糸井 |
最近、好きな話があって。
お通夜のときに亡くなった人について
語り合いますよね。
で、その人がノーベル賞をもらってようが、
社長であろうが、盛り上がる話ってのは、
どこどこに旅行に行ったときに、
お酒をこぼしてね、履き替えのパンツを
買いに行ったよねとか、
しょうもないことなんですよ。 |
中島 |
はいはい。 |
糸井 |
そっちが、その人そのものなんだっていう説をね、
ぼくは最近さかんに言うんです。
それ以外はおまけですよね。
仮の世の姿。
ノーベル賞について語っているような
お通夜がもしあったら、
その人は不幸な人ですよ。
ノーベル賞しか取り柄がないんだもん。 |
中島 |
はいはいはい。わかります。
あのひっそり来てた女は誰だ? とか(笑) |
糸井 |
そうそう(笑)。
それが、その人ですよね! |
中島 |
ドキッとしてませんか? うふふふ。 |
糸井 |
あはは。あの喪服の女、
あの泣き方は尋常じゃないんじゃないか、
とかね。 |
中島 |
ふふふ。ありゃあ、いわくありだねきっと。
なんて言って、みんな生き生きしちゃう。 |
糸井 |
そうそう。いい話があってね、
ぼくの友だちの話で、
その友だちは長男なんですけど、
お父さんが亡くなる寸前に、
いわくありげな女性が病室に来たらしいんですよ。
で、そのお父さんまだ意識あるんだけど、
その人を帰れと言うわけでもなく、
大事に接してる。
かといって妻に説明するわけでもない。 |
中島 |
はいはい。 |
糸井 |
女の人も妻も両方、
わたしの男だと認識してるふうで、
二人ともその病室にいるんですって。 |
中島 |
おおおお。 |
糸井 |
それを長男が見てるんだけど、
二人の女は両方、
相手が存在しないことにしてるんだって!
つまり、わたしと彼という関係を
二人が同時に演じながらそこにいる。
つらいっすよ糸井さーんって。 |
中島 |
ふふふ。 |
糸井 |
それを見てる息子はつらいですよー。 |
中島 |
息子としてはねー。 |
糸井 |
で、親父はもうちょっとボケかかってるんで、
案外平気なんす、って。いい話でしょー! |
中島 |
いい話ですねー。人生の花ですねー。 |
糸井 |
それが30代で交通事故の現場だったら、
笑えないですよね。 |
中島 |
なかなかちょっと、すったもんだですよね。 |
糸井 |
ちょっと血を見ますよね。
でも、お父さん、
よくわかんなくなっちゃってるから。 |
中島 |
いいですね。歳くうのってその辺が
味わいがあって素敵なもんですね。 |
糸井 |
死に対しての道のりの、
後半の、ちょっとあやしくなってる部分って、
その素敵さがありますよね。 |
中島 |
なんかいいですね。 |
糸井 |
いいんですよー。
でもそれを、いいですねってわかる
若い人はそんなにいないと思いますけど(笑)。 |
中島 |
えー、落語とか、小唄、端唄とか、
あっちの感じですね。もうね。 |
|
糸井 |
そういうのって、やっぱりいいですよね。 |
中島 |
いいですね。 |
糸井 |
さっき言った、その、なんて言うか、
人造宝石のおもしろさとか、
ルージュみたいなものの魅力って、
端唄とかそういうものかもしんないですね。 |
中島 |
かもしれませんね。
だから古くからある
普遍的なものなんでしょうね。 |
糸井 |
みゆきさん、もともとそういうのお好きなんですか? |
中島 |
うーん。好きというよりも、
すごいなあと思いますね。かなわんなーって。 |
糸井 |
はあはあ。 |
中島 |
練り上げられたものだもの。 |
糸井 |
そうだよねー。
壊されても平気っていうところまで
解体しちゃってる“本当さ”ですよね。 |
中島 |
ですね。 |
糸井 |
もうこれ以上、ネジ回しじゃあ
壊れないよってとこまでいっちゃってますものね。 |
中島 |
ね。 |
糸井 |
憧れるねー。 |
中島 |
すごいと思う。 |
糸井 |
でも、中島みゆきはそこまで来てると思うなあ。 |
中島 |
いやははははー。全然! |
糸井 |
ご自分ではまだまだだと? |
中島 |
てんで青いっすよ! |
糸井 |
そうすかねー。
部分でとったら結構残ってると思うよ。 |
中島 |
部分ね。 |
糸井 |
小唄、端唄だって
そんなもんじゃないですか(笑)。 |
中島 |
あはは。確かにね、
どっかだけ残ったりしてますからね。
あのちょっとの爪弾きがいいんですよね。
全部は言わなくて、
ここしか知らないやっつうのが。 |
糸井 |
鍛え抜かれてきたものなんですよ。
もう壊れようのない、ね。 |
中島 |
そうなんでしょうねぇ。 |
糸井 |
そうか、もう壊れようのないものを、
やっぱりぼくたちは欲しいんですね。
これ以上もう誰にも壊せないっていう。
温度もそうじゃない?
温度には、生き物の身も蓋もなさ、
っていうのがあって。 |
中島 |
あははは、身も蓋もなさ、ね!
うん、確かにね。
隠しようがないですものね。 |
糸井 |
この辺の話をしたことって、
今まで誰ともなかった。 |
中島 |
そうですか? |
糸井 |
どんどん小さいほうに
向かって行くじゃないですか。 |
中島 |
あははは! 確かにね。 |
|
(つづきます!) |