気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、
毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
「気仙沼漁師カレンダー」。
2014年の藤井保さんにはじまり、
浅田政志さん、川島小鳥さん、竹沢うるまさん、
奥山由之さん、前康輔さんが撮影し、
2021年版は幡野広志さんが撮りおろしました。
漁師カレンダーの企画や撮影ディレクションなど、
全体の進行役を担うのがBambooCutの竹内順平さんです。
ふだんは梅干し屋さんですが、その「よりそい力」をかわれ、
カレンダーづくりにたずさわることに。
2014年版からはじまり、
10年後の気仙沼の財産になるように、と奮闘する
順平さんにお話をうかがいました。
竹内順平
1989年生まれ。
玉川大学芸術学部PA学科卒業後、
ほぼ日で2年ほど勤務。
そのあとに「伝える」をプロデュースする会社、
BambooCutを設立、代表取締役をつとめる。
また、梅干しプロデューサーとして、
立ち喰い梅干し屋やオンラインストアなど
梅干しの魅力を広く伝えている。
- ──
- 何年も気仙沼に通われて、
カッコいい漁師さんに出会われて、
漁師になりたくなりましたか?
- 順平
- いや、なりたいなりたくないの前に、
こんなに大変な仕事、
僕には向いていないですね。
ほんとうに尊敬します、漁師さんのこと。 - でも、いまは若い子が漁師にならないから、
現場の人たちはすごく困っているんですよ。
外国の方々に頼るしかないんですけど、
こういう状況だからこの先どうなるかわからない。
- ──
- そうですね、
また状況が一変しましたよね。
- 順平
- 漁師になりたい、という人を増やす、
カレンダーがその一役を担えたらと思いますけど
なかなか道のりは長いなと思います。
- ──
- でも、漁師さんに対するイメージは
だいぶ変わったと思います。
もっと怖いイメージがありましたけど、
カッコいいし、やさしい人たちなんだなって。
- 順平
- そう思ってもらえたら、うれしいですね。
漁師さんって頭が良くないとできないんですよ。
知識量とか勉強ができる頭の良さよりも、
理系的な頭脳というか、
レーダーを見たりなみの状態を見たりして、
読み解かなきゃいけない。
そこはほんとうにすごいです。
何があっても、生き抜いていける人たち
なんだろうなと思います。
- ──
- 何人もの漁師を、
束ねるかたもいらっしゃいますしね。
- 順平
- 漁船は経営ですよ。
1回漁に出たらこれくらいの魚が獲れて、
今の市場価格ならこれくらいで売れる。
これ以上漁場を探せばガソリン代もかかるし、
魚の鮮度も落ちる。
といった計算を瞬時にして、
いつ海に出て、戻るか判断しなきゃいけない。
- ──
- 旅行じゃないですもんね。
旅程も決められないし、
予測も立たないです。
- 順平
- 全然釣れなくても、
引き下がる勇気も必要なんですよ。
- ──
- ああ、なるほど。
そのひとつの判断で何人もの船員の
生活がかかっていますもんね。
- 順平
- すごいことですよね。
漁師の方々は、経営だととらえていない人が
ほとんどだと思いますけど。
- ──
- はじめて気仙沼の漁港に漁師さんを
見に行かれたときに、
「カッコよさがわかっちゃった」と
おっしゃっていたじゃないですか。
これまで撮影を続けてきて、
漁師さんに対する見方は変わりましたか?
- 順平
- そういう意味だと、
漁師さんの生活にはあこがれるようになりました。
- ──
- 漁師さんの生活。
- 順平
- はい。彼らの生活って、
すごく人間らしいんですよ。 - いろんな漁師さんがいますけど、
基本的に漁師同士っていうのは
お互いに魚を狙っているから、
結構ばちばちなんですね。
とられたら、自分たちの取り分が少なくなるから。
- ──
- そうですよね。
ライバル企業が海の上に
ひしめき合っているようなものです。
- 順平
- だけど、たとえば誰かの船のエンジンが止まってしまって、
海の上で困っているとなったら、
周りにいる全部の船が、助けに向かうんです。
- ──
- 漁を止めてでも、助けに。
- 順平
- そう。絶対助けるんです。
それは自分がもしそうなったら助けてもらいたいから、
お互い様だっていう考えかたがあるんでしょうね。
そういう、自分本位じゃない考え方ができるのは、
たぶん「魚合わせ」の生活リズムが
そうさせているのかなって僕は勝手に思っていて。
- ──
- つまり、どういうことでしょうか?
- 順平
- 自分のリズムじゃなくて、
魚に合わせた生活リズムだから、
他人のことを思えたり気遣えるのかもしれない。
漁師って、荒々しい印象がありますけど、
気仙沼で出会う漁師はみんな、やさしいです。
- ──
- 幡野さんも書かれていましたね、
「気仙沼」だからやさしい人が多いんじゃないかと。
- 順平
- 僕たちが写真を撮っても、
彼らはお金がもらえるわけじゃないのに
「つばき会ががんばっているから、いいよ」
っていうスタンスなんです。
そういう人間らしさを大切にしている生活に
あこがれますね。
- ──
- ああ、いいですね。
そういう人間らしい生活。
- 順平
- だから、漁師さんの表情っていっぱいあるんですよ。
毎年、カレンダーをカメラマンさんにオファーするときに、
僕が勝手に「ありのままの漁師は○○」と
それぞれのかたのテーマになりうる
キーワードを決めるんですね。
浅田さんだったら「カッコいい」。
小鳥さんは「かわいい」、
うるまさんは「感じる」、
奥山さんが「美しい」、
前さんは「いい男」でした。
で、幡野さんは「愛おしい」にしたんですよ。
- ──
- ありのままの漁師は、愛おしい。
- 順平
- はい。それはあながち間違っていなかったなと思います。
愛おしい写真ばかりになっているんじゃないかなって。
- ──
- なっていると思います。
幡野さんの写真も言葉も、やさしくて愛おしいです。
- 順平
- いいカレンダーができたんじゃないかなと思います。
- ──
- 最近は、気仙沼でも漁師カレンダーの認知が
広がってきたんですか?
- 順平
- ずいぶん、知っていただいています。
うれしいのは、撮られた漁師さんが、
じぶんが写っている写真をお部屋に
飾ってくださっていることがあるんですよ。
乗った船の人たちが「写真データぜんぶ欲しい」と
たのしみにしてくださったり。
- ──
- 順平さんが来ると、
撮ってもらるぞ!みたいな。
- 順平
- いやいや、そこまではまだ。
最近はじめて、若い漁師さんとLINE交換しました。
- ──
- また、近々気仙沼に行かれるんですか?
- 順平
- 8月に行きます。
次もはじめての試みがあるので、
大変でしょうけど、たのしみです。
- ──
- 常に動いていらっしゃるんですね。
- 順平
- でも、もうあと3作なんですよ。
最後はこの人にしたいっていうのがありますけど、
どうかな。撮ってもらえるといいなって思ってます。
- ──
- 相当力を入れて毎年やり切っていると、
感じました。
今回の写真を直接みられる機会はうれしいですね。
- 順平
- ほんとうは、ぜんぶのカレンダーの、
ぜんぶの写真を見せたいくらい、
毎回いいんですよ。
だから、今回は直接写真をみてもらえる
機会があってよかったです。
いろんな人に、
漁師カレンダーを知ってもらいたいですね。
(おわります。)
2020-07-25-SAT
-
渋谷PARCO8階のほぼ日曜日にて、
写真展「幡野広志、気仙沼の漁師を撮る。」が
2020年8月2日まで開催されています。
幡野さんが撮影を担当した
2021年気仙沼漁師カレンダーの予約や、
気仙沼のおいしいものが
食べられるイベントです。