
今回ご紹介する福森道歩さんのごはん茶碗。
作家であり料理家でもある道歩さんですが、
「作家の前に陶工であれ」という
父・福森雅武さんの教えを受け、
職人として、同じかたちをつくることにも長けています。
それでも、手づくりである陶器は、土の具合、
釉薬のかけかた、窯の中の場所のちがいで、
微妙にことなる表情のうつわが焼き上がるもの。
できあがりの形が意図したとおりであっても、
また、そうでない場合であっても、道歩さんがつくり、
「完成した」と決めたうつわには、
作・福森道歩、としか言いようのない
とくべつな個性が生まれます。
そこには「おいしいごはんをここに」
という料理人としての思いや、
「これで食べたら、きっとおいしい」という
ひとりの生活者としての気持ちも。
今回「ほぼ日」でご紹介する道歩さんの
新作のごはん茶碗は、16点。
陶器とともに、半磁器もつくりました。
どうぞゆっくり、ごらんください。
薪窯の作品について
新作をつくるにあたっては、
薪窯のものをかならず入れる、という道歩さん。
「そうじゃないと、自分を出しきれてない感じがする」
のだといいます。
薪窯は陶器づくりにおいて古典的・伝統的な手法で、
ガス窯や電気窯に比べて温度が安定しないため、
薪を焚き続けて温度管理をする必要があり、
つくり手は焚き上がるまで
窯の前ですごすことになります。
窯の内部では、うつわに灰が被ることで
自然の釉薬となりますが、その工程は人の手で
確実なコントロールがきかず、結果、
焼き上がったうつわには
「火と人の格闘したすがた」ともいえる、
一点一点ことなる個性(景色)がうまれます。
今回、薪窯の作品には[薪窯]と記載をしていますが、
代表的なものをえらんで写真撮影をしていますので、
まったく同じものをお届けするわけではありません。
あらかじめご了承ください。
※電子レンジはご使用いただけますが、
食器洗浄乾燥機は、ご使用いただけません。
-

合鹿碗写(大)(中)[薪窯]
合鹿碗写(大)5,500円(税込)
合鹿碗写(中)4,400円(税込)「合鹿碗」は「ごうろくわん」と読みます。
床に置き、手にとりやすいよう高さのある高台と、
深くたっぷりした胴の丸いかたちが特徴です。
「合鹿椀」は、奥能登・旧柳田村の、珠洲郡に近い
合鹿地区に古くから伝わってきた日常のうつわ。
もとは木地に漆をかけた「漆器」ですが、
道歩さんはそれを陶器でつくりました。
「写」は「うつし」と読み、
決まった形がある伝統的なうつわや、
過去の名作に敬意を表して作風を取り入れること。
「漆器の合鹿椀にインスピレーションをいただき、
それを陶器に反映してつくりました」と道歩さん。
「写」には、形を忠実に再現する場合と、
独自の解釈を含む場合がありますが、
この合鹿碗は、かなり忠実につくられています。
ほんらい、漆の合鹿椀は
大小で入れ子になった2組がセット。
大きいものは飯椀、
小さなものを汁椀としたそうですが、
道歩さんはこれを「大」「中」ふたつの
ごはん茶碗としてつくっています。
釉薬は道歩さんが調合、漆の黒をめざして、
黒く、やや艶をおさえたマットな質感を実現しました。
ごはんをたっぷり盛っても、すこしだけよそっても、
さまになる色とかたち。
ごはんだけでなく、
煮物や汁物にもお使いいただけます。
▲合鹿碗写(中)に盛りつけたのは
「鰹の手こね寿司」。
ベースになったのは、ヅケにした
鰹や鮪の刺身を酢めしと混ぜ合わせた
三重の志摩地方南部の郷土料理、いわば漁師めし。
これを道歩さんは鰹を藁焼きにして、
たたきをつくってから切り、
ごまと、甘くない醤油だれで和えています。
たっぷり容量のある合鹿碗から、
高く盛りつけた鰹と、薬味の茗荷、
穂じそがのぞくのが、とてもきれいです。

灰釉飯碗[薪窯]
4,400円(税込)灰釉は「はいゆう」
(あるいは「かいゆう」)と読みます。
草木の灰を原料とした釉薬で、
焼き上がったときにガラス質の艶と
透明感のある緑灰色は、ビードロ釉とも呼ばれ、
道歩さんの育った伊賀で
1200年以上の歴史をもつ伝統的な技法のひとつです。
灰は、道歩さんの暮らす土楽の自家製。
薪窯ゆえ、薪の灰が加わったり、
その釉薬が中にたまったり、
外に流れて模様を描くことで、
一点一点ことなる模様がうまれます。「灰釉」といえば「ほぼ日」では
「ほんとにだいじなカレー皿」の色を思い浮かべますが、
このうつわは、白土を使うことで、
とても落ち着いた印象が生まれています。
ごはん茶碗としてつくっていますが、道歩さんによれば
「抹茶茶碗としてお使いいただいても」とのことでした。
▲道歩さん作の「ごはん釜」で白米を炊き、
灰釉飯碗によそいました。
土鍋ごはんならではのふっくらとした艶が、
灰釉の茶碗によく映えています。
添えてあるのは、円さん作の
「鮭と紫蘇の実のふりかけ」です。
▲その白米の上から、円さん作の
「明太とろろ」をかけました。長芋を包丁で細かく叩き、ほぐしためんたいこと和えたシンプルなおかず。
お酒の〆や、時間がないときにうれしい一品です。

刷毛目飯碗[薪窯]
4,950円(税込)刷毛目(はけめ)も道歩さんが好む技法のひとつ。
薄い釉薬の上に水で溶いた白化粧土を、
半乾きのうつわに
「えいやっ!」と力強く刷毛で描くことで、
その塗り跡がそのまま大胆な模様となって現れます。
刷毛を持ったまま考えすぎれば線が頼りなく、
かといって力任せでは雑な印象になる。
職人としての熟練が要求される技法です。
ごはん茶碗のサイズですけれど、
「小どんぶり」として使えそうなすがた、色。
ひとくち丼用に使ったり、
おかずを入れるうつわにしたりと、
ごはん以外の用途にも出番が多そうです。
▲ホタテバター醤油ごはんを、刷毛目飯碗に。
炊き立ての土鍋ごはんに、手で割いた刺身用のホタテ、
たっぷりのバターをのせ、しょうゆをさっとかけ、
あつあつのうちにしゃもじでさくっと混ぜます。
すこしだけ火のとおったホタテのおいしいこと!
(半生で仕上げるので日保ちはしません。
ぜひ食べ切ってくださいね。)

白磁面取碗(大)(小)[半磁器]
白磁面取碗(大)6,600円(税込)
白磁面取碗(小)5,500円(税込)磁器は、道歩さんの姉である
柏木円さんが得意とするうつわ。
けれども今回道歩さんが挑戦したのは「半磁器」です。
陶土に磁土をまぜることで、
欠けにくく使いやすい磁器のいいところを残し、
少しだけやわらかい雰囲気を出しています。
磁器の、いわゆるぴかぴかで硬さのある印象を、
陶器にすこしだけ寄せ、マットな質感に。
(ちなみに北欧の焼き物で、
リサ・ラーソンさんの動物の置物が半磁器です。)
面取(めんとり)は、
ろくろでひいてうつわのかたちをつくったあと、
すこし乾燥させたあとに
表面を削って多面体をつくる技法。
胴を縦に十面に削ったこの茶碗は、半磁器という素材とあいまって、
きりっとした印象がありながら、
口縁の部分にきれいな円形を残したことで、
あたたかい雰囲気をもっています。
ごはん茶碗ですけれど、おかずやサラダを入れるなど、
いろいろな使い方ができそうです。

織部面取碗(大)(小)
織部面取碗(大)6,600円(税込)
織部面取碗(小)5,500円(税込)ひとつずつろくろでうつわのかたちをつくったあと、
すこし乾燥させてから、
胴の表面を縦に面取(めんとり)。
あたたかみのある陶器の質感に、
十の平面が意匠としてくわわることで、
陶器でありながら、
すこしシャープな印象をもつうつわです。
織部(おりべ)は、奈良時代には「緑釉」と呼ばれ、
それが千利休の時代に
茶人であり武将の古田織部が好み、
やがて大衆化されていったことから、
この名で呼ばれるようになりました。
織部には黒や赤もあるのですけれど、
とくにこれは「青織部」と呼ばれる、代表的な色。
緑と言うには深く、
まるで盛夏の木々の葉や抹茶を思わせる日本的な色。
土楽では古くから羽釜に使われてきたのですが、
「ほぼ日」の「ほんとにだいじなカレー皿」シリーズに
新色として使うにあたって、
道歩さんがいちから開発しなおした色なんです。
▲円さん作の「しょうが焼き丼、目玉焼きのせ」。
豚肉を焼いて、
すりおろししょうが、すりおろしにんにく、
しょうゆ、みりん、酒を使ったタレにからめ、
半熟の目玉焼きをドーン!
詳しいレシピは円さんの著作
『まどかの台所』に載っていますよ。

独楽絵飯碗(大)(小)[半磁器]
独楽絵飯碗(大)4,730円(税込)
独楽絵飯碗(小)4,400円(税込)呉須(ごす=染付に使う青藍色の顔料)で
うつわの銅の部分に横線を描いた
半磁器のごはん茶碗です。
胴に太い横線が5本、
口縁の内側すぐに細い横線が1本。
この染付は「独楽筋」とも呼ばれ、
回る独楽の模様を意匠化したものです。
線がつながっていることから、
途切れない縁に掛けて、
縁起の良い模様といわれます。
この染付は、道歩さんの手によるもの。
顔料のむらや筆の運びが、
焼き上がったときの濃淡となり、
それがひとつひとつのうつわに
味わいとなって表れています。
丸く立ち上がる、ふっくらとしたかたちは、
小どんぶりとして使ってもよさそうです。
▲道歩さん作「マッシュルームごはん」。
炊き立ての土鍋ごはんに、
生のマッシュルームのスライスを入れ、
すこし蒸らしたら、バターをのせ、
黒こしょうをひいて、さっくり混ぜます。
独楽絵飯椀(小)によそってから、
すりおろしたばかりの
パルジャミーノレジャーノをどさっと。
あつあつごはんの温度でチーズが溶けて、
まるで「お茶碗で食べるイタリアン」!

たまご釉飯碗
4,400円(税込)高台から腰・胴にかけてやわらかく、
ほっこりまるく立ち上がるす
がたがかわいらしい、
たまごの殻のような色味の茶碗です。
すこし専門的な話になりますが、
白釉をかけたうつわを電気窯に入れると、
ほとんど一酸化炭素を出さないまま焼き上がります。
これを酸化焼成といい、
白い釉薬はこの茶碗のように、
すこしアイボリーがかったあたたかな色味に。
これをガス窯で還元焼成すると、
クールな青みがかった白になるのだそうです。
道歩さんは、仕上がりの色をどうしたいかで、
薪、ガス、電気、灯油など、
窯の種類を使い分けているんですって。

麦わら手飯碗呉須(小)(大)
麦わら手飯碗呉須(大)6,050円(税込)
麦わら手飯碗呉須(小)4,950円(税込)内側の見込みの底を起点に、
胴から腰まですべてに真っすぐに拡がる縞模様を
「麦わら手」(麦藁手)といいます。
その発祥といわれる瀬戸では、古くは、
泥状の液体でこの模様を描いたそうですが、
道歩さんが今回使ったのは、
呉須(ごす=染付に使う青藍色の顔料)と、
緑色の2色。それを交互に、均等に描いてゆくのは
高い技術を要する作業のため、
「染付に、とても時間がかかってしまった」そう。
それでも「麦わら手が好き」という気持ちを大事に
丁寧にこの仕事を完成させました。
すっと立ち上がり、らっぱのように口縁が開いた、
繊細でシュッとしたかたち。
「ごはん茶碗といえばこれ」とも言える
スタンダードなうつわです。
▲土鍋のごはん釜で炊いたお赤飯です。
伊賀で使う豆は、あずき(関東はささげ)。
炊くと薄皮が割けるあずきは、
関西の「腹を割って話す」文化に通じるんですって。
あずきのゆで汁にもち米を一晩浸すなど、
準備は必要ですけれど、
土鍋でもふっくら、もっちりとした
「おこわ」を炊くことができるんですよ。
麦わら手飯碗呉須の素朴な雰囲気と、
はなやかなお赤飯が、
日々の暮らしの何気ないよろこびを祝うようです。

線紋飯碗
4,400円(税込)うつわの腰から胴へと立ち上がる
濃い線(線紋)は、描いたものではなく、
じつは胴を削って出したもの。
この技法を「鎬」(しのぎ)といい、
作陶の技術のなかでも、
かなり難しいもののひとつです。
このうつわは、ろくろでかたちをつくり、
化粧(土の色をかくすように塗る下地)をしてから、
へらで削るという工程でつくられました。
削ったあとは、化粧がとれて土の色が出るため、
こんなふうに、濃い色の線になるんです。
かけた化粧が濡れた状態ではだめ、
完全に乾いてしまってもだめ。
それを見極めながら作業をするのだそうです。
独特のこの色は、黄色味のある釉薬を使い、
酸化焼成をして出るもの。
(これを還元焼成すると緑になるのだそう。)
白いごはんも映えますし、
炊き込みご飯ではごちそう感の出る、
あたたかな色調です。
▲円さんの著作『まどかの台所』掲載の
「みょうがの混ぜごはん」。
日光に暮らす円さんの義理のお母さんが送ってくれる
自家製のみょうがをたっぷり使います。
油揚げを加えて、白だし、
酒を加えて炊いた白米を蒸らしたあと、
しらすと、縦にせん切りにしたみょうがを
「たっぷり!」入れて混ぜたもの。
夏になると、柏木家の定番ごはんなんですって。

掛け分け碗
4,400円(税込)道歩さんが民藝調に挑戦したうつわです。
民藝は大正15年に思想家の柳宗悦、
陶芸家の河井寛次郎と浜田庄司らによって
提唱された生活文化運動。
華美な装飾ではなく、実用の美を良しとし、
とくに決まった様式はないのですが、
目利きの父・福森雅武さんのもとで
見る目を養ってきた道歩さんの思う「民藝調」を
かたちにしたのがこのうつわです。
立ち上がった口縁と、内側の見込みの部分が、白。
外側の、胴から腰、高台までがすっぽりと黒。
ふたつの色を「分けて掛けた」ことから
掛け分け碗の名前がついています。
‥‥といっても、その白や黒は単調ではありません。
土・化粧・釉薬そしてガス窯を使った還元焼成で、
白のなかにも黒のなかにも、
形容しがたいたくさんの色がふくまれているんです。
黒の中に暗い夜空のような藍がうかぶのは、
「窯変」(ようへん)という、
窯のなかでうまれる予期せぬ色。
口縁の立ち上がり部分が、ほかのうつわと
ずいぶん形状が異なるのが、写真でおわかりでしょうか。
これ、いちどろくろをひいてから、土がやわらかいうちに、
縁の部分を外側に折り返して二重にするという技術。
折り口が手にも馴染み、
口当たりを邪魔しないつくりになっています。
▲土鍋のごはん釜で炊いた玄米を、
掛け分け碗によそいました。
玄米を土鍋で炊くのは、ちょっとだけコツがいりますが、
しっかり蟹の穴もできて、おいしいんです。

南蛮手飯碗[薪窯]
4,400円(税込)南蛮手(なんばんて)とは、もともと、
古く中国の南部から東南アジアにかけてつくられた
無釉の硬い焼き物のことを指します。
いわば「焼き締め」の艶をおさえた表情が特徴で、
広義では「その風合いを写したもの」も入り、
現代では釉薬を使って表現をする場合も。
道歩さんは釉薬を使いつつ、
薪窯に入れて焼成することで、
うつわに被った灰が自然の釉薬となり、
うつくしい景色となって現れることをめざしました。
ろくろも、土のもつ素朴な表情をいかし、
力の加減によるゆがみも個性とし、
うつわの表面に手の痕跡や凹凸が残る仕上げに。
結果、こんなふうに、
かたちも色も味わいのある茶碗がうまれました。
高台にくびれがあり、いったん拡がったあとに
すこしだけすぼまっているかたちも特徴的。
いっけん地味に見えますが、
深みと奥行きのあるうつくしいうつわです。
▲円さんの、日光に暮らす義理のお母さんが
送ってくれた紫蘇巻き(青唐辛子の醤油漬け)を、
刻んで納豆と和えたものを、
炊き立ての土鍋ごはんにのせました。
南蛮手飯碗とのコントラストがきれいです。
▲シンプルに、炊き立ての土鍋ごはんに
ほぐした梅干におかかをまぜたものをのせ、
おいしい焼海苔を巻いて。
