
ロボットといえば、賢く、強く、
疲れを知らない「働く機械」のこと。
ですが、お詫びが上手なロボットや、
頼みごとがうまいロボットなど、
人の心に働きかけるロボットの
研究も行われているんだとか。
うーむ、それって本来、
ロボットより人が得意なことなのでは……?
日常生活で人とふれあうロボットを研究している
塩見昌裕さんの研究室に、
ほぼ日の學校チームと
ライター江口がおじゃましました。
取材・執筆:江口絵理
塩見昌裕(しおみまさひろ)
京都大学大学院工学研究科教授。株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)深層インタラクション総合研究所インタラクション科学研究所エージェントインタラクションデザイン研究室室長(客員)。人と関わるロボットを専門に研究。
江口絵理(えぐちえり)
ライター、児童書作家。
日本の出版社を退職後、イギリスの出版社でのインターンを経てフリーランスに。最新刊の『クジラがしんだら』(かわさきしゅんいち/絵、藤原義弘/監修、童心社)は第56回講談社絵本賞をはじめ、多数受賞。
△研究室のドアを開けると、もふもふの子がお出迎え
- 江口
- これは……クマ?
- 塩見
- ウサギです(笑)。
- 江口
- お名前は?
- 塩見
- 「モフリー」です。
ハグしてみてください。
ハグを返して、頭をやさしくなでてくれます。
- 江口
- おおお、自動的に動くのではなく、
こちらの動きに反応してくれるんですね。
子どもが喜びそう。
- 塩見
- 実験で保育園などに置かせてもらうと大人気になります。
子どもたちは、二人同時にハグしてもらったり、
背中でもたれかかるようにして、後ろからハグしてもらったり。
- 江口
- 大人だと?
- 塩見
- 大人の方でも、ハグがない場合より、
自分のことをこのロボットに話したくなる
という結果が出ました。
- 江口
- 自分のことを話したくなる?
- 塩見
- 誰かと仲良くなりたいと思うとき、
人は自分のことを話しますよね。
どうしたら人工物であるロボットに
親しみを感じてもらえるかという実験だったので、
成功だったと言えます。
- 江口
- かわいいし、心和みますけど‥‥ロボット研究と言えば、
すごく賢いとか、長時間働けるとか、
人間ではできない動きができるとか、
人を凌駕するものを作ろうという研究だと思っていました。
どうしてこれを作ろうと思ったんですか?
- 塩見
- あるとき学生が
「家に帰ると寂しい。
夜、抱きしめてくれるようなロボットがほしい」
と言い出したので、それ作ってみよう、と。
- 江口
- え、そんなきっかけ?
- 塩見
- はい、作ってみたら意外と好評で、
メンタルヘルスのカウンセリングとか、
子どもの学習支援とか、高齢者のケアとか、
いろんな方向に研究が広がっていきました。
△4本腕のモフリーも。
「腕の数を増やしてみたら、ちょっと不気味になっちゃいました」(塩見さん)。
でも、ハグされると2本腕より包まれ感があって、意外に気持ちいい。
- 江口
- 塩見さんは、人とふれあうことに長けたロボットを作りたい、
と思って研究しているんですか?
- 塩見
- うーん、僕にとってロボットは
目的ではなくてツールですね。
人を知るためにロボットを作っています。
- 江口
- 人を知るため、とは?
- 塩見
- ロボットがどんな見た目でどんなふるまいをすれば、
人は親しみを感じるのか、
あるいはどんなロボットなら信頼感を抱くのか、
どんなロボットなら失敗をしても許してあげられるのか。
それらを考えるとは「人間を知ること」ですよね。
- 江口
- たしかに、人間を知ろうとして人間同士のやりとりを見ても、
おたがいの相性で違いが出るのか、
ふるまいや見た目の差なのかわからないですものね。
- 塩見
- ええ、ロボットは外見や行動を調整できますし、
実験の条件をコントロールしやすいので、
人間とロボットのやりとりを通じて
人間とはどういうものなのかを知ろうという研究です。
〜つづいて、次のロボットを見せてもらいます〜
- 江口
- こ‥‥こちらの方は?
- 塩見
- SOTO(ソート)と言います。
「Social Touch」(社会的なふれあい)の
頭2字ずつをとってSOTOです。
- 江口
- まばたきするし、私が動いてもずっと目線が合うし、
めちゃくちゃリアルですね。
- 塩見
- こちらからハグをすればハグを返してくれるので、
やってみてください。
- 江口
- ……生々しい! モフリーとは対照的に、
ちょっと緊張するハグ体験でした。
- 塩見
- ふふふ、そうおっしゃる方が多いです。
まだこれは、どのような見た目で
どのように動くと人はどのように反応するかを
全般的に調べている段階です。
- 江口
- もう少し三枚目な見た目だったら、
もうちょっとリラックスしてハグできたかも(笑)。
- 塩見
- 顔は男性アジア人の
平均顔をもとにしてるんですけどね(笑)。
- 江口
- 人の心を和ませたり、
親しくなりたい気持ちを喚起したりするなら
モフモフぬいぐるみ型のほうが有利そうですね。
- 塩見
- そうですね。
でも、医師やカウンセラーのような
専門性をもった存在として対面するなら、
人型ロボットのほうが受け入れやすいかもしれませんよね。
- 江口
- たしかに。
- 塩見
- たとえば、もし人間のカウンセラーとの対話中に
肩に手を置かれたらぎょっとしてしまう人も多いでしょう。
でもロボットだったら
ふれあいを含めたカウンセリングができる。
- 江口
- 不思議です。
ふれあいによる安心感のような、
言葉だけでは伝えきれないものを伝えようとしたら、
生身の人間だとむしろハードルが上がってしまう。
見知らぬ人からのタッチは抵抗を感じますものね。
むしろ、ロボットだから伝えることができる、と。
- 塩見
- あるいは、将来、自分そっくりのアンドロイドを作って、
遠隔操作でふれあいをともなう対話が
できる時代がくるかもしれない。
- 江口
- 単身赴任の親が、遠くに住む子どもを
毎日ハグしてあげるとか。
- 塩見
- そのような技術ができたときに初めて、
どういう見た目だと自然なのか、
どういう動きだとその人らしさが出せるのかを考えるのではなく、
いまの段階から僕たちが基礎的な知見を積んでおこう、
という意図もあります。
- 江口
- すごい‥‥ですけど、そういうコミュニケーションを
ロボットで置き換えられたくない、
という人も多いかもしれませんね。
- 塩見
- それは当然あると思います。
僕たちも、ロボットで人を置き換えようという目的で
研究しているわけじゃないんです。
「選択肢のある社会」がいいなと。
- 江口
- いざ技術ができたときにすごく不自然な存在だと、
それはイヤだと思う人ばかりで、
結局、選択肢がない社会になってしまいますものね。
一方で、どんなに自然に見えても、
使いたくない人は使わないという選択肢はとれる。
それはそれで尊重される社会が望ましい、と。
- 塩見
- そういうことです。
(つづきます)
2026-10-10-SAT
