HOST
いっそあのホストに訊こう!

第7夜 わざとすべって転んで大ひんしゅくですよ

糸井 19歳で「愛」に入ることに決めて、
さて……面接です。
零士 面接行きました。
そしたら、こう、僕ら男ですからね、
もう聞いてたんですよ、「甘くない!」って。
よく、女の人と、どうこうして、
次の日にはベンツで出勤して……とか、
そういうイメージで語られるけれども、
まさかそんなに甘くないだろうなってのは、
もうわかってましたよ。友達から聞いてて。
今でもそういうことを夢見て、
ウチの店に面接来る人もいますけど、
当時、僕は現実をよく知ってましたね。
「実際はそんなに甘くはない」と。
「ぜったいそうじゃない」と。
糸井 そんな甘いはずはないんだ……。
零士 100人近くいますから、お店に。
で、もう流れ作業的なんですよ、面接が。
「はいはい、あーそうですか、はいはい、
 じゃあ明日から1週間、電話番ね」って。
で、友達とふたりで店に入ったんですよ。
糸井 簡単に入れてくれたんだ?
零士 入れてくれるんですよ、簡単に。
まあ、そこそこでしたから、二人とも。
で、入って、電話番してるんですけど、
そのときって、よーく見えるんですよね。
糸井 電話番してるときに?
零士 電話番やってて、
電話を受けることによって見えるんです。
たとえば、零士にかかってきた電話なら、
周りの先輩に訊かなきゃならない、
「零士さんって誰ですか?」って。
で、お客さんの前まで行って、
「失礼します。零士さん3番にお電話入ってます!」
って取り次ぐと、
「あ、この人が零士さんなんだな」って
まず覚えるわけですよ。
糸井 電話番をしてる裏方仕事が、すごく得なんだ?
零士 やっぱ一応、そういう下積みをさせながら、
名前を覚えさせるんですよ。先輩たちの。
糸井 よくできてますねぇ、システムが。
零士 できてるんですよ。
そこで覚えのわるいやつもいれば、
覚えのいいやつもいるし。
そういう下積みしてる間に……、
100人いれば、やっぱり派閥があるんですよ。
球団みたいな感じで。
糸井 100人もいりゃあねぇ。
零士 で、僕の派閥のお客さんには、
僕の派閥しかつかないんです。
当然、巨人のような派閥もあれば、
千葉ロッテみたいな派閥もあるし、
いろいろあるんです。
で、僕はたまたま巨人の派閥に
「おい、俺の派閥に入れ」って言われて。
派閥に入ったらもう、
店の仕事しなくていいんです、あんまり。
派閥の仕事をすればいいんです。
自分の派閥の先輩のクツを磨くとか。
糸井 組ができてるわけですね?
零士 組があるんです。
つまり、色分けされてるんですね。
で、やっぱりキャラクター似るんですよね。
自分が入った派閥の先輩を目指しますから。
糸井 あー、習っていくわけだ、だんだん。
その頃は、17歳のときに
教室の机に弁当が積まれていた頃のような自信は、
なくなってるんですか?
零士 僕はね、なかったですね。
自信がないっていうより、
覚えることがいっぱいあるんで、
覚えてからたぶんこの人たちと戦うんだろうな、と。
糸井 まだ試すことはできないわけだ?
零士 できないです。
わからないですから。
あのー、当時ね……
「人って3人集まれば、人間関係ができる」
っていつも僕は思ってたんです。
で、こいつらのトップにのし上がるには、
人をうまく区分けするというか、
こいつはこういうヤツだ、
あいつはこういいヤツだ、
こいつはツッパってるけど実際は弱いだろうなぁ、とか、
そういうことを、考えよう、と。
ずーっと、先輩のいいところを
マネして……その人が言ったギャグも、
面白いギャグだったらパクっちゃうんですよ。
で、別な先輩のいいところもパクっちゃう。
で、また別な先輩のいいところもパクっちゃう。
そしたら、俺はこの3人には絶対負けない。
3人にない最強のホストになるから。
糸井 まるで野球選手の話聞いてるみたいだね!
だって、そうじゃないですか、野球選手だって。
結局のところ、いいところをパクって、
自分が他の選手を抜いていくわけですよね。
零士 要するに4番に座るわけですよね。
糸井 そうだよねぇ。
零士 だから、その時に思ったのは、
この人たちの欠点、長所をきっちり見分けて、
長所だけをパクる
んです。
糸井 やっぱりいろんな長所を
兼ね備えてる人っていないんですか?
零士 いなかったですねー。
で、僕はナンバー1の人のグループ
(派閥)に拾ってもらったんですね。
で、その派閥も30人いましたから、
店で最大派閥なんですよ。
で、その派閥は売れっ子のホストさんばっかりなんですよ。
で、そういうなかで、
僕がアイスペールを替えたりするんですよ。
アイスペールをわざと3つくらい抱えて、
やたらバンバン動いて。
そうすると目立つじゃないですか。
糸井 働き者っぽいよね。
零士 で、わざと、床が水で濡れてるっぽいところに
走っていって、ダンスフロアで、
床が大理石ですから、すべるんですよ。
わざとすべって転んで、もう大ひんしゅくですよ。
そうやって目立とうとするんですよ。
糸井 …………それは、研究してたんだねぇ。
零士 いっつもそうなんですよ、考えてんですよ。
僕がよく自分の下のやつに言うのは、
「自分を含めて、引いた画で見なさいよ。
 引いた画をイメージしなさい」
と。
僕はそういうふうに自分で思ってたから。
糸井 客観的に自分を背中から見られるようにするんだ。
零士 そうなんです。画的に。
つまり、自分は何をやってるんだ? と。
自分を後ろから見る着眼点を探すってことですね。

2000-05-20-SAT

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