
クスッと笑いを誘うユニークな雑貨がならび、
「生活のたのしみ展2025」では
とても大きな反響があったミチルさんのお店
「架空が実在する雑貨店」。
このたび、オンラインショップとして
ほぼ日にオープンすることになりました。
「架空」のアイテムを生み出した張本人
ミチルさんがどんな人なのかもっと知りたくなって
どんな発想で生まれているのか、
ミチルさんが興味関心を寄せることなど、
「実在」するアイテムを見ながら
ご本人といろいろおしゃべりをしました。
ミチルさん
「架空の雑貨」をテーマに、
心くすぐるプロダクトを生み出すクリエイター。
2020年よりSNSを中心に活動を開始し作品を発表。
現実ばなれした世界観と独創的なデザインが注目を集め、
企業とのコラボ実績も多数。
これまでの作品を一冊にまとめた
『こういうの好き 架空雑貨集』(学研出版)が発売中。
- ――
- ミチルさんのことをもっと知りたい!
ということで、今日はミチルさんの
アイデアノートや、モックを持ってきていただきました。
- ミチル
- 突拍子もないものを、
いろいろ持ってきてしまったんですが‥‥。
- ――
- いやいや。
あ! ‥‥ハトがフンを!
- ミチル
- これは「ハトの修正液」です。
なぜこれを持ってきたかというと、
「ハトの修正液」が、つくってきた中で
もっとも常識からはみ出たようなアイデアだったからです。
ものをつくるときのコンセプトを説明するのも、
これがわかりやすいかなと思って。
- ーー
- ミチルさんの思考のひみつが
「ハトの修正液」につまっている。
- ミチル
- わたしがものをつくるときに意識しているのは
「ほっこりできるもの」とか「やや違和感があるもの」など、
現実からちょっと離れていることなんです。
- ――
- たしかに、ミチルさんの作品を見ると
「見たことがあるようなないような‥‥
やっぱりないかも」みたいな、
ふしぎな感情がわきます。
- ミチル
- 作り方の手法がふたつあって、
ひとつはモノの共通点をつなげること。
あるプロダクトに対して、
共通点をほかのプロダクトに置き換えています。
たとえば、この「ハトの修正液」。
修正液の特徴として、まず見た目が白い。
用途でいうと、元の状態に戻す。
- ――
- 修正液の容姿や性格の部分ですね。
- ミチル
- そうです。
白い液としてとらえたとき、
みなさんになじみがあるもので、
かたちにしたときにインパクトがあって
おもしろいのは‥‥ハトのフンかな。と。
- ――
- なるほど!
- ミチル
- 一方、元の状態に戻すという用途で考えると、
生活にとけこんでいるもので、
小さくしたらかわいい、
かつ印象が強いものでいくと‥‥
漂白剤かな。と考えたのです。
- ――
- なるほど。
- ミチル
- 文具をモチーフとして考えたとき、
まずは特徴を洗い出して、
見た目でおもしろみを感じるものに転換していく、
みたいなことをしています。
- ――
- 土台があるんですね。
言葉の組み合わせから発想しているのかと思っていました。
ハトを見たらフンが出ている。
それを何かおもしろいものにできないか、
という方向からの発想かと。
- ミチル
- あ、そのパターンもあります(笑)。
手法をかっちり決めてしまうと
だんだん飽きてきてしまうので、
あまり手法に固執せず、つくることをたのしんでいます。
- ――
- 見た目が白っていうところでは、
ハトのフン以外にもいろいろ思い浮かびますか。
- ミチル
- そうですね。
たとえば、牛乳をこぼした様子とか。
元の状態に戻す、ということでいうと、
ショートカットキーの「Ctrl+Z」もあるな、とか。
- ――
- フンはフンでも、白鳥でもフラミンゴでもなく、
ハトというのがミチルさんらしくて。
それは先ほどおっしゃっていたような
「ほっこり」や「かわいらしい」ということを
念頭に置いているのですか?
- ミチル
- そうですね。
あとは「心地いい違和感」というのも意識しています。
パッと見たときに、なんか違和感がある。
プラス現実からちょっと離れているもの。
生活の中にあるものではあるけれども、
ハトのフンが修正液となったら、
現実的でないようだけど現実に存在している。
そんな違和感ですね。
- ――
- 「ハトの修正液」にこめられた、
ミチルさんのひらめきのひみつが
ちょっと解き明かされましたね。
ちなみに、ミチルさんのプロダクトは
文房具がネタになっているものが多いですよね。
- ミチル
- そうですね。
小さいころから文房具は好きで、雑貨も大好き。
好きが高じて自分でもつくってみたいと
思うようになりましたから。
お店でいろいろなグッズを見てまわるのも好きです。
ふだんのなにげない日常でも、
こういう活動をしているとたのしめるんです。
散歩しているときでも、本を読んでいるときでも、
スーパーに行ってもいろいろ発見がある。
メモをとりつつ頭のなかで、
アイデアのたねをひろっていく。
どんな場面でも発見があり、たのしく感じられるので、
生活がいきいきしますね。
- ――
- 日常の生活の中に発見があるんですね。
- ミチル
- 発見だらけです。
そして、もう一つの手法は、感情をかたちに変えること。
言葉がプロダクトにむすびつくことがよくあって、
たとえば「やさしい」「なつかしい」「たのしい」など
感情をあらわす単語をスマホにメモしていく。
こういう感情がモノに加わると、
共感してもらえたり、深みが増したりするので、
言葉を体現するようなモノを作ることも、
けっこうあります。
「いやされたい」という感情をかたちに変えたものだと、
「クリオネのマッサージ器」なんかもそうですね。
- ――
- 「たのしい」「いやされる」が
ダイレクトに伝わってくるアイテム。
- ミチル
- クリオネが捕食するときにだけ頭から出てくる
バッカルコーン(※気になる方は検索してくださいね)が
衝撃的で。
それをかたちにして頭にかぶったらシュールだし、
マッサージができたらいやされるんじゃないか
と思って再現しました。
- ――
- ミチルさんが描かれたクリオネの絵もうまい!
ミチルさんは美術系の学校ご出身ですか?
- ミチル
- いえ、美大ではなく建築を学んでいました。
当時は建築でモノを残したいという気持ちが強かったです。
海外の建築物では、並はずれた作品があって、
フランク・ゲーリーという建築家がデザインした建物は
誰も見たことがないような造形で惹きつけられました。
ちょっと“へん”な造形物にハマった時期があって、
そういうものを作って残したいという気持ちもありましたね。
- ――
- さらにミチルさんのことを掘り下げていきたいのですが、
小さいころから工作はお好きだったのですか?
- ミチル
- 好きでした。
ただ、たくさん作っていたというわけでなく、
夏休みの課題で熱くなって作るような、
一点集中型でした。
- ――
- そのころはどんなものを作っていたのですか?
- ミチル
- 小学生のころを思い返すと、
コンセントの差し込み口が貯金箱の穴に見えて、
ここにお金を入れることができたらおもしろいなと思って、
コンセント型の貯金箱を作りました。
そのときは手法とかロジックはまったくなくて、
単純な妄想のまま作っていましたね。
- ――
- 見た目がこれなのにこうなっている!
というようなギャップや違和感のあるモノづくりは
今にも通じていますね。
- ミチル
- そういう違和感というのは、
尊敬するアーティストの作品の影響もあります。
ルネ・マグリットの絵画や
ミシェル・ゴンドリー監督の映画『エターナル・サンシャイン』、
ゲームの『MOTHER2』の影響を、
色濃く受けていると思います。
- ――
- なんと、そこに『MOTHER2』も入るんですか。
- ミチル
- はい。
そういう現実の世界の中に、
非現実的な要素が垣間見える作品が好きで、
よりいっそう、
現実ばなれするような感覚をおぼえる‥‥。
それらが今のわたしの創作活動に結びついていますね。
- ――
- ミチルさんの作品に共通しているのは、
「こうであるべき」というのがちょっと変わっていたり、
本来の用途とはちがっていたりと、
ぜんぶに心地いい“ズレ”があります。
- ミチル
- 幼少の頃から、学生時代、今に続く創作活動まで、
それは一貫してると思います。
(つづきます)
2025-07-13-SUN
