糸井 |
♪そら―ときみとのあいだには♪
というフレーズにも‥‥。 |
中島 |
「空と君のあいだに」ですね。 |
糸井 |
あの曲を思い出すたび、
不思議に思うことがありまして。
歌詞から見える風景の縮尺が妙というか、
「空」と「君」の大きさの
バランスが合っていなくて‥‥、
でもそれが大好きなんです。 |
中島 |
そのまま不思議に
思ってもらっていてもいいですけど(笑)、
種明かしをしてもいいですか。 |
糸井 |
ぜひ! |
中島 |
『家なき子』というドラマが始まるので
主題歌を、というお話をいただきまして。
だけど、まだ台本もなくて。
具体的に決まっているのは、
安達祐実さんの主演と
彼女が犬を連れてるってことくらい。
そうなると、手がかりは犬しかなかったから(笑)、
犬の写真をじっと見詰めていたら、
犬の気持ちになって。 |
糸井 |
犬の気持ち? |
中島 |
ええ。犬の気持ちで見れば、
自分といつも一緒に歩いてくれてる
家のないお姉ちゃんは「君」でしょ。
犬が見るでしょ、見てるでしょ、
そうすると「君」と「空」しか
見えてないはずなんですよ、犬には。 |
糸井 |
犬の視線で、空と君を結んだんだ!
しびれるねえ〜! |
中島 |
うふふ。 |
糸井 |
あれは、犬の気持ちで歌うんですね。 |
中島 |
そうそう。 |
糸井 |
空と君の大きさのあまりの違いってのも
愉快なんですよね。
異なる大きさのものを同じに並べることが
詩人にはできるわけで、
空と君じゃないですか。
並べちゃって繋いじゃった。
その姿勢はものすごく好きだなあ。
で、その間に雨が降るわけじゃないですか、
もうねえ、
言葉ってそこまで自由だっていうかさ。 |
中島 |
あはははは、うんうん。 |
糸井 |
特撮で描こうとしたら
大変な画面になっちゃうけど、
言葉だったら、
受け取るあなたの分量に合わせてどうぞ、
っていうふうに差し出せる。 |
中島 |
そうですね。 |
糸井 |
その、点でしかみえないちっぽけさと、
空と対応しているだけの大きさとが
同じ君の中にあるっていうさ、
それでまた考えちゃってねー。
聴いてて、ぼーっとしちゃう。 |
中島 |
ぼー、ですか。 |
糸井 |
で、何度でも聴けるんです。 |
中島 |
なるほどー。 |
糸井 |
あの、ぽちんってある点が、
ないようだけども
すごく大きいんだよっていうようなお話は、
みゆきさん、とってもお好きですよね。
ちっちゃいように見えて大きいよ、
みたいな話はよくイメージできます。 |
中島 |
ああ、そうかもしれないですね。 |
糸井 |
ぼくには大好きなイメージがあるんです。
ジャングルの中に一匹だけ
ちっちゃくオランウータンが見えてる、
っていう絵なんですけどね。
これ、ぼくが勝手にイメージしてる絵で、
実際にそんな絵があるわけじゃないんです。
で、ジャングルはいくらでも
大きく引き伸ばしできるんです。
その中でオランウータンがじっとこっちを向いてる。 |
中島 |
あはははは。うーん。 |
糸井 |
でね、そいつは茶色なんですよ。
グリーンの中の茶色いオランウータンと
目が合うんです。それが好きでねー。
何かのときにそのことを思うとね、
気持ちいいんです。 |
中島 |
なるほどー。 |
糸井 |
その大きさの比例配分みたいなものがね、
犬のね、その犬の目線の中にあったわけですね。
あ、さっきから詞の話ばかりしてますね。 |
中島 |
詩人ですからねー。やっぱり。 |
糸井 |
みゆきさんの詞がほんとに上手だなと思うのは、
俗な言葉をひょいと拾って
混ぜ込むのがものすごくうまいところですね。 |
中島 |
はあ? |
糸井 |
うまく例をあげられないんですけど、
つまりー、んー、何かないかな。
♪ルージュひくたびに♪
っていう詞があるじゃないですか。
(「ルージュ」という曲です)
ルージュっていうのは
歌謡曲でよく使われる言葉ですよね。
で、そういうものを、
すごく難しいことを言うときに密輸入して、
こう、ジェムストーンのようにはめるんですよ。
どうしてこんなことができるんだって、
もう、憧れちゃうんですよ。
ああいうキラキラしたものの、はめかたに。 |
|
中島 |
んなこたあないですよ!
糸井さんだって、これ、これ!
(と言って、『小さいことばを歌う場所』を出す) |
糸井 |
ぼくのそれは‥‥‥‥、
うーん、違うんですよー!
だから中島さんのとはー。 |
中島 |
違うんですの? |
糸井 |
うん。つまりね、
ぼくにはお客さんが見えてないんですよ。
で、みゆき様の場合には
ちゃんと交流してる感じなんですよね。 |
中島 |
へへへへ、そうですかあ。 |
糸井 |
うーん。かつて音楽の世界では、
オシャレな人たちや斬新な人たちが、
「それって歌謡曲っぽいよね」
と言って排除してきたものがあるわけで。
でも、中島みゆきの歌詞には、
そんな理由で排除されたものを拾い上げ、
輝かすような言葉づかいを感じるんですよ。
誰かが落としたあめ玉を、
ゴミを払って水で洗って、
ここに入れたらほらピカピカに光るよって。 |
中島 |
あはははは。すごいねぇ。
うれしいですね、
そう言っていただけると。 |
糸井 |
そこが大好きだから、
iPod収録曲の中で
ぼくがいちばん聴いているのは中島みゆきですよ。
正直に言うと。 |
中島 |
あららら。 |
糸井 |
俺の何でもなさも捨てたもんじゃないぜって
気持ちになるというか。 |
中島 |
あはははは。 |
糸井 |
それは、作ってる人もそうだからだ、
っていうふうにぼくは思ってて、
中島みゆきという人のことに思いを馳せるんですね。
何だかうまく言えないんですが
心では繋がってますから。
その、あめ玉のこととか。 |
中島 |
みごとなお言葉をありがとうございます! |
|
(つづきます!) |