糸井 |
たとえばさ、だれか女の子を好きになった
A君というモテない男の子がいると。
で、A君の友だちはぜったいにさ、
「オマエ、それじゃダメだよ」って言って、
「クツを替えろ」だの、「髪形を変えろ」だの、
いろいろうるさいことを言いますよね。
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零士 |
そうそう、それなんですよ。
それがダメなんですよ。
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糸井 |
あれで、A君が潰れるわけだ。
オーバーワークしちゃうんだ。
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零士 |
潰れるんですよ。
ただ、そりゃあチャンピオンを目指すというか、
女にモテたいと思う以上は、多少はね……、
わざとクツや髪を汚くしとくヤツはいないですから(笑)。
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糸井 |
臭い靴下とかね。
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零士 |
消臭スプレーじゃなくて、
わざと悪臭スプレー吹くヤツはいないんですよ。
「こーれ、いい臭い出るんだよ、臭ぇんだコレ」
なんてね(笑)。
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糸井 |
「俺だけの臭いだ」なんて(笑)。
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零士 |
そーんなヤツはいないんですよ(笑)。
だから、そこらへんを、あんまり考えすぎても……。
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糸井 |
そうだよねぇ。
まあ、清潔感だけは必要だね。
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零士 |
それはぜったい必要ですよ。
飯だって、多少は洗ったとわかる皿に乗ってないと。
皿に口紅かなんかついてたら、そりゃイヤでしょ。
うまいのはわかってても、ちがう部分で
引いちゃうってのはあるじゃないですか。
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糸井 |
じゃあ、ベースに必要なのは、
昔から古典的に言われているように
清潔感だけは、まず維持すると。
それから、相手がどういう女の子かということと、
自分がどういう男かということを、知る。
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零士 |
相手と自分をよーく知らなきゃいけないです。
いくら素晴らしいナビゲーションシステムを用意しても、
衛星との距離がきちっとしてないと、
海の上走っちゃうことになりますからね(笑)。
ちょっと昔のカーナビとか。
「なーんで俺、海の上にいるんだよ、おい」なんて(笑)。
「なんで太平洋の上走ってんだよぉ〜」って。
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糸井 |
じゃ、さて、
もう一歩、むずかしくします。
相手のことをA君が考えて、
そのリサーチでは、
「自分は相手に好かれない」という立場になっちゃったと。
どう考えても、相手の女の子が今までつきあってた男は、
みんな自分とはちがう、と。
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零士 |
たとえば、自分よりすごい上のヤツだと。
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糸井 |
そうそう。たとえばね。
そういうケースなんかは、キツいですよね、また。
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零士 |
それを打破するってことですか?
それこそ、もう得意のアレで行くしかないですよね。
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糸井 |
左フック!
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零士 |
左フックですよ!
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糸井 |
幻の右とか(笑)。
……それこそ(笑)。
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零士 |
もう、死角から後頭部直撃みたいなパンチで。
ボカーンと!
ただ、それは、マグレじゃないんですよ。
自分でちゃんとそれをねらってるわけですから。
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糸井 |
俺、こないだね、詩集を出したんですよ。
そのなかに、なんとなく自分で
気持ちが乗って書いた詩があって、
「豚の丸焼き背中にかついで」っていう詩なんです。
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零士 |
(笑)。
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糸井 |
女の子の家に、野を越え山を越えて、
ブタの丸焼きを担いで、
食べてほしくてやって来て、
で、女の子がいなかったんで、帰ります、
っていう詩なんですよ。
これね、なーんで書いたんだかわからないんだけど、
ちょっとカッコいいんですよ。俺にとって。
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零士 |
いや、わかります。
左フックですよね。
だから、今糸井さんが言ってるのは、きっと、
さっきのボクサーの話で言っても、
「完璧にするということは、逆にそれは、
完璧にした時点で、本当の手負いの狼に対して、
自分が手負いの狼になっちゃうんですよ」って
ことなんです。
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糸井 |
ああ……。
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零士 |
恐怖心を振り払いながら、
あえて自ら得意技1本で挑んでくるヤツに対して、
本来なら勝てるにもかかわらず、
半端に完璧にしようとして
形をこじんまりまとめすぎちゃって、
それで、やっつけられちゃうんですよ。きっと。
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糸井 |
つまんないルールの試合に消耗してる、と?
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零士 |
そうなんです。
そこにハマっていくんでしょうね。
で、相手のパンチが当っちゃうところに、
自分からわざわざ回り込んじゃうんでしょうね、きっと。
それで、ドカーンとパンチ食って
やられちゃうんですよ。
俺、そうとしか考えられないですよ。
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糸井 |
でも、ほとんどの今の若い男の子って、そうでしょ?
で、だんだんと試合さえしなくなりますよね。
まだ今日は練習が足りてないから、
試合はまだやらないんだ、とか。
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零士 |
練習だけして、チャンピオンベルト巻いて
家に帰っちゃうんですよね。
しかも、自分で勝手につくったチャンピオンベルト。
非公認の(笑)。
「そんなチャンピオンベルトはないだろ?」みたいな。
自分だけのベルトして帰っちゃうんですよ(笑)。
試合しないで。
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糸井 |
そーだよねぇ。
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零士 |
俺、そう思いますよ。
だから今言った、その……
本当の手負いの狼的な部分が
なくなっちゃってるんですよね。
もっとあっていいと思うんですよ、俺は。
(つづく) |