ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第10回 もう壊れようのないものを。
糸井 最近、好きな話があって。
お通夜のときに亡くなった人について
語り合いますよね。
で、その人がノーベル賞をもらってようが、
社長であろうが、盛り上がる話ってのは、
どこどこに旅行に行ったときに、
お酒をこぼしてね、履き替えのパンツを
買いに行ったよねとか、
しょうもないことなんですよ。
中島 はいはい。
糸井 そっちが、その人そのものなんだっていう説をね、
ぼくは最近さかんに言うんです。
それ以外はおまけですよね。
仮の世の姿。
ノーベル賞について語っているような
お通夜がもしあったら、
その人は不幸な人ですよ。
ノーベル賞しか取り柄がないんだもん。
中島 はいはいはい。わかります。
あのひっそり来てた女は誰だ? とか(笑)
糸井 そうそう(笑)。
それが、その人ですよね!
中島 ドキッとしてませんか? うふふふ。
糸井 あはは。あの喪服の女、
あの泣き方は尋常じゃないんじゃないか、
とかね。
中島 ふふふ。ありゃあ、いわくありだねきっと。
なんて言って、みんな生き生きしちゃう。
糸井 そうそう。いい話があってね、
ぼくの友だちの話で、
その友だちは長男なんですけど、
お父さんが亡くなる寸前に、
いわくありげな女性が病室に来たらしいんですよ。
で、そのお父さんまだ意識あるんだけど、
その人を帰れと言うわけでもなく、
大事に接してる。
かといって妻に説明するわけでもない。
中島 はいはい。
糸井 女の人も妻も両方、
わたしの男だと認識してるふうで、
二人ともその病室にいるんですって。
中島 おおおお。
糸井 それを長男が見てるんだけど、
二人の女は両方、
相手が存在しないことにしてるんだって!
つまり、わたしと彼という関係を
二人が同時に演じながらそこにいる。
つらいっすよ糸井さーんって。
中島 ふふふ。
糸井 それを見てる息子はつらいですよー。
中島 息子としてはねー。
糸井 で、親父はもうちょっとボケかかってるんで、
案外平気なんす、って。いい話でしょー!
中島 いい話ですねー。人生の花ですねー。
糸井 それが30代で交通事故の現場だったら、
笑えないですよね。
中島 なかなかちょっと、すったもんだですよね。
糸井 ちょっと血を見ますよね。
でも、お父さん、
よくわかんなくなっちゃってるから。
中島 いいですね。歳くうのってその辺が
味わいがあって素敵なもんですね。
糸井 死に対しての道のりの、
後半の、ちょっとあやしくなってる部分って、
その素敵さがありますよね。
中島 なんかいいですね。
糸井 いいんですよー。
でもそれを、いいですねってわかる
若い人はそんなにいないと思いますけど(笑)。
中島 えー、落語とか、小唄、端唄とか、
あっちの感じですね。もうね。
糸井 そういうのって、やっぱりいいですよね。
中島 いいですね。
糸井 さっき言った、その、なんて言うか、
人造宝石のおもしろさとか、
ルージュみたいなものの魅力って、
端唄とかそういうものかもしんないですね。
中島 かもしれませんね。
だから古くからある
普遍的なものなんでしょうね。
糸井 みゆきさん、もともとそういうのお好きなんですか?
中島 うーん。好きというよりも、
すごいなあと思いますね。かなわんなーって。
糸井 はあはあ。
中島 練り上げられたものだもの。
糸井 そうだよねー。
壊されても平気っていうところまで
解体しちゃってる“本当さ”ですよね。
中島 ですね。
糸井 もうこれ以上、ネジ回しじゃあ
壊れないよってとこまでいっちゃってますものね。
中島 ね。
糸井 憧れるねー。
中島 すごいと思う。
糸井 でも、中島みゆきはそこまで来てると思うなあ。
中島 いやははははー。全然!
糸井 ご自分ではまだまだだと?
中島 てんで青いっすよ!
糸井 そうすかねー。
部分でとったら結構残ってると思うよ。
中島 部分ね。
糸井 小唄、端唄だって
そんなもんじゃないですか(笑)。
中島 あはは。確かにね、
どっかだけ残ったりしてますからね。
あのちょっとの爪弾きがいいんですよね。
全部は言わなくて、
ここしか知らないやっつうのが。
糸井 鍛え抜かれてきたものなんですよ。
もう壊れようのない、ね。
中島 そうなんでしょうねぇ。
糸井 そうか、もう壊れようのないものを、
やっぱりぼくたちは欲しいんですね。
これ以上もう誰にも壊せないっていう。
温度もそうじゃない?
温度には、生き物の身も蓋もなさ、
っていうのがあって。
中島 あははは、身も蓋もなさ、ね!
うん、確かにね。
隠しようがないですものね。
糸井 この辺の話をしたことって、
今まで誰ともなかった。
中島 そうですか?
糸井 どんどん小さいほうに
向かって行くじゃないですか。
中島 あははは! 確かにね。
 

(つづきます!)

2007-09-19-WED
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