日本一の清流といわれる高知・仁淀川の源流域に暮らし
自生するお茶やハーブで「和のハーブティー」をつくる
tretreの竹内太郎さん。
「ほぼ日」ではこれまで、そのハーブティーや、
仁淀川周辺で採れる「ヒノキウォーター」、
「ヒノキオイル」を紹介してきました。
そんな竹内さんが、ヒノキの消臭効果といい香りで
「お香」がつくれないだろうかと考えたはじめたのは、
2019年のこと。
ヒノキウォーターではとりきれない広範囲の空間の消臭に、
「香りすぎないお香」があったらと思ったのだそうです。
けれども「天然のヒノキの香りをお香に」というのは、
たいへんハードルが高く、
結果、試作でできあがったのは「香りがない」お香!
本意ではなかった竹内さんたちでしたが、
これが意外なことに評判がよく、
今回、製品化をすることになったんです。
そんなものがたり、竹内さんへのインタビューで
お読みください。
2024年8月22日(木) AM販売です。
販売ページはこちら。
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- ほぼ日
- 「香らず香」(かおらずこう)、
ようやく完成しましたね。
まずは「そもそものお話」から
聞かせていただけたらと思います。
- 竹内
- はい。まず、ヒノキオイルや、
ヒノキルームミストをつくってきて、
ふと思ったんです。
「ヒノキでお香がつくれないかな」って。
お香は使いたいけど、ちょっと強い匂いやな、
ということがありますが、
ヒノキの香りだったらいいんじゃないかと。
それで淡路島のお香のメーカーである
「薫寿堂」さんに声をかけて、
試作をはじめたのが「そもそも」です。
- ほぼ日
- ヒノキのお香をつくりたかったんですね。
- 竹内
- はい、焚くと、ヒノキの爽やかな香りが
フワーッと立ち上るのが、最初のイメージでした。
それで、仁淀からヒノキの枝や葉、
ヒノキオイルなどを淡路島に送って、
つくってみてもらったんです。
けれども、結局、お香にすると、
「ヒノキが燃えてる匂い」になってしまった。
あのヒノキの爽やかな香りはせず、
木が燃えてる香りだけになってしまうんです。
ヒノキの香りのお香というものが、
世の中にはあることはあるんですが、
どうやら「ヒノキのような香りをつける」という
人工的な方法らしいということもわかりました。
それで、ちょうどその試作品が出来上がったタイミングで、
落胆気味だった僕らのところに、
「ほぼ日」のみなさんが遊びにいらしてくださったんです。
「いやあ、ヒノキの香りのつもりのお香やのに、
木が燃えてる匂いしかしないんですよ」って火をつけたら、
「‥‥でもこれって、焚き火の香りみたいで、
すごくいいですよ!」と言ってくださった。
- ほぼ日
- そうでしたね、覚えています。
こんなふうに香りのないお香って
珍しいなって思ったんです。
いっそ焚き火のお香です、として
つくってみたらどうかなって感じました。
でも「だったらいっそ、香りを消したいですね」と
竹内さんはおっしゃって。
- 竹内
- そうしたら
「香りがないから『香らず香』ですね」って、
言ってくださったんですよ。
それで僕らも、ヒノキにこだわることなく、
お香づくりを再スタートすることができたんです。
ぼくも「焚き火のような」というか、
香料の入っていないお香というのはいいなと。
- 竹内
- それで、肉や魚を家の台所で焼いた後など、
ルームミストだけでは部屋中の香りが消せない、
というとき、「香らず香」の試作品を家で焚いたら、
すごく消臭の力があると感じたんです。
じゃあ、その線で押してみようかということで、
「薫寿堂」さんに
「なんとか消臭力を高めたお香にできないですか」
っていう次の段階の依頼をしていくことになります。
そのとき「薫寿堂」さんが言ってはったのが、
「じゃあ、高濃度茶カテキンと
備長炭をベースにしてやってみましょうか」
ということでした。
そして、いわゆるお線香の香りをさせないでください、と。
お線香のあの独特の香りは、
タブ(椨)の木由来なんですよ。
- ほぼ日
- タブ。
- 竹内
- いわゆる田舎のおばあちゃんちに帰ったとき、
仏壇からお線香の香りがしてる、
あの感じがタブの木を燃やした匂いなんです。
できるだけあの匂いはさせたくないんですということと、
香料は一切不使用でお願いします、
それから「煙」を、ものすごい少なくしてください、
という依頼をしました。
そうすると、高濃度茶カテキン、備長炭、
それからヤシの実石鹸などに使った残りのヤシの殻ですね。
このヤシガラは東南アジアで大量に廃棄されていて、
それを高温で炭化させたヤシガラ炭というもの、
その三つをメインでやってみましょうか、
ということになりまして。
タブは、必要最小限、ほんとうに少しだけ
「つなぎ」として入れています。
- ほぼ日
- おお。そんなふうに「香らないお香」って、
「薫寿堂」さんとしても、
珍しい取り組みだったのではないでしょうか。
- 竹内
- そうなんです。
幹部の方たちは、
「煙が出えへんで香りもないって、
それ、お線香ちゃうやん!」
という話になったそうです。
チャレンジングな社風なんですが、
仏事用での依頼という頭があったので、
結構反対されたらしいんですよ。
- ほぼ日
- 「いくらOEMでも、あかんぞ~。
こんなん、うちの製品としてはあかん!」
‥‥というような感じだったんでしょうか。
- 竹内
- そうですね(笑)。
もともと、貴重な香木の香りを煙とともに
お供えするためにこそお線香があるので、
「その二つがないもの、それはなんや?」と。
- ほぼ日
- そんなあ。
- 竹内
- ところが商品開発の研究開発課の
積田さんっていう、
僕らと同年代ぐらいの方が、
「いやいや、これはつくるべきです。
消臭に特化する商品なので、
香りも煙もいらないんです。
チャレンジをしましょう!」と
上層部を説得してくださったんですよ。
「もう仏壇も各家庭にない時代やし、
もう線香業界、ほんま、このままいったらあかんやん」と。
- ほぼ日
- おお! そうだったんですね。
- 竹内
- はい、それで手練りから試作を
スタートしていただきました。
のちに僕らが見学に行ったとき、
社長にお目にかかったんですが
「いやあ、もうなんでも挑戦せなあかんから!
また言うてください」っておっしゃってくださいました。
- ほぼ日
- よかったですね!
話が戻りますが、
タブの木を使わずに線香をつくるというのは
不具合がでないものなんですか。
- 竹内
- タブの木って結局お蕎麦でいう
小麦粉みたいなもので。
つなぎなんですよね。成形するときに粘り気を出して、
とても役立つものなんです。
だから「ゼロ」にはしないほうがいいということで、
香りがしない程度にごく少量混ぜてもらってます。
- ほぼ日
- そういうことなんですね。
- 竹内
- これで「完全無香」の線香ができると思ったんですが‥‥。
- ほぼ日
- ‥‥ですが‥‥?
- 竹内
- 実物が届いて確認したら、
かすかに香りがあったので、
すぐに積田さんに電話したら
「うち、香りがあるお香しかつくっていなくて、
香りがないものをつくるのが初めてでして…、
社内に充満しているお香の香りがついてしまいました」。
- ほぼ日
- あ!
工場にしみ込んでいる香りが
入っちゃったんですか。
- 竹内
- そうなんです。
「薫寿堂」さんの工場内の空間の、
いわゆるお香の香りをちょっとだけまとってしまった。
これが「ほんのちょっと」なんですが、
ついに、消すことはできませんでした。
ですからパッケージを開けていただくと、
ほんのりと、お香の香りがします。
それも徐々に薄れていきますし、
火をつけるとまったく気になりませんから、
「香らず香」という名前のままにしました。
僕らとしてはちょっとだけ悔しい出来事でしたが、
これがサンプルを使っていただいたお客さまには
この、ほのかにまとった「薫寿堂」さんの香りが、
意外なことに評判がよかったんです。
ですからこれは結果オーライ、ということにしました。
- ほぼ日
- おもしろいものですね。
きっと、工場の空気だけじゃなく、
機械にも、香りがしみこんでいるんでしょうね。
それでも、ふつうのお香と比べたら、
火をつけないときの香り、すごく少ないですよ。
それだけ敏感に工場の香りをまとったということは、
消臭の力も、強いんじゃないでしょうか。
- 竹内
- そうなんです。もうほんとに、
火をつけずに立てて置いておくだけで、
消臭力がちゃんとあるぐらいの量の
炭を入れてますって
「薫寿堂」さん、言うてはりました。
- ほぼ日
- 火をつけずに使うなら、靴箱とかにもよさそうですね。
一緒に入れた「高濃度茶カテキン」というのも、
消臭効果が高い素材ですよね。
- 竹内
- はい。これも通常より多めに入れると
おっしゃっていたので、
2、3倍入れてくれるのかなと期待していたら、
「10倍入れました」と。
- ほぼ日
- そんなに!
茶カテキンってどういう形状なんですか。
- 竹内
- 粉ですね。
ビーカーに入った写真があります。
一番左が茶カテキンです。
- ほぼ日
- なるほど。そしてリクエスト通り、
火をつけたときに出る煙も、少なめですよね。
- 竹内
- 超微煙、と言ってもいいかもしれないですね。
燃え方が上品で、
写真を撮ってもなかなか煙が写らないほどなんです。
そして、灰も少なめで、きめが細かい。
冷めた灰を触ると気持ちいいくらい、さらさらですよ。
- ほぼ日
- いわゆるお線香のように煙が立ち上らず、
あの独特の香りもしない。
- 竹内
- 炭が燃えてるようなチリチリとした印象ですよね。
そのかすかな燃えている香りについて、
サンプルを使ってくださったお客さんが、
「よかったです」と感想をくださいました。
あの「ないような、あるような気配」を褒めてくださった。
僕らはちょっと広めの空間を消臭したいっていうことが
この「香らず香」をつくる大きな目的だったので、
その僅かな香りを褒めて頂いたのが意外やった。
- ほぼ日
- なるほど、「僅かな気配をたのしむ」ということも、
「香らず香」のいいところですね。
ところで、一般的な商品として
消臭効果の強いお香も販売されています。
そういうものとの違いは、
ひとつは消臭力の高さ、
もうひとつはプラスされている香りの有無でしょうか。
- 竹内
- そうなんです。
まず消臭系のお香は、
他社のものを試してみましたが、
ほんまの「当社比」ですけど、
香りのなさは僕らのつくってもらったお香が
ダントツで1位です。
そして、備長炭を使い、無香性と言われているものも、
ちゃんと線香らしい香りがするんですよね。
それはおそらく主原料がタブだからだと思います。
「香らず香」は、このタブをごく微量にしている。
それはお香業界では、ものすごいチャレンジらしいです。
タブが少ないと、練るときの水分量の調整が
難しいとおっしゃっていました。
十割蕎麦をつくる感覚に近くて、
そのときの気温や湿度も関係するんだそうです。
粉と水を合わせて練って一つの塊にしたら、
大きい金属のローラーで
グーッと回しながら伸ばす作業をするんですが、
タブが少ないものは、そのローラーに
すごくくっつくらしいんですよ。
その配合を決めるのが、
たいへんやったっと、おっしゃってました。
だからこのお香は、手作業に頼る部分が大きくて、
大量生産、大量販売をしようと思うと、
できないことかもしれないですね。
- ほぼ日
- なるほど。
- ほぼ日
- そもそも「薫寿堂」さんと組もうと思われたのは
どういう経緯があったんでしょう。
淡路島は日本のほとんどのお香をつくっている、
昔から有名なところですよね。
- 竹内
- はい。
でも淡路島がメインの産地であることよりは、
「薫寿堂」さんが色々なお香づくりに
取り組んでらっしゃることが大きかったです。
伝統的なお線香だけをつくってらっしゃるところは、
こんな依頼、聞いてくれんやろなと思って。
「薫寿堂」さんは見本市とかにも出てらして、
糸状のお香や、葉っぱの形状の紙のお香など、
色々チャレンジしてらっしゃったんですよね。
だからこんなふうに
ライフスタイルに合わせていくようなお香も
やってくれるんじゃないかなっていう期待がありました。
- ほぼ日
- 制作期間4年、ですよね。
やっとお披露目ができますね。
ところで「香らず香」には
真鍮のお香立てがいっしょにならびます(*)。
これは──。 - (*)商品は、お香立てがあるもの(プラス200円)と、
ないものとが選べます。
- 竹内
- 「みのり苑」さんという、
滋賀県のお香メーカーから仕入れました。
妻が京都の「和久傳」さんに勤めていたとき、
営業前、お手洗いに白檀のお香を焚くんですけど、
そのときのお香立てがかわいらしかったと。
そのお香とお香立てが
「みのり苑」さんのものだったんです。 - tretreの初期から、
「和久傳」さんにはオリジナルブレンドティーを
ご依頼いただいているご縁もあって、
「みのり苑」さんに訊いてみたら、
あるということで、使わせてもらいました。
これだったら、お気に入りの豆皿に
置いてもらったらええなと。
真鍮は使っていくうちに味わいも出ますしね。
- ほぼ日
- はい、すがたがとてもきれいです。
竹内さん、ありがとうございました。
- 竹内
- こちらこそありがとうございます。
仁淀にも遊びにいらしてください。
- ほぼ日
- はい、またぜひ伺えたらと思っています。
今後ともどうぞよろしくお願いします。