糸井 |
うーん……こうして聞いてると、
ここまでの話って、僕が30歳くらいのときに、
矢沢永吉の取材をしたときと共通点があるねぇ。
自分の視線ってのは
ぜったい自分の目からくるんだけど、
もう1つ俯瞰で見てる視線があるんですよね。
永ちゃんの話でも、似たようなところがあるんですよ。
地元の広島ではツッパってて、
俺はがんばるからな、と言って夜汽車で東京来た。
なんで夜汽車なのか? っていうと、
夜汽車のほうがネタになる、と。
「家出といったら夜汽車だろ」って思うんですよ。
ほかの理由ってないんですよ。
で、東京に着く前に横浜でおりた。
駅のベンチにいた。
これも、そのほうがさまになるから。
で、自分の目だけで自分を見てたら、
そんなふうにはならないですよ。
「自分がどう動いてるのかな?」っていうのを
もうひとりの自分が見てるんだろうね。 |
零士 |
そうなんですよね。
なんか並行してもう一発ついてきてるんですよ、必ず。 |
糸井 |
それはもう高校の頃、
17歳の弁当時代からあったんですか? |
零士 |
ありましたねぇ。
中学の頃からありました。
A君はかっこよくてモテてるし、
スポーツ万能で、頭もいいし……、
でも、きっとアイツ(A君)は仲間を裏切って
村八分にされるだろうな、と。
で、俺はぜったいそうはならない。
いくら好きなお姉ちゃんができても
友達裏切っちゃいけない。
その気持ちがすっごい強かったですよ。
それやったらぜったい淋しくなっちゃう。
ま、今ほど明確には画にしてなかったですけど、
心に感じてたんですよね。
友達裏切るのだけはやっちゃいけない、それはダメだと。
実際、僕がそういうふうに思ってた人で、
いまだにつきあいのないヤツもいっぱいいます。
田舎に帰って、みんなでワーッと集まって、
「Aのヤツどうしたの?」って訊くと、
「いやさ、Bが婚約してた相手と別れたの
知ってんだろ?」
「ああ、知ってる知ってる」
「なーんかAのヤツがつきあってたんだよ」
って、やっぱ昔と同じことやるわけですよ! |
糸井 |
そういう人は零士さんから見ると、
自分を見る目がないってことですよね。
俯瞰から自分を見る目がないという。 |
零士 |
そりゃそうですね。
「やっぱりそういうヤツだな、Aはよぉ」って。
「昔から……そういえば中1のときそういうこと
あったじゃんよぉ」って言うと、
「あった、あった、そんなことあったわ」と。 |
糸井 |
じゃ、話をまたもどして、
「愛」に入って、100人のなかで
アイスペール3つかかえて走って、
わざと転んで水こぼして、目立って……。 |
零士 |
そうすると、お客さんに必ず聞かれるんですよ。
先輩のところについて、水割り作って、
……まあ緊張してますよねぇ。
そうすると向こう(女性)から話してくるわけですよ。
「そういえばアンタさぁ、アイスペールひっくり返して
先輩に怒られたでしょう?」って。
「そうなんですよぉ、やっちゃったんですよぉ、
もう忙しくてぇ」なんて。
で、その時もそうやって話題ふってもらったら、
またわざとやるわけですよ。
アイスペールかかえる。
そうするとスーツが汚れるんですよね。
僕のスーツが汚れてるからって、
そのお客さんが、ほれてる先輩に言うわけですよ。
「ちょっと、零ちゃんにスーツ買ってあげていいかなぁ?」
「おお、いいよいいよ、零士、買ってもらえよ!」なんて。
「すいません、ごっちになります!」
そういう気持ちなんですよ。 |
糸井 |
まだ二十歳まえだよね?
なーんでわかってんだろうね? |
零士 |
そういうことが見えてくると、たとえば、
そのお姉さんは、ほれてる先輩に、実際に
いいように操縦されちゃってんだろうなぁ、
って思いながら、
先輩がよろこぶいいヘルプができるんですよ。
「ちょっとさ、アタシさぁ、零ちゃんだから言うけど、
今ちがう店の○○さんのとこ通ってるのよぉ」
「ああ、そうなんですかぁ……。
僕はぜったい余計なこと言いませんけど、
ただ、そうするいじょう、きっと先輩もね、
そういうこと聞いたら傷つきますから、
そこはうまくやってくださいよ。
俺ぜったい言わないですから」って言って、先輩に
「先輩、こうらしいですよ……。ただ俺が言ったって
ぜったい言わないでくださいよ」。
で、そういうふうに、うまくうまく。 |
糸井 |
昔やってたのと同じだよね。
話大きくして大騒ぎ(笑)。 |
零士 |
そうなんですよ。で、
「俺が逐一いろいろ聞きますから。
ただ俺が言ったってバラしちゃうと
こうなっちゃうし、本人もいろいろ立場があるから
それは俺にまかせてください」
って先輩に言っておくんです。
それで一生懸命やるんですよ。
「どうですか、行ってんですか? また」
「最近行ってないの……」
「でしょー。やっぱ先輩を応援してやってくださいよ。
最近ちょっと……こう(斜めに)なってんですよ」
なーんて言いながら、俺がまた先輩に、
「先輩、こうなってるって
言っておきましたから、わざと。
結果がよければそれでいいじゃないですか」って。 |
糸井 |
そういうのって、嫌われるのと、ギリギリですよね?
下手したら
「オマエががたがた動いたから、
話がややこしくなったんじゃないか!」
って言われる可能性あるじゃないですか? |
零士 |
大丈夫なんです。
やっていることは、先輩に対しては、
「結果をいい方にもっていきましょう!」と、
お姉さんに対しては、
「お願いしますよ。
ちょっとなんか寂しい顔してましたよ」と、
そう言ってるだけなんですよ。
で、いくら裏でいい努力をしていても、
表に出さなきゃ意味がないんで、先輩に言うんです。
「僕、こう言っておきましたから、
いらんこと言わないでください」と。 |
糸井 |
明け透けにしちゃうんですね、
自分がやってることを。 |
零士 |
ええ。
明確にしたいからですね、きっちり。
で、僕はこのお姉さんから、
「零ちゃん、あたし一生懸命あなたのために
がんばってあげるから」って言われても
僕はぜったいにそれを受けなかった。
「いやです」と。 |
糸井 |
守るべき筋みたいなポイントが、
いくつかあるんだ? |
零士 |
ありますねぇ。
ちゃんとしたエリアを分けようと線を引いたら、
そこにはぜったい入らないです、僕は。 |
糸井 |
猿山みたいな構造になってるよね(笑)。 |
零士 |
そうなんですよ。
頭のなかがそうなってるんですよ。
自分の山を築くという。 |
糸井 |
そうだよねぇ。
ボス猿が絶対なんだけど、
自分も時々デモンストレーションをして、
強さを見せていくと。
で、最初は下っ端で、だんだん人気が出てきた、
という感じですよねぇ。 |
零士 |
で、そっからがまた勝負ですよ。
こんどはちがう派閥のボスと
戦わなきゃいけないんです。 |