HOST
いっそあのホストに訊こう!

第19夜 本当はどうしたいんだってことですよ

糸井 本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ
アッシーだ、メッシーだという時代があって、
あの頃から“口説く側は不利なんだ”ってことを
身にしみて知らされてるわけですよね、若い男は。
「好きになってフラれたらどうしよう」という以前に、
「好きになる側って必ず自分だ」って思ってますよね。
あそこで勇気がどんどんなくなっていって、
結局のところ「女なんてどーでもいいや」って……。
零士 そうそう。
とか、「別にいいんだよ、あんな女は……」なんて。
いや、よかぁないって!
俺にしてみたら、そりゃ、よかないよ! と。
自分がきっちりねらいを定めた以上、
たとえば、マグロ釣りに行ってカツオ釣れたんじゃ、
そりゃ、よくないんですよ。
「いや〜、カツオは旬だからねぇ」って……。
糸井 後から言い直すしかないよねぇ(笑)。
零士 「カツオは旬だからねぇ」って言っても、
でも、おまえ、マグロ釣りに行ってんだろ? って(笑)。
カツオ釣れちゃっても、意味ないわけですよ。
それを、ちゃんと自分のなかで……要するに
「己を知ってくれ」ってことなんですよ。
本当はどうしたいんだってことですよ。
別に第三者は関係ないですよ、
今しゃべってる僕だって客観的に言ってるだけですからね。
いわば、第三者なんですよ。
でも、自分のなかで、マグロとカツオを
ちゃんとわけてほしいっていうか……若い人は特にね。
それでね、いろんな質問メールを送ってくれた中に、
40代、50代の男の人がいるんですけど、
この人たちは、実は意外とよくわかってますよ。
本当はわかってるんですよ。
たぶん俺が思うに、
「本当はわかってるけど、わからないふりをして、
 ここんとこ零士に訊いてみよう、ホストに訊いてみよう」
という部分ってあるんですよ。
糸井 おもしろがってるよね。
零士 ええ。
よくわかってますよ、本当は。
この対談で僕の本音を聞いて、
「やっぱりそうだったか!」と思って、
また明日、元気に会社行ったり、
息子さんと接したりしたいんでしょうね、きっと。
そうだと思うんですよ。
糸井 一方で、若い子は……。
零士 若い子は、本当にわかってないですよ、これ。
本当にビクビクしてますよ。
糸井 自信がものすごくないですよね。
零士 ないですねー。
糸井 自信って……、
僕は格闘技の選手と親しいんだけど、ある選手が
「ほとんどの苦しい練習は、自信をつけるためだけだ」
って言うんですよ。
「この練習をやってるから俺は大丈夫だ、って
 自信をつけるためだけに、
 苦しい練習をぜんぶ我慢できる」って言うんですよ。
で、力が拮抗してる相手と試合で戦う場合は、
自信が相手より上回ってないと、動きが遅れるんですって。
だから、
「好きな女の子にフラれるんじゃないか……」
「俺はダメなんじゃないか……」と思いながら、
女の子を好きになっちゃった男って、
絶対的に自信がないですよね。
零士 ないです。
糸井 それは、どーしたらいいんですかね?
零士 俺、その考え、すごくね、
わかりやすいっていうか、よくわかるんですよ。
その……、
自分の不安材料を消すことによって強くなるというのは、
本人の操縦性はなくなるんですよね、きっと。
自分自身を操縦するっていうか、
コントロールする部分で、機能的には低くなりますよね。
糸井 ああ……なるほど。
零士 俺なんかは逆に、弱い部分は弱い部分で、
もうあんまり手をつけないで、
いい部分だけで勝負していって、
ガンガンガンガン行って、
それで相手をぶっ倒しちゃうという。
俺はそういう方法をすすめます。
糸井 たとえば、左フックが得意で、ガードが苦手だったら、
相手に打たせておいて、左フックを一発だけ
入れさせていただくと?
零士 ええ。
ガッツンと入れていく、と。
もし、不安材料を消すことによって
自信をつけたとしても……でも、そいつが本当に
怖がってるヤツってのは、きっと、
今言ったパターンのヤツなんですよ。
左フック一発ねらいで、ガーンガン来るヤツってのは、
やっぱ怖いですよ。
糸井 はぁ〜〜、じゃ今の男の子たちがまちがってるのは、
箇条書きのチェックリストを作りすぎてる部分ですか?
零士 作りすぎてるんですよ。
むしろ逆をやらなきゃ。
だから、どれも同じに見えちゃうんですよ。
サイボーグみたいに。
糸井 そうそう……。
零士 だからなんか「あれ? なに君だっけ?」って
マジでわからなくなっちゃうんですね、こっちも。
糸井 たとえば、どこで食事するといいだとか、
どういうクルマが好きだとかっていうのを
いわばマーケティングしてるわけですよね。
「これだけ準備が万全だから、俺はモテるはずだ」って
「せーの!」で口説きに行っても、
そんなものは、ほかの男もやってるから、
ひとつ抜けられないんだ?
零士 たいしたことないんです。
ひとつ抜けてないんです。
ボクサーで世界チャンピオンになった人で、
よく会う人と話をしていて、
「零士、おまえ……チャンピオンってさ、
 負けるときって、どういう時か、知ってる?」
って聞くから、
「いや〜、やっぱそれって、あれでしょ、
 ちょっと力が衰えたときとか、
 練習しなかった時でしょ?」って言ったら、
「逆だ!」って言うんですよ。
糸井 練習しすぎた時!
零士 練習しすぎた時なんですよ。
チャンピオンであるはずの自分が
手負いの狼になっちゃってる時なんですよ。
現実は、ぜんぜん手負いの狼じゃないんですよ、
チャンピオン、キングなんですから、
だれよりもぜったい強いんですよ。
ランク的には、自分より上がいないんですから。
でも、結局、下から上がってくる、
本当の手負いの狼みたいなヤツが
食いついてくるのが怖くて、
練習をしすぎてオーバーワークでダメになる、
って言うんですよ。
糸井 辰吉選手もオーバーワークだったらしいよね。
零士 そうなんですか。
ま、僕は彼に会ったことないですけど。
で、そのチャンピオンだった人が
「優秀なトレーナーってのは、
 選手をいかにリラックスさせて、
 いかに練習させないか、ってのができる人だ」

って言ってましたね。
糸井 字幕出るねぇ〜、バリバリに(笑)。
零士 出てますねぇ、今日は。
で、俺が、
「あ、そうなんですかぁ……、
 だいたいみなさん、そうなんですか?」って訊いたら、
「ほとんどそうだ!
 よほどのアホじゃないかぎりな」って。
 
(つづく)

2000-06-25-SUN

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