糸井 |
19歳で「愛」に入ることに決めて、
さて……面接です。 |
零士 |
面接行きました。
そしたら、こう、僕ら男ですからね、
もう聞いてたんですよ、「甘くない!」って。
よく、女の人と、どうこうして、
次の日にはベンツで出勤して……とか、
そういうイメージで語られるけれども、
まさかそんなに甘くないだろうなってのは、
もうわかってましたよ。友達から聞いてて。
今でもそういうことを夢見て、
ウチの店に面接来る人もいますけど、
当時、僕は現実をよく知ってましたね。
「実際はそんなに甘くはない」と。
「ぜったいそうじゃない」と。 |
糸井 |
そんな甘いはずはないんだ……。 |
零士 |
100人近くいますから、お店に。
で、もう流れ作業的なんですよ、面接が。
「はいはい、あーそうですか、はいはい、
じゃあ明日から1週間、電話番ね」って。
で、友達とふたりで店に入ったんですよ。 |
糸井 |
簡単に入れてくれたんだ? |
零士 |
入れてくれるんですよ、簡単に。
まあ、そこそこでしたから、二人とも。
で、入って、電話番してるんですけど、
そのときって、よーく見えるんですよね。 |
糸井 |
電話番してるときに? |
零士 |
電話番やってて、
電話を受けることによって見えるんです。
たとえば、零士にかかってきた電話なら、
周りの先輩に訊かなきゃならない、
「零士さんって誰ですか?」って。
で、お客さんの前まで行って、
「失礼します。零士さん3番にお電話入ってます!」
って取り次ぐと、
「あ、この人が零士さんなんだな」って
まず覚えるわけですよ。 |
糸井 |
電話番をしてる裏方仕事が、すごく得なんだ? |
零士 |
やっぱ一応、そういう下積みをさせながら、
名前を覚えさせるんですよ。先輩たちの。 |
糸井 |
よくできてますねぇ、システムが。 |
零士 |
できてるんですよ。
そこで覚えのわるいやつもいれば、
覚えのいいやつもいるし。
そういう下積みしてる間に……、
100人いれば、やっぱり派閥があるんですよ。
球団みたいな感じで。 |
糸井 |
100人もいりゃあねぇ。 |
零士 |
で、僕の派閥のお客さんには、
僕の派閥しかつかないんです。
当然、巨人のような派閥もあれば、
千葉ロッテみたいな派閥もあるし、
いろいろあるんです。
で、僕はたまたま巨人の派閥に
「おい、俺の派閥に入れ」って言われて。
派閥に入ったらもう、
店の仕事しなくていいんです、あんまり。
派閥の仕事をすればいいんです。
自分の派閥の先輩のクツを磨くとか。 |
糸井 |
組ができてるわけですね? |
零士 |
組があるんです。
つまり、色分けされてるんですね。
で、やっぱりキャラクター似るんですよね。
自分が入った派閥の先輩を目指しますから。 |
糸井 |
あー、習っていくわけだ、だんだん。
その頃は、17歳のときに
教室の机に弁当が積まれていた頃のような自信は、
なくなってるんですか? |
零士 |
僕はね、なかったですね。
自信がないっていうより、
覚えることがいっぱいあるんで、
覚えてからたぶんこの人たちと戦うんだろうな、と。 |
糸井 |
まだ試すことはできないわけだ? |
零士 |
できないです。
わからないですから。
あのー、当時ね……
「人って3人集まれば、人間関係ができる」
っていつも僕は思ってたんです。
で、こいつらのトップにのし上がるには、
人をうまく区分けするというか、
こいつはこういうヤツだ、
あいつはこういいヤツだ、
こいつはツッパってるけど実際は弱いだろうなぁ、とか、
そういうことを、考えよう、と。
ずーっと、先輩のいいところを
マネして……その人が言ったギャグも、
面白いギャグだったらパクっちゃうんですよ。
で、別な先輩のいいところもパクっちゃう。
で、また別な先輩のいいところもパクっちゃう。
そしたら、俺はこの3人には絶対負けない。
3人にない最強のホストになるから。 |
糸井 |
まるで野球選手の話聞いてるみたいだね!
だって、そうじゃないですか、野球選手だって。
結局のところ、いいところをパクって、
自分が他の選手を抜いていくわけですよね。 |
零士 |
要するに4番に座るわけですよね。 |
糸井 |
そうだよねぇ。 |
零士 |
だから、その時に思ったのは、
この人たちの欠点、長所をきっちり見分けて、
長所だけをパクるんです。 |
糸井 |
やっぱりいろんな長所を
兼ね備えてる人っていないんですか? |
零士 |
いなかったですねー。
で、僕はナンバー1の人のグループ
(派閥)に拾ってもらったんですね。
で、その派閥も30人いましたから、
店で最大派閥なんですよ。
で、その派閥は売れっ子のホストさんばっかりなんですよ。
で、そういうなかで、
僕がアイスペールを替えたりするんですよ。
アイスペールをわざと3つくらい抱えて、
やたらバンバン動いて。
そうすると目立つじゃないですか。 |
糸井 |
働き者っぽいよね。 |
零士 |
で、わざと、床が水で濡れてるっぽいところに
走っていって、ダンスフロアで、
床が大理石ですから、すべるんですよ。
わざとすべって転んで、もう大ひんしゅくですよ。
そうやって目立とうとするんですよ。 |
糸井 |
…………それは、研究してたんだねぇ。 |
零士 |
いっつもそうなんですよ、考えてんですよ。
僕がよく自分の下のやつに言うのは、
「自分を含めて、引いた画で見なさいよ。
引いた画をイメージしなさい」と。
僕はそういうふうに自分で思ってたから。 |
糸井 |
客観的に自分を背中から見られるようにするんだ。 |
零士 |
そうなんです。画的に。
つまり、自分は何をやってるんだ? と。
自分を後ろから見る着眼点を探すってことですね。 |