編集・濱田髙志、アンソロジスト。
装丁・祖父江慎、コズフィッシュ。
版元・吉田宏子、888ブックス。
あきれるほどすごい手塚治虫さん本を
つくったのが、この3人。しかも3冊。
天才漫画家の煌めくクリエイションを
時空を超えて受け止め、
21世紀の世に放つ、現代の三銃士たち?
聞けば聞くほど「おそろしい」、
その本の制作過程を、
5時間がかりで、うかがってきました。
諸事情あって取材は実に1年半以上前。
時節柄、そろってマスク姿の三銃士よ。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第18回
コズフィッシュ、午後6時。
- ──
- すっかりとっぷり、日も暮れました。
録音が「5時間」に迫る勢いです。
- 祖父江
- もうひとつ、言ってないのがあった。
- ──
- もう、ぜんぶ言ってください。
- 祖父江
- えーと、セリフのことです。
流行りがあるんですよ、家族の中で。
- 濱田
- そうでしたね。
- 祖父江
- 最後に「う」をつけてんです。なぜか。
「ママーものがたり『う』第2期」。 - こことか。ほら。「ものがたりう」。
- ──
- あ、本当ですね。「ものがたりう」。
ふしぎ。
- 祖父江
- ものがたりう‥‥って何だろうって。
読んでると気がつくんですよ。
「う」の存在に。 - セリフの最後に「う」が付く場合が、
けっこう多いんですよね。
- 濱田
- 手塚家、きょうだいの間で、
流行っていた言いまわしのようです。
- ──
- いろんな発見がありますね。
子ども時代の作品、おもしろいなあ。
- 祖父江
- あるいは「なんぞえ」とかね、
他にも、おもしろいセリフあるよね。 - あと、この絵、見て見て。
ボロボロだったんだけど、
折れてるのを伸ばしてスキャンした。
すごい丁寧なんです、絵が。
- ──
- ママーが「一本背負い」してる。
- 濱田
- びっくりしますよね。うまくて。
- のちの手塚先生になる子とはいえ、
子どもが描いた絵なわけだし。
- 祖父江
- この美しさ。
- こんな単純なかっこうしたキャラが
一本背負いする絵って、
どうやって描くんだろうね。ふしぎ。
投げられてるひとの
「ちんちん」が出ちゃってるとこも、
かわいいですね。
- ──
- ほんとだ(笑)。
ちょいちょい「ちんちん」出ますね。
- 濱田
- あと「ママー語」ってのがあって。
- ──
- あ、辞典が載ってましたね。巻末に。
- 祖父江
- 他にも言いまわしでおもしろいのが
あったと思うんだけど、何だっけ。
- 濱田
- あー、「ウワーシイーハー」ですかね。
- 祖父江
- そうそう! 「ウワーシイーハー」。
- どうしてこんな表記なんだろうという
ギモンについては、
詳しい担当の濱田さん、お願いします。
- 濱田
- はい。「ウワーシイーハー」ってのは
「わしは」のことで「強調」ですね。
役者が舞台で言ったとおりに、
文字化しているみたいなことなんです。
- 祖父江
- はいはい、そうでした。
- 何が言いたいかっていうと、
「音」を大切に表記しているとこが、
おもしろいんです。
口語的な音をなるべく再現しながら、
おもしろがって描いてるから、
声に出して読むといいよって話です。
- 濱田
- 言語感覚も優れてらしゃいますよね。
手塚先生。子どものころから。 - とにかく10歳くらいの子どもが、
いろいろあれこれ
構想して、組み立てて、描いている。
そのことが、
そこここからわかる本なんです。
- ──
- おもしろがっていることが伝わってきますね。
本当にお好きなんだ‥‥ってことも。 - それとそういう年齢のころから、
後の大作家につながるエッセンスが
垣間見えるのも、びっくりです。
- 濱田
- 本当に。
- 祖父江
- あ、あとね、このへんもすごいよ。
- これ、ここ。「の」が襲ってくる。
見て見て。この「の」の大群を。
- ──
- うわー‥‥なんだこれ!
- 濱田
- 発想がおもしろいんです。
だって「の」の字に呑まれるって。
- 祖父江
- ねえ。おかしいよね。
ま、いっか。今日はこれくらいで。
- ──
- あ、急に終わった(笑)。
- でも、ここまでもう「4時間半」以上、
5時間に迫る勢いです。
おもしろかった。おなかもすきました。
- 祖父江
- すいたよねー。
- まとめると、手塚治虫先生の
子どものころのノートが残ってました。
でも、古いし紙質も悪いし、
簡単には触ることもできない代物です。
読むのさえ、無理な状態だったんです。
- 濱田
- ボロボロになっちゃうので。
- 祖父江
- スキャンをするだけでも大変でした。
- ──
- 見積もり「280万円」と言われたり。
そこへ救世主が現れたり。
- 祖父江
- 正直言って、本当に苦労した本です。
過去イチ大変だったかも。
- ──
- そこまでの本でしたか‥‥!
- 祖父江
- だってページ数がページ数でしょ。
600ページもある。 - データつくるのが難しいページは、
1日がかりになっちゃうんですよ。
もうイヤんなっちゃいそうでした。
- ──
- でも、出ましたもんね。こうして。
- で、出た以上は「残ります」よね。
人類史に‥‥と言っても
大げさじゃないような物体として。
- 濱田
- よかったです、本当に。
- 祖父江
- 今日の長い長いお話を聞いて
「あ、すごい!」と思ったあなたは、
ぜひとも読むべき。高いけど。 - どっちでもいい人は買わないでね♡
- 濱田
- 本当に興味を持った人に、
ぜひ届いてほしいという意味ですね。 - なくなりそうだから買っておこうか、
というんじゃなくて。
- 祖父江
- そうです。
- ──
- 少なくともこのかたちでは、
重版は難しいというお話でしたし。 - 在庫的には、まだ、大丈夫ですか。
- 濱田
- 大丈夫です。
- 祖父江
- ぜひー。
(おわり)
2024-11-14-THU
-
手塚治虫さん三部作、
888ブックスのサイトで
特典つきで販売中!新聞漫画集成『マアチャンの日記帳』と
初の商業出版となる 『ロマンス島』をセットにした
『手塚治虫アーリーワークス』(20000円+税)。
意欲作「タイガーランド」と
「アバンチュール21」をはじめ、
初単行本化作品を含む8作品を収録した、
3分冊からなる豪華作品集
『手塚治虫コミックストリップス』(12000円+税)。
そしてなんとなんと、
手塚先生が10歳から15歳のときに描いたという
『ママー探偵物語』(22000円+税)。
そんな、あきれるほどすごい3部作が、
濱田さん+祖父江さん+吉田さんの3人組によって、
つくられてしまいました。
手間とコストがかかりすぎているので、
このままのかたちでは増刷不可能だろうとのこと。
今回のインタビュー全編を通じて、
その魅力について語っていただいているのですが、
収録時間約5時間の全18回と、なにぶん長大。
いったいどんな3部作なのか、
スライドショーで、いちはやく、ご確認ください。
888ブックスさんのサイトで購入すると、
それぞれに、素敵な特典がついてくるそうです!