!」だけではあかんなと思って。 |
糸井 |
「わかれよ!」はダメなんだよねぇ。
やっぱりさ、
「くどいくらいに言ってるのに忘れること」
っていうのが、山ほどあるわけで。
それがわかってる立場の人間としては、
せめてくり返していかないと。 |
宮本 |
そうですね。 |
糸井 |
なるほどなぁ‥‥。
いや、年取ってよかったね。
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宮本 |
本当にね(笑)。
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(宮本茂さんとの話はこれで終わりです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました) |