中島 |
あのね、わたしはね、何て言えばいいかな、
「先端を行く係」って
わたしには向いてないなと思って。
これからの時代はこれが流行る、
これが求められると、いろいろ情報を集め、
解析し、一歩先んじることは向いてないんです。
そういう試験があったら絶対に不合格(笑)。
それができないのなら、
わたしには何ができるのかと思ったとき、
速さより遅さだと思ったんです。 |
糸井 |
はあ。それはいいねえ。 |
中島 |
先を急ぐ人たちは、
たいてい何かを落としてしまうものだから。
笊(ざる)を持って、それを拾って行こうと。
それを磨こうかなと。 |
糸井 |
それは素敵です。
ダイヤモンドの鉱脈を探す競争に参加するより、
ビーズは綺麗だよって言ってるようなものかな。 |
中島 |
わたしはダイヤモンドの
ありがたみがよくわかんないんです。
ジルコニアとの差、見てもよくわかんないし。
それよりもね‥‥アクリル好きなんですよ(笑)。
アクリルおたくなんです、わたし。
アクリルって綺麗ですよね、そう思いません? |
糸井 |
アクリル。 |
中島 |
東急ハンズのアクリル売り場で
うっとりしちゃうんですね。
でも、案外重いんです。
アクリルのギターも作ったことありましたけど、
重すぎました。 |
糸井 |
はぁ、あれは重いものなんですか。 |
中島 |
はいー。 |
糸井 |
案外高いんでしょ、素材としては。 |
中島 |
結構高いです。その割には、
すぐ傷ついちゃうんですけど。 |
糸井 |
アクリルおたくとは知らなかったなあ。
今度、そのつもりで歌を聞き直してみますよ。 |
中島 |
うはははっ。それらしい箇所を発見したら、
教えてくださいね。 |
糸井 |
はい。 |
中島 |
でね、とにかくわたしの場合、
元来、とろいというか(笑)、
前へ前へ出るのは無理があるし。
だったら、どん尻を行きますと。 |
糸井 |
世界の情勢について知らなくても言えることって、
ぼくらの日々の生活の中には満ちてますよね。
つまり世界ってことが二重に存在してて、
ほんとにある小さな現実というのも世界で、
大きな世界、‥‥国際情勢とか、
大統領が何を言ったとか、
そんなこと一切知らなくても
そういう世界は存在してますよね。
そっちの、本当に触れられる世界についてなら
誰もが平等に言えますよね。 |
中島 |
そうですね。まあ、前へ出なくても、
いやでも世界は降ってきますからね(笑)。
いずれ全部ね。 |
糸井 |
だけど、小さなものを見つけても、
それを大きなことのように言いたがるのが
人間の性(さが)でもあるわけで。
そうならないところが
中島みゆきの言葉のすごさですね。 |
中島 |
わたし、ものすごい近眼だもの。
遠くが見えないから(笑)。 |
糸井 |
すごい資質だ(笑)。 |
中島 |
財産だと思ってます、はい。
たとえばテーブルの上のコーヒーカップを見ようと、
顔を近づけると、
テーブルの上のゴミが目についちゃったり(笑)。
こういうちっこいものが、やたらと‥‥。 |
糸井 |
一般的に悪いとされている、
近視眼的な行為がプラスに転じてる(笑)。 |
中島 |
はい(笑)。だから思わぬ拾いものが
あるんじゃないですかね。
まあ、目のいい人は遠くからでも
それが見えてるんでしょうけれども。 |
糸井 |
ノイズごと拾わざるを得ないんですね。 |
中島 |
そうですね。わりと身近なものしか
見てないかもしれないですね。 |
糸井 |
ふんふんふん。
純化させちゃうとそういうものは
全部排除されちゃうけど、
鈍化させたら逆に見えてくるみたいな。 |
中島 |
あはははは。子どもの頃から近眼だったから。
星が見えなかったですもん。 |
糸井 |
星をあんなに語りたがるのは、
じゃあ、あれは憧憬ですか? |
中島 |
眼鏡かけて星を見たときの感動! |
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糸井 |
そうですか。 |
中島 |
「わぁ、星だあ!」 |
糸井 |
うちの妻がそういう近眼だった人で。 |
中島 |
あららら。 |
糸井 |
近眼のときにぼくと結婚したんですけどね(笑)。
その後、手術をしたんですよ。
でね、手術をした翌日に、
朝起きたらベッドにカミさんがいないんですよ。
この時間に家出することもないし、
居間に行ってみたら、外をね、
ぽーっとした顔で見てるんですよ。
何してんの? って聞いたら、
「見える‥‥」って。
つまり裸眼で見えるっていうこと自体を
楽しんでいたんです。 |
中島 |
そりゃあ、感動でしょうね。 |
糸井 |
見える‥‥っていうつぶやき、
あれは5歳児の言葉でしたね。 |
中島 |
あはははは! うーん。 |
糸井 |
ぼくはそりゃあ、打たれましたね。 |
中島 |
昔から近眼だったんですね、きっと。 |
糸井 |
見えるっていうそのことに
感動してるんですよ。景色じゃないんですね。 |
中島 |
はいはい。 |
糸井 |
あなたもきっとそうなりますよ、もし手術したらね。 |
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(つづきます!) |