画家の山口一郎さんに
2025年のホワイトボードカレンダー
月の数字を描いていただきました。
発売から20年目の記念すべき年を、
山口さんならではの「お花の絵」で、
素敵に飾っていただきました。
月が変わってめくるたびに、
うれしい気持ちになるカレンダーです。
山口さんの創作論も、おもしろかった。
ぜひ、お読みください。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>山口一郎さんのプロフィール

山口一郎(やまぐち・いちろう)

画家。 1969年静岡県生まれ、香川県在住。 セツ・モードセミナー卒。 在学中にマガジンハウスの雑誌『Olive』で イラストレーターとしてデビュー。 卒業後はマガジンハウスの仕事を中心に 雑誌・広告でイラストレーターとして活躍。 2007年に東京・南青山のギャラリー DEE’S HALLにて画家として初個展をひらく。 現在は日本、海外の各地で絵の展示を続けている。 ︎
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第3回 いきなりパン屋さんでバイト。

──
山口さんの好きな画家って、誰なんですか。
山口
マティスですね。もっとも尊敬しています。
──
マティス。2024年も、
国立新美術館で展覧館をやっていましたよね。
山口
最高でした。あの展覧会で、
マティスが建設に関わったロザリオ礼拝堂が、
会場に再現されたじゃないですか。
ぼくも歳を取ったら、いつか‥‥
あんなことができたらいいなあと思いました。
ぼくは日本人だから、お寺だとか神社で。
──
わあ、いいですねえ!
寺社の空間に山口さんの絵があるというのは、
なんかすごくいいし、すごく合いそう。
山口
襖絵とか、掛け軸とかね。いつか。
──
マティスにも作風の変遷がありますよね。
まずはフォーヴィスムで有名ですけれど、
点描っぽい絵も描いてたり、
身体を壊した晩年は、切り絵をやったり。
山口
どの時代のマティスも大好きです。
晩年の切り絵は、とくに最高です。

──
《ブルー・ヌード》をはじめ。
山口
はい。版画の「ジャズ」のシリーズとか。
構図と色彩のバランスが、最高なんです。
──
身体を悪くしたあとは、
椅子に座ったままとか、
ベッドに寝たまま制作してたんですよね。
山口
そうなんです。
──
国立新美術館の会場の中に再現されていた
ロザリオ礼拝堂の聖母子像や、
聖ドミニコにしても、みんな線画ですよね。
マリアさまもキリストも、のっぺらぼう。
それでも聖母子の絵だとはっきりわかるし、
マティスが描いたってわかるんですよね。
山口
そこがすごいんですよ。
──
アーティゾン美術館に
マティスの孫娘のジャクリーヌさんの顔を、
線でササッと描いた絵があるんです。
うちの娘が小学校のときに、その絵を見て、
「この人、美人だね」と言ったんです。
山口
おお。
──
ほんと「へのへのもへじ」くらいの手数で
描かれている絵なんです。
それで美人が伝わるってすごいなあ‥‥と。
山口
本当ですね。
マティスの線画って、すばらしいですよね。
女性がふっくらしてる。線なのに。
──
つまり「線」ひとつとっても、
画家によってそれぞれなんだと思いますが、
「山口さんの線」も、ご自身のなかで、
「この線であって、この線じゃない」
みたいな区別が、きっとあるんでしょうね。
山口
ぼくは、なるべく削ぎ落して削ぎ落として、
シンプルな線で描きたいと思ってます。
──
たしかに、すごくシンプルですけど、
やっぱり豊かなものを感じます。
生命力みたいなものとか。不思議だけど。
だって、線なのに。

山口
そう思ってもらえるのは、うれしいな。
──
地方に住んで絵を描いてらっしゃる方って、
わりといらっしゃるじゃないですか。
山口
そうですね、やってることによりますが、
ぼくの場合は、
とくに「不便」を感じることはないので。
こっちだと、
広い制作場所を安く借りれたりするし。
打ち合わせも、
だいたいメールやズームで事足りるし。
──
そういう時代ですよね。
これまでは、主に「交通の便」のために
都会に住んでいたとしても、
そこの問題がクリアになれば、
自然に近いほうが、
山口さんのお仕事には向いてそうですし。
山口
ぼくの場合は、画材屋さんと、本屋さんと
スーパーとコンビニが近くにあれば。
タワーレコードに注文したレコードとかも、
近所のセブンイレブンに
送料無料で届く時代ですしね(笑)。
──
そんなふうに思えば、どこでも住める。
山口
そうそう。
──
でも、お生まれが香川だったわけでは
ないんですよね、たしか。
山口
出身は静岡県です。
だから、東京から遊びに来た知り合いに、
「讃岐うどん」について
熱く語っている自分にふと気づいたとき、
「静岡うまれなんだけど‥‥」って、
ときどき思ったりはしているんですよね。
──
でも、他のインタビューで読みましたが、
若いころには、東京に住んで、
めっちゃ忙しくお仕事されてましたよね。
山口
そうですね、一時期は、大手メーカーの
基礎化粧品のビジュアルまわりを、
ほとんどすべて担当してた時期もあって。
キュレルっていう商品なんですけど。
──
すごい有名なブランドですよね。
山口
それは、とても大きな仕事だったんです。
当然やりがいもあったんですけど、
その仕事が終わったあと、
次の仕事を得るために
自分の作品とか仕事を見てもらうおうと
ファイルを持って
いろんな会社をまわっているとき、
なんだか‥‥突然、イヤになっちゃって。

──
へええ。
山口
「もういいかな、このあたりで」って。
──
何でですかね。
山口
わかんないです。で、静岡に帰りました。
イラストレーターの次にやりたい仕事が
パン屋さんだったので、
浜松でパン屋のバイトをはじめたんです。
──
えっ。
全国どこでも売ってる化粧品ブランドの
ビジュアルをぜんぶやってた人が、
地元のパン屋さんで、アルバイトですか。
山口
そうなんです。バイトをしながら、
しばらく好きなように絵を描いてました。

(つづきます)

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