糸井 |
本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ
アッシーだ、メッシーだという時代があって、
あの頃から“口説く側は不利なんだ”ってことを
身にしみて知らされてるわけですよね、若い男は。
「好きになってフラれたらどうしよう」という以前に、
「好きになる側って必ず自分だ」って思ってますよね。
あそこで勇気がどんどんなくなっていって、
結局のところ「女なんてどーでもいいや」って……。 |
零士 |
そうそう。
とか、「別にいいんだよ、あんな女は……」なんて。
いや、よかぁないって!
俺にしてみたら、そりゃ、よかないよ! と。
自分がきっちりねらいを定めた以上、
たとえば、マグロ釣りに行ってカツオ釣れたんじゃ、
そりゃ、よくないんですよ。
「いや〜、カツオは旬だからねぇ」って……。 |
糸井 |
後から言い直すしかないよねぇ(笑)。 |
零士 |
「カツオは旬だからねぇ」って言っても、
でも、おまえ、マグロ釣りに行ってんだろ? って(笑)。
カツオ釣れちゃっても、意味ないわけですよ。
それを、ちゃんと自分のなかで……要するに
「己を知ってくれ」ってことなんですよ。
本当はどうしたいんだってことですよ。
別に第三者は関係ないですよ、
今しゃべってる僕だって客観的に言ってるだけですからね。
いわば、第三者なんですよ。
でも、自分のなかで、マグロとカツオを
ちゃんとわけてほしいっていうか……若い人は特にね。
それでね、いろんな質問メールを送ってくれた中に、
40代、50代の男の人がいるんですけど、
この人たちは、実は意外とよくわかってますよ。
本当はわかってるんですよ。
たぶん俺が思うに、
「本当はわかってるけど、わからないふりをして、
ここんとこ零士に訊いてみよう、ホストに訊いてみよう」
という部分ってあるんですよ。 |
糸井 |
おもしろがってるよね。 |
零士 |
ええ。
よくわかってますよ、本当は。
この対談で僕の本音を聞いて、
「やっぱりそうだったか!」と思って、
また明日、元気に会社行ったり、
息子さんと接したりしたいんでしょうね、きっと。
そうだと思うんですよ。 |
糸井 |
一方で、若い子は……。 |
零士 |
若い子は、本当にわかってないですよ、これ。
本当にビクビクしてますよ。 |
糸井 |
自信がものすごくないですよね。 |
零士 |
ないですねー。 |
糸井 |
自信って……、
僕は格闘技の選手と親しいんだけど、ある選手が
「ほとんどの苦しい練習は、自信をつけるためだけだ」
って言うんですよ。
「この練習をやってるから俺は大丈夫だ、って
自信をつけるためだけに、
苦しい練習をぜんぶ我慢できる」って言うんですよ。
で、力が拮抗してる相手と試合で戦う場合は、
自信が相手より上回ってないと、動きが遅れるんですって。
だから、
「好きな女の子にフラれるんじゃないか……」
「俺はダメなんじゃないか……」と思いながら、
女の子を好きになっちゃった男って、
絶対的に自信がないですよね。 |
零士 |
ないです。 |
糸井 |
それは、どーしたらいいんですかね? |
零士 |
俺、その考え、すごくね、
わかりやすいっていうか、よくわかるんですよ。
その……、
自分の不安材料を消すことによって強くなるというのは、
本人の操縦性はなくなるんですよね、きっと。
自分自身を操縦するっていうか、
コントロールする部分で、機能的には低くなりますよね。 |
糸井 |
ああ……なるほど。 |
零士 |
俺なんかは逆に、弱い部分は弱い部分で、
もうあんまり手をつけないで、
いい部分だけで勝負していって、
ガンガンガンガン行って、
それで相手をぶっ倒しちゃうという。
俺はそういう方法をすすめます。 |
糸井 |
たとえば、左フックが得意で、ガードが苦手だったら、
相手に打たせておいて、左フックを一発だけ
入れさせていただくと? |
零士 |
ええ。
ガッツンと入れていく、と。
もし、不安材料を消すことによって
自信をつけたとしても……でも、そいつが本当に
怖がってるヤツってのは、きっと、
今言ったパターンのヤツなんですよ。
左フック一発ねらいで、ガーンガン来るヤツってのは、
やっぱ怖いですよ。 |
糸井 |
はぁ〜〜、じゃ今の男の子たちがまちがってるのは、
箇条書きのチェックリストを作りすぎてる部分ですか? |
零士 |
作りすぎてるんですよ。
むしろ逆をやらなきゃ。
だから、どれも同じに見えちゃうんですよ。
サイボーグみたいに。 |
糸井 |
そうそう……。 |
零士 |
だからなんか「あれ? なに君だっけ?」って
マジでわからなくなっちゃうんですね、こっちも。 |
糸井 |
たとえば、どこで食事するといいだとか、
どういうクルマが好きだとかっていうのを
いわばマーケティングしてるわけですよね。
「これだけ準備が万全だから、俺はモテるはずだ」って
「せーの!」で口説きに行っても、
そんなものは、ほかの男もやってるから、
ひとつ抜けられないんだ? |
零士 |
たいしたことないんです。
ひとつ抜けてないんです。
ボクサーで世界チャンピオンになった人で、
よく会う人と話をしていて、
「零士、おまえ……チャンピオンってさ、
負けるときって、どういう時か、知ってる?」
って聞くから、
「いや〜、やっぱそれって、あれでしょ、
ちょっと力が衰えたときとか、
練習しなかった時でしょ?」って言ったら、
「逆だ!」って言うんですよ。 |
糸井 |
練習しすぎた時! |
零士 |
練習しすぎた時なんですよ。
チャンピオンであるはずの自分が
手負いの狼になっちゃってる時なんですよ。
現実は、ぜんぜん手負いの狼じゃないんですよ、
チャンピオン、キングなんですから、
だれよりもぜったい強いんですよ。
ランク的には、自分より上がいないんですから。
でも、結局、下から上がってくる、
本当の手負いの狼みたいなヤツが
食いついてくるのが怖くて、
練習をしすぎてオーバーワークでダメになる、
って言うんですよ。 |
糸井 |
辰吉選手もオーバーワークだったらしいよね。 |
零士 |
そうなんですか。
ま、僕は彼に会ったことないですけど。
で、そのチャンピオンだった人が
「優秀なトレーナーってのは、
選手をいかにリラックスさせて、
いかに練習させないか、ってのができる人だ」
って言ってましたね。 |
糸井 |
字幕出るねぇ〜、バリバリに(笑)。 |
零士 |
出てますねぇ、今日は。
で、俺が、
「あ、そうなんですかぁ……、
だいたいみなさん、そうなんですか?」って訊いたら、
「ほとんどそうだ!
よほどのアホじゃないかぎりな」って。
(つづく) |