今年(2024年)1月に刊行された
junaidaさんの絵本『世界』は、
じつは、
「大きな大きな1枚の絵」を、
30ページに分割したものだった‥‥!
(手にした人は、知っている)
どうしてそんなに壮大で、
難しいであろうことに挑んだのか。
junaidaさんに、じっくり聞きます。
担当は「ほぼ日」奥野です。
なお現在、神田のTOBICHI東京では、
絵本のもとになった原画を展示中。
ぜひ、見に来てください。

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第1回 「世界」と向き合う5ヶ月間。

──
すごい‥‥!
こうして原画の前に立ってながめると、
まさしく「世界」です。
junaida
ありがとうございます。
──
今回のタイトルの『世界』って、
いつの時点で決まったものなんですか。
それとも、はじめからあったんですか。

junaida
去年の年明けに、
京都で福音館書店の担当の岡田さんと
お会いしたんです。
そのときに、絵本の構想はあったんです。
最初に大きな1枚の絵があり、
それを分割して
1冊の絵本をつくりたい‥‥っていう。
タイトルは未定だったんですが、
そのときのメモに、
「世界」とは書いてあったんですよね。
──
ああ‥‥じゃあ、
無意識に、そういうものだと思ってた。
junaida
そうかもしれないです。
岡田さんと話しながら、
タイトルに
「世界」とつけるくらいの本なんです、
とか自分で言ってて、
(あれ? じゃあ『世界』でいいか)
と思って、
「世界、でどうですか」って言ったら、
岡田さんが
「鳥肌立ちました」って言ってくれて。
──
いやあ、立ちますよ。それは。
だって「世界」が生まれた瞬間ですよ。
junaida
タイトルに「世界」ってつけたことで、
ぐんぐん
内容ができていった感じもあるんです。
──
タイトルがドライブかけるてくること、
ありますよね。かっこいいなあ。
で、造本プランの準備に1ヶ月、
作画に5ヶ月かけて、この絵を描きあげた。
junaida
ここまで大きな作品を描いた経験って、
なかったんです。
大きすぎて、昨日より進んでるのかどうか
実感できなかったんで、
毎日、スマホで写真を撮って確認していました。
──
まず1枚の大きな絵を描き終えないと
絵本にならないって、
造本設計とかいろいろ大変そうですね。
junaida
そうなんです。
元絵の分割の仕方、
どうはじまってどう終わる本にするのか、
もっといえば、
合計で何ページの本にするのか‥‥とか、
最初の1ヶ月間は、
造本まわりの
算数みたいな話ばっかりしてました。
──
最終ページは折り込まれた元絵ですけど、
これも「ページ」なんですよね。

junaida
はい。ポスターみたいではあるんだけど、
あくまで「最後の1ページ」です。
本から切り離して、
部屋に飾れたらうれしいという読者の気持ちも
もちろんわかるんですけど、
「最後の1ページ」なので
本体にくっついている必要があるんです。

──
なるほど、この絵本の成り立ちからして、
たしかにポスターとは「別物」、
「最後の1ページ」であるべきですよね。
この絵本世界の「本当の姿」なわけだし。
junaida
あと今回は、ラフが描けなかった‥‥
ラフがあれば
他者とも作品についてやりとりできるのですが、
それが存在しない絵本づくりでした。
ぶっつけ本番で描き進めることで、
どんどん「世界」が生まれていく。
というか、それしか描く術がなかったので、
内容については、
誰とも相談することができませんでした。
今回は、大きな紙を木製パネルに水張りして、
それを壁に立てかけて描いてたんですが、
ひたすら毎日毎日、
孤独に作品と向かいあっていた半年間でした。
──
絵本の見開き単位で
バランスの取れるように絵を描いたって
おっしゃってましたが、
当然「1枚の絵」としてのバランス感も、
同時に考えてるわけですよね。
junaida
そうですね。どっちの機嫌もとりながら。
あくまで「1枚の絵を絵本にする」ので、
まずは大きな1枚の絵としての魅力が
絶対なければならないと思っていました。
でも、同時に、
ページをめくる毎に魅力的な変化があり、
それでいて前後のページはもちろん、
全ページが絵でひとつなぎになった絵本‥‥
なんだけれども、
引いて見たら大きな1枚の絵であるという、
頭がこんがらがるような、
複数の要素を両立させる
難しさとおもしろさがあって。
──
全ページが絵でひとつなぎの絵本‥‥
というのは、えーっと、つまり?
あ、このページ、1枚絵だと、
もっとも距離があるはずの両端の部分が、

──
本だと見開きの左右で隣りあってる!
ファミコンのマリオブラザーズだとか
ドンキーコングの世界みたい!
ひゃあー‥‥そこまで計算してるのか。

junaida
えへへ。
──
でも、左右が齟齬なくつながっている、
というのは、まさに「世界」ですよね。
地球はまるいわけだし。ひえええええ。
そういえば、
以前トンコハウスの堤(大介)さんと
描いた絵も
お互い架け橋でつながってましたよね。
junaida
ああ、そうですね。
──
2枚だけだけど、
あちらも世界って感じがしますもんね。
夜の世界と昼の世界。
それでひとつの世界。
junaida
本当に。
だからこの絵は、
ぼくがずっとやってきたことの延長に
あったんだなあと思います。
──
大変でしたか、描くの。あらためて。
junaida
はい‥‥大変でした(笑)。
いちばんキツかったのは、
半年間「完成」がなかったことです。
いつもは、
「よーし、このページは描けた」って
「ひと区切り」があるんですけど、
今回はそれが
作画期間の5カ月の間、一切なかったんですよね。
──
それは‥‥つらそうです。
junaida
思いのほかしんどかったです。
ふだん、
1冊の絵本で何枚も絵を描くんですが、
そのときも、
感覚的には「1冊の絵本で1枚の絵」
という気持ちで描いてるんです。
でも「区切り」はあるじゃないですか。
今日は、1ページ描けたなあ、とか。
──
気持ちが切り替えられない状態。
えんえん続く「世界」‥‥。
junaida
思った以上にヤバい領域でした。
──
これって、鉛筆による下絵の段階では、
「世界は、まっしろ」ですよね。
で、下絵が完成してから
世界に色をつけていったわけですよね。
junaida
そうです。左下から。
──
右上に向かって。
そのときって、
その場その場で「ここはこの色」って、
インプロ的に塗っていくんですか。
それとも事前に、
ある程度着彩の構想があったんですか。
junaida
わりと「行き当たりばったり」でした。
左下の出発点は、
朝のしっとり潤んだ感じのすみれ色で、
最後の右上は雪のシーンで‥‥
くらいのイメージはありましたけど。
──
この「世界」では
時間の流れも表現されてるんですよね。
左下から右上にかけて、時系列だから。
junaida
描きはじめる前に、
ブックデザイナーの藤井(瑶)さんに、
こういう絵本をつくろうと思うんです、
という構想を話したんです。
そしたら、そのときに藤井さんが、
子どものころのほうが
時間や月日の感覚って長く感じるから、
絵の世界でも、
子ども時代が長かったりするんですか、
っておっしゃったんですよ。
──
おお。
junaida
あ、それいいなあと思って、
「はい、そうです」って言って(笑)。
で、実際、そうなってます。
──
junaidaさんの絵って、
いまにも動き出しそうっていうのかな、
いい意味で
静止画っぽくない気がしてたけど、
この絵は、
実際に「時間の流れ」までも含んでる。
junaida
今回は、そのあたりまで、
しっかり表現できたかなと思ってます。

(つづきます)

2024-12-09-MON

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