ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第9回 聞くことを大事にした人生。
中島 眼鏡かけて星見たときも、
たしかによく見えますけども、
レンズ越しだってことで、
ひとつ嘘だと思ってますもんね、やっぱり。
糸井 そうですよね。
中島 見てるものと、これは違うものだって。
だって対象から伝わる空気を
邪魔してるんですものね。
これは違う、と、どこかで思ってます。
糸井 大きさ、変えちゃいますから。
中島 変わります。
糸井 うん。みんなが見てるのと
同じ大きさで見えて、
しかもくっきり見えるという経験は
近眼の人にはないんですね。
そしたら、もし手術とかしちゃったら、
中島みゆきの歌は変わっちゃうかも。
中島 あ、変わるかもしれませんね。だと思います。
糸井 (笑)。それはそれで
少し聴いてみたい気はします。
中島 すっごく遠大なことばっかり
書くようになったりして。
糸井 どうなんでしょうね、面白いねえ。
プロデューサー中島みゆきが、
作詞家中島みゆきに言うことはないですか、
“レーシック(視力回復手術)をしたってことにして、
 1回詞を書いてみろよ”とか。
中島 それって、嘘ばっかり書くと思いますよ(笑)。
近眼じゃない人にはすぐバレちゃう。
糸井 くっきりは見えないけど、
色認識はできてるんですよね。
中島 色はわかります。
糸井 きっと歌詞にもその影響ってあるんでしょうね。
ぼく、あの金魚の歌が大好きなんです。
(「金魚」という歌です)
金魚の姿はよく見えてなくても、
色がひらりひらりしてるのが書けてるんですね。
中島 そうなんですね。はい。
糸井 あれは近眼だからなんだー。
中島 わたし、それで失敗したことあるんですよ。
糸井 うふふ、何ですか?
中島 ほとんど行かないパーティというものに
行ったときでした。
ご挨拶をしたあと、こういう席では
何か褒めなきゃと思いまして。
女性の方だったから、
「素敵なドレスですね」と言ったりして。
そのときは見栄を張って
眼鏡をかけてなかったんですね。
でも、色はわかるから。
「綺麗なお色ですね。この色は、
 余計な柄が入っているより
 断然引き立ちますね」とか。
でも実際は、細かい柄が
ビッシリ入ってるドレスだった(笑)。
糸井 やっちゃったんだ(笑)。
そういう歌が作れそうですね。
中島 そういうの書けますね。
糸井 ねえ。
中島 無地だと思ったら柄だったみたいな歌がね。
糸井 そういう恋愛もありそうですもんね。
無地だと思ったら柄だった恋愛。
中島 あるでしょうね!
わたし、人の顔、よくわかってないですから。
目鼻立ちってね、
あまりわかんないんですよ、男の人の。
糸井 いやあ、おもしろいなあ。
中島 だから、服変わると判別できないんですよ(笑)。
いくら惚れた腫れたといってもね。あははは。
糸井 それは、観念に行かざるを得ない、
ということも言えますね。
中島 言えますねー。
糸井 観念は頭ん中でいくらでも遊べますもんね。
中島 あとは、声で人を探してますから。
だから、待ち合わせの場所に
黙って立ってられたらわかんない(笑)。
糸井 ここだよォとか。
中島 そうそう。
糸井 それほど聞くことを
大事にした人生を送ってきたんだね。
中島 そうなんです(笑)。うふふ。
糸井 だから、歌い手になったのは天職ですね。
だけど、無口な彼とはつきあえない。
中島 残るは体温かな(笑)。
「あったかーい! ここにいたのね!」みたいな。
糸井 爬虫類みたいだね(笑)。
中島 中島、爬虫類っすか?!
糸井 爬虫類は、自分の体温を上げるために、
温度の高いところに寄っていく習性があるらしい。
亀でも体温を求めて
人間の膝の上の乗ってくるそうだし。
親亀の背中に子亀を乗せてってあるでしょ。
あれも暖かい太陽の光を求めた亀が、
自然に積み重なっちゃうんですよ。
中島 ひなたぼっこしてるんだ。
糸井 だから上に乗っている亀にしたら、
誰かの上に乗ってるつもりはなくてね、
ただの岩の上にいるつもりじゃないのかな。
中島 勉強なるなあ。
まさに亀の甲より何とやら(笑)。
糸井 だから、中島みゆきも
実はそういう人間なんだ(笑)。
中島 わははははっ。
糸井 忘れてたけど、今いきなり思い出しました。
“愛は温度”という文章を書いたことがありますよ。
中島 それすごく納得できます。
もっと平熱を上げよっと(笑)。
糸井 落語で、夫婦喧嘩の仲裁に入った仲人が、
なんでお前はあんな男と結婚したんだって聞いたら、
女房の方が、
「だって寒いんだもの」って答えたという。
中島 ああ、わかります(笑)。
糸井 うふふふ。生命体そのものの叫びですよね。
中島 はいはいはい。そうです。
細胞ってあったかいわよねーって。
糸井 そうそう! なまじ、よく見えるから、
余計な情報に捕らわれてるのかもしれないね。
耳で立派な身なりの人を
聞き分けることってできないものね。
中島 できないですねー。
糸井 そうすると、言葉が大事になりますよね。
わかんないことを言う人のことは
どうでもよくなる。
中島 ふふふ。難しいことは聞き取れないけど、
声音っていうんですかね。
そういうのを聞こうとしてるのかもしれない。
声の温度とかね。
糸井 うわあ、おもしろいー。
みんながそう生きたらもっと楽になるのに。
中島 あははは。
糸井 つまり、目利きとかっていう人はさ、
価値の差がわかる人のことでしょ。
中島 うんうんうん。
糸井 でも、その差って、
実はよくわかんないものじゃない。
中島 うんうん。
糸井 そうすると、難しいこと言って
価値の差をあらわそうとするけど、
いやあ、難しくてわかんないねえーって
なっちゃうじゃないですか。
でも、あなたの声はよくわかる
っていうところでなら、その人を理解できる。
中島 はい。
糸井 やっ! 自分もそれでいこう。
中島 あははは。
 

(つづきます!)

2007-09-18-TUE
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