• 一人暮らしを始める時に電気シェーバーを買った。
    オトナになるんだなあと意気揚々と使いはじめたものの、
    なにしろ僕はズボラだから
    いちいち刃のカバーを外して
    刃に挟まった細かい髭のくずを
    小型のブラシできれいにするのが面倒で仕方なかった。
    僕は18歳で、オトナの階段なんて
    まだ手前で足踏みをしているような年齢で、
    それを「これが男の嗜みさ、ムフフ‥‥」
    なんて愉しむ余裕はまったくなかった。
    ていうかそんな18歳男子は感じ悪いですよね。
    いまは、日々の暮らしには面倒なことが山ほどあって、
    それをひとつひとつクリアしていくことこそが
    まっとうな生活なんだとわかるようになったし、
    たとえばみなさんが毎日行なっている基礎的な美容だとか
    メイクアップやメイク落としのことを思えば、
    電気シェーバーの掃除なんて
    どうってことのない作業なのだけれど、
    その頃の僕にはただひたすら面倒だった。
    当時の電気シェーバーには
    「まるごと水洗い! 清潔!」
    なんていう機能もなかったですし。
    そのうちカミソリを使うようになった。
    当時流行りだしたのは「二枚刃で深剃り」とか
    「三枚刃でやさしく肌を守る」
    みたいなキャッチフレーズの、
    プラスチック製のボディに交換可能な替え刃のついた
    安全を保証した片刃カミソリだった。
    刃と刃の間に残る髭が洗いにくいことと、
    交換刃が意外と高いことは不満だったが、
    ほかに選択肢もないと思っていたので、
    数十年、そういうものを使ってきた。
    三十代になり口髭と顎髭を
    口の周りに丸く生やすようになったが
    (いわゆるドロボウ髭というやつです)、
    その長さをキープするのに「ヒゲトリマー」という
    ちいさな電気バリカンのような家電を使いながら、
    周囲の「雑然とした部分」は剃る必要があった。
    庭の芝生はきれいに刈り揃え、
    余分な雑草はちゃんと手入れしておきましょう、
    というような感覚ですね。
    コロナ禍のあいだに
    家での生活をちょっと見直すようになった。
    その時、たいした理由もなく、
    一枚刃で両刃のT字型カミソリに買い替えた。
    リモートワークなら髭がどうなろうと構わないのだけれど、
    朝起きたら歯を磨き、顔を洗い、
    パジャマから着替えるのと同じことで、
    髭も、最小限の身だしなみは必要だと思ったのだ。
    (ちなみに理容店にすら行けない数ヶ月は、
    自分で髪を切ってました。それはそれで面白かったな。)
    さて両刃のT字型カミソリというのは
    やや「昔ながら」のスタイルである。
    金属製のボディはけっこう高価だが、
    一度買ってしまえば替え刃は安価だ。
    替え刃というのは
    昭和のスケバンが利き手の人さし指と中指に挟み
    「やっちまいな!」って凄んでいたあの刃です。
    (そんな現場は見たことないですけどね。)
    でもたしかに家庭内では危険物。
    理容師が使うようなナイフのようなカミソリとちがい
    T字型の両刃カミソリには
    「安全カミソリ」という別名もあるくらいなのだけれど、
    それでも、複数刃の片刃カミソリに比べたら凶器に近い。
    丁寧に、真剣に扱わないと肌を切ってしまう。
    そこであらためてシェービングクリームのことを考えた。
    シェービングクリームというのは、
    理容店における、あったかくてフワッフワで、
    めっちゃ濃密に泡立てられた石けんの代わりとなるものだ。
    殿方のみなさんはご存知だと思うけれど、
    理容店で髭を当たってもらうときは、
    熱々の蒸しタオルで肌と髭をやわらかくしてから
    専用のブラシでホイップしたシェービング用石けんの泡で
    顔の下半分を覆ったうえ、
    まるで風船を扱うかのように丁寧に
    研ぎたてのプロ用カミソリ(「I字型」というそうです)を
    肌の上にすべらせてくれるのです。
    でも家庭でホイップしたての
    濃密な石けんの泡をつくるのは難しい。
    時間もかかるし道具も要るし、なによりめんどくさい。
    ちゃんとやっている人っているのかな? 
    僕もじゅうぶんオトナと呼ばれる年齢になったけれど、
    どうもそういうことが似合わないみたいです。
    だから世の中には缶に入ったシェービングフォームや
    ジェルやクリームが売られている。
    なめらかなテクスチュアのそれらは、
    肌に密着して、カミソリの刃の滑りをよくし、
    髭をやわらかくして、効率的に剃り上げるのを助けるのだ。
    ぼくもそういうものを使ったことはあるのだけれど、
    香りにバリエーションがなく、
    パッケージデザインにも気に入ったものがない。
    この界隈はどうにも「旧態依然」のイメージがあって、
    メーカーも進化をあまり考えていないようだ。
    そもそも肌が丈夫でそれほど髭の濃くない僕は、
    「肌にやさしい」片刃カミソリ時代は、
    シャワーを浴びながら、という程度で、
    つまりお湯だけでも髭が剃れるほどだったので、
    わざわざ買うこともなくなっていた。
    けれども両刃のT字型カミソリにしてから、
    「やっぱりなにか、潤滑剤的なものが要るなあ」
    と思うようになった。
    困ったな、どうしよう? 
    しばらくは「とりあえず」的に、洗顔料や、
    手とボディ用の泡石けんを代わりに使っていたのだが、
    そこに意外な救世主が現れた。
    シンクーのセラムウォッシュである。

    そもそも僕はセラムウォッシュを
    ハローウォッシュとともに洗顔料として購入した。
    「おためし」というやつです。
    最初はシンクーのオススメどおりに
    「しっとりしたいときはセラムウォッシュ、
    さっぱりしたいときはハローウォッシュ」と、
    ちょっとがんばって朝と夜で使い分けていたのだが、
    この脂っぽく汗っかきの肌に
    「しっとりしたいとき」はほとんどない。
    さらに生来のズボラさでだんだんどうでもよくなってきて、
    洗顔料としてはハローウォッシュばかりを使うようになり、
    結果、セラムウォッシュが余ってしまった。
    そのとき「これ、シェービングに使えないかな?」
    と思ったのである。
    セラムウォッシュを3、4プッシュ手にとり、
    お湯で濡らしておいた顔の下半分にひろげる。
    セラムウォッシュは泡ではなく、
    ちょっと白濁した、とろんとした液体で、
    顔にすばやくひろがっていく。
    「あ、こりゃいい!」
    と、刃を当てる前に僕は思った。
    肌がちゃんと見えるからだ。
    いわゆるシェービングフォームは白い泡なので、
    サンタクロースの白髭のように口の周りを覆ってしまう。
    髭を全部剃るならそれでもいいのだが、
    僕のようにドロボウ髭をちゃんと残したいと思うと、
    「髭と、髭のない部分のギリギリ」が
    明確に目に見えるというのは非常に重要なのだ。
    その点セラムウォッシュはいい。
    透明になるから「きわ」がちゃんとわかる。
    そして、カミソリの刃のすべりの良いこと。
    カミソリなので刃を何度も肌に当てるのはよくないわけで、
    できれば一度ですっと、すばやく、髭を剃りたい。
    セラムウォッシュはそんな気持ちに
    ちゃんとこたえてくれるのだ。
    疲れて肌の調子が悪いときにも良さを実感した。
    そういうときはいわゆる「カミソリ負け」といって、
    目に見えないところでデコボコしてしまった肌が、
    髭剃り後に荒れてしまうことがあるのだけれど、
    そんなダメな肌を、
    整備したてのスケートリンクのように、
    ‥‥って比喩が間違っている気がしますが、
    やさしく肌の表面をならして、
    僕の肌をカミソリの刃から守ってくれたのである。

    髭剃りあとは水あるいはお湯で洗い流すわけだけれど、
    そのときにあっという間に落ちる感じもいい。
    肌に妙なヌメリ感はなく、
    セラムウォッシュの個性である「しっとり」が
    じつにいい具合に肌に残る。
    「ひりひり」したことは、いまのところ、ない。
    ちなみに髭剃りの儀式のフィナーレは
    アフターシェーブローションやクリームで
    肌を保護することなのだが、
    ここまで書いて気がつきました、
    これもシンクーで選ぶのがいいのではないかと。
    ちなみにいまは資生堂の「イハダ」か、
    福光屋の「純米酒 すっぴん」を使っている。
    アフターシェーブものは
    化粧品・香水系のブランドも参入しているので、
    選択肢がぐっと広くなるのだけれど、
    いまのところ決まったものはなく、
    化粧水として同僚女子が勧めてくれたものを
    なんとなく使っているのだ。
    シンクーのアイテムにアフターシェーブ用はないし、
    「‥‥にもオススメです」という記載はないのだけれど、
    ぼくのカンでは「スターティング」(美容液)
    あるいは「ウエルカムウォーター」(化粧水)は、
    アフターシェーブローションとしても
    適しているのではないかと思う。
    「武井さん、きっとすごくいいですよ!」
    と同僚女子の賛同も得た。
    うむ、これを書き終わったらTOBICHIで
    「スターティング」を買ってみようかな。
    (おわり)