昨年(2023年)の6月、
渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で、
コマ撮りアニメ「こまねこ」最新作を、
25日間にわたって
公開撮影していただいたのですが‥‥。
そのとき撮っていたあの作品が、
このたび! うれしいことに!
全国ロードショーの旅に出るのです!
そこで、こまちゃんの生みの親である
合田経郎さんと、
こまちゃんを動かしつづけて20年、
アニメーターの峰岸裕和さんに、
いろいろお話をうかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
峰岸裕和(みねぎしひろかず)
ストップモーション・アニメーター。1955年栃木県生まれ。
合田経郎(ごうだつねお)
アニメーション作家。CMディレクターとして演出家のキャリアをスタート。NHKキャ
- ──
- 人形アニメやコマ撮りの世界では、
いま話題のAIさんって、どうですか。
- 合田
- たぶん、何かのコマンドを打ち込めば、
コマ撮りのように動く映像を
簡単につくれるようになったりとかも、
そのうち、しちゃうんでしょうね。 - そのときは「こまねこ」の動きとかも
リファレンスされちゃったり。
もっと「こまねこふうに」‥‥とか。
- ──
- つまり「こまねこフィルター」ですね。
- でも、それをやったときに、
誰が楽しいのかなっていう気はします。
峰岸さんだって、
楽しいからやっているわけでしょうし。
- 峰岸
- もちろんですよ(笑)。
- ──
- コマ撮りふうの映像を手軽につくれる、
それはいいことだと思うんです。 - でも、その技術進歩のおかげで、
クリックひとつでコマ撮りがつくれて、
手間暇のかかるリアルのコマ撮りが
淘汰されてしまったら、
何だか味気のない世の中になりそうで。
- 合田
- ぼくは、ストーリーを考えたり、
キャラクターの絵を描いたりするのが、
おもしろくてやってきたんです。 - 峰岸さんは動かすことがおもしろいし、
美術さんは、
セットや小道具をつくることが好き。
照明を当てかたを工夫して、
うまく写真を撮るのが好きな人もいる。
- ──
- ええ。
- 合田
- そういう「この人たち、好きなんだな」
という感じが、画面から伝わって来る。 - それがコマ撮りの魅力だと思っていて。
- ──
- そうですね。たしかに。
- 合田
- その部分がAIでどうなるのか‥‥って、
ちょっとわかんないですけど、
この20年で
フィルムのカメラからデジタルになって、
はたらく環境もずいぶん改善された。 - だから、AIのちからは、
何がしか借りることになるんでしょうが、
ぼくは、変えなくてもいいところ、
変えないほうがいいところは変えないで、
行けるところまで行きたいです。
- ──
- おお。
- 合田
- 誰かにAIで
偽物をつくられちゃうかもしれないから、
自分の手でやったるか‥‥
みたいな気持ちにもなるけど、
やっぱり人間がつくっているってことに
意味があると思うなあ。
- ──
- そうですよね。
- 「コマ撮りをするねこ」じゃなく、
「AIを駆使するねこ」の話を
コマ撮りでつくるとか‥‥(笑)。
- 合田
- おもしろいと思ってやる気持ちが重要で、
見ている人には、
そこの部分が伝わるんだろうと思います。
- ──
- なるほど。
- 合田
- 少し前に、若手のアニメーターが、
こまちゃんを動かす機会があったんです。 - そしたら
「こまねこの右肩と左肩がずれてますよ」
って言うんですよ。
「よく見たら右手と左手の長さも違うし、
直した方がいいんじゃないですか」って。
- ──
- へえ‥‥そうなんですか。
- 合田
- でも、その微妙なアンバランスの加減が、
こまちゃんの個性であり、魅力なんです。 - しかも、それはある種の計算をした上で、
右手と左手の長さを変えている。
- ──
- わざわざ?
- 合田
- はい。そのあたりの塩梅については、
まだAIさんには知られてないと思う。
- ──
- 教えたくない情報ですね(笑)。
- 峰岸
- こまちゃんをつくったのは
阿彦よし子さんという方なんですけど、
阿彦さんの師匠の保坂純子さんって、
「人形の腕の長さは、変えなきゃだめ」
という人形作家だったんです。 - 完全にバランスよくつくるんじゃなく、
ある意味クセをつけることで、
「その子の魅力が出てくるんだ」って。
- ──
- アナログならではの「味」というか。
- 峰岸
- 川本(喜八郎)さんも、そうでした。
- 彫っている人形の顔のどっちか片方が
ふっくらしていたとしても、
反対は微妙に痩せてたり、歪んでたり。
でも、人間だってそうじゃないですか。
- ──
- ほとんどの人の顔や身体は、
完全にシンメトリーではないですよね。
- 峰岸
- それが自然だろうという考え方ですね。
- どっちかが、少しくらい歪んでいても、
そこに「味」が出るんだ‥‥って。
だから、こまちゃんの腕についても、
たぶん意識してやっていると思います。
- ──
- 整えすぎないことが重要。
いろんなことにあてはまる気がします。
- 峰岸
- ただ、そのぶんぼくらアニメーターは
苦労するんですよ、整ってないから。 - 美しく立たせようと思ったら、
右と左のバランスが取れているほうが、
簡単じゃないですか。
でも、そうはなっていないので、
何とか美しく立たせよう‥‥という
試行錯誤や努力が必要になる。
結果よりよきポーズがうまれるんです。
- ──
- おお。整ってない「おかげで」。
- 峰岸
- 人形の半身をモデリングして、
反対側をミラーリングしてつくったら
簡単につくれるかもしれないけど、
つまらない人形に、たぶんなると思う。
- ──
- アナログの持つ味わいとか魅力を
デジタルの力で、さらにパワーアップ!
みたいなことになるといいのかな。 - いろいろ時代は変わっていきますけど、
こまちゃんの物語は、
今後もつくり続けていくんでしょうか。
- 合田
- 今回のテーマを考えているときに、
ロシアのウクライナ侵攻が起きたんです。 - 毎日毎日、現地の映像が流れてきて‥‥。
あるとき、お父さんを残して、
お母さんと子どもだけが国外へ避難する、
という一家がテレビに映ったんですね。
- ──
- ええ。
- 合田
- お母さんは大きなスーツケースを抱えて、
リュックを背負って、片手には子ども。 - で、その子どももリュックを背負ってて、
片方の手には、ぬいぐるみがいた。
- ──
- ああ‥‥。
- 合田
- ぬいぐるみって、そういう存在なんだと。
この子にとっての命綱、
一緒じゃなきゃだめな存在なんだなあと。 - あの子がお母さんとおうちを出たときに、
あのぬいぐるみを抱っこした心境は、
どんなだったんだろうと想像したりして。
- ──
- それで「かいがいりょこう」なんですか。
- 合田
- 「こまねこ」のシリーズは、
毎回「次もある」とは思わずに、
つくってきたんです。
でも、気づけば20年も経ってたんですね。
- ──
- 長いですよね。20年って。
- 合田
- だって、いまから20年前、
「こまねこ」を好きになってくれた人が
いまは親御さんになっていて、
その影響でお子さんも
「こまねこ」が好きになっちゃって‥‥
みたいなことが、
いろんなところで起こっていたんですよ。 - そのことを渋谷PARCOのほぼ日曜日で、
『こまねこのかいがいりょこう』を
公開制作しているときに知ったんですね。
- ──
- 親子連れ、たくさん来てましたもんね。
20年って、そういう月日なんですね。
- 合田
- 本当に、びっくりしたんです。
- 何世代も読み継がれる名作絵本みたいに
なったらいいなあと思って
つくってきたんですけど、
本当にそういうことが起こってたんです。
- ──
- うれしいですね。
- 合田
- うれしいです。ちっちゃなことだけど、
この人たちの人生に
関わっちゃったんだ‥‥と思いました。 - こまちゃんのぬいぐるみを
大事にしてくれている親子を見てたら、
そのこまちゃんは、
ぼくたちの手を離れたあと、
「それぞれのおうちのこまちゃん」に
なったんだなあって。
- ──
- いろんな家族の一員になってた。
- 合田
- そういうことを知ったら、
これからもつくらなきゃって気持ちが、
わきあがってきたんです。 - だから、つくっていきますよ。
こまちゃんの物語。これからもずっと。
(終わります)
2024-10-26-SAT
-
最新作『こまねこのかいがいりょこう』
10月25日(金)より全国劇場公開!昨年(2023年)の6月、
渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で公開制作されていた
コマ撮りアニメが、10月25日(金)より
新宿バルト9をはじめ順次、全国劇場公開されます。
コマ撮りするねこ・こまちゃんの最新作で、
作品タイトルは『こまねこのかいがいりょこう』。
いいです。完成披露試写をふくめて、
もう何度も見たんですけど、いいです‥‥今回も。
過去作も同時上映されるので、
こまちゃん映画がはじめての方でも楽しめます。
さらには、今回の全国劇場公開を記念した展覧会が、
神保町のTOBICHI東京で開催中。
会期中の会場には
「本物のこまちゃん」がやって来てくれます!
屋根裏部屋のセットや小道具など、いろいろ展示。
「映画を見た」あるいは「これから見る」人には、
こまちゃんを撮影できるチェキを1枚プレゼント。
映画のチケット購入したことがわかるもの
(ムビチケの画面など)などを、ご提示ください。
かわいいグッズも並んでますので、こちらもぜひ。