
ビワコットンは、江戸時代から続く伝統的な織物、
「縮」(ちぢみ)がルーツです。
表面にさざ波のような、細かい凹凸があり、
コットンの平織りなのに、
おどろくほど伸び縮みする独特の生地は、
通気性がよく、さらりとした肌ざりがよく、
涼しく過ごせると好評で、
たくさんの方に愛されています。
その、ビワコットンに、
ONIYORYU(鬼楊柳)が仲間入りしました。
おなじみのビワコットンよりも
生地の凸凹が深く、少し厚く、
やや重みがあるのがONI YORYUの特徴です。
でも不思議なことに、身につけてみると、
とって軽く感じる着心地なんです。
おどろくほど伸び縮みするという、
着心地のよさに反して、
作る側にとっては扱いにくい生地で、
裁断も縫製もたいへん。
製品を開発し、ブランドをプロデュースする
大手アパレル・カイタックインターナショナルの
山下秀一さんに、
新しい仲間のONIYORYUについて、
お話をうかがいました。
-
- ほぼ日
- 今季のビワコットンの注目は、
あたらしい素材、「ONI YORYU(鬼楊柳)」ですね。
ここまで違うのはほんとに久しぶりに思えて、
「こういうのもできるんだ」っていう驚きがありました。
- 山下
- 「楊柳」っていうのは、この、シワみたいな
シボシボがある生地のことなんです。
ビワコットンのルーツである「高島ちぢみ」の
代表的な生地の表情なんですよ。
で、楊柳の中でもこの凸凹が深いものを
「鬼楊柳」って呼んだりしてたんです。
- ほぼ日
- へえー。そういう原型があるんですか。
見た目は伝統的な「高島ちぢみ」なんですね。
- 山下
- そうなんですよ。
言ってみれば、顔だけ見たら高島ちぢみの原点。
昔の素材のネーミングって、風情があるというか。
楊柳っていう言葉も、すごく味わい深いですよね。
鬼っていうのは、「鬼おろし」とか、
宮崎県の名所の「鬼の洗濯岩」とか、
ゴツゴツしたものに「鬼」ってつけるような。
- ほぼ日
- なるほど。そういう「鬼」なんですね。
- 山下
- この製品も、ふつうのビワコットンよりも
凸凹がさらに深く、鬼の肌のようにゴツゴツしてる、
そこから「ONI YORYU」ってネーミングに。
- ほぼ日
- ああ、納得できました。
高島ちぢみの、もともとあるものは、
ビワコットンみたいに伸びたりはするんですか?
- 山下
- 若干伸びますね。
でこぼこがあるから、その分だけ伸びます。
その撚糸を、もっとたくさん撚って、
高島ちぢみよりも倍近くまで増やして、
ぎっちぎちに撚った糸で織るのがビワコットン。
そうすると、ものすごく縮んじゃうけど、戻せば伸びる。
この振れ幅でストレッチ性がうまれるってことですよね。
伸ばしたら、伸びたままじゃなくて戻るっていうところが
ビワコットンの特徴なんですよ。
- ほぼ日
- そうですよね。
平織なのに、カットソーみたいな伸縮性。
- 山下
- 生地の表面の凸凹も縮みより大きいので、
肌に触れる部分がより少なくなって、
涼しさや軽い感覚、快適さに繋がるんですね。
- ほぼ日
- その快適さこそ、ビワコットンならでは、ですよね。
私もふくめ、手放せなくなってる人が多くて、
リピーターもすごくたくさんいらっしゃいます。
- 山下
- ビワコットンは2017年がスタートなので、
もう、始めて8年なんですよね。
今、ビワコットンといえば、Tシャツの、
あの素材がスタンダートみたいに
思っていただけるまでになりましたね。
- 山下
- ビワコットンの開発の最初は、
何が売れるかわからない、っていう状態でした。
スタートした時は、高島ちぢみベースの素材を、
既存の物も含めてひとつのコレクションとして
総じてビワコットンって言ってたんです。
試作生地を、それはもうたくさん作って。
- ほぼ日
- へぇー、そうだったんですね。
- 山下
- じつは今回の「ONI YORYU」のベースになるものも、
その中に、開発の立ち上げの時にあったんですよ。
ただ、僕ら、ビワコットンのスタートの時は、
これだと高島ちぢみ「らしさ」が強すぎちゃって、
ファッションとして出すのには
ちょっとしんどいかなって思ってたんです。
ただ、今は、ビワコットンっていうものが
ある程度みなさんに知っていただけたということもあって。
- ほぼ日
- それで今回、デビューとなったんですね。
これ、今までのものよりも厚手というところが
まず特徴的かなと思ったんですけれど。
- 山下
- 高島ちぢみって、細い糸を使ってるんです、40番っていう。
で、今おなじみになってるビワコットンの糸も、40番。
経糸も緯糸も40番で、薄くて軽くて快適なんだけど、
アウター系にするにはちょっと心許なかったんですよ。
Tシャツにはいいんですけどね。
ボトムスやアウターになれるような、
そういう生地を作るにはどうすればいいかと。
それで、糸を倍の太さにしたんです。
そうすると、シボシボももっと深く、
生地も嵩高な、厚手のものになる、と。
- ほぼ日
- 倍の太さなんですね。今のビワコットンの。
- 山下
- そうですね。
だけど実際、高島地区では今まで、
そんなに太い糸を使った商品の需要はなくて、
作ったことがほぼなかったんです。
肌着やパジャマは、こんな分厚くないですからね。
糸使いのことで言っても、
ずっと同じものをやってるところに、
いきなり違う糸でやってくださいってお願いしても
そんなに簡単にはいきませんからね。
- ほぼ日
- そうですね、むずかしいですよね。
- 山下
- そういう時に、じゃあやってみましょうかって、
ちゃんとやってくれたのが杉岡さんなんですよ。
(杉岡さん、山下さん、轟木さんの座談会)
- ほぼ日
- 杉岡さん、チャレンジャーですよねー!
- 山下
- そうそう。ほんとにそうなんですよ。
- ほぼ日
- そういうことって、よくあるんですか?
- 山下
- 昔のアーカイブみたいなものは僕はずっと持ってて、
あれやりたいな、これやりたいな、っていう元にはなってた。
その逆もあって、杉岡さんのほうから、
「これ、もう1回どう?」みたいなこともありますし。
やっぱり杉岡さん頼みになってるんですけど、
そういう中で、「ビワコットン」の商品を作ってきたんです。
でも試作品を、当時はビワコットン用じゃない
普通の撚糸で作ってたのが、かれこれ8年前ですから。
8年たって、いきなり出てきたんですよね(笑)、これ。
- ほぼ日
- 「ONI YORYU(鬼楊柳)」
今までのビワコットンとの違いというと?
- 山下
- ビワコットンは、「高島ちぢみ」をベースに、
もっと快適に、そして伸縮性も持たせて
機能性を高めた生地ですけれど、
鬼楊柳は、それをもっとアップデートさせた、
そういう生地と言えると思います。
- ほぼ日
- 確かに今のビワコットンよりも厚地で
アウター向けではあるけれども、
肌に触れる部分はさらに少なそう。
- 山下
- ただ、これもまぁ、製品にするのが難儀で。
- ほぼ日
- あぁー。
- 山下
- やっぱり伸びるってことは縮むし、
縮むってことは伸びやすいし、っていうことは
生地屋さん、縫製屋さん、アパレルメーカーさんにしたら、
なんて安定性のない生地なんだ、っていうことなんですよ。
触って伸ばしていただけばわかるように、
もう、びよんびよんじゃないですか。
しかもこんなにデコボコしてるし。(笑)
- ほぼ日
- そうですよねー(笑)。
今までのビワコットンに比べても、より大変だと思う。
- 山下
- で、うちは製品染めしてるでしょ。
洗ったり、染めたりするとさらに、
寸法がね、もうバラバラにあがってくるんですよ。
- ほぼ日
- あぁー。
色によっても違いますよね、縮みかたが。
- 山下
- そう。色によっても、その時の環境によっても。
極力、寸法の安定性を出すようにはしてますけど。
- ほぼ日
- 見た目がちょっとワイルドなイメージ。
肌触りも、シャリシャリ感が強いような。
だけど着ると軽いっていうのがすごいですよね。
- 山下
- 手に持ってみると、まあまあの重量感はあるんですけど、
着ちゃうと、軽く感じるんですよね。
肌から離れるので、あんまり重たさを感じない。
そこは、ビワコットンの基本的な性質ですけれど、
それが極端にわかりやすいのが鬼楊柳なのかな、と。
それと、透け感があんまりなくて、安心感がある。
あとは、この光沢感ですよね。
今までと同じ、綿100%なんですけどね。
天然素材独特のラフな感じよりも、少しドレスっぽい。
- ほぼ日
- 質感が独特で、しかも光沢が見えるんですよね。
ツヤとか光沢っていう要素も、
今までのビワコットンにはなかった要素ですね。
- 山下
- そうですね、そういう意味でもONI YORYUは、
ビワコットンの中でも特徴がある素材にはなったので。
今までの商品はインナーとかルームウェア要素が強くて、
Tシャツみたいなものまでだったんですよね。
アウターみたいなものって、なかったんです。
- ほぼ日
- そうですね、はい。
- 山下
- 今回はね、轟木さんの力もお借りして、
アウターっぽいものが出来上がったと思っています。
それ用の素材として作った甲斐がありました。
- ほぼ日
- 涼しくもありつつ、ちゃんとたくましい。
体のラインをそんなに拾わずに、
かっこよく着られそうっていうのはいいですよね。
今回はワンピースとパンツとロングシャツ。
確かに部屋着感はなくて、どこにでも行けそうな感じ。
着心地がよくて、自宅でも気兼ねなく洗濯できるのも、
すごくありがたいんですよ。
- 山下
- そうですね。
強いですから。鬼のようにね(笑)。
それこそ鬼のように、ヘビロテしていただいて(笑)。
- ほぼ日
- 毎日のように着て、洗って、ですね。
ビワコットンに、頼もしい仲間ができましたね。
ありがとうございました。
(おわります)