
「ほぼ日マンガ部」の、
「はじまりの旗」になるようなポスターを。
糸井重里からのそんな依頼を受け、
横尾忠則さんが描きあげてくださった1枚の原画が、
500枚の「オフセットポスター」になって販売されます。
このオフセットの印刷を担ってくださったのが、
師匠の代から横尾さんとお仕事をされている、
TOPPANのプリンティングディレクター、富岡隆さん。
今回、『デザインのひきだし』の編集長、
津田淳子さんが聞き役を引き受けてくださり、
このポスターに込められた富岡さんの
「オフセット職人の矜持」とも言える部分が、
ひとつの連載になりました。
本物に迫る、「嘘とごまかし」。
その鮮やかで泥臭い情熱と技術を、
全3回でお届けします。
富岡隆(とみおか・たかし)
1972年埼玉県生まれ。TOPPAN株式会社のプリンティングディレクター。
1991年に入社し、98年よりプリンティングディレクターとして写真集・絵本・美術印刷など出版物全般の制作に携わる。
津田淳子(つだ・じゅんこ)
1974年神奈川県生まれ。編集者。『デザインのひきだし』編集長。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にデザイン書や美術書などをあつかうグラフィック社に入社。2007年、毎号、発売してはすぐに完売してしまう『デザインのひきだし』を創刊。現在は株式会社水鈴社に移籍し『デザインのひきだし』を続刊。デザイン、紙の種類や加工、印刷技術にまつわる、さまざまなテーマを追求し続けている。
- 津田
- 今回のオフセットポスターで表現した「厚み」は
「目の錯覚」とおっしゃいましたけど、
それはどういうことなんでしょうか。
- 富岡
- 平面の世界で「立体感」を表現しようと思ったら、
基本的にやることはやっぱり、
「光と影」を描くことなんですよね。
原画には実際に絵の具の盛り上がりがあるので、
厚みが出ているところは光が当たってより鮮やかに見えるし、
厚みで隠れてる部分は影ができて、
実際に塗られている色よりも暗く見えますよね。
その、絵の具の厚みがつくる「陰影」を、
オフセットポスターでは「色」で表現していくんです。
- 津田
- それは具体的に、どんなことをしていくんですか?
- 富岡
- 簡単に言うと、
「影が強ければ強いほど、光も強く見える」
っていう仕組みと一緒のことをします。
「黒の真ん中に白がある」のと、
「グレーの真ん中に白がある」のだと、
「黒の真ん中に白がある」ときのほうが、
白は明るく見えますよね。
- 津田
- そうですね。
- 富岡
- それと同じで、
たとえば「画面全体が真っ赤」の状態よりも、
暗い色のなかに「真っ赤」があると、
その赤は実際の色よりも、
ものすごく鮮やかに見えるわけですね。
こうやって、原画の「陰影」を再現していくんです。
そうやって色の組み合わせ方や置き方によって、
明るさと暗さ、光と影の部分を表現して
「厚み」や「立体感」を錯覚してもらう、という理屈です。
なのでこのポスターでは、
原画にはない色もたくさん使ってますし、
原画と並べたら、1色1色はもう全然違うんですよ。
- 津田
- あの、すごくベーシックな質問になってしまうんですけど、
このポスターって、何色で刷ってるんですか?
- 富岡
- 「4色」です。
シアン(藍)、マゼンタ(紅)、
イエロー(黄)、スミ(ブラック)の4色。
- 津田
- えっ!?
普通に、一般的な「プロセスCMYK(※)」ってことですか? - ※プロセスCMYK‥‥紙に印刷するときに用いる、
C=シアン、M=マゼンタ、Y=イエロー、K=ブラック
の4色インキを組み合わせて色を作る標準的な方法のこと。 - CMYKインキって基本的に、
「オレンジ」とか、「ピンク」とか、
「蛍光っぽいグリーン」とか、
「鮮やかな色」を出すのが苦手じゃないですか。
だから素人考えだと、
原画のこの鮮やかな色を表現するためには、
CMYKの「4色」だけじゃなく、
「蛍光ピンク」も足してみようとか、
5色、6色、7色って、
色の数を増やして刷ってるのかなと
てっきり思ってたんですけど、「4色」?
その色構成でどうやってこの鮮やかさとか、
陰影の感じを表現したのか‥‥
ちょっといま、私には考えがつかないんですけど。
- 富岡
- じつはこれ、通常のCMYKインキじゃないんですよ。
今回はより鮮やかな色が出せる、
「カレイドインキ」を使ってるんです。
- 津田
- あっこれ、「カレイドインキ」なんですか?
東洋インキの。
- 富岡
- そうなんです。
使い方はちょっと難しいんですけど、
ちゃんと使い方を考えて、うまくハマれば、
すごいインキだと思いますよ。
- 津田
- ちょっと、ひとつ、議論させてもらってもいいですか?
- 富岡
- もちろんです(笑)。
- 津田
- 今回は、油で描かれた原画じゃないですか。
どちらかというと、
重厚感というか、深み、厚みを感じる絵というか。
- 富岡
- はい。
- 津田
- そう考えると、
油性の、重みのあるインキで
がっつりベースを刷ったあと、
鮮やかな部分を足していくやり方が
思い浮かびやすそうな気がしたんですけど。
どうして、比較的軽やかで鮮やかな
「カレイドインキ」で、
このオフセットポスターを刷ろうと決めたんですか?
- 富岡
- 今回私は、原画を見たときにもうすぐに
「カレイドだな」と思ったんですよね。
それは、細かいところをどう似せていくか、
みたいなことももちろん大事なんですけど、
先生の原画を見たときの印象として、
とにかく「鮮やかであること」が、
いちばん大きな魅力に感じたからなんです。
あのとき私が感じた衝撃を再現できなかったら、
このポスターは失敗というか。
そこを表現しきることが今回、
このオフセットポスターの
いちばん「おもしろさ」になると思ったんです。
- 津田
- なるほどーー。
- 富岡
- それを成立させるためには、
「カレイドインキの鮮やかさ」が絶対に要る。
そういう判断ですよね。
「思いきり鮮やかであること」を前提にしたうえで、
鮮やかじゃない部分に「濁し」を入れて、
重さや厚みを出していく順番にしないと、
あの原画は表現できないなと。
- 津田
- 「濁し」というのは、さっきおっしゃった、
鮮やかな色のまわりにわざと暗い色を置いて、
明るいところを目立たせる手法のことですよね。
重厚感はその、「濁し」でつくる。
- 富岡
- おっしゃるとおりです。
濁しはもう、「3色」の濁しを相当入れてます。
- 津田
- 3色? 「スミ(ブラック)」じゃなく?
- 富岡
- このポスターでは極力
「スミ(ブラック)」を使ってないんですよ。
黒いところや暗いところは、
普通にやると勝手にどんどん
「スミ(ブラック)」が入っちゃうんですけど、
今回は基本C・M・Yの「3色」を重ねて
「濁し」や「黒」をつくってます。
- 津田
- それはなにか理由があるんですか?
- 富岡
- ひとつ大きくあるのは、
先生自体が「ぼくは絵を描くときに黒は使わない」
って言ってることですね。
「黒い」っていうのを、すごく嫌がるんです。
いや、黒なんですよ、視覚的にはもちろん黒なんだけど、
普通に「スミ版」使って黒を
再現しちゃっていいのかっていうと、
そうではないんですよ。
やっぱり、黒にしてもいろんな黒があるから。
たとえば赤に緑で黒くしていったりね。
先生がそうやって黒を作ってると考えれば、
印刷でも、やっぱり黒は「重ね」で。 - 「黒」に見えてるところも、今回は50%も入ってないです。
- 津田
- 「スミ」で黒を表現しようとすると、
すごく「浅くなってしまう」と。
- 富岡
- 色としてはインパクトある強さになるかもしれないけど、
薄っぺらい感じになると思います。
なんというか、
発想は「リッチブラック」と一緒なんですよね。
感覚的には‥‥「逆リッチブラック」。
- 津田
- あはは!
「逆リッチブラック」ってすごいですね(笑)。 - 読者の方向けに少し補足をしておくと、
印刷するときって、
「スミ(ブラック)」のインキだけだと
じつはあんまり濃い黒にはならなくて、
スミにC・M・Yを少しずつ足して、
「リッチブラック」と呼ばれる
濃い黒色をつくるんですよね。 - で、通常リッチブラックは「スミ100%」とかに
「C・M・Yをそれぞれ30%、30%、20%」
くらい足してつくりますけど、今回のポスターは真逆で、
「C・M・Y」のパーセンテージをすごく強くして、
「スミ」はMAXでも50%に抑えて、
どこか色味のある「黒」や「濁し」をつくっているという。
これが富岡流‥‥「逆リッチブラック」!
- 富岡
- (笑)。
- 津田
- こうすることで、黒いところや暗いところも、
横尾さんの原画の立体感とか奥行きとか、
色使いの「深み」みたいな部分を
表現されてるっていうことなんですね。
- 富岡
- ありがとうございます。
まさにそういうつもりでやっております。
- 津田
- いやあ、おもしろい。
まさかの「4色」。まさかの「カレイド」。
めちゃくちゃシンプルだけど、
考え抜かれたものすごく美しい「最適解」で、
いま、感動しています。
(つづきます)
2026-06-27-SAT
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横尾さんが手がけた伝説のポスターや希少なポスターをぴったり90点厳選。渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」に展示します。

ポスターのご購入はこちらからどうぞ。

横尾忠則さんの原画から生まれた、「ほぼ日マンガ部」の100枚限定「シルクポスター」について。『デザインのひきだし』の編集長・津田淳子さんがインタビューを担当します。横尾忠則さんが描き上げた「ほぼ日マンガ部」の原画が、100枚限定の「シルクポスター」になりました。
マンガ部ポータルサイトはこちらからどうぞ。

「マンガ部ポスター」の誕生について、
横尾忠則と糸井重里がはじめて話した日。 「ほぼ日マンガ部の、
『はじまりの旗』になるようなポスターを」
糸井重里からのそんな依頼を受け、
横尾忠則さんは1枚の原画を
描きあげてくださいました。その原画がこのたび、「100枚のシルクポスター」
「500枚のオフセットポスター」になって
世に飛び出していきます。それを記念して、横尾さんと糸井が
このポスターの誕生についてはじめて話したときの、
5分と少しの動画を公開します。
「わからなさ」こそを
おもしろがるふたりのことばを、
どうぞおたのしみください。



