ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第7回 俺の何でもなさも捨てたもんじゃないぜ。
糸井 ♪そら―ときみとのあいだには♪
というフレーズにも‥‥。
中島 「空と君のあいだに」ですね。
糸井 あの曲を思い出すたび、
不思議に思うことがありまして。
歌詞から見える風景の縮尺が妙というか、
「空」と「君」の大きさの
バランスが合っていなくて‥‥、
でもそれが大好きなんです。
中島 そのまま不思議に
思ってもらっていてもいいですけど(笑)、
種明かしをしてもいいですか。
糸井 ぜひ!
中島 『家なき子』というドラマが始まるので
主題歌を、というお話をいただきまして。
だけど、まだ台本もなくて。
具体的に決まっているのは、
安達祐実さんの主演と
彼女が犬を連れてるってことくらい。
そうなると、手がかりは犬しかなかったから(笑)、
犬の写真をじっと見詰めていたら、
犬の気持ちになって。
糸井 犬の気持ち?
中島 ええ。犬の気持ちで見れば、
自分といつも一緒に歩いてくれてる
家のないお姉ちゃんは「君」でしょ。
犬が見るでしょ、見てるでしょ、
そうすると「君」と「空」しか
見えてないはずなんですよ、犬には。
糸井 犬の視線で、空と君を結んだんだ!
しびれるねえ〜!
中島 うふふ。
糸井 あれは、犬の気持ちで歌うんですね。
中島 そうそう。
糸井 空と君の大きさのあまりの違いってのも
愉快なんですよね。
異なる大きさのものを同じに並べることが
詩人にはできるわけで、
空と君じゃないですか。
並べちゃって繋いじゃった。
その姿勢はものすごく好きだなあ。
で、その間に雨が降るわけじゃないですか、
もうねえ、
言葉ってそこまで自由だっていうかさ。
中島 あはははは、うんうん。
糸井 特撮で描こうとしたら
大変な画面になっちゃうけど、
言葉だったら、
受け取るあなたの分量に合わせてどうぞ、
っていうふうに差し出せる。
中島 そうですね。
糸井 その、点でしかみえないちっぽけさと、
空と対応しているだけの大きさとが
同じ君の中にあるっていうさ、
それでまた考えちゃってねー。
聴いてて、ぼーっとしちゃう。
中島 ぼー、ですか。
糸井 で、何度でも聴けるんです。
中島 なるほどー。
糸井 あの、ぽちんってある点が、
ないようだけども
すごく大きいんだよっていうようなお話は、
みゆきさん、とってもお好きですよね。
ちっちゃいように見えて大きいよ、
みたいな話はよくイメージできます。
中島 ああ、そうかもしれないですね。
糸井 ぼくには大好きなイメージがあるんです。
ジャングルの中に一匹だけ
ちっちゃくオランウータンが見えてる、
っていう絵なんですけどね。
これ、ぼくが勝手にイメージしてる絵で、
実際にそんな絵があるわけじゃないんです。
で、ジャングルはいくらでも
大きく引き伸ばしできるんです。
その中でオランウータンがじっとこっちを向いてる。
中島 あはははは。うーん。
糸井 でね、そいつは茶色なんですよ。
グリーンの中の茶色いオランウータンと
目が合うんです。それが好きでねー。
何かのときにそのことを思うとね、
気持ちいいんです。
中島 なるほどー。
糸井 その大きさの比例配分みたいなものがね、
犬のね、その犬の目線の中にあったわけですね。
あ、さっきから詞の話ばかりしてますね。
中島 詩人ですからねー。やっぱり。
糸井 みゆきさんの詞がほんとに上手だなと思うのは、
俗な言葉をひょいと拾って
混ぜ込むのがものすごくうまいところですね。
中島 はあ?
糸井 うまく例をあげられないんですけど、
つまりー、んー、何かないかな。
♪ルージュひくたびに♪
っていう詞があるじゃないですか。
(「ルージュ」という曲です)
ルージュっていうのは
歌謡曲でよく使われる言葉ですよね。
で、そういうものを、
すごく難しいことを言うときに密輸入して、
こう、ジェムストーンのようにはめるんですよ。
どうしてこんなことができるんだって、
もう、憧れちゃうんですよ。
ああいうキラキラしたものの、はめかたに。
中島 んなこたあないですよ!
糸井さんだって、これ、これ!
(と言って、『小さいことばを歌う場所』を出す)
糸井 ぼくのそれは‥‥‥‥、
うーん、違うんですよー!
だから中島さんのとはー。
中島 違うんですの?
糸井 うん。つまりね、
ぼくにはお客さんが見えてないんですよ。
で、みゆき様の場合には
ちゃんと交流してる感じなんですよね。
中島 へへへへ、そうですかあ。
糸井 うーん。かつて音楽の世界では、
オシャレな人たちや斬新な人たちが、
「それって歌謡曲っぽいよね」
と言って排除してきたものがあるわけで。
でも、中島みゆきの歌詞には、
そんな理由で排除されたものを拾い上げ、
輝かすような言葉づかいを感じるんですよ。
誰かが落としたあめ玉を、
ゴミを払って水で洗って、
ここに入れたらほらピカピカに光るよって。
中島 あはははは。すごいねぇ。
うれしいですね、
そう言っていただけると。
糸井 そこが大好きだから、
iPod収録曲の中で
ぼくがいちばん聴いているのは中島みゆきですよ。
正直に言うと。
中島 あららら。
糸井 俺の何でもなさも捨てたもんじゃないぜって
気持ちになるというか。
中島 あはははは。
糸井 それは、作ってる人もそうだからだ、
っていうふうにぼくは思ってて、
中島みゆきという人のことに思いを馳せるんですね。
何だかうまく言えないんですが
心では繋がってますから。
その、あめ玉のこととか。
中島 みごとなお言葉をありがとうございます!
 

(つづきます!)

2007-09-14-FRI
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