ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第8回 先端を走っていくよりも。
中島 あのね、わたしはね、何て言えばいいかな、
「先端を行く係」って
わたしには向いてないなと思って。
これからの時代はこれが流行る、
これが求められると、いろいろ情報を集め、
解析し、一歩先んじることは向いてないんです。
そういう試験があったら絶対に不合格(笑)。
それができないのなら、
わたしには何ができるのかと思ったとき、
速さより遅さだと思ったんです。
糸井 はあ。それはいいねえ。
中島 先を急ぐ人たちは、
たいてい何かを落としてしまうものだから。
笊(ざる)を持って、それを拾って行こうと。
それを磨こうかなと。
糸井 それは素敵です。
ダイヤモンドの鉱脈を探す競争に参加するより、
ビーズは綺麗だよって言ってるようなものかな。
中島 わたしはダイヤモンドの
ありがたみがよくわかんないんです。
ジルコニアとの差、見てもよくわかんないし。
それよりもね‥‥アクリル好きなんですよ(笑)。
アクリルおたくなんです、わたし。
アクリルって綺麗ですよね、そう思いません?
糸井 アクリル。
中島 東急ハンズのアクリル売り場で
うっとりしちゃうんですね。
でも、案外重いんです。
アクリルのギターも作ったことありましたけど、
重すぎました。
糸井 はぁ、あれは重いものなんですか。
中島 はいー。
糸井 案外高いんでしょ、素材としては。
中島 結構高いです。その割には、
すぐ傷ついちゃうんですけど。
糸井 アクリルおたくとは知らなかったなあ。
今度、そのつもりで歌を聞き直してみますよ。
中島 うはははっ。それらしい箇所を発見したら、
教えてくださいね。
糸井 はい。
中島 でね、とにかくわたしの場合、
元来、とろいというか(笑)、
前へ前へ出るのは無理があるし。
だったら、どん尻を行きますと。
糸井 世界の情勢について知らなくても言えることって、
ぼくらの日々の生活の中には満ちてますよね。
つまり世界ってことが二重に存在してて、
ほんとにある小さな現実というのも世界で、
大きな世界、‥‥国際情勢とか、
大統領が何を言ったとか、
そんなこと一切知らなくても
そういう世界は存在してますよね。
そっちの、本当に触れられる世界についてなら
誰もが平等に言えますよね。
中島 そうですね。まあ、前へ出なくても、
いやでも世界は降ってきますからね(笑)。
いずれ全部ね。
糸井 だけど、小さなものを見つけても、
それを大きなことのように言いたがるのが
人間の性(さが)でもあるわけで。
そうならないところが
中島みゆきの言葉のすごさですね。
中島 わたし、ものすごい近眼だもの。
遠くが見えないから(笑)。
糸井 すごい資質だ(笑)。
中島 財産だと思ってます、はい。
たとえばテーブルの上のコーヒーカップを見ようと、
顔を近づけると、
テーブルの上のゴミが目についちゃったり(笑)。
こういうちっこいものが、やたらと‥‥。
糸井 一般的に悪いとされている、
近視眼的な行為がプラスに転じてる(笑)。
中島 はい(笑)。だから思わぬ拾いものが
あるんじゃないですかね。
まあ、目のいい人は遠くからでも
それが見えてるんでしょうけれども。
糸井 ノイズごと拾わざるを得ないんですね。
中島 そうですね。わりと身近なものしか
見てないかもしれないですね。
糸井 ふんふんふん。
純化させちゃうとそういうものは
全部排除されちゃうけど、
鈍化させたら逆に見えてくるみたいな。
中島 あはははは。子どもの頃から近眼だったから。
星が見えなかったですもん。
糸井 星をあんなに語りたがるのは、
じゃあ、あれは憧憬ですか?
中島 眼鏡かけて星を見たときの感動!
糸井 そうですか。
中島 「わぁ、星だあ!」
糸井 うちの妻がそういう近眼だった人で。
中島 あららら。
糸井 近眼のときにぼくと結婚したんですけどね(笑)。
その後、手術をしたんですよ。
でね、手術をした翌日に、
朝起きたらベッドにカミさんがいないんですよ。
この時間に家出することもないし、
居間に行ってみたら、外をね、
ぽーっとした顔で見てるんですよ。
何してんの? って聞いたら、
「見える‥‥」って。
つまり裸眼で見えるっていうこと自体を
楽しんでいたんです。
中島 そりゃあ、感動でしょうね。
糸井 見える‥‥っていうつぶやき、
あれは5歳児の言葉でしたね。
中島 あはははは! うーん。
糸井 ぼくはそりゃあ、打たれましたね。
中島 昔から近眼だったんですね、きっと。
糸井 見えるっていうそのことに
感動してるんですよ。景色じゃないんですね。
中島 はいはい。
糸井 あなたもきっとそうなりますよ、もし手術したらね。
 

(つづきます!)

2007-09-17-MON
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