南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。

>糸井重里

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糸井重里(いといしげさと)

コピーライター
株式会社ほぼ日会長

雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。

>南伸坊

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南伸坊(みなみしんぼう)

イラストレーター
エッセイスト

蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。

>篠原勝之

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篠原勝之(しのはらかつゆき)

ゲージツ家
作家

鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。

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第29回 においについて書きたいけれど


篠原
自分に嗅覚がないことをね、
なんとか書けないかなと思って、
何度か挑戦しているんだけどね、
20、30枚書いては、やっぱりダメだった、
ってなってるんだよ。

ああ、つぎの本のテーマに。
篠原
そう。きっかけは、おっかさんが
死ぬ前に言ったことばを思い出したことでさ。
俺は、子どものころにジフテリアになって、
嗅覚と鼓膜がなくなった。
それは知ってたんだけど、
おっかさんが死ぬまえに、
「自分も一緒に入ったんだ」って言ったんだよ。
俺ひとりだけが隔離されてたんじゃなくて、
その隔離病院に、おっかさんも入ってた。
糸井
ああ、そうなんだ。
篠原
そうだったんだよ。
ジフテリアは伝染病だから、
おっかさんは、自分にうつるかもしれない。
だけど、俺といっしょに入ったんだ。
17歳で俺を産んだんだからね。
まだ女子学生みたいなもんだった。
親父も戦争行っていなくなっちゃって、
はじめて産んだ子がジフテリアになって、
いっしょに隔離されてた。

糸井
すごいことだね。
篠原
俺はそこから嗅覚と片方の鼓膜がない。
だから、いつも、なんかこう、
自分と世界との間にね、
トレーシングペーパーが
はさまっているというか、距離感がある。
でも、その人に嗅覚があるかないかなんて、
傍目からはわかんない。
そういうことを、書いてみたいんだよ。
でも、書けないんだ、なかなか。
糸井
むずかしそうだねえ。
においのことをことばで書くわけだからね。
篠原
そうなんだよ。30枚くらい書いても、
あ、これじゃなかったな、って感じになる。
だからね、俺、糸井たちと会ってから、
また3回目に挑戦しようと思ってたんだよ。
おお、いいね。
糸井
うん、それはぜひ!

篠原
でも、難しいんだよなあ。
自分にずーっとついて回ってるんだ、
においがないっていうことは。
糸井
においがないことがベースになってる。
篠原
そうなんだよ。
ほんとは、においがあるんだよな、と思う。
男にもにおいがある。女にもにおいがある
猫にもにおいがあるんだろ?
ある。
篠原
だからたぶん、
においっていうのは大事なんだよ。
糸井
かいでるわけじゃなく、
自然に感じてるにおいもあるし。
無意識でいいにおいを感じ取って、
ここは居心地がいいな、
って感じたりもするから。
篠原
鼻をつまんだら、においは来ないんだろ?
まったくしないわけじゃないよ。
糸井
鼻つまんだらっていうか、
風邪ひいてにおいが感じられないときって、
ものすごく世界が味気なくなるよね。
無味乾燥になっていくというか。

篠原
やっぱり、不思議だなあ。
ほら、目だったら、つぶれば見えねえじゃん。
鼻はアザラシみたいに塞いだりできねえだろ。
糸井
もし人間にそれができたら
ぜんぜん違うだろうね(笑)。
篠原
なあ(笑)。
そういうのを書きたいんだけどなあ。
糸井
においとさ、肌触りとかっていうのは、
どっちも同じように
ことばにしづらい部分じゃないですか。
視覚は、みんな名前がついてる。
味覚も、かなりみんなが共有してる。
でも、においと肌触りは、どっちも難しい。
篠原
うん、肌触りも、そうかもな。
糸井
感覚と感覚が混ざるというのもあるよね。
暑いっていう感覚と、汗ばむ感じと、
においって、けっこう近い感じがする。
ああー、そうかもね。
篠原
うん、うん、そういうのをやってみたい。
糸井
やってみたいよね。
詩が先にあるんじゃないの?
篠原
ん? 死んじゃう?
糸井
詩、ポエムのほう。
まず詩として自由につくって、
それをもう一回ノベライズするというか、
文章として組み直したらいいんじゃないかな。
篠原
うんうん、
また、羅針盤がそう言うんならね。
一同
(笑)

でも、それはいいな。
考えてみるべきだと思う。
糸井
詩って跳躍することはOKだからね。
小説は読み手が
ついてきてくれないと困るんだけど、
詩は、知ったこっちゃないからね。
『ねじ式』なんて、まさしく詩ですよ。
ついてこなくてもいい。
篠原
そりゃ、いいヒントだな。
また、俺にアイディアをくれたな!
糸井
ははははは。
自分も興味あるんですよ。
詩が先だなってのは。
篠原
うん、やってみよう。
糸井
いいねえ。80歳を過ぎても
そういうのやりたいっていうのがすごい。
そうだね。ほんとうにすごいよ。
篠原
あ、俺か?
うん。いいなあと思って。
糸井
幸せだよね。
篠原
そうかな(笑)?

(引き込まれてしまう話でした。つづきます)

2026-03-25-WED

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  • 写真・山口靖雄(MountainDonuts

    これまでの「黄昏」シリーズ

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    黄昏 日光・東北編

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    黄昏 スカート編

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