ありとあらゆるLOVEの正体が! |
こんどもまた、世界で初めての絵本になりました。 人工知能、遺伝子につづく、森川さんのこんどの興味は 「昆虫たちの性戦略」だって! 読むと、ぼくら人間の性衝動のほうが、 ずっと奇妙かもと思えちゃう、 とんでもない絵本なんですよ、これが。 |
森川さん森川さん、 こんどは「昆虫」ですって? ほぼにちわ、シェフです。 森川さん、お元気でしたか。 またしばらく姿を見ないと思ってたら 新作ゲームづくりが佳境に入っているそうですね。 たいへんですね、乗りきってくださいねー。 えっ?! 絵本も描いていたんですか? それも、本業とは関係なく?! 出たばっかり? うわー。ぜひ読ませてください。 あー、‥‥あー、っと‥‥ (読む。30分経過) ありゃーっ!!!!! ちょっと、これ、すごくないですか?! 「うん、けっこうすごいのができちゃった」 前作『テロメアの帽子』は 遺伝子を擬人化した話でしたけど 今度は「昆虫の性戦略」なんですね‥‥。 この内容、すごすぎます。おもしろいです。 読みながら、じぶんのこと、深く考えてしまいました。 昆虫と自分を比べるこたぁないんですけど、 森川さんが擬人化しているせいで、 やったらドキドキしちゃいましたよ。 ちょっと、お話、聞かせてください!
──森川さんこれ面白かったです! すぐ読めちゃうし、 何度読み返してもいいし、 ともだちに「知ってる?」って話したくなるし。 森川さん、昆虫はもともと好きなんですか? うん、生き物としてヘンなところが好きなんです。 昆虫は生態がヘンなんです。 ていうかね、同じ地球の仲間に思えない。 動物たちは「仲間」って感じがするでしょ? でも昆虫くんたちはね、 ひょっとして宇宙から来たんじゃないかって 真剣に言う人もいるくらいで、 そう言われると納得しちゃいそうなくらい、ヘンなの。 この本は性行動について、だけだけど、 それ以外にも不思議なところがいっぱいあって。 そういう興味の集大成がこの絵本になりました。 ──「ほぼ日」では 婦人公論・井戸端会議で 昆虫の話を紹介したことがあります。 動物たちの交尾や繁殖って、 ぼくらから見たらふつうじゃない世界みたいですね。 ドリル状のペニスで交尾後にメスの性器を壊してしまう 昆虫もいるとか、そういうの聞くと。 交尾のあと、メスの性器を 樹脂で固めてしまうオスとかね。 大概の場合、昆虫は乱交なので、 あとから使われる精子のほうが 使われる確率が高いでしょう。 だから自分のあとに他のオスに交尾されると困るわけ。 そこで樹脂でメスの性器を固めるとか、 ドリルで壊しちゃうとかするんですね。 あるいは、あとから入ってきた精子を殺す 化学物質を残しておくとか。 ──オスは自分の遺伝子を残すことを最優先にした結果、 そういう行動に出るわけですよね。 どのみちね、オスは、交尾すると寿命が来ちゃうから、 自分じしんが生き残ることはあまり考えていない。 ──メスに食べられながら交尾するオスもいる、と、 この本にありましたね。 そうそうそう。オスって、ものすごく、悲しいよね! オスがメスの20万分の1の大きさしかないので、 オスは女性器の中で暮らしている、とかいう昆虫もいて。 ──森川さんが面白いのは、その話を、絵にするときに、 人間に置き換えているんですよね。 人間なのか、人間のようなものなのか わからないんですが、 一見人間のように見えるものたちの 話として描かれていて。 人に置き換えると、余計にヘンさが際立つでしょ。 ──昆虫がすごい、という本は きっといっぱいあるんだと思うんですが、 なんでこの本でこんなに心が ぐらぐらするんだろうと思ったら、 自分の心のせいなんですよ! 人の形をした絵があるんで、 自分の物語に置き換えて読んじゃう 仕掛けになってて。ひきょうなり!! ぼくらはこの奇妙な性衝動を 心、と関連づけて読んじゃう。 帯に糸井darling重里が書いた 「ありとあらゆるLOVEの正体が!」 ということばがあるんですが、 まさしく「LOVE」だと思っちゃって、 それで、ぐらぐらするんです。 『テロメアの帽子』のときは、 遺伝子が人間の形をしていたんで すんなり理解できたんですが、 こんどは昆虫でしょう?! 13のエピソードが収載されてるんだけど、 どの話が面白かった? ──「愛の矢」って話はすごかったです。 カタツムリは雌雄同体なんだけれど、 自分ひとりでは受精できなくて 相手に精子を与えないといけないんだけど、 そのときに、矢のような形の プレゼントを贈りあうんですよね。 そう。その成分がカルシウムだってことがわかって、 カルシウムは卵を産むために必要なものだから、 向こうにとって必要なものをあげるプレゼント、 つまり「愛の矢」だと言われてたわけなんだけど、 ぜんぜんちがったんだよ。 相手が、自分の渡した精子を捨てられないような 化学物質を含む武器だったんですよ。 ──こわい‥‥。女王バチの話もすごかったです。 お母さんが、生んだ娘たちを働きバチとして使い、 しかも不妊物質を出して、 彼女たちがコドモを生まないようにしている。 男の子たちは、一生お母さんの世話をして、 娘たちは外に働きに出る。 娘を応援してるのか娘を踏み台にしてるのか わからないあたり、 松田聖子的だよなあなんて思ったりね。 ──松田聖子は昆虫としては正しかったんだ! 昆虫の生態ってほんとに凄くてね、 超低温でも生きられるとか、 体内の水分が20%を下回っても生きられるとか、 真空でも何秒間ならOKだとか。 ──地球大進化のなかで、 地球の重力と環境で適応して 生き残ってきたのがいまの動物であり人間であり ‥‥って話を思いおこすと、 じゃあ昆虫はどうなんだ! って気がしてきます。 虫って、動物界において、 ほかの動物をぜんぶ合わせたよりも、種類が多いんです。 なのに、海には一匹もいないんですよ。 これ不思議じゃない? 陸上は占領していると言っていいくらいいるのに。 海には節足動物はいても、昆虫はいないんだよ。 ──やっぱり地球外生物ですよ! エイリアンだ! そう考える科学者がいてもおかしくないよね。 ぼくの興味の発端も、そこなんですよ。 やっぱり隕石のなかに入って 宇宙から来たんじゃないかって。 生命は海から誕生したって言うのにね。 ──かねてよりセミが不思議で。 土中に7年とかいて、 地上で1週間とかでしょう?! あそこまで土中にいるなら、 土中で交尾しないのはなぜなんだ、とかね。 時間軸からしてめちゃくちゃですよ。 人間の暦で7年ですよ? 長いのは13年というセミもいるよ。 これね、不思議なことに素数年なの。 偶数年だと、それを食べる天敵も 2年サイクルで増えて危険だけど、 13年だと次は26年後でしょ? 天敵が生まれにくいっていう仕組み。 アメリカでセミが大発生するサイクルも 13年ですよね。 ──清水ミチコさんのニューアルバムも 13年ぶりだそうです。天敵がいない!(笑) ほんとだよね。 ──今回の本をつくるにあたって、 どのくらい調べる期間があったんですか。 2年くらいですね。 最初は昆虫の生態ぜんぶを 取り上げようと思ったんだけど、 性衝動だけに絞りました。 これ以上拡げても フォーカスがぼけるだけだなと思って。 ──じゃあ次の絵本も昆虫シリーズになるんでしょうか? もう昆虫は卒業して、次はね、 たぶん、量子力学を絵本にします。 量子力学はめちゃくちゃ面白いんですよ。 たとえば‥‥(しばらく量子力学の話。 ちんぷんかんぷんなので、割愛させていただきます) ──ごめんなさい、り、理解できません‥‥。 そういうことは自分ではぜったいに勉強をしないので、 森川さんのような噛み砕き方をして 絵本にしてくれる人は貴重なんだとわかりました。 量子力学にしても、昆虫にしても、 興味の原点は、ロマンチシズムですか? なにが森川さんをつき動かしているんですか? うーん。神様の存在かなあ。 設計者の意図。 量子力学に関しては、ゲームといっしょでね、 細かい仕様に関しては ちょっといい加減につくってないか? っていう興味(笑)。じぶんのつくった生き物たちが こんなことを観察するとは思わずに、 「いいよいいよ確率で、2分の1でいいじゃん」 ていう感じでつくったんじゃないの? としか思えないくらいの世界のなりたちだってこと。 昆虫は、自分たち以外の創造物じゃないかっていう興味。 あるていど物理を究めた学者たちは、 神の存在‥‥という言い方ではないけれど 「SOMETHING GREAT」という言い方で、 もうひとつの巨大な意思がはたらいて、 この世界がつくられたと言ったほうが、 よほど説明が簡単だ、と思うようになる人もいるんですよ。 神秘主義に走る物理学者はほんとうに多いです。 遺伝子についても、戦略的な意図を感じて、 それ自体が生き物に見えてくるってことでした。 ──帯にあるような 「LOVEの正体」についてはどうですか! 「こころ」ね。うん、とても興味があります。 最近「脳」と「こころ」については 本をいっぱい読んでるけれど、不思議です。 素っ気無い言い方をすれば、 脳の化学反応のひとつが「こころ」であるっていう ことになるのかもしれないけど、 それだけでない、なにかがあるはずだと思う。 違って欲しいというロマンチシズムもある。 ──楽しみにしてますよー! あのう、「ほぼ日」スペシャルで、 『ヌカカの結婚』の 立ち読み版を掲載したいんですが。 もちろんです。では、ぼくが昆虫のことを調べ始めて 一番最初に度肝を抜かれたエピソード、 「100人の求婚者」は、どうですか? ──ありがとうございます!
いやあ、ほんとに、すごいな、昆虫。 ていうか (前作)遺伝子 ↓ (本作)昆虫 ↓ (次作)量子力学、 っていう森川さんの興味の幅がすごいな。 みなさんも、ぜひ、『ヌカカの結婚』を 読んでみてくださいね。 ぐらぐらしちゃいますから!
追伸:森川さん、こんどはカレー作りに来てくださーい。 |
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2005-02-18-FRI
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