今年『ナイン』は大当たりする!
去年は知らなかったくせに、応援します。
“tpt”という、東京の下町にある
小さくて力のある演劇カンパニーが、この5〜6月、
ミュージカルの公演を行ないます。
フェリーニの『8 1/2』をモチーフにした
『ナイン THE MUSICAL』。
演出家デヴィッド・ルヴォーが、
ブロードウェイで大成功させて、
彼の第二の故郷ともいえる日本に凱旋しました。

だれもが「成功まちがいなし!」と思うような
このビッグな舞台ですが、
なんと!! 昨年の第一回公演は、
宣伝不足で大失敗をしているんだって?!
そういうこと、あるんですよねぇ。
(たしかに、ボクもキミも知らなかったもんな)

「ほぼ日」は、今年のこの舞台の広報担当の
キウチさんとともに、
ほんとにすごい『ナイン』のおもしろさを、
地道にしっかりと伝えてみましょうと、思いました。

=
Subject: NINE COMPANY
From: David Leveaux


MANY MANY CONGRATULATIONS TO EVERYONE
ON THE FINAL PERFORMANCES OF NINE THIS YEAR.
I AM VERY PROUD OF OUR WORK TOGETHER
AND CAN'T WAIT FOR THE NEXT CHANCE
TO DO IT ALL AGAIN.
WITH ALL MY LOVE, AND THANKS!
DAVID!


今年の『ナイン』の千秋楽に、みんなへ、
たくさん、たくさん、おめでとうを。
みんなで作った作品をとっても誇りに思うし、
もう一回やれる日を待ちきれません。
いっぱいの愛と、感謝を込めて!
デヴィッド!

               
『ナイン THE MUSICAL』
2005年日本版は、
千秋楽を迎えました。
応援、ありがとうございました!

               


シェフ
昨日、6月12日の公演をもって
『ナイン THE MUSICAL』が
終演いたしました。

べ3
それとともに、このコンテンツも
今回で最終回となります。
御愛読、ほんとうに
ありがとうございました。
たくさんの熱いメールも
ほんとうにありがとうございました。

シェフ
はじまりはキウチさんからの
一通のメールでした。
1月の終わりだったよね。
その熱さにうたれて、
でもどんなものなのか
さっぱりわからなかったぼくらは
その後、東京の下町にある劇場
「ベニサンピット」に
稽古を見に行って‥‥。

べ3
序幕の部分の稽古を観て、
ものすごくショックを受けて、
そうしてこのコンテンツが
始まったんでした。

シェフ
その「最初のメール」
ここに紹介しますね。

=
Subject: みんなに観てほしいミュージカルがあります
Date: Sat, 29 Jan 2005 14:16:03
From: 木内 宏昌
To: ほぼ日刊イトイ新聞


ご担当者さま

5月に、大阪と東京で
『ナインTHE MUSICAL』というのをやります。
制作しているのはシアタープロジェクト東京
(tpt)というところです。
わたしは、tptが作る舞台に、
ときどき演出、翻訳で参加している者です。

わたしも含め、tptに関わる演劇人が、
この公演をなんとか
みんなに知らせたいと思っています。
それは、『ナイン』という作品が、
いままで日本にあったミュージカルとは
まったく違うセンスのミュージカルだからです。
こんな女性賛歌があったのかという作品です。
悩める天才映画監督と、彼の夢に登場する
16人の女性たちの物語なのですが‥‥。

『ナイン』は一昨年、ブロードウェイで
アントニオ・バンデラスが主演し、
チタ・リベラの出演で話題をつくり、
トニー賞2部門をとりました。
その演出家デヴィッド・ルヴォーが、
日本で「日本版ナイン」をつくります。
じつは昨年10月、天王洲アートスフィアで
一度上演しました。
正直なところ、公演のお知らせが行き届かず、
まったくの不入りでした。
作品そのものの成果は、
tptが紀伊國屋演劇賞団体賞を受けたり、
演劇評論家長谷部浩さんの新聞批評に
「これを不入りにしては、
 東京のシアターゴーアーの名折れ」
と激励をいただくほど充実していたと思います。
そこで、この5月の公演はなんとかしたいと
奮闘していますが、
tptという事務所は、
ミュージカルのお知らせを広めるには、
いかにも小さな事務所なのです。

tptは門井均という演劇を愛して止まないおやじが、
松竹という会社をやめて、
デヴィッド・ルヴォーとともに、
12年前に作った事務所です。
ベニサンピットという小さな劇場を本拠地に、
質だけは自信のある舞台を続けている、
こだわりの演劇集団でした。
そのこだわりにこだわり続け、
広くお知らせするということを
不得手のままにしてきました。

『ナイン』は、門井均というおやじの
12年間の夢が詰まった作品です。
今回は当たりそうな予感がすると、
超前向き状態にしていますが、
情報宣伝活動はまだまだこれからです。
主演は別所哲也さんに決まりました。
いま、作品そのものをスターにしようという
気持ちで広報を進めています。
ほぼ日刊イトイ新聞を通じて、
紹介していただけることを夢見て、
メールさせていただきました。

長々失礼いたしました。

木内宏昌


シェフ
そして実際にことしの『ナイン』が
興行的にどうだったのかどうかは
ぼくらにはわかりません。
わからないけれど‥‥

べ3
『ナイン』という舞台は、
その内容において、質において、
大成功だったと、
ぼくらは確信しています。

シェフ
そうだね‥‥。
ぼくはこんなに強く魅かれた舞台って
これまでになかったですよ。
ほんとうに。

べ3
それはぼくも同じです!
カンパニーのみなさんと、
かかわった多くの人たち、
ごらんになったお客さまも、
そう感じてくれているといいね。

シェフ
最終回を見て、話したいことは
いっぱいあるけど‥‥

べ3
それはぼくらではなくて、
キウチさんに語っていただきましょう!

               
最終回 「大当たり」に大感謝!
               

◎千秋楽の報告です。

楽屋の廊下には、
関係者全員の名札が掛かった札があり、
劇場内にいる人は表、
劇場を出たら裏返します。
演出家はすでに日本を離れていますが、
最後の公演が終わるまで、
「デヴィッド・ルヴォー」の札は
ずっと表のままでした。

きょう、この日のためにとっておいた、
「大盛況」という言葉を使います。
おかげさまで千秋楽は大盛況でした!

ん? いや、ちょっと待った!
いま口にしてみて思いました。
大盛況はよくない、ここで使うと威張った言葉です。
それよりもっともっとふさわしい言いかたが、
身近になにかある気がしました、なんだろう‥‥

特別で、優しくて、愛しくて、
手放したくないこの空気、
感謝の思いでぱんぱんに膨らんだ最終日の劇場、
たしかに「大盛況」なんだけど、その言葉じゃない。
カーテンコールで明るくなった客席には、
泣いてる人が、こちらにも、あちらにも、ああたくさん。
舞台上のみんなの目にも涙が。あれ? ぼくもだ。
そしてこの音、拍手の音。
もしかしたら、この感じって、「大当たり」の感触。

そう、これは大当たりしてるんだ。
この劇場で大当たりしてる!
その音に違いないです、この鳴り止まない拍手は!

大阪公演12ステージ、東京公演20ステージ、
『ナイン』をごらんくださったみなさんに、
心からの感謝を申し上げます。
今年『ナイン』を大当たりにしていただき、
ありがとうございます!
I love it!

tptがつくった『ナイン THE MUSICAL』は、
デヴィッド・ルヴォーの表現を借りるなら、
「ディズニーやキャメロン・マッキントッシュの力を
 頼らないで」生まれたミュージカルです。
平日の夜公演には空席が目立った回もあり、
宣伝やPRに関しては足りないことばかりでした。
でも、もっと多くの人に知ってもらいたいという願いは、
「ほぼ日」のおかげで叶いました。
そしてなによりこの連載がなければ、
ぼく自身、こうは『ナイン』を楽しめませんでした。

書くことに困らなかった『ナイン』。
驚いたこと、素敵だったこと、愉快だったこと、
伝えたいことはいくらでもありました。
きっとみなさんにもおありだと思います。
いかがでしょう?
どうぞこれからも『ナイン』の話を、
続けてくださいませんか?
どこかで。だれかと。いつでも。
そして、まだわからないけれど、近い将来、
『ナイン THE MUSICAL』でお会いしましょう!
That's all that I want.

2カ月間、ありがとうございました。

◎ちょっと私的なひとりごと。

第一回の書き出しは迷いました、
なにを伝えたら『ナイン』を観てもらえるのかって。

たとえば、
演劇は観る人に積極的な参加を求める芸術です。
チケットを買ってもらい、劇場に足を運んでもらい、
長い時間暗やみにじっと座り続けてもらう。
2、3分の遅れは待っても、10分は待たない。
飛行機でさえもう少し待ちそうなものを。
お客さまにたくさん負担をかけておきながら、
それでも最後は拍手をいただき、
うまくすれば喜んでもらえて、感謝もされる。
演劇は「体験する芸術」だから、
観る側にも努力が必要なのかもしれません。
ですが、味見もできない、予告編もない演劇に、
もう少しなにか、出会いにつながるなにかが、
できないかと思いました。
うなぎ屋さんの匂いでそそる煙のような、
焼いも屋さんの腹に響く名調子のような、
お代をいただく前にもできちゃうサービス。

稽古をみてくれたシェフさんとべっかむさんが、
こう言ってくれたんです。
「実際に見えるものが素晴しいんだから、
 見えるもののことを書きましょう。
 キウチさんの目から見ていいと思うことを、
 そのまま書けばいいんです。
 焦ってる宣伝部長のキャラクターで」
実際に見えるものが素晴しい、そう聞いて、
100人の力を得た気がしました。
そしてそのとおりに書き始めたわけです。
ただし、「部長」じゃないけど。

ぼくはブロードウェイ版のCDで
『ナイン』と出会いました。
英語台本を読んだのはそのあとです。
去年の秋、日本語台本を読もうとして、
じつは数ページ開いたところで閉じました。
英語のイメージをもったまま見た、
デヴィッド・ルヴォーの演出。
『ナイン』はデヴィッドの世界でした。
想像力と説得力の強さに圧倒されました。
みんなに伝えたいことはそれでした。

ぼくはグイド・コンティーニと同い歳です。
日本人ですので、ほぼ厄年になります。
シェフさんもべっかむさんも、
同じくらいだと思います。
その男三人でミュージカルに夢中になりました。
2カ月間、ああ楽しかったあ!
ひとりで楽しんでる時間が長過ぎて、
おふたりには何度も終電を逃させました。
ごめんなさい。

さあ、『ナイン』で学んだ愛を活かさなきゃ。
ぼくは映画監督でもなく、
女性の幻も見ませんが(見ませんねえ)、
わが愛するルイザが、
“Be On Your Own”を歌わなくていいように。

(終わります)

↑画像をクリックすると別ウインドウがひらきます。

ぼくらからは、これまでの取材で
撮りだめた画像をつかっての
この、スライドショーを
掲載させていただき、
最終回のことばにかえさせて
いただきたいと思います。
どうもありがとうございました!
カンパニーのみなさんも
読んでくださったみなさまも
どうもありがとうございました!
ふたり

シェフ
再々演でお会いしましょう!

べ3
再々演!
きっとあるよね。うん。

シェフ

なんならぼくが
オーディションを受けてでも!


べ3
お願いだから
それだけはやめてください。
帽子もサングラスも
取ってください。
シェフの「ひとりナイン」は
宴会芸にとどめておいてください。

シェフ
ちぇっ。

べ3
まあ、ともかく、
すばらしい舞台を観るという
経験ができて、
ぼくらもしあわせでした。
また会う日まで‥‥
チャオ!
ふたり

シェフ
あーっ!

(ほんとに終わります!
 『ナイン』の感想は、postman@1101.com
 送っていただければ、tptまでお届けしますので
 ぜひお送りくださいね!)



── 今までのタイトル ──
★稽古場密着レポート!
2005-04-14 第0回 本編に入る前に、いきさつなど。
2005-04-15 第1回 初めての記者会見。
2005-04-16 第2回 初めての記者会見。その2
2005-04-18 第3回 『ナイン』の稽古が始まった!
2005-04-19 第4回 去年はこんな感じでした。
2005-04-20 第5回 『8 1/2』と『ナイン』のこと。
2005-04-22 第6回 「序曲」から見せ場なのです。
2005-04-25 第7回 フォーリー・ベルジェール!と音楽スタッフのこと
2005-04-27 第8回 「オケ合わせ」と「男が泣けるミュージカル!」
2005-04-29 第9回 「通し稽古」のこと、「天才映画監督の妻」のこと
2005-05-03 第10回 巨大壁画の女神が出現?!
2005-05-04 第11回 水の都で、水の都のミュージカル!
2005-05-05 第12回 「グイド・コンティーニ」はこんな男!ーその1
  
★大阪公演レポート!(大阪公演:5/6〜5/15)
2005-05-06 第13回 「グイド・コンティーニ」はこんな男!ーその2
2005-05-07 第14回 「グイド・コンティーニ」はこんな男!ーその3
2005-05-09 第15回 あらためて大阪公演開幕レポート!
2005-05-11 第16回 『ナイン』の核心“イノセント”!
2005-05-13 第17回 「乗客」にならないで!
2005-05-16 第18回 ずっと『ナイン』でいたい!
2005-05-18 第19回 「エブリバディ!エンジョイ!」
2005-05-19 第20回 秘密を見てほしい。
2005-05-20 第21回 『ナイン』の主役は。
  
★六本木ヒルズ『ナイン』イベントレポート!
2005-05-24 第22回 PRイベントの胸の内!
2005-05-25 第23回 17日間の奇跡を。
2005-05-26 第24回 あしたアートスフィアへ。※劇場への行き方解説
 
★東京公演レポート!(東京公演:5/27〜6/12)
2005-05-27 第25回 デヴィッドが話したこと(1)
2005-05-28 第26回 東京公演開幕/デヴィッドが話したこと(2)
2005-05-30 第27回 東京公演開幕/デヴィッドが話したこと(3)
2005-06-02 第28回 サンセバスチャンの鐘。
2005-06-03 番外編 「ほぼ日」筆者や読者も観ました!
2005-06-04 第29回 グランド・キャナル。
2005-06-07 第30回 ひとりで生きて。
2005-06-09 第31回 大人になると。
2005-06-11 第32回 さみしさなんか忘れちゃう。

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「ナイン」と書いて
postman@1101.comに送ってくださいね。

2005-06-13-MON

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