今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 別所グイドを超応援!! そしてデヴィッドは‥‥ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第三〇回 『ひとりで生きて』 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ハクション! と、 とうとうくしゃみが日本語になった 演出家デヴィッド・ルヴォーが、 カンパニーに『ナイン』を託して、 日本を離れました。 桜の咲き始めた4月に到着し、 5週間のリハーサルと数々の取材をこなし、 大阪公演から数えて25ステージを 見守ってきた演出家。 本番中は大抵、 ロビーや楽屋の廊下が彼の居場所でした。 舞台にあふれるみんなの自信を感じながら、 ときどき「いいネ」と微笑んで。 飛行機に乗る2日前、 tptの事務所で話をする時間がありました。 気持ちのいい夕方、ゆったり、ぼそぼそっと、 なんとなく“passion”の話を。 (デヴィッドが話したこと(3)) 「『ナイン』は赤ですネ、パッションの赤‥‥」 デヴィッドは日本語で言いました。 それからなんとなく、 デヴィッドが過去に舞台で表現した、 赤い色の話になりました。 『あわれ彼女は娼婦』の赤ワイン。 『背信』のラストに出てくる赤いドレス。 どちらも「血の赤」だったと。 ほかにもいくつかの舞台で使われた赤は、 鮮烈な印象が残っています。 『ナイン』では、サラギーナの赤い砂。 このとき、手元にあったパソコンで、 最近の連載を見せました。 デヴィッドに『ほぼ日』を見せたのは、 稽古場記者会見の回以来、二度目です。 これまでのボリュームに、 「すごいネ、信じられない‥‥」って。 でも「信じられない」のは『ナイン』の舞台です。 一年で最高にいい季節に、 デヴィッドがつくったカンパニーは ひとりひとりが、 自分が舞台の上にいるという役割を きちんと果たして、 ますますすごいことになってきました。 一体どこまで輝いていくんだろう! デヴィッドは何度となく、 『ナイン』に登場する女性たちのことを、 自信に満ちて、知的な女性たちだと言いました。 どこまでもそうなっていってます。 それぞれがそれぞれの物語を、 ものの見事に演じてみせてくれる気持ちよさ。 たぶん、これが奇跡。 文字通り、ひとりひとりが。 どんなに有能なアーチストが集まっても、 なかなかこうはなりません。 おそらく、演出家と俳優たちのあいだに 築かれている関係の出発点が、 堅くて正しいものなんだと思います。 あるときの稽古場で、 デヴィッドはこんなことを言いました。 「ぼくから指摘しないことは、 それでOKだと思ってほしい。 口に出さないことのほうが、 本当は好きだったりもするから。 好きだと言葉にしてしまうことで、 愛が消えてしまうのが嫌だ。 たとえばさり気ないしぐさが好きだったりする。 それをぼくが好きだって言ってしまうと、 そのせいでそこに気をつかって、 さり気なくなくなったり、 不自然な動作に変わってしまうことがある。 みんなそれぞれオーディションのとき、 ぼくをわくわくさせてくれた。 そこからはじめてくれればいい。 自分を表現して。 秘密で仕事をしないで」 自信を持てと言われるだけでは、 なかなか自信はつかないけれど、 こう言ってもらえたら、 人はきっとキラキラしてくるんです、 『ナイン』の舞台にいる人たちみたいに。 その自信に満ちた、頭のいい女性たちは、 『ナイン』のなかでは誰ひとり、 わたしはさみしい、苦しいとは口に出しません。 たとえばルイザの話をしましょう。 夫グイドの新作映画の撮影リハーサルが終わり、 心を粉々に砕かれたルイザがいます。 しばらく椅子に座っていた彼女が、 ハードな和音で始まる音楽とともに口を開きます。 グイドに向かって歌う、『Be On Your Own』です。 ルイザが選んだ言葉、“Be On Your Own” ひとりで生きなさい、という意味でしょうか。 デヴィッドはこの場面についてこう言います。 「これはアクションが必要な歌じゃない。 ルイザは自分が崩れ落ちてしまう前に、 出て行こうとしてる。 最初は背中を見せたまま振り返らない。 行きたいけど、でもダメ! そこで歌い出す。 『ウエイトレスと一緒にいるほうが あなたはいいんでしょ、 どうぞお好きになさい』と。 打ちひしがれたことを言葉にしたら、 ルイザはここから出て行けない。 グイドは無数の言葉で引き止めるだろう。 思い切りドアを破壊する力がなければ、 グイドをひとりにはできない。 彼女を立たせているは怒りの力。 グイドへの愛情から出てくる怒り。 それで彼女はこういう言葉を使って、 出て行こうとしている── “Be On Your Own” 彼女は歌い終えると、グイドを振り切って、 『序曲』のグイド・ママのように、 螺旋階段を昇っていく」 ルイザが去ると、グイドはとうとう、 初めて舞台上に「ひとり」になります。 グイド・ママが歌う『Nine』にも、 “Be On Your Own”とよく似た表現があります。 “Time to start out on your own” 9歳になったグイドに、 「これからはひとりで行くのよ」と。 一見何気ない言葉のようですが、 死期を悟った母からの言葉だと思うと、 痛みと思いの深さが伝わってきます そしてまた、 大人のグイドが9歳の自分に歌う『Reprise』では、 “Time to go off on my own.” 「これからはひとりで生きるよ」という歌詞が。 だれも、わたしはさみしいとは言わない。 たとえば、代わりに「ひとりで生きて」と。 『ナイン THE MUSICAL』は、 知的で、強く、素晴しい女性たちが、 グイドという男に愛を教える物語です。 (つづきます!)
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2005-06-07-TUE
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