
どうやら大貫妙子さんは、
デビュー50周年だとか、半世紀だとか、
日本の音楽界のレジェンドだとか、
そんなふうに言われてもね‥‥と思っているようなのです。
「だって、仕事を続けてる人が50年なんて、
そんな長くないでしょ」って。
でも、ずっと大貫さんの音楽、そして文章のファンである
渡辺真理さんにとって、50周年である今年は、
これまでの大貫さんの足跡を振り返りながら、
インタビューをする絶好のチャンス。
「ぜひ!」とお願いして、この対談が実現しました。
かねてから親交のあったふたりですが、
こうしてひざを合わせて話すのは久しぶりなんですって。
後半は、糸井重里も参加しての鼎談になりましたよ。
あっ! ここは「マリーな部屋」ですから、
もちろん、おいしいケーキも忘れずに。
取材・プロフィール写真=浅井佳代子
協力=株式会社ゆかい
大貫妙子(おおぬき・たえこ)
音楽家。東京生まれ。
日本のポップミュージックにおける
女性シンガー・ソングライターの草分けのひとり。
1973年、山下達郎たちとポップスのバンド
「シュガー・ベイブ」を結成、1976年まで活動。
同年、アルバム『Grey Skies』でソロデビュー。
以来、現在まで27枚のオリジナルアルバムをリリース。
『Shall we ダンス?』や『マザーウォーター』の
メインテーマを担当するなど、
映画音楽も数多く手掛ける。
芸術総合誌『ユリイカ』(青土社)の
2025年12月臨時増刊号では
50周年を記念して、
1冊まるごとの総特集が組まれた。
『ライオンは寝ている』
- 大貫
- はい、アフリカに行ったときの。
- 真理
- 歌が先で、書くのは後ですか。
- 大貫
- 書くのは全部後。
あと、そういう長い旅行記みたいなのは、
音楽には関係なくて。
『ライオンは寝ている』の前に、
二度のケニア旅行のことを書いた
『神さまの目覚まし時計』(1986年、角川書店)
という本を出しているんです。
新潮社で『Mother Nature's』という
季刊誌が出ていたんですが、
そこで旅行記をというお話をいただいて、
しばらく音楽の仕事を休んで旅に出たんですよ。
その連載をまとめたのが『ライオンは寝ている』(*)。 - (*)『Mother Nature's』は
1990年から93年まで7冊が刊行された。
ほかに著作である『散文散歩』(1992年、角川書店)や
『ベッドアンドブレックファスト』
(1999年、ロッキングオン)にも
旅のことが書かれている。
『神さまの目覚まし時計』
『散文散歩』
『ベッドアンドブレックファスト』
- 真理
- 旅をしながら、書き続けていらしたんですか?
- 大貫
- ううん、頭の中にメモみたいにして、
東京に帰ってきてからずっと書いて。
また旅に行って、と、それを続けていましたね。
それで、ガラパゴスに行ったり。
- 真理
- 南極もいらしたり。
いらっしゃってないのは‥‥。
- 大貫
- 南米の都市ですね。
野生の生き物を見にアマゾンへは行ったんですけど、
当時、都市は危ない所があったりするので
知らないところをうろうろするのは‥‥。
- 真理
- 旅は、音楽にも影響を与えましたか?
- 大貫
- あまり関係ないかな‥‥。
どうせアフリカに長く行くのだからと、
カセットテープを持って行ったんですけれど、
まったく聴く気にならなかったですね。
合わないんですよ、風景に、都会の音楽が。
それは、そうですよね(笑)。
- 真理
- じゃあ、アフリカにいらした間は、音楽は聴かず?
- 大貫
- 聴かずにいたら、聴く必要もない、というより、
自然の中にいると、耳を澄ますことに慣れてくる。
何も聴こえないようでいて、
風の音や、動物の鳴き声、鳥の声に溢れていますから。
それで充分ですし。
- 真理
- 業界っていう言葉、私、
あんまり好きじゃないですけど、
例えば、音楽業界で生きていく、そして売れ続けるには
「どんどんヒット出さなきゃ」とか
「忘れられないようにしなきゃ」っていう心理が
働くと思うんです。
だから、長期間ぽーんと旅に出るって
なかなかとらない選択肢なのじゃないかな、と。
- 大貫
- いえ、私は
ラッキー! って思っちゃいました。
アマゾンやガラパゴス、南極、などなど‥‥。
観光で行くことも出来ますが、
岩合光昭さん(*)とご一緒させていただけたことで、
観光ルートでは見ることも出来ない
野生動物たちの生き方を目の当たりにすることが出来ましたし。 - (*)岩合光昭さんは1950年生まれの動物写真家。
日本人の作品としては初めて
『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度飾った。
大貫さんの著作『ライオンは寝ている』では
南極大陸、ンゴロンゴロ・クレーターの写真を担当。
- 真理
- 岩合さんとご一緒は、すごいなぁ。
素晴らしい動物写真家ですものね。
とにかく、そうやってスパーッとなさっちゃうところが
妙子さんだよなぁと思うんですよね。
- 大貫
- 誰のために音楽をやってるのか。
やっぱり自分が納得しなければ、
そんなもの、世には出せないっていう想いがあるので。
情報は自分の目で見て体感した事だけが
自分にとっての真実なのだと思うので。
借りてきた言葉や情報を
自分の中に溜め込むことでいっぱいにするのでは、
生まれてきたことに申し訳ないような気がして(笑)。
- 真理
- あの、その言葉で思い出すのが
ベスト盤『Library ~Anthology 1973-2003~』を
出すというお話があったときに
妙子さんがインタビュアーとして私にご依頼くださって。
『Library ~Anthology 1973-2003~』
- 真理
- 音楽界としてはベスト盤ブームというか、
いっせいに皆さん出していらしたのですよね。
でも、妙子さんも? 珍しいな?? と思いながら
インタビューしたら、のっけから
「いえ別に、積極的に出したいとは思っていませんでしたが。
でも、音源のリマスターで音が変わる」って言われて。
なるほど、そこか! と思いました。
やっぱり、そのときそのときに
録音した技術が最先端であったとしても
納得していらっしゃらない音もあるんですね?
- 大貫
- そうですね。
まったりしてましたよね? 昔の音って。
それはそれで、いいんですよね。
今は技術的にもよくなっているので。
みんな同じお化粧しているみたいな感じですね。
- 真理
- そのこだわりは続くんですね、ずっと。
- 大貫
- ‥‥気になるね、ケーキ。
- 真理
- え? 召し上がります?
切りましょうか。
- 大貫
- いえ、このフルーツ、
1個だけ食べたいなと思って。
- 真理
- つまんでください。私もつまみますから。
このもりもりのフルーツ、つまみやすいですね。
- 大貫
- これ、いい?
- 真理
- もちろん! 私はこれかな。
お! おいしい、おいしい。
これ、「ほぼ日」の近くにある
「STYLE'S CAKES & CO.」
(スタイルズケイクス&カンパニー)さんが
よいフルーツを仕入れてつくってくださったんです。
- 大貫
- おいしい。本当、おいしい。
(つづきます)
2025-12-25-THU