気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、
毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
「気仙沼漁師カレンダー」。
2014年の藤井保さんにはじまり、
浅田政志さん、川島小鳥さん、竹沢うるまさん、
奥山由之さん、前康輔さんが撮影し、
2021年版は幡野広志さんが撮りおろしました。
漁師カレンダーの企画や撮影ディレクションなど、
全体の進行役を担うのがBambooCutの竹内順平さんです。
ふだんは梅干し屋さんですが、その「よりそい力」をかわれ、
カレンダーづくりにたずさわることに。
2014年版からはじまり、
10年後の気仙沼の財産になるように、と奮闘する
順平さんにお話をうかがいました。
竹内順平
1989年生まれ。
玉川大学芸術学部PA学科卒業後、
ほぼ日で2年ほど勤務。
そのあとに「伝える」をプロデュースする会社、
BambooCutを設立、代表取締役をつとめる。
また、梅干しプロデューサーとして、
立ち喰い梅干し屋やオンラインストアなど
梅干しの魅力を広く伝えている。
- ──
- 2021年版を幡野さんにお願いすることは、
どういった経緯で決まったのですか?
- 順平
- オファーしたのは、2018年です。
糸井さんが幡野さんについてツイートされていて、
そこで幡野さんの写真をはじめて拝見しました。
そのときに、すっごくいいなと思ったんです。
とくに覚えているのが、このイノシシの写真で。
- ──
- 幡野さんが狩猟で撮った、
イノシシの写真ですね。
- 順平
- この写真をみたときに、
たとえばこれが魚だったとしても
うつくしくというのか、
おもしろくというのか、
つまり、これまでにはない写真を
撮ってもらえるかもしれないと
思ったんですよね。 - 狩猟をされているかたが、
漁師を撮るのもおもしろそうですし。
- ──
- 山と海、現場は違えど、
なにかつながるものがありそうですよね。
- 順平
- あと、過去にみんな「命」というテーマでは
撮っていませんでした。
これはぼくの勝手な考えですけど、
狩猟も漁師も命をいただく職業だし、
幡野さんだったら、もしかしたら、
そこを撮れるのかもしれないと思って。
- ──
- 「命」を。
- 順平
- はい。オファーをかけるときに
そういった思いは伝えつつ、
それは勝手に写ってしまうものだと思うので、
普段どおり撮ってもらえたらと思っていました。 - でも、絶対受けてもらえないだろうな、と
思っていました。
- ──
- 身体のことですか?
- 順平
- そうですね。
直接お話ししたことなかったので
幡野さんがどんな状態なのかわからないし、
その当時はガン患者、というイメージのほうが
世の中に出てしまっていたんですよ。
だから、依頼したいけど、
声をかけてもいいものなのかと悩みました。 - そしたら偶然、
「生活のたのしみ展」で引き合わせてもらって、
受けていただくことができたんです。
- ──
- すごい、2年前に偶然の出会いが。
- 順平
- いいタイミングでしたね。
- ──
- そのあとは、どのように製作を進めていったのですか?
- 順平
- ぼくは不器用なので、
製作中は一人のカメラマンさんのことしか
考えられなくなっちゃうんです。
なので、前年の前さんの製作を終えてから
幡野さんの撮影に取りかかりたかったのですが、
幡野さんが「撮影に4回行かせてください」とおっしゃって。 - これまではスケジュール的にも予算的にも2回まで、
何かを大きく削っても3回までしか行けないので、
4回というのははじめてでした。
- ──
- どうして4回行きたかったのでしょう?
- 順平
- 四季を撮りたい、とおっしゃっていました。
- でも、正直海はあんまり四季関係ないんですね(笑)。
海は変わらないから、
海の色や漁師さんの服装がちょっと変わるくらい。
でも、釣れる魚が微妙に変わるから、
あふれた分は自分のギャラから引いてください、
と幡野さんがおっしゃってくださったんですよ。
そこまで言われたら、そうしたいと思うじゃないですか。
- ──
- そこまで熱意を持ってくださったら、
応えたいですよね。
- 順平
- なので、2019年の1年かけて
四季を撮影しました。
- ──
- 撮影はどんな風に進められるのですか?
- 順平
- 1回の撮影が、だいたい4泊5日です。
でもね、撮影スケジュールは、まっしろですよ。
- ──
- 明日にどんな漁があるのか、
直前までわからないとおっしゃっていましたもんね。
- 順平
- 漁師さんのスケジュールって前日に
「明日あの船が帰ってくるぞ!」
「明日出発するらしいぞ!」と急に決まるので、
事前に予定を立てられないんです。
気仙沼の漁港に行ってから、
どうしようかなって考えるしかなくて、
しかも朝は3時とか4時とかめちゃくちゃ早くて、
夕方までずーっと撮影です。
- ──
- それは、体力的にしんどいですね。
- 順平
- めちゃくちゃしんどいですよ。
だって、あの103カ国を旅されて
死にかけたこともあるようなうるまさんが、
最終日にボソッと「この撮影はきついなー」と
言ったくらいですから(笑)。
- ──
- それは、真実味がありますね(笑)。
船に乗って撮影するのも大変そうですよね。
- 順平
- 船は近場だと7時間とか12時間で
帰ってこれる船もありますけど、
2泊する船もあります。
去年は、偶然カツオ船で病欠のかたが2人出て、
前さんが「乗ろうよ」と言ってくださったから乗りましたけど、
船で2泊3日したので、相当しんどかったですね。
- ──
- しんどいのは、体調や身体のことですか?
- 順平
- やっぱり、非日常が72時間続くので、
そのすべてに耐性がないんですよね。
コンビニなんてないし、
時間のサイクルも全然違うし、
食事の場面もすごいですよ。
揺れてこぼれないように下に麻布をひくんですけど、
それがもう、ビッチョビチョ。
そこに、箸とか必要なものをポーンと置かれて、
醤油は空のチャーミーの容器に入ってる。
- ──
- 洗剤のチャーミーに、醤油?
- 順平
- 蓋がついているからこぼれなくて、
すごく便利なんですよ(笑)。
寝るところも肩幅くらいしかないですし。
身体もしんどいけど、
精神的にもきつかったですね。
- ──
- はあー。
幡野さんのときは何船に乗ったんですか?
- 順平
- ホタテ漁やタラ漁などに乗せてもらいました。
タラ漁はこの表紙の船ですね。
- ──
- いい写真ですね。
- 順平
- これは刺し網漁といって、
網を下に降ろして、タラが刺さるのをちょっと待って、
網を上に引くんですね。
網を引き続けるのを3、4時間みるんですよ。
ビービービービーっていうのを。
最初はめちゃくちゃ興奮しますけど、
まあ、長いですね(笑)。
- ──
- 漁師さんが何回釣ってもうれしそうだった、と
カレンダーに書いてありましたね。
- 順平
- 釣れるのもうれしそうでしたけど、
どちらかといえば、
幡野さんに撮ってもらえるのがうれしそうでしたね。
- ──
- なんかでも、みなさん自然体で、
すごくいい表情で写っていますよね。
漁師さんってすこし怖いイメージがあったので、
こんなにやさしそうなんだって思いました。
- 順平
- 幡野さんの写真は、不思議でしたね。
漁師さんって男気たっぷりな人が多いので、
カメラを向けるとめちゃくちゃカッコつけるんですよ。
いい表情や大漁のところを撮られたいし、
中には「こっちから」と指示する人もいるくらい、
カッコいいところを残したいと思うんですね。
- ──
- 仕事現場ですもんね、
それはカッコよく撮ってもらいたいかも。
- 順平
- でも、幡野さんの前だと
カッコつける人が全然いなかったです。
みんな、すごく自然体。
- ──
- なんで、そうなるんでしょう。
- 順平
- 幡野さんの撮り方って独特で、
感じてから撮っているというか、
「あ、いいな」と思ったらゆっくり構えて、
パシャっと1、2枚撮る。
- ──
- 連写しないんですか。
- 順平
- しないですね。
これまでの写真家さんはどちらかといえば、
決定的瞬間を狙って、
できるだけ数多く撮るかたが多かったんです。
すごい寄ったりとか、引いたりとか、
どんどんじぶんを追い込んで
奇跡の1枚を狙ってとにかく撮っていました。 - でも、幡野さんは焦ったり、動いたりしない。
どちらにも良さがありますけど、
幡野さんは、なんて言ったらいいのかな。
「いい写真を撮りたい」という欲よりも前に、
なにかがある感じがします。
- ──
- 欲よりも前の気持ち。
- 順平
- はい、なにかはぼくもわからないですけど、
なんとなくそう思います。
ふつうは一回だけでもしんどい撮影なのに、
幡野さんが自然体だったから、
4回撮影に行けた気がしますね。
(つづきます。)
2020-07-23-THU
-
渋谷PARCO8階のほぼ日曜日にて、
写真展「幡野広志、気仙沼の漁師を撮る。」が
2020年8月2日まで開催されています。
幡野さんが撮影を担当した
2021年気仙沼漁師カレンダーの予約や、
気仙沼のおいしいものが
食べられるイベントです。