
南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター
株式会社ほぼ日会長
雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。
南伸坊(みなみしんぼう)
イラストレーター
エッセイスト
蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。
篠原勝之(しのはらかつゆき)
ゲージツ家
作家
鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。
- 糸井
- ぼくらの知ってる人で言うとさ、
和田誠さんがさ、誰にも会わなくなって、
家族だけが静かに会っている状態が続いて、
亡くなったじゃないですか。
それから、谷川俊太郎さんも、
また今度会おうね、のまま会わなくなって、
そのまま逝ってしまった。
つまり、社会的な意味での
和田誠さんとか谷川俊太郎さんというのは、
まず、いなくなった状態になって、
それから亡くなっているんですよね。
そういう去り方、
ある意味でいえば見栄の張り方は、
俺はすごくわかるんですよ。
それはちょっといいなっていうか。
そっちがいいな、っていう気が。
- 南
- うん、うん。
- 篠原
- そうだなあ。
- 糸井
- 毎日、じゃんじゃんお見舞いの人が来てさ、
まもなく死にますっていうのよりも、
なんか隠れて消える方がいいかなっていう。
- 篠原
- 猫とか象みたいにな。
- 糸井
- ああ、そうだね。
それがいいよね、できたらね。
- 篠原
- 俺もそれがいいな。
- 糸井
- ただ、あれなんですよね、
和田さんにしても、谷川さんにしても、
ぼく自身は、もう一回会うだろうな、
と思ってたところがあるんですよ。
- 南
- ああ。
- 糸井
- それは、なんか、
残った側のさみしさがちょっとあったなあ。
- 南
- そうかもしれないね。
自分がどっち側にいるかで
変わってくるんだな。
- 糸井
- わからないけどね。
延命のことにしたって、
俺はしなくていいぞといまは思ってるけど、
そう簡単なことでもないんだろうし。
苦しくないのがいい、とは思うけど、
どういう段階の何をして、
何をやりたくないのかわかってない。
肺が苦しくてぜいぜいして息苦しいとき、
吸い取りましょうって言われたら、
それを断りたいのかっていうとよくわからない。
- 南
- ああ、そうだねえ。
- 糸井
- 延命なんかしなくていいって言ってる俺らは、
すごく不遜なことを言ってるのかな、
命を大事にしてないのかな、という気にもなる。
- 南
- そんなことはないでしょ。
- 篠原
- そんなことないと思うぞ。
おっかさんはそのまま死んじゃったけど、
不遜でもなかったし、
命を粗末にしてたわけじゃない。
ただ、ただ、「おー」って言いながら
死んじゃっただけだよ。
- 糸井
- そうだね。
まあ、どうなるんだろう、そのとき。
- 篠原
- 俺だって、何も要らないって言ってるけど、
いざそうなったら、
もっと生きたいとか言い出すかもしれないしな。
- 糸井
- そうそう、そこ、興味あるんですよ。
そうなったら人間というのは
もう10分でも長く生きていたくなるんだ、
っていう話も聞くし、
でも、みんながそうだとくくるのも
気をつけたほうがいいと思うし。
- 南
- うん、うん。
- 篠原
- かといって、
わざわざ死にたいとも思わないもんな。
- 糸井
- 思ってない、思ってない。
そうなんですよ。
だから、人間って、いろんな思いがあるから、
よくわからなくなってくるんだよね。
それよりは、比べるわけじゃないけど、
うちの犬が死んだときのほうが、
きちんと考えられた気がする。
- 篠原
- ああ、わかる気がするな。
- 糸井
- うちの犬、体力がだんだん落ちていって、
食べられなくなってね、
けっこう長く入院してた。
たぶん、昔の犬なら、自然に死んでるわけだよ。
- 南
- まあ、そうだね。
- 糸井
- お見舞いに行くんだけど、
もう病院から出られなくて。
最後に家に一回引き取って、
一日いっしょにいて、また病院に戻して、
どうしますかっていう状態になった。
いよいよ酸素の部屋にしかいられません、
っていう状況でね。
それはどういうことを意味するかっていうと、
ただ、その酸素の部屋で、
体力が尽きていくだけなんだ。
かみさんと二人で、その話を聞くわけだよ。
どうするかっていうのは、
二人で相談して決めるしかない。
かみさんは、いつもいろんなことを
自分で決める強い人なんだけど、
そのときは、どうする? って俺に言うわけ。
つまり、このまま酸素の部屋に居続けるか、
まあ、安楽死をさせるのか。
- 南
- ああ。
- 糸井
- それは、つながってる管に
眠らせる薬を入れるということを聞いた。
眠っちゃうと、そこでおしまいになる。
でも、めずらしく、かみさんが
どうしたらいいかわからない、
っていう状態だったから、俺が決めた。
眠らせることにします、って。
俺がそう言ったら、かみさんはいつもの感じで
わかったって言って、酸素室の前に行って、
「私が抱く」って言った。
俺は、抱きたいわけじゃなかった。
そこは、役割が違うんだよね。
先生が、いま薬が入りましたって言って、
抱いてるかみさんには心臓の動きがわかるから、
しばらくして「‥‥止まった」って言った。
そこから連れて帰る話をして、
お花とか箱とかを用意して、
なんていうか、そこはちゃんと
ひとつずつ選んで進んだ感じがした。
人だったら、あんなにひとつひとつ
ちゃんと考えられたかどうかわからない。
それは、へんな言い方だけど、
経験しておいてよかったなという気がする。
- 南
- そうかもしれないね。
- 糸井
- 眠らせる、イコール、死ぬ、だったのは、
ちょっと俺、うらやましいというか、
いいなと思った。
もちろん悲しかったけどね。
いまになってみると、
そのくらい一回純粋化させて考えた方が、
自分にはいいのかなと思った。
眠らせる、イズ、死ぬ、っていいなって。
- 篠原
- うん。永眠っていうもんな。
- 糸井
- そうだ、永眠。うん。
あと、どんなに死にそうになっても、
動物が絶望しないんだっていうのは、
すごく説得力があった。
- 篠原
- そうそうそう。
動物もそうだし、植物もそう。
死にたいなんて思う生物なんか、
人間以外はいない。
- 糸井
- いないですよね。
- 篠原
- ネコヤナギだって、
死にたいなんて思わないからな。
- 糸井
- ネコヤナギ‥‥。
- 南
- それは動物と植物を兼ねた例として?
- 篠原
- いやいや、たまたま思いついただけ(笑)。
- 糸井
- 動物も植物も、ネコヤナギも絶望しない。
- 南
- いいねえ(笑)。
- 篠原
- はははははは。
(長く続きました、次回が最終回です)
2026-04-06-MON
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写真・山口靖雄(MountainDonuts)
これまでの「黄昏」シリーズ
黄昏
黄昏放談
黄昏 日光・東北編
黄昏 あちこち編
黄昏 スカート編
黄昏 ブータン編






