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#46 めぐる絵本

この漫画のもとになった投稿

今から20年くらい前のこと、
フランスに移住する友だちが
引越しの前にお洋服をたくさんくれた。
素敵な服に混じって一冊だけ絵本が入っていて、
「この絵本、どうしても処分できないから貰って!」
と彼女は言ってくれた。
それをはじめて読んでから、
自分のための本だと感じて、
いつの日も心の奥の大事な場所に
存在することになった。

それから8年ほど経っただろうか、
35歳になった年に私は癌になり、
致死率の高い癌だったので
「自分は死ぬだろう」と思った。
そして、入院の前に当時片思いをしていた人に
「この本は昔、友だちから貰ったものだから
めぐっていくのがいいと思って、あげる。
誰かあげたい人ができたら、あげてね」
と言ってあの絵本を渡した。

有り難いことに、治療の結果、
命に別状がないことになり、
引き続き、弱々しくも私は生きていくことになった。

ある日、写真家の友だちと雑談していたときに
何気なくあの絵本を勧めて、
「でももう手元にないんだ」と言うと、
友だちが
「ほしいから買おう。売ってるかな?
あ、買える! 2冊買おう!」と言って
2人分のあの絵本を買ってくれた。
再び家に来てくれた絵本を、
中年になっても変わらず、わたしは愛した。

40代も後半になった今年のわたしの誕生日、
近所のお家の10歳の女の子が
お祝いを言いに来てくれた。
彼女が3歳くらいから、
ときおり家に来て遊んでいたけれど、
会うのはすごく久しぶりだった。

「ちょっと遊んでいきたい」という彼女は
家に入って、
本を見たりオルゴールを鳴らしたりした。
わたしは、ずいぶん大きくなった彼女に、
今こそあの絵本を渡したくなった。

それで
「この絵本は、わたしが大好きな本なんだ。
これをあげよう」と言うと、
その場ですぐに彼女はページをめくりはじめた。
他の本とは比べものにならないほど、
ゆっくり集中して読んでいて、
絵本に引き込まれているのがわかった。
他の本は「いらない」と言っていたのに、
あの絵本を読み終わると「おもしろい。」と言って
丁寧に「ありがとうございます」と受け取ってくれた。
ぜんぜん派手なお話ではなくて、
わかりにくくて静かな絵本なのに、
気に入ってくれたことが心から嬉しかった。

これから彼女の人生の中で、何度でも心にしみこんで、
おばあちゃんになっても読んでくれたらいいなと思う。

2代目のあの絵本を嬉しく送り出したわたしは、
今度こそ自分で
『ちいちゃな女の子のうた
わたしは生きてるさくらんぼ』
を買った。
いま、わたしの手元にあるのは3代目だ。
この本もいつか誰かにめぐっていくだろうか。
姿を変えて、
わたしのそばにいてくれる絵本に感謝している。
いろんな人の縁に感謝している。
そして、どこに行くのかわからないこの本の行先に
ワクワクしている。

(ツキホシほいほい/「雲のうえFM」への投稿より

2026-06-04-THU

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    今日マチ子

    漫画家。1P漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」の書籍化が話題となる。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に4度選出。戦争を描いた『cocoon』は「マームとジプシー」によって舞台化。2014年に手塚治虫文化賞新生賞、2015年に日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門を受賞。『みつあみの神様』は短編アニメ化され海外で23部門賞受賞。コロナ禍の日常を絵日記のように描いた近著『Distance わたしの#stayhome日記』が、2022年1月『報道ステーション』にて特集された。

  • 漫画:今日マチ子

    編集:奥野武範(ほぼ日)

    デザイン:杉本奈穂(ほぼ日)

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