第11回 仕事が、おもしろい

糸井 「理屈で固めてつくって、理屈抜きで決める」
「思いつくまで、やめない」というのは、
足腰の強さも必要ですけど、
なにより柔軟性が要りますよね。
宮本 そうですね。
だから、「核となるアイデア」を見つけたときと、
それが見つからないときのメリハリは
はっきりしてないとダメですね。
どれに対しても同じ温度で取り組んでると、
「仕事が増えるばっかりよ?」
という話になってきますから。

糸井 けっきょく、
おもしろいテーマほど広がるんですよ。
で、広がるほど難しくなる。
なぜこんなに難しくなったかというと、
やっぱりおもしろいからなんだな、
ということが最近よくあるんです。
つまらないものは、スッとできるんですよ。
おもしろいものも、狭くつくっちゃえば、
とりあえず形にはなったりするんです。
でも、広くなる可能性のあるものを
どうやって形にするかを
どうしても考えてしまうんですよね。

宮本 それが新しい構造をつくるということですからね。
ゲームのパッケージもそうなんです。
『ドラクエ』型パッケージとか、
『マリオ』型パッケージみたいなのがあって、
一時期、みんなどれかに
当てはめようとして苦労してたんですけど、
DS以降というのは、みんな、新しいパッケージを
おもしろがってつくるようになりましたよね。
糸井 『Wii Fit』なんかはその典型ですよね。
その意味でいうと、DSもWiiも、
まだまだ触ってないことがあると思う。
宮本 そうですね。
たとえば家でテレビを観ることも
遊びといえば遊びなので、
そこに違う遊びを混ぜることができたら
また新しいことができると思うんですけどね。
あの、極端にいってしまうと、
「毎朝宝くじが売り出されて夕方に発表がある」
というチャンネルがもしWiiにあったら、
一日の生活のなかに
また違う遊びが組み込まれますよね。
糸井 なるほど(笑)。
宮本 それをゲームのパッケージとして
きちんと売ることができたら
それはゲームのデザインになるわけだし。
そういうふうに考えると、
もう、無限の広がりがあるわけで。

糸井 ぼくが毎日考えていることも、
そういうこととかなり近いですね。
お客さんに「どう?」っていうだけで
毎日遊べるような、
そんなつき合い方をしていきたいというか。
宮本 そうですね。
「一所懸命つくったから、永遠に遊んでくれ」
というのは無理がありますから。
糸井 そう考えると、あれだね、
なんていうか、宮本さん、
長くこの仕事に関わる理由ができちゃったね。
宮本 ああ(笑)。
糸井 DSやWiiができたおかげでね(笑)。
つまり、過去のタイプのゲーム機しかなかったら、
「宮本さんはどう引退するんだろう?」って
ぼくは興味深く見守ったと思うんですよ。
どういうふうに仕事を変えるのかな、って。
宮本 そうかもしれへんね(笑)。
糸井 でも、こんなことになっちゃったらね、
なんか、本田宗一郎がずっと乗り物作ってる、
みたいになりますよね。
宮本 ああ、だからね、
いま、おもしろいですよ、仕事が。
糸井 ですよね。
宮本 うん(笑)。
なんていうんでしょうね、
まだまだ興味があるんですよ。
たとえば、今回のDSとWiiというのは、
はじめて「ハードをつくった」という達成感が
ぼくのなかにあるんですね。
いままでのマシンにも、
熱心に取り組んではいましたけど、
リクエストを出していたという感じだったので。
それがDSとWiiでは、
「どういう遊びをつくるか」というところから
設計にかかわらせてもらえたので、
これからつくるハードというのにも
まだまだ興味がある状態なんですよ。
で、「『マリオ』をつくる」というようなことは
たんにぼくのテクニックのようなものなのでね。
糸井 うん、わかる、わかる(笑)。
宮本 手を抜くわけでも、やらないわけでもなく、
「『マリオ』や『ゼルダ』をつくる」というのは
ずっとついてまわるぼくの技術ですから、
必要なときにはそれを使う、と。
糸井 ようするに、歌がうまい、みたいなことね。
宮本 はははははは。
糸井 歌がうまいのは、ずっとそうなんだから、
うたうべきところでちゃんとうたう、と。
違う場面でうたうべき歌もある、
というようなことですね。
宮本 そう、ですね。
まぁ、歌はうまいほうがいいですね(笑)。
糸井 しかし、まだまだうまくなるんだね。
それは、すごいことだよね。
やっぱり、仕事がおもしろいんですねぇ。
それはなんというか、頼もしいなぁ。
宮本 うん、なんか、あいかわらず、
おもしろいですよ、仕事は。

糸井 逆に、なんか困ってることってあります?
宮本 困ってること‥‥あ、最近のストレスはね、
どんどんことばが出なくなってくることなんです。
糸井 ほう。
宮本 ところがね、その「出ないことば」が、
「もともと自分が知ってたことば」なのか、
「もともと自分が知らないことば」なのか、
それがわからなくってきてるんです。
たとえば若いスタッフとしゃべってて、
あることを表現しようと思って
「なんと言ったかな、あれ、あれ」って
一所懸命言おうとしているけど、
「そんなことば、自分は知ってたっけ?」
と思うことがよくあるんです。

糸井 はははははは。
宮本 それは、ものすごくボケたのか、
あるいは糸井さんが昔からいう
「世の中になかった概念」を
持ちはじめているのか、
そのあたりがよくわからない。
糸井 両方じゃないですか(笑)。
宮本 両方か(笑)。
糸井 ぼくもありますよ、そういうことは。
そういう「ことば」のことでいうと、
社長の岩田さんは説明が上手ですよね。
昔から、うまかったけど、
最近、ものすごいレベルになってる。
宮本 ああ、最近、それで妙に助かってるのは、
ぼくが、あることを理解して、
何人かでそれを共有しようとして
「ようするにこういうことよね」って
説明をしているときに、岩田さんが、
「宮本さんはこう言いたいわけですよね」って
さらに解説してくれることなんですよ。
その解説を聞くと、
「あ、そう言いたかったのか」って、
自分でわかる(笑)。
糸井 はははははは。
得意なんだよね、岩田さんは。
宮本 そうですね。
糸井 ぼくが言うまでもないことですけど、
ふたりでいることが
互いにとっていいんでしょうね。
宮本さんにとっても、
岩田さんが聞き手としていてくれることで
ずいぶんしゃべりやすくなってますよね。
宮本 うん。そうですね。
糸井 やっぱり同じ地平から聞いてくれないと、
本当にいいことは言えないですよね。
上や下の人としゃべるのと、
平らな場所でしゃべるのはぜんぜん違いますから。
宮本 そうですね。
役職の違いはありますけれども、
任天堂という同じ共同体にいるので
「つぎはなにをつくりましょうか」みたいな話は
ツーカーで、すごく速くやり取りできるんです。
とくに「よさそうな案」みたいなことについては
ほとんど障害なく互いに理解しているので、
楽チンですね。
糸井 うん、そうだろうね。
いやぁ、そんなこと、できないよ。
宮本 なかなかね。
「この会社はなにを考えているのか」というのを
岩田さんがタイミングよく説明しているおかげで、
若い子の理解や意欲もここ数年で
ずいぶん高まってると思いますし。
糸井 ああ、いいですね。
宮本 ぼくもみんなにしゃべるようになったんですよ。
やっぱり岩田さんがみんなに
きちんと説明しているのを見るとね、やっぱり
「わかれよ!」だけではあかんなと思って。
糸井 「わかれよ!」はダメなんだよねぇ。
やっぱりさ、
「くどいくらいに言ってるのに忘れること」
っていうのが、山ほどあるわけで。
それがわかってる立場の人間としては、
せめてくり返していかないと。
宮本 そうですね。
糸井 なるほどなぁ‥‥。
いや、年取ってよかったね。

宮本 本当にね(笑)。

  (宮本茂さんとの話はこれで終わりです。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました)
2008-02-08-FRI