中島 |
眼鏡かけて星見たときも、
たしかによく見えますけども、
レンズ越しだってことで、
ひとつ嘘だと思ってますもんね、やっぱり。 |
糸井 |
そうですよね。 |
中島 |
見てるものと、これは違うものだって。
だって対象から伝わる空気を
邪魔してるんですものね。
これは違う、と、どこかで思ってます。 |
糸井 |
大きさ、変えちゃいますから。 |
中島 |
変わります。 |
糸井 |
うん。みんなが見てるのと
同じ大きさで見えて、
しかもくっきり見えるという経験は
近眼の人にはないんですね。
そしたら、もし手術とかしちゃったら、
中島みゆきの歌は変わっちゃうかも。 |
中島 |
あ、変わるかもしれませんね。だと思います。 |
糸井 |
(笑)。それはそれで
少し聴いてみたい気はします。 |
中島 |
すっごく遠大なことばっかり
書くようになったりして。 |
糸井 |
どうなんでしょうね、面白いねえ。
プロデューサー中島みゆきが、
作詞家中島みゆきに言うことはないですか、
“レーシック(視力回復手術)をしたってことにして、
1回詞を書いてみろよ”とか。 |
中島 |
それって、嘘ばっかり書くと思いますよ(笑)。
近眼じゃない人にはすぐバレちゃう。 |
糸井 |
くっきりは見えないけど、
色認識はできてるんですよね。 |
中島 |
色はわかります。 |
糸井 |
きっと歌詞にもその影響ってあるんでしょうね。
ぼく、あの金魚の歌が大好きなんです。
(「金魚」という歌です)
金魚の姿はよく見えてなくても、
色がひらりひらりしてるのが書けてるんですね。 |
中島 |
そうなんですね。はい。 |
|
糸井 |
あれは近眼だからなんだー。 |
中島 |
わたし、それで失敗したことあるんですよ。 |
糸井 |
うふふ、何ですか? |
中島 |
ほとんど行かないパーティというものに
行ったときでした。
ご挨拶をしたあと、こういう席では
何か褒めなきゃと思いまして。
女性の方だったから、
「素敵なドレスですね」と言ったりして。
そのときは見栄を張って
眼鏡をかけてなかったんですね。
でも、色はわかるから。
「綺麗なお色ですね。この色は、
余計な柄が入っているより
断然引き立ちますね」とか。
でも実際は、細かい柄が
ビッシリ入ってるドレスだった(笑)。 |
糸井 |
やっちゃったんだ(笑)。
そういう歌が作れそうですね。 |
中島 |
そういうの書けますね。 |
糸井 |
ねえ。 |
中島 |
無地だと思ったら柄だったみたいな歌がね。 |
糸井 |
そういう恋愛もありそうですもんね。
無地だと思ったら柄だった恋愛。 |
中島 |
あるでしょうね!
わたし、人の顔、よくわかってないですから。
目鼻立ちってね、
あまりわかんないんですよ、男の人の。 |
糸井 |
いやあ、おもしろいなあ。 |
中島 |
だから、服変わると判別できないんですよ(笑)。
いくら惚れた腫れたといってもね。あははは。 |
糸井 |
それは、観念に行かざるを得ない、
ということも言えますね。 |
中島 |
言えますねー。 |
糸井 |
観念は頭ん中でいくらでも遊べますもんね。 |
中島 |
あとは、声で人を探してますから。
だから、待ち合わせの場所に
黙って立ってられたらわかんない(笑)。 |
糸井 |
ここだよォとか。 |
中島 |
そうそう。 |
糸井 |
それほど聞くことを
大事にした人生を送ってきたんだね。 |
中島 |
そうなんです(笑)。うふふ。 |
糸井 |
だから、歌い手になったのは天職ですね。
だけど、無口な彼とはつきあえない。 |
中島 |
残るは体温かな(笑)。
「あったかーい! ここにいたのね!」みたいな。 |
糸井 |
爬虫類みたいだね(笑)。 |
中島 |
中島、爬虫類っすか?! |
糸井 |
爬虫類は、自分の体温を上げるために、
温度の高いところに寄っていく習性があるらしい。
亀でも体温を求めて
人間の膝の上の乗ってくるそうだし。
親亀の背中に子亀を乗せてってあるでしょ。
あれも暖かい太陽の光を求めた亀が、
自然に積み重なっちゃうんですよ。 |
中島 |
ひなたぼっこしてるんだ。 |
糸井 |
だから上に乗っている亀にしたら、
誰かの上に乗ってるつもりはなくてね、
ただの岩の上にいるつもりじゃないのかな。 |
中島 |
勉強なるなあ。
まさに亀の甲より何とやら(笑)。 |
糸井 |
だから、中島みゆきも
実はそういう人間なんだ(笑)。 |
中島 |
わははははっ。 |
糸井 |
忘れてたけど、今いきなり思い出しました。
“愛は温度”という文章を書いたことがありますよ。 |
中島 |
それすごく納得できます。
もっと平熱を上げよっと(笑)。 |
糸井 |
落語で、夫婦喧嘩の仲裁に入った仲人が、
なんでお前はあんな男と結婚したんだって聞いたら、
女房の方が、
「だって寒いんだもの」って答えたという。 |
中島 |
ああ、わかります(笑)。 |
糸井 |
うふふふ。生命体そのものの叫びですよね。 |
中島 |
はいはいはい。そうです。
細胞ってあったかいわよねーって。 |
糸井 |
そうそう! なまじ、よく見えるから、
余計な情報に捕らわれてるのかもしれないね。
耳で立派な身なりの人を
聞き分けることってできないものね。 |
中島 |
できないですねー。 |
糸井 |
そうすると、言葉が大事になりますよね。
わかんないことを言う人のことは
どうでもよくなる。 |
中島 |
ふふふ。難しいことは聞き取れないけど、
声音っていうんですかね。
そういうのを聞こうとしてるのかもしれない。
声の温度とかね。 |
糸井 |
うわあ、おもしろいー。
みんながそう生きたらもっと楽になるのに。 |
中島 |
あははは。 |
糸井 |
つまり、目利きとかっていう人はさ、
価値の差がわかる人のことでしょ。 |
中島 |
うんうんうん。 |
糸井 |
でも、その差って、
実はよくわかんないものじゃない。 |
中島 |
うんうん。 |
糸井 |
そうすると、難しいこと言って
価値の差をあらわそうとするけど、
いやあ、難しくてわかんないねえーって
なっちゃうじゃないですか。
でも、あなたの声はよくわかる
っていうところでなら、その人を理解できる。 |
中島 |
はい。 |
糸井 |
やっ! 自分もそれでいこう。 |
中島 |
あははは。 |
|
(つづきます!) |