堀 |
トマトは年に2回収穫します。
今年前半のトマトは7月中に収穫して、
「これはおいしいね!!」と、
みんなに言われました。子どもたちも
「なんぼでも食べたい、食べ終わったらまた食べたい」
と、それはそれはおいしそうに食べましてね。
だから、この調子で後半もいけるな、と思っていました。
7月中に苗を植えて、9月から収穫をはじめ、
10月いっぱいで終えるスケジュールでした。
そこに、あの9月8日の台風がやってきたんです。
トマトは熟すと実が重くなります。
熟れておいしい証拠となるはずの重みがあだとなって、
あの強風で、半分以上が地面に落ちてしまいました。
それはもう、ショックでしたね。
8棟のハウスのビニールが吹き飛んで、
1棟が完全に倒壊。そのほかのハウスも
部分的に壊れてしまいました。
ビニールの屋根が吹き飛んだせいで、
水分量の管理ができなくなって
病気になってしまい
廃棄した実もたくさんありました。 |
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ちょっとしたバランスが崩れただけで
病気や虫がつきやすいんですね。 |
堀 |
それから、トマトがあちこちにぶつかって
打ち身ができたり傷ができたりしました。
そのなかでも損傷のごく少ないものを選び、
がんばって枝にくっついて落ちなかったトマトと
あわせて、収穫しました。
それが、今回のジュースになるんですよ。
結局、ジュースにできたのは、
全体の2割くらいだったかな。 |
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台風が来たときは、どんな心境でしたか? |
堀 |
風に揺られてバラバラ実が落ちるようすを
ただ呆然と見てるしかできませんでした。
これっきりで、トマトづくりも農家も
やめようかと思いました。
そのくらい、見るも無残な姿でしたよ。
夫婦そろって腰抜かす一歩手前でした。
ほんとうに、こんなにひどい目に遭うとは
思っていなかったです。
農家をはじめて以来の被害でした。
ようやくハウスの資材も届いて、
これから来年のトマトに向けて
修復作業を進めよう、というところです。 |
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永田農法は、安全で味のよい野菜をつくるために
植物本来の力を最大限に出す栽培法ですね。
なかでもいちばん気をつけておられることは、何ですか? |
堀 |
水をあげる量には、とくに気をつけています。
トマトを見ながら、ね。
たいへんだけどね(笑)。
トマトの状態がいちばんよくわかるのが、夜明けの畑。
つまり、トマトが「寝起き」の、活動前の状態です。
これを、毎日欠かさず見るんです。
葉の色、のびぐあい、トマトの色なんかをね。
生きものは、腹が減れば泣くけど
植物はこっちから近寄って、
見てやんなきゃいけないんですよ。
それは、とても骨の折れることなんです。
けれども、私はシロウトだけど、
いいものをつくろう、おいしいものをつくろう
という気持ちは、ほんとうにあります。
おいしいっていってくれる人がいてくれると
「やんなきゃな!」という気持ちになるんです。
それが、私のトマトづくりの
とても大きな支えになっているんですよ。
最初の1〜2年は、
トマトがどういう野菜なのかがわからなくて、
指導をしてくれる方の言うとおりにやってきました。
でもね、最近はやっと、トマトと会話をして
トマトの考えていることがわかるようになってきたんです。
そんなことのくりかえしの、6年でした。 |
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この「台風スペシャル!トマトジュース」になる
生き残ったトマトを、
堀さんは味見なさいましたか? |
堀 |
もちろん、食べましたよ。
人間の心理的なものかもしれないけどね、
数が少なくなって、食べるものもなくなると
おいしく感じるのかもしれないけど(笑)、
でも、あんな目に遭ったトマトがね、
あまくてすごくおいしかった。
ジュースにできた量は少ないけれども、
飲みたい、とおっしゃってくださる方に
ぜひ味わっていただきたいですね。 |
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きっと、ジュースにするには
ぜいたくすぎるトマトなのかもしれませんね。
「あの台風が生んだ味なんだ」というふうに逆手にとって
ジュースのおいしさをたのしみたいと思います。
堀さん、ありがとうございました。 |