
南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター
株式会社ほぼ日会長
雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。
南伸坊(みなみしんぼう)
イラストレーター
エッセイスト
蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。
篠原勝之(しのはらかつゆき)
ゲージツ家
作家
鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。
- 糸井
- 今さ、雑草に興味あってさ。
- 篠原
- 雑草。
- 糸井
- 雑草の先生と知り合ったら、
ほんっとにおもしろいんだよ。
- 南
- うん。
- 糸井
- 草ってどこでも生えるじゃん。
とんでもないところに花が咲いてたり。
だから雑草って強いんだなと思うじゃない。
でもあれは、ものすごい数のなかから
生き残ってるわけだよ。
数億の精子から1つが受精するのと同じで、
ものすごい中で、
「これがここでは行けたんだよ」
ってやつだけが生えてるわけだから。
- 南
- ああ、なるほどね。
- 糸井
- 「雑草は強いからどこでも生える」
っていうのは、まずはない。
- 南
- 踏まれても踏まれても起き上がる、
って思ってるよね、みんな。
- 糸井
- それも違うらしいんだ。
草は踏まれたら、そのまま生きたほうが
エネルギーをつかわなくて済むから、
起き上がらないんだって。
つまり、踏まれたまま、生える。
- 篠原
- へーー。
- 糸井
- そういうことをいろいろ教えてもらって、
おもしろいなぁと思ってるんだよ。
- 南
- アジアンタムっていうさ、
観葉植物みたいなのがあるんだけど、
けっこう弱い植物なわけ。
前に築地にいた頃に買ってきて、
家に置いたんだけど、すぐダメになった。
で、それからずいぶん経って、
鎌倉を歩いてたらさ、
溝の網目のフタの下のほうに、
アジアンタムがものすごく茂ってる。
- 糸井
- ああ、うんうん。
- 南
- なんだよ、うちの植木鉢はだめなのに、
ここだったらいいのかよって思ったけど、
つまり、そこがちょうどいい環境だった、
っていうことなんだろうね。
- 糸井
- そうなんですよ。
その場所のナンバーワンっていう。
だからそれをひっこ抜いて、
自分ちのいい場所に挿しても、
たぶん枯れるんですよ。
- 南
- ああ、それはおもしろいね。
- 篠原
- 俺も、奈良に来てから、
木とか植物とか詳しくなってきたんだけど、
植物って、基本的には1年で死ぬんだ。
木は何百年も生きて‥‥っていうけど、
そういうわかりやすいことでもない。
このあと、春日山の林を歩くんだったら、
見てほしい木があるんだけど、
その木は真ん中に大きいウロがある。
すぽっと穴が空いてるような木なんだ。
もしそこに行けたら、そのウロの中に
3人で入るといいんじゃないかと思っていて。
- 糸井
- おお、いいね。
- 篠原
- 木って、真ん中から死んでいくんだよ。
外側は柔らかくて、生きていて、
どんどん新しくなってるんだよ。
だからね、木っていうのは、
死というものを真ん中に秘めながら生きてるわけ。
すごいやつなんだよ。
- 糸井
- すごいねぇー。
- 篠原
- その、真ん中の死んだやつを材木にして、
人間は使ってたりするわけだな。
- 南
- おもしろい。
- 糸井
- おもしろいんだよ、雑草も木も。
「雑草という植物はありません」
っていう昭和天皇の有名なことばがあるけど、
雑草のひとことでくくって、
終わらせちゃったらもったいない。
- 南
- あのことばは、
「どんな植物にも名前がある」
って続くんだよね。
- 篠原
- でも実際には、
名前がついてない植物も多いんだよな。
分類学では、全てのものには
名前がついてるって言うけど、
ほんとは、まだ名前がついてないのも
たくさんあるんじゃないか。
- 糸井
- というか、ものにはぜんぶ名前がある、
っていうことが文明のベースなんだよね。
- 南
- まだ発見されてないものもあるわけだからね。
- 篠原
- ぜんぜんある。
- 南
- 日本は、植物もそうだけど、
いろんなものの種類がすごく多いんだってね。
イギリスなんかは、虫の種類とか、
すごく少ないらしい。
- 糸井
- それで思い出したけど、
俺、パリで動物園に行ったんですよ。
で、いろいろ見てたら、
「虫」っていうのがあってさ。
- 南
- 「虫」(笑)。
- 糸井
- ゾウです、キリンですみたいな、
感じで、「虫」なのよ。
なんだよ「虫」って。雑草どころじゃないよ。
でも、そこはパリの人たちにとっては、
ぜんぶ「虫」なんだって。
- 篠原
- へーー、そうかい。
- 糸井
- 虫の名前を詳しく知ってると
むしろ驚かれる。
アゲハチョウとモンシロチョウの違い、
みたいなことじゃなくて、
トンボとコウロギの違いも
ほとんどの人は知らなくて、
ぜんぶ「虫」なんだって。
- 南
- ははははは。
- 篠原
- おもしれーもんだな。
でも、ちょっとわかる気もするな。
俺、植物好きだけど、
「これはガクアジサイで
アジサイとはちょっと違って‥‥」とか、
そういうことはどうでもいい。
そのへんはぜんぶアジサイでいい。
- 糸井
- (笑)
(日本人は分類が好きなのかもしれない。つづく)
2026-03-19-THU
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写真・山口靖雄(MountainDonuts)
これまでの「黄昏」シリーズ
黄昏
黄昏放談
黄昏 日光・東北編
黄昏 あちこち編
黄昏 スカート編
黄昏 ブータン編






