今年(2024年)1月に刊行された
junaidaさんの絵本『世界』は、
じつは、
「大きな大きな1枚の絵」を、
30ページに分割したものだった‥‥!
(手にした人は、知っている)
どうしてそんなに壮大で、
難しいであろうことに挑んだのか。
junaidaさんに、じっくり聞きます。
担当は「ほぼ日」奥野です。
なお現在、神田のTOBICHI東京では、
絵本のもとになった原画を展示中。
ぜひ、見に来てください。

前へ目次ページへ次へ

第5回 灯火は、自分の中にある。

──
これはちょっと抽象的な話なんですけど、
何かに感動したり、
おもしろがったりしてるときって、
ぼくは、その人の「世界」に感動したり、
その人の「世界」にふれて、
ワクワクさせられてるって感じるんです。
junaida
なるほど。
──
出口治明さんの人類史がおもしろいのは、
出口さんならではの「世界」で、
人類の歩みを
語ってくれているからだと思うんですね。
アンリ・ルソーの絵が魅力的なのは、
ちょっと奇妙な彼の「世界」に、
惹きつけられているからだろうとか。
junaida
やっぱり、世界というものは、
それぞれみんなが、持ってるんですよね。
赤ちゃんにだって、きっとある。
──
その「自分の世界」を、
junaidaさんはじめ表現する人たちは、
大事にしてますよね。
でも、大事にできていない人もいる。
たとえば子どものころって、
テストの点数だとか、内申点だとか、
自分の世界のほかに、
ま、いろんな評価軸がありますよね。
junaida
うん。
──
だから「俺の世界なんて‥‥」とかって、
ちいさく感じてしまうこともあると思う。
でも、自分の世界を大事にしていいんだ、
ということに、
いつか気づいてもらえたらいいなあって、
自分の子どもを見ていても、思うんです。
junaida
わかります。
自分の外側に「評価の基準」を置かない。
自分の内側にある基準を大切にすること。
そういう意味では、
ぼくは「ジコチュウ」でいいと思います。
もちろん、作品を世に出せば、
否応なく評価にさらされるわけですけど、
それはそれとして。
──
それで勝負するしかないんですよね。
自分の世界で。
junaida
そうだと思います。
そのためにも、
自分が本当に大事したいことは何なのか。
その基準は、外側ではなく、
絶対自分の中に置いておいたほうがいい。
──
はい。
junaida
その自分の基準に対して、
どれだけ自分は正直にいられるだろうか。
よかったこともダメだったことも、
ぜんぶひっくるめて、
自分の中の基準を自分で厳しく見てみる。
そうすることで、いまもがいている人も、
何かが変わっていくかもしれないですね。
──
いやあ、その話はいいなあ。好きです。
ピエール・バルーさんも、言ってました。
「自分の得たよろこびだけを灯りにして
進んでいけば、道に迷うことはない。
それこそが、
きみの人生の唯一の道しるべだから」と。
junaida
まさに、ですね。
灯火は、自分の中にある。
──
絵を描くことを生業ににしている人って、
「寿命が長い」と思うんです。
生命の寿命というより、活躍寿命というか。
junaida
そうなれるといいな。
──
以前、祖父江慎さんが
アートディレクションなさった北斎の展覧会で
いちばん好きだなと思った作品のことを
あとから調べたら、
「縦150cm/横240cm」という大作で、
北斎が80代後半とか90歳くらいのときの
作品だったんです。
junaida
最晩年ですね。
──
そうなんですよ。年齢は関係ないと思うけど、
でも、亡くなる直前に描いた絵が
いちばん好きって、すごいなと思ったんです。
junaida
本当に。そうありたいです。
──
ピカソにしても、宮崎駿さんにしても、
フレデリック・バックさんにしても、
いつまでも、感動させてくれますよね。
だから、junaidaさんも
まだまだ人生半分くらいだってことは、
もっともっと素晴らしい作品、
素晴らしい世界を、
見せてくれるだろうなと期待してます。
junaida
そのころには腕がムキムキかも‥‥(笑)。
──
ははは、にわかにはイメージできない(笑)。
「世界」も変わっていくでしょうね。
これから、長い時間が過ぎゆくうちには。
いまのjunaidaさんの中の「世界」も。
junaida
そうですね。すでに、この「世界」は
「あのときのぼくの世界だな」
って楽しみ方をしてる感じもあるので。

──
あ、そうですか。もう。
junaida
はい。でもそれは、この作品に限らず、
どんな作品でもそうなんです。
同じイメージをかたちにするにしても、
今日描く絵と明日描く絵は、
たぶん、ちがう絵になると思います。
──
今日と明日で、もうちがう?
junaida
そこには、いろんなことが影響していて、
今日ここで、奥野さんと
こうやってしゃべったことも影響するし、
もっとささいな‥‥
「テレビのチャンネルを変えた」
くらいのことも、影響すると思ってます。
だから、いま、ここにある「世界」は、
2023年の半年間のぼくの世界。
今日からまた「世界」を描きはじめたら、
それはたぶん、
ぜんぜんちがう「世界」になります。
で、それでいいんじゃないかなって思う。
──
楽しみです。
junaida
いや、しばらくはちょっと(笑)。
──
1年後とか?
junaida
いやいや‥‥そんな、もし1年後とかに
また描こうとしていたら、
誰でもいいから、全力で止めて(笑)。
──
羽交い絞めで(笑)。
junaida
でも今回、
こんな大きな絵を描いて、楽しかったです。
大きいというだけで、
シンプルな魅力というものがあるんだなと。
──
わかります。写真なんかも、
大きく引き延ばすと、
やっぱり感動しますもんね。
junaida
します、しますね。グルスキーの作品とか、
めっちゃデカいけど、
あれ、実際に前に立つとビビりますもんね。
トーマス・ルフなんかも。
──
あー、デッカい顔の写真の人。わかります。
junaida
デカいってすごいですよ。
──
シンプルな真実ですよね。
junaida
ふだんは座って
机の上の目の行き届く範囲で描いているけど、
今回は
壁に向かって背伸びしたりしゃがんだり、
身体全体で描いたんです。
机の上なら、描きにくかった場合には
紙の向きを変えればいいけど、
この絵の場合は、
自分の身体をグッと曲げて描くしかなくて。
──
そうか。描き方からして、別の体験だった。
まさに「心技体」の産物ですね。
マティスって、
最晩年は病で身体が動かなくなっちゃって、
切り絵とかやってましたけど、
単純な線画も描いてたじゃないですか。
ものによっては
「へのへのもへじ」くらいの手数の絵とか。
junaida
ええ。
──
でも、それでも「マティスだ」ってわかる。
それってきっと、
マティスという天才画家が描いてきた絵を、
ぼくらが知ってるからですよね。
いまから50年後とかに
junaidaさんの絵が、
ごくごくシンプルな線画になったとしても、
「ああ、junaidaさんの絵だ」って、
きっとわかるんじゃないかなあと思います。
junaida
だといいなあ。
──
今日の冒頭の話に戻れば、
それこそ、「本質」はそのままだろうから。
junaida
ベッドに寝転がりながら、
長い棒の先っちょに絵筆をくっつけて‥‥。
──
そうそう。junaidaさんは、
こういうところにたどり着いたのかあって。
junaida
そのときそのときの自分が、
それでいいと思っていればいいんですよね。
それがその人の、そのときの世界であれば。

(終わります)

2024-12-13-FRI

前へ目次ページへ次へ