──マリオゴルフ64って、コースによって
いろんな場所でプレイできますよね。
砂漠だったり、谷間だったり、海に浮かぶ島だったり……。
これは、実在のゴルフコースから
ヒントを得ているんですか?
宏之:
それは全くないんですよ。
ぜんぶ、ぼくらスタッフの創作なんです。
でも、コース設計はずいぶん勉強しましたよ。
秀五:
ぼくらふたりで“世界3大設計家”のかたがたに
会いに行ったんですもん。
──3大設計家って!?
宏之:
ピート・ダイ、ロバート・トレント・ジョーンズ、
ジャック・ニクラウス、この3人を
「ゴルフコースの3大設計家」って呼ぶんです。
秀五:
と言ってもいまはジュニア(2代目)の時代に
なってますけどね。
ピート・ダイはペリー・ダイという息子さんがいて、
父親の志を継いで立派な設計家になっている。
ぼくら、その方にお会いするために、
日本から約束をとりつけて、
アメリカのコロラドまで行ってきたんです。
宏之:
その人に会う前にすごいエピソードがあるんですよ。
そのとき、ちょうど「E3」という
国際ゲームショーをやっていたのだけれど、
そこで、嬉しいハプニングに遭遇したんです。
ぼくらが会場を歩いていたら、
パソコンの新作ゴルフゲームを発表してたんですね。
「こりゃ面白そうだ、見に行こうぜ」
って、説明をしている白髪の初老の男性のところに
駆け寄ったんです。ゲームの勉強っていうより、
ゴルフ好きの血が騒いじゃって(笑)。
秀五:
そうそう、その時はたまたま通訳の人がいなくて、
ぼくらだけで行動してたんです。
でもゴルフの話なんで、なんとなく分かっちゃう。
それでニコニコして聞いていたら、
そのおじいさんが親切な人で、
「ゴルフ好きか?」
なんて聞いてきてくれたりしたんだよね。
「大好きです!」なんて答えて。
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高橋宏之さん
君は見たか!?(1)
ドンキーコングをゲットしたあとはオ
ープニング画面がかわる。これはドン
キーを取っている人へのごほうびだ。
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宏之:
そしたら向こうも喜んじゃって、
「このゲームのコースはよぉーく考えて設計したから、
間違いなく面白いんだ!」
とか言うわけです。ぼくらも面白がって、
「日本のゴルフ場でプレイしたことある?」
なんて聞いてみたら、超名門コースの名前が
そのおじいさんの口からスラスラ出てきた。
それが、日本人でもよっぽどゴルフが好きじゃないと、
知らないようなコースばかりなんですよ。
すごいおじいさんがいるなあ、なんて思っていたら、
通訳の人がすっ飛んできたんだよね。
秀五:
「いったい誰と話してるんですか!?」
って、目を真ん丸くして言うんです。
ぼくら、「さあ?」ってふたりで顔を見合わせたら、
「あの有名な、ロバート・トレント・
ジョーンズ・ジュニアですよ!」
だって。
宏之:
つまり、世界3大設計家のひとりに、
早くも会ってしまったわけ(笑)。
秀五:
その翌日はペリー・ダイにお会いしたわけだから、
2日間で世界3大設計家のうちのふたりと
会っちゃったってことなんだよね。
──す、すごい! それで、ペリー・ダイのところでは、
どんなお話を聞いてこられたんですか?
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君は見たか!?(2)
コントローラーを外した状態で電源を
入れてしまうとルイージが出てくるの
だ。
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秀五:
「設計思想」、これにつきますね。
すべてのゴルフコースには設計思想があるんだ、
ということを徹底的に学びました。
宏之:
ちゃんと思想をもって設計しなければいけない、
ということが改めて分かったよね。
秀五:
漠然と作ってちゃいけないんだ、ってね。
たとえばゴルフ場にはだれでもプレイできる
「パブリックコース」と、会員しかプレイできない
「メンバーズコース」があるんですが、
その設計思想は全然違うものなんだ、とか。
宏之:
パブリックコースというのは誰にでも公平に
作らなければいけないんですよ。
「こんなところにトラップ(註1)があったのか」
って、あとから気づくようなコース設計じゃ
ダメなんです。最初からちゃんと
わからせるようにつくらなくちゃいけない。
一方、メンバーズコースっていうのは、
何べんやっても楽しくなければダメなんですよね。
ギャンブル的な要素があって、プレイすればするほど
そのコースの味が出てくるコースを作らなくちゃいけない。
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君は見たか!?(3)
マッチプレイでサドンデスになると、
夜景コースになる。クリアすると花火
が上がるぞ!
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1. トラップ
コース上に仕掛けられている罠。バン
カーのことを「サンドトラップ」とい
うこともある。
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──マリオゴルフはどっちなんでしょう?
宏之:
パブリックコースの間口の広さと、
メンバーズコースの奥深さを兼ね備えたい、
と考えてつくりましたよ。
秀五:
最初はパブリックコース、
後半になればなるほどメンバーズコースかな。
──ペリー・ダイに会ったときのことを、
もうすこし詳しく聞かせてください。
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クッパと同じく豪快に片手でクラブを
振り回すドンキーコングは、クセが
あるものの、飛距離がスゴイ。クッパ
と対戦させてみるのも、面白いかも
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秀五:
ペリー・ダイといっしょに1ラウンド
回らせてもらったんですが、コースがすべて勉強会。
たとえばティーショットの位置でコースを指さして、
「あそこの高くなっている丘があるだろう?
あそこまで何ヤードか、ということが、誰にでも
必ず分かるような設計じゃないとダメなんだよ」
っていうんです。
ドッグレッグ(註2)ひとつにしても、
ティーショットする位置からコースが曲がっていることが
わかるように設計すべきなんだ、とかね。
たとえば、反対側の丘を盛り上げておくんです。それで
「これはドッグレッグしてるコースなんだぞ」
とプレイヤーに伝えることができるし、
どのくらいの距離を最初に打てば、
そのコースをうまく回れるかということがわかる。
宏之:
そこまで情報を与えて、プレイヤーは初めて
安心してプレイすることができるんです。
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2. ドッグレッグ
ゴルフのコースで、ティーからグリー
ンまでの間が犬の後ろ脚のように曲が
っていること。
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秀五:
でも、じつはペリー・ダイって、ゴルファーには
“悪魔の設計家”って呼ばれているくらい
難しいコースをつくる人なんですよ。
グリーンは、とにかく
アンジュレーション(註3)がキツイ。
“ポテトチップス”と呼ばれるような、
グイグイ波打ってるグリーンをつくる。
ぼくは、コースでじっさいにそれを見たときに、
これはお手上げだ、と思いましたよ。
どうパットしたらいいのかわからない。
でもそれじゃあ、設計思想に反するじゃないですか。
考え抜かれている設計なら、ヒントがあるはずでしょう。
それで、どう打てばピンに寄るのか聞いてみたんです。
そしたら彼がこう言うんですよ。
「自分がバケツを持って立ってるつもりになって、
グリーン一面にバッとこぼしたときに、
水がどう流れるのかをイメージしてごらん。
そうすればボールの動きも予測できる。
それでパットを打ってごらん」
その通りにイメージして、打ってみたら、
10mパットがいきなり入っちゃった(笑)。
──それってマリオゴルフでも有効ですか?
今度やってみます(笑)。
ところで、そういうふうに学んでこられて、
コースの設計にかかったわけですけれど、
いざその段になっていかがでした?
宏之:
コース1つ設計するのに膨大な時間がかかりましたね。
社内のプランニングの担当者は、
「7ホール設計して、1個しか採用されない」
と言っていたほどです(笑)。
ぼくらの設計思想は、
“何も考えないでプレイしたのと、
考えてプレイしたのとでは、スコアが全然変わってくる”
というものなんですよ。
18ホール全てに戦略性をもたせてありますからね。
──戦略性、というのはどういうことですか?
秀五:
実際のトーナメントでプレイすると、
グリーンの上に前のプレイヤーのスパイクマークが
ついているなど、不利な状況が立ちはだかって
スコアアップを邪魔しますよね。
ところが、ゲームのコースには、
不利な状況というのはどこにもないんです。
いつも、本当にまっさらな状態でプレイできる。
だからその分、プレイヤーにはコース戦略に
頭を使ってほしいということなんですよ。
宏之:
それから、勇気を持ってプレイしたものには、
ごほうびをあげたい。これも設計思想のひとつです。
秀五:
64のゲーム画面で対戦成績の欄を見ると
分かると思うんですが、
星のマークがついているのがあるんですよ。
星はつまり、ノーセーブクリア
(セーブしないでホールをクリアすること)
ということですね。ノーセーブでがんばった人には
やはり、それなりのごほうびをあげたい。
1ホールごとにセーブした人もクリアさせて
あげたいんですが、
でもやっぱり自分を追いつめて追いつめて、
クリアしてこそ喜べる「ごほうび」が大切なんです。
宏之:
たとえばプロゴルファーが、トーナメントの最終日、
トップを追いかけるようなシチュエーションで
プレイしていって、本当に成功を修めたときに
もらえる「ごほうび」は何かといえば「優勝」ですよね。
ゲームのプレイヤーにも、
そういうシチュエーションを与えていくのが
ぼくらの仕事だと思っているんです。
多分そんなことを考えてゴルフゲームを作っているのは
ぼくらくらいだと思いますけど……(笑)。
マリオゴルフ64では、
ポイントをゲットしていくと、新しいコースで
プレイできるようになってるんですが、
これも「ごほうび」のひとつです。
ぼくら、ゴルフのプレイをするのも好きだけど、
新しいコースと出会うのも好きなんですよ(笑)。
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3. アンジュレーション
ゴルフ場のコース内の地面の起伏。
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ゲーム初心者に
使いやすいキャラは?
「女性キャラと怪獣キャラは使いや
すく」というのがタカハシ・ブラザ
ーズの信条。つまり、ヨッシー、プ
ラム、ピーチなどのキャラクターは
初心者向でプレイしやすいのだ。
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「最近ゲームボーイ版の開発にかかり
っきりで、64版は満足にプレイして
ないんですよ」とタカハシブラザーズ
コンピュータと
対戦ができるぞ!
Rボタンを押しながらキャラクターを
選択してみよう。すると、そのキャラ
はコンピュータが自動的にプレイして
くれる。ひとりで遊ぶときも最多で3
人のマリオキャラといっしょにコース
を回れるのだ!ナイスショットを出す
と、キャラ全員が、「ナイスショット
!」と、言ってくれるぞ!
Rボタンを押すと、画面右上に
「com」の表示が出る
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──マッチプレイで勝っていくと、新しいキャラクターを
ゲットできるというのも「ごほうび」ですよね。
秀五:
そうですね。さらに、ゲームボーイカラーの
「マリオゴルフGB」との連携で、
GB版で育てたキャラを、GBパックを使って
マリオゴルフ64に移植できるようになっているんですよ。
宏之:
たとえば、マリオゴルフ64には、
ストレートのすごく飛ぶキャラはいませんよね。
それはゲームボーイカラーで作る楽しみを
残しておこうと、あえて用意しなかったんです。
──GBでのキャラクターは、
どんなふうに作っていくんでしょうか。
宏之:
ゲームでゲットしたポイントを、キャラクターの
持っている能力に割り当てていくんですよ。
ボールの高さ、ミートエリアとボールコントロール、
飛距離などがパラメーターになっているので、そこに
振り分けていくんですね。うまく配分すると、
飛距離が出るうえに弾道も曲がらない
「ストレート」なキャラが作れますよ。
──ほかにも、マリオゴルフGBには、
64にはない特徴があるんですか?
秀五:
64ではキャラごとのベストスコア
というのは見られませんよね。
でもゲームボーイにデータを送ると、
トーナメントのベストスコアを全部見られるんです。
ベストスコアって、距離だけじゃないですよね。
たとえば飛距離のいちばん出ない「プラム」で
出したスコアなどは、貴重なわけです。
そういうものを友達に自慢できるんです。
宏之:
ほかにもマリオゴルフGBでは、ゴルフクラブの選び方、
というような感覚を学んでもらいたいと思っているんです。
たとえばどんなときにどのクラブを使うのか、って、
わからない方が多いと思うんです。
そういうのを勉強してもらうのが
マリオゴルフGBだと思ってるんですよ。
たとえばコースに散らかったボールを、
クラブでかき集めるなどのミニゲームが、
通常のゲームモード以外に30個以上入ってるんです。
そのなかから、
「アプローチってこういうものなんだ」とか、
「低いボールを打つときはこうすればいいんだ」とか、
そういうことを勉強していってほしいと
思ってます。
──64でもそういうトレーニング的なモードは
ありますよね。
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メイプルとドンキーコングは
どうやってゲットする?
バーディーバッジを50個取るとメイ
プル、リングショットの星を30個取
れば、ドンキーコングが、手に入る。
じっくり挑戦すべし!
画面右上に表示されているのが
バーディーバッジ
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キャラを作り、成長させて、64で
遊べるのがマリオゴルフGBの魅力
通常のプレイモードだけではなく、
30個以上のミニゲームで遊べるぞ
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宏之:
リングショット(註4)がそうですね。
たとえば、コースでボールが林に入ってしまったとき、
上手に出すテクニックって必要ですよね。
リングショットは、そういうトラブルショットの練習に
なるんです。「林から出す」というようなシチュエーションは、
ゴルフの面白さのひとつだと思うんですよ。
でも、ふつうのゲームではたいてい上手に打てるから、
そういう面白さを味わう機会が少ない。
それをあえてリングショットのように
ルールを規定することによって、プレイできる。
これって、ぼくらはすごく
本物のゴルフ的だなあと見てるんです。
ひょっとしたら、一般のゴルファーには
邪道だと思われるかもしれないけれど、
「こんなの自分でコースに行ってやるか?」
というようなことをいろいろ遊べるのは、
ゲームならではの、とても楽しいことだと思うんです。
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4. リングショット
マリオゴルフ64で、コース上にセッ
トされたリング(輪)にボールを通し
ながらプレイするモード。
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秀五:
クラブスロット(註5)なんかも同じですね。
ロングホールでドライバーとスプーンと
ショートアイアンを使って、
最後にパターでバーディーをめざそう、
というのは普通のプレイ方法なんですよね。
だけど、お正月のテレビ番組とかで、クジ引きして、
「このホールはこのクラブだけで回ってね」
みたいなことをやってますよね。
それってかつては、エキシビジョンマッチ(註6)で、
有名なプロゴルファーがやってたことなんですよ。
たとえばドライバーで80ヤード飛ばすって、
とても難しいことなんです。
でもそれをあえてやるクラブスロットは、
技術を高めるという意味でとても価値がある、
と僕らは思っているんです。
一見、ゲーム的だけど、古典的なゴルフの
プレースタイルを踏襲した方法なんです。
宏之:
そういうモードまで用意してあるところが
マリオゴルフ64のすごいところなんじゃないかな、
とぼくらは思ってるんです。
マリオゴルフGBもそうで、
ミニゲームをやりながら、ゴルフのセオリーを
覚えていけたら楽しいじゃないですか。
たとえばね、お父さんが日曜日にたまたま
ゴルフ中継を見てる。
そこにお子さんが来て、
「そこはロブショットだよ」(註7)
ってボソリと言う、なんてね(笑)。
マリオゴルフ64とマリオゴルフGBが、
そういうコミュニケーションツール
になったらいいな、と思うんです。
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5. クラブスロット
マリオゴルフ64のスキンズ・マッチ
で、ホールごとに、スロットマシンで
使用するクラブを決めるモード。
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6. エキシビジョンマッチ
有名ゴルファー2人の対戦の模様を、
入場料をとって一般のギャラリーに見
せるイベント的な試合のこと。
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7. ロブショット
クラブのフェースを寝かせた状態で打
つショット。高くやわらかに舞い上が
る球が打てるので、グリーンに落ちた
ときに転がらない。
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