
ほぼ日は、昨年から通い始めた尾瀬で、
土田酒造さんに出会いました。
土田酒造さんは、群馬県川場村に拠点を構え、
尾瀬の木道修繕を支援するお酒、
「尾瀬の木道」を造っています。
創業は明治時代の1907年。
現在は6代目の土田祐士さんが当主を務めています。
常識にとらわれない斬新なアイデアと手法で
唯一無二の日本酒を数多く生み出す土田酒造さんが、
なぜこの尾瀬の木道を
手がけることになったのか?
そして今回、小さなボトル缶タイプで
新たに販売することにした理由は?
土田さんと、尾瀬の歩荷でもある蔵人の渡部努さんに
酒造りと尾瀬への熱い思いを
伺ってきました。

※2025年8月取材
文・谷山宏典
「生活のたのしみ展2026」で、ほぼ日デザインの
『尾瀬の木道』のボトル缶を販売します!
イベントについてはこちらをご覧ください。

ほぼ日GO!とは、
ほぼ日が、日本全国の地域の方々と
幅広くて自由なコンテンツを作り、
更新していく場所です。
https://www.1101.com/
-
- ──
- 渡部さんは、土田酒造の蔵人のほかに、
尾瀬の歩荷(ぼっか/歩きで荷物を運ぶ仕事)も
されているんですよね。
- 渡部
- そうなんです。
春から秋の尾瀬のシーズン中は歩荷をして、
尾瀬が雪に閉ざされる冬のあいだは
蔵人として酒造りの仕事をしています。
歩荷の方がキャリアは長くて、
21歳から35年以上やっているんです。

- ──
- 木道修復プロジェクト支援酒として
土田酒造さんが『尾瀬の木道』を
販売することになったのは
渡部さんが働いていらっしゃったからですか?
- 渡部
- 最初のきっかけは、歩荷仲間が2023年に立ち上げた
クラウドファンディングです。 - 尾瀬には全長65kmほどの木道が敷かれていて、
環境省や各自治体(群馬・福島・新潟・栃木)、
東京電力さんが区域ごとに管理をしています。
木道の寿命はだいたい10年ぐらいで、
それぞれの管理者が定期的に新調や修繕をしていますが、
限られた予算のなかで整備を進めているため、
まったく追いついていないのが現状で。
尾瀬のあちこちで、腐りかけたり、
壊れたりした木道がそのままになっているんです。 - そこで、クラウドファンディングで資金を集めて、
木道の修繕に使ってもらおうということになったんです。 - クラウドファンディングには、われわれ歩荷だけでなく、
山小屋やガイドさんなど尾瀬に関わる多くの方々にも
応援団として協力をしてもらいました。
「尾瀬の木道」も当初はクラウドファンディングの
返礼品として造ったお酒だったんです。


▲今年4月末にほぼ日乗組員が訪れた尾瀬ヶ原にて。木道が朽ち、立ち入れなくなってしまっている箇所があった
- ──
- 土田酒造さんは地元群馬の企業として、
木道のことなど、
尾瀬が直面しているさまざまな課題に
以前から関心を持たれていたのでしょうか?
- 土田
- いえ、じつはクラウドファンディングの相談を受けるまで、
いまの尾瀬の状況については、何も知らなかったんです。 - 話を聞き、会社としてできることをやろうと
強く思った一番の理由は、
身近に渡部さんや五十嵐(寛明)さん
(渡部さんと同じく、
土田酒造の蔵人であり、尾瀬の歩荷でもある)
という尾瀬に深く関わっている人たちがいて、
彼らから「何とかしなければ」という
気迫が伝わってきたからです。
二人がいなかったら、こちらもそこまでの危機感を持てず、
お手伝いをしようという気持ちも
芽生えなかったかもしれません。
- ──
- クラウドファンディング自体は
2023年で終わっていますが、
その後も『尾瀬の木道』を造り、
販売を続けているのはなぜですか?
- 土田
- 直さなきゃいけない木道がまだまだあるとのことで、
だったら毎年お酒を造って販売し、
その売上の一部を木道修繕のために寄付しようと。
微々たる金額かもしれませんが、
少しでも支援になればと思ったんです。

- ──
- 尾瀬で飲ませていただきましたが、
やさしい甘みがあって、後口はすっきりとしていて
とっても飲みやすいと思いました。
- 渡部
- 『尾瀬の木道』は、
普段日本酒を飲み慣れていない人にも
たのしんでもらえるよう、
甘く、おだやかな味わいに仕上げています。
尾瀬の歩荷を描いたラベルに魅力を感じたり、
木道の修繕に協力したいという気持ちから
購入してくれる人も多いだろうと思いましたので。
- ──
- せっかくなので、
土田酒造さんのお酒造りについても
すこしお聞きしてもいいですか?
- 土田
- もちろんです。何でも聞いてください。
- ──
- ありがとうございます。
土田酒造さんは「生酛(きもと)造り」という
江戸時代の製法で
酒造りを行っているそうですね。
生酛造りにはどんな特徴があるんですか?
- 土田
- 現代の酒造りは「速醸」という製法が主流で、
流通している日本酒の90%以上が
この方法によって造られています。
速醸の特徴は、製造過程で乳酸や発酵補助剤などを
人工的に添加して、菌の働きを制御する点にあります。
そうすることで同じ味わいのお酒を
安定的に造ることができるのです。 - 一方、私たちが行っている「生酛造り」は、
蔵に住み着いている天然の菌を生かして
日本酒を造る手法になります。
蔵にどんな菌が住み着いているかは
検査をしてわかっているのですが、
それらの菌がお酒にどう作用するかは
完全にはコントロールできません。

- ──
- コントロールできないと、製造業として
すごく効率が悪いように思うのですが‥‥。
- 土田
- そうなんです。
生酛造りは江戸時代からある古い製法で、
手間もかかるし、毎回味が変わります。
ときには、思っていたのとまったく違う味に
なってしまうこともある、
言うなれば、カオスな製法なんです。
そのため、安定した品質の酒造りができるようにと、
明治時代に考案されたのが速醸なんです。 - 土田酒造でも、私が杜氏になる前は
速醸で酒造りをしていました。
それを2013年ごろから徐々に変え、
2019年からは全量を生酛造りへと切り替えたんです。
- ──
- なぜ、わざわざアンコントローラブルで
非効率な手法に替えたのでしょう?
- 土田
- 速醸は、味や品質が安定する半面、
どうしても似たり寄ったりのお酒になってしまいます。
ただでさえ日本酒を飲む人が減って
市場が縮小しているのに、
同じようなお酒を造っているだけでは
まずいんじゃないか‥‥
そんな思いをずっと抱いていたんです。 - それに速醸には、ものづくりとしてのおもしろさが
僕たちは段々と薄れていった、という理由もあります。
- 渡部
- 毎年やることが変わらないですからね。
同じ作業を淡々とこなすだけの
ルーティンワークになってしまうんです。
- 土田
- まずは、自分たちが心からたのしめて、
うまいと思えるものを造ろう、と。
生酛造りは、私のそんな考えに
合致する製法だったのです。 - 造り方を変えたとき、渡部さんら蔵人の方たちも
「酒造りがおもしろくなった」と言ってくれて。
それを聞いて、すごくうれしかったですね。

- ──
- 原料のお米は、酒米ではなく、
食用米を使用しているんですよね。
しかも、できるだけ削らないという。
- 渡部
- 日本酒には「精米歩合」という指標があり、
この数値が小さいほど、お米を削っていることになります。
たとえば、純米大吟醸酒の精米歩合は50%以下です。
土田酒造では、銘柄によって違いはありますが、
多くのお酒が90%ほどになっています。 - なぜお米を削るのかといえば、
一般的には「雑味を少なくするため」と言われています。
でも、食べておいしいお米を使っているんだから、
「削らないと雑味が出る」というのは
違うんじゃないかと思っていて。 - 雑味というか、
いま主流の日本酒にはいらない部分と
言ったほうがよいでしょうか。
米の旨みが、お酒にクドさや酸味などを与えてしまう。
でも、江戸時代には酒米なんてなく
ほぼ削らずにおいしいお酒を造っていたのですから、
米本来の旨みを、麹や酵母の特性を生かして
現代にも通用するおいしいお酒にするのが、
土田の酒造りのおもしろさなのかなと思います。


- 土田
- 私が日ごろからよく言っているのは、
「教科書を疑え」ということです。
なぜ、酒米を使わなきゃいけないのか?
なぜ、原料の米を削るのか?
これまで当たり前のようにやってきた酒造りの常識を
疑ってみると、新しいやり方が見えてくるし、
可能性も広がっていくんです。
- 渡部
- 常識を疑う、ということで言えば、
「腐造」もそうじゃないですか?
- ──
- ふぞう?初めて聞く言葉です。
- 渡部
- 発酵がうまくいかなかったお酒のことなのですが、
実は腐っているわけではなく、
普通に飲めるし、なかにはおいしいものもあるんです。
でも、業界の常識では日本酒にならなかったというだけで
腐造とされ、捨てなきゃいけないものとされてしまう。
もったいないですよね。
- 土田
- 生酛造りでは、製造過程で
いろんなアクシデントが起こります。
そのとき、「ダメだった」「失敗だった」で
終わらせるのではなく、
「じゃあ、この菌の働きをどう生かそうか」と
知恵を働かせることで、新しい味を生み出す
きっかけになることもあります。
アクシデントがあるからこそ、
イノベーションも起こせるんです。
- ──
- 次に生かせれば、
それは「失敗」じゃないですからね。
- 土田
- そうなんです。
私にとって酒造りって、柔道や茶道と同じ「道」、
つまり「酒造道」なんです。
造れば造るほどに奥深さを知り、
探究心があふれ出してくる。
まだまだ道半ばですが、
だからこそ、おもしろいんです。

- ──
- お酒造りの話は尽きませんが(笑)、
話題を『尾瀬の木道』に戻しますね。
今回、ほぼ日でオリジナルラベルを
つくらせていただいた
『尾瀬の木道』のボトル缶が
新たに発売されることになりました。

- 渡部
- 『尾瀬の木道』という名前なので、
尾瀬の山小屋でも、
たくさんの人に飲んでいただきたいし、
おみやげとして買ってもらえたら、
と思っているんです。
ただ、四合瓶だと、山小屋への運搬や、
購入して持ち帰っていただく際に
どうしても重さがネックになります。
また、山小屋での夕食時などに飲むにしても、
「四合瓶は大きすぎて、飲み切れないから」
という人もいるのではないかと。 - もっと気軽に飲めて、持ち運びを楽にするには、
瓶よりも缶がいいんじゃないかとは
以前から考えていたんです。
- 土田
- 飲みやすさを重視した今のバージョンに加えて、
来年以降は、違った味わいのものを
造ってもいいかもしれないですね。
- 渡部
- たしかに。バリエーションが増えれば、
もっといろんな人にたのしんでもらい、
『尾瀬の木道』が広がっていきそうですね。
- ──
- おいしいお酒をたのしめて、
しかも、それが尾瀬のためにもなるって、
すごくすてきなことですよね。
ほぼ日としても、今回のボトル缶をきっかけに
いろいろお手伝いができればと思っています。
- 渡部
- ありがとうございます。
『尾瀬の木道』を買っていただいた方には、
ぜひ尾瀬に来て、きれいになった
木道を歩いてほしい、とも思っているんです。 - クラウドファンディングのときに集まったお金は、
群馬側の「一ノ瀬~三平峠~三平下」の区間の
木道の修繕に使われました。
今後、寄付したお金がどのように使われたか、
情報発信もしっかりと行っていきたいので、
そうした部分でもぜひお力をお借りしたいです。
- 土田
- 実際に尾瀬を歩き、
「自分の飲んだお酒が、この木道に使われたんだ」
という実感が得られれば、
また次の年も「『尾瀬の木道』を飲もう」と
思ってくれるかもしれないですしね。 - そうやって日本酒を飲む人が
増えてくれたら、
われわれとしてもすごくうれしいです。
- 渡部
- ほんとうに。尾瀬も、日本酒も、
両方をたのしんでもらえたらなと思います。

(おしまいです)

「生活のたのしみ展2026」で、ほぼ日デザインの
『尾瀬の木道』のボトル缶を販売します!
(SG-06「ほぼ日グッズとほぼトリドリのお店」にて)
イベント情報はこちらをどうぞ。
https://www.1101.com/seikatsunotanoshimi/2026_ summer/index.html
