
こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
塚本晋也監督の戦争映画
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
を劇場で観てきました。
これまでに観たどんなヴェトナム戦争映画とも
ちがうと感じました。
そして、
「どうして、戦争をしてはならないのか?」
というシンプルで難しい問いに対する、
ひとつの「答え」を提示していると思いました。
その「ひとつの答え」は、
石川文洋さんが生涯、言い続けてきたこととも、
どこかで響き合うように感じました。
特集「50/80」最新シリーズとして更新します。
塚本晋也(つかもと・しんや)
1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。1989年の『鉄男』で劇場映画監督としてデビューし、同作でローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞。世界三大映画祭のひとつ、ヴェネチア国際映画祭とも縁が深く、『六月の蛇』(2002年)でコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)の審査員特別大賞、『KOTOKO』(2011年)でオリゾンティ部門最高賞のオリゾンティ賞を受賞している。また、『鉄男 THE BULLET MAN』(2009年)、『野火』(2014年)、『斬、』(2018年)がコンペティション部門に、『ほかげ』(2024年)がオリゾンティ・コンペティション部門に出品された。俳優としても、自身の監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも数多く出演している。
- ──
- この9月に公開となった監督の
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
を、2日目に観に行ったんです。 - 劇場はkino cinéma 新宿、夜の回だったんですが、
左隣の席には制服姿の女子高生、
右隣の席には50代くらいのご夫婦がいまして。
- 塚本
- ええ。
- ──
- クライマックスのシーンでは、
その両隣どちらからも、
涙を流している雰囲気が伝わってきたんですね。 - ぼく自身も感銘を受けたので、
すでに公開がはじまっているのにもかかわらず、
取材のお願いをさせていただきました。
本日は、なにとぞ、よろしくお願いいたします。
- 塚本
- こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
- ──
- さっそくなんですが、自分は、
大学でヴェトナム戦争映画を勉強していました。 - 時期は21世紀のはじめごろなんですが、
そのとき、
「2025年には、サイゴン陥落から50年だから、
アメリカでは、さぞかしたくさんの
ヴェトナム戦争映画がつくられるんだろうなあ」
と、ぼんやり思った記憶があるんです。
- 塚本
- ええ。
- ──
- 昨年、その「2025年」を迎えたわけですが、
四半世紀前の予想に反し、
ヴェトナム戦争映画、
とくにフィクションは
ほとんどつくられた形跡がなかったんです。
- 塚本
- なるほど。
- ──
- ‥‥と思っていたら、今年の秋になって、
監督の「ネルソンさん~」が公開になりました。 - まず、
日本人がヴェトナム戦争の映画をつくるなんて、
思ってもみませんでした。
そして、作品を拝見したあとには、
いままで観てきた
どのヴェトナム戦争映画とも違うと思いました。
- 塚本
- あ、そうですか。
- ──
- はい。端的にすごいと思いましたし、
感動しましたし、何よりおもしろかったです。
- 塚本
- ありがとうございます。
- ただ、ぼくは、
ヴェトナム戦争に対して思い入れがあるだとか、
詳しいというわけではないんです。
アレン・ネルソンさんの書いた原作に感動して、
とにかく
アレンさんという人を描こうと思っただけで。
つまり、アレンさんの従軍した戦争が
「たまたま、ヴェトナム戦争だった」んです。
もちろん、映画をつくるにあたって、
いろいろ調べはしたんですけど、
ヴェトナム戦争って「難しい」じゃないですか。
ものすごく長いし、いろんなことがありすぎて。
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA
- ──
- はい、ヴェトナム戦争は、
ある時期まで「アメリカのもっとも長い戦争」
と呼ばれていました。 - 21世紀になり、「もっとも長い戦争」の座は
アフガン戦争に明け渡すんですけど、
戦争の萌芽する1940年代から、
アレンさんたち帰還兵の問題が
クローズアップされる70年代、80年代まで
歴史をたどろうと思ったら、
数十年ものスパンがありますもんね。
- 塚本
- その間、アメリカの大統領も何人も代わって。
- ──
- ヴェトナム戦争の本では、
戦後のトルーマン、
アイゼンハワーくらいから語りはじめられて、
ケネディ、
リンドン・ジョンソン、ニクソンくらいまで。
- 塚本
- ただ、ヴェトナム戦争の映画についていえば、
ぼくも、心に残るものが多いんです。
- ──
- たとえば‥‥。
- 塚本
- まず、第一に『地獄の黙示録』です。
- これまで、戦争映画をつくるにあたって、
もっとも影響を受けた作品です。
あたかも自分が戦場に置かれているような、
あの臨場感。
また『プラトーン』も、
米軍の部隊内部の人間関係が
ぐちゃぐちゃになっていくところなんかは、
こういう感じだったんだろうなあと
参考になりました。
ヴェトナムの人たちに対する加害の行為も、
多少、描かれていましたし。
- ──
- オリヴァー・ストーンは
ヴェトナム戦争に志願して従軍してますから、
リアリティは高いんでしょうね。 - ある黒人兵が、
より危険な任務を負わされることに抗議して
「これも政治だ」と言ってたりしますし。
- 塚本
- ああ、そうでした。
- キューブリックの『フルメタル・ジャケット』も、
まずは「映画として大好き」でしたし、
戦争そのものは直接的には描かれていませんが
『タクシードライバー』では
「戦争に行ったら、こういう人になっちゃうの?」
みたいな。戦争の後遺症というか、神経症で。
- ──
- 突然モヒカンになったロバート・デ・ニーロが
次々と人を殺していく‥‥という、
当時のアメリカ社会が
ヴェトナム帰還兵に押し付けた「偏見」なども、
背景にあったようですが。
- 塚本
- スコセッシ監督の映画が偏見とは思いませんが、
そういう偏見も多くあったんですね。
- ──
- みたいです。学生のころの研究では、
オリヴァー・ストーンとキューブリックの対比で、
論文を書きました。 - アメリカがつくったヴェトナム戦争映画って、
「被害者」たるアメリカの若者が、
ヴェトナムという見知らぬ国に連れて行かれて、
心身ともに傷ついて‥‥
という描写がほとんどだったと思うんです。
- 塚本
- マイケル・チミノの『ディア・ハンター』は
素晴らしい映画ですが、
まさしくそんな感じでしたよね。
- ──
- はい、過酷な拷問によって精神に異常をきたした
クリストファー・ウォーケンが、
戦争が終わったあとも、
おさななじみの
ロバート・デ・ニーロたちと故郷の街へ帰らずに、
ひとりヴェトナムに残って
ロシアンルーレットに耽り続ける‥‥という。
- 塚本
- ええ。
- ──
- オリヴァー・ストーンの『プラトーン』でも、
大勢のヴェトナム兵の銃弾を浴びた
ウィレム・デフォーが、
天を仰いで絶命する場面がクライマックスでした。 - そうやって「アメリカの兵士」ひいては
「アメリカ自身」を「被害者」として描く映画が
たくさんあるなかで、
ぼくは『フルメタル・ジャケット』だけが、
ヴェトナム戦争というものを、
かなり「正確に」描いていたように感じたんです。
- 塚本
- ほう。
- ──
- キューブリックの描いたラストシーンでは、
アメリカの部隊が
荒廃したフエの街を歩いている最中、
見えない敵によって、次々と狙撃されていきます。 - ひとりずつ仲間を失いながらも、
圧倒的な火力を投入し、
ようやくその「見えない敵」を追い詰めてみたら、
たったひとりの少女の兵士だった。
- 塚本
- はい。
- ──
- 現実のヴェトナム戦争がどうだったかを考えると、
前線と銃後の区別できない戦場で、
米軍はナパームや枯葉剤などを大量に投下して、
兵士のみならず、
お年寄りや女性や子どもたちにも被害を与えた。 - さらに、それまでの映画では、
ヴェトナムの兵士って、
見えないところから撃ってくる不気味な存在か、
米兵の銃眼の先でバタバタ倒れるだけの
単なる記号的な存在にすぎなかったわけですが、
キューブリックのラストは、
死んでいくヴェトナム兵を
「血の通った人間」として描いていました。
つまり、
唯一『フルメタル・ジャケット』の最後だけが、
多少なりとも、戦争の「実態」に
触ることができているのではと思ったんです、が。
- 塚本
- ええ。
- ──
- 「ネルソンさん〜」は、それ以上でした。
- 塚本
- え! そうでしょうか。
- ──
- はい。たとえば、ヴェトナム人の兵士に
明確に「セリフ」を言わせてるじゃないですか。 - 殺される直前のヴェトナム兵に
「あんたたち黒人は、国へ帰って差別と戦え!」
みたいなことを。
- 塚本
- はい。
- ──
- ああいう場面を、
それまでのヴェトナム戦争映画で観た記憶が、
自分にはなかったので。 - 戦争が終わって50年も経ってから、
日本人が
ヴェトナム戦争映画をつくるとは思わなかった、
と冒頭で述べましたが、
同時に、この映画は
アメリカにはつくれない映画ではと思いました。
- 塚本
- たしかに、そういう意味では、
そうかもしれないですね。 - ただ、ヴェトナム兵がセリフを言う場面は、
原作であるアレンさんの著書に書かれていた、
とても大事な箇所だったんです。
だから、あの場面は、
ここだけは逃さないようにと思って描きました。
- ──
- なるほど。
- 塚本
- あの場面から、アレンさんは、
自分たちの「加害性」に疑問を抱きはじめます。 - これまでの戦争映画では、
おっしゃるように、
戦争の「被害者」の面だけを描いてきたけれど、
今回の映画では、
ぼくは、
明確に「戦争の加害」を描こうと思ったんです。
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA
(つづきます)
撮影:福冨ちはる
2026-11-06-FRI
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監督・脚本・撮影・編集/塚本晋也
出演/ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュ、
マーク・マーフィー、リリー・フランキー、
タチアナ・アリ
原作/『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
『戦場で心が壊れて 元海兵隊員の証言』
劇場/kino cinema新宿ほか劇場情報など詳しく公式サイトでご確認ください。
https://nelsonsan.jp/
ヴェトナム戦争/太平洋戦争にまつわる
読者のみなさんからのお便りを募集いたします。ご自身の戦争体験はもちろん、
おじいちゃんやおばあちゃんなどご家族や
ご友人・知人の方、
地域のご老人などから聞いた戦争のエピソード、
感銘を受けた戦争映画や小説についてなど、
テーマや話題は何でもけっこうです。
いただいたお便りにはかならず目を通し、
その中から、
「50/80 ヴェトナム戦争と太平洋戦争の記憶」
の特集のなかで、
少しずつ紹介させていただこうと思います。


