#42 写真集とか写真展がピンとこない。<

講師

菅原一剛 「いい写真を見ることって
 大事だと思いますよ」

今回の部員

シェフ 「でもそもそもなにが
 『いい写真』か‥‥」
山下 「写真集を選ぶのもむずかしいですよね」
菅原一剛 おススメな写真集があるんです。
最近買った本の中で最高なのは、
メトロポリタン美術館の企画展の
図録的な写真集なんだけど、
『Photograph America』っていうの。
ウォーカー・エバンスと
アンリ・カルティエ・ブレッソンが撮った
アメリカの写真を1冊にまとめた本。
すごくいいよ。ミックスされてるわけ。
面白いのは、ウォーカー・エバンスの写真は
ブルースを感じるんです。
カントリーとかブルースみたいな匂いがする。
で、ブレッソンが撮るアメリカの写真は、
クラシック音楽が聴こえてくるような、
すごくクラシカルな感じがする。
両方いい写真なんですよ。
シェフ なるほど。
写真集や写真展、つまり人の写真を見る、
というのがピンと来ないという人が、
じつは、けっこういるみたいなんです。
写真は撮るけど写真を見るのが苦手。
山下 見方がわからないとか。
菅原一剛 いや、あのね、
カメラ雑誌とかの責任もあると思うんですけど、
「こういうもの」っていうのを
解説付きで伝えてくれるじゃないですか。
そういうことに対する
拒絶反応なんじゃないかなと思う。
シェフ 言葉が先にありすぎるってことでしょうか。
菅原一剛 能書きが先、そうですね、
ある意味言葉が先。
でも、写真は1枚の窓だと思えばいい。
いいとか悪いとかで判断しようとするから
わかんなくなっちゃうんです。
シェフ そうか。これはいい、これは悪い、
テーマ性がどうとか、
写真を見るのに採点表を片手に、
みたいになってるんですね。
菅原一剛 テーマとかコンセプトとかね。
シェフ 通知表をつける側みたいになると、
たしかに、何も面白くないですものね。
何でもそうで、映画もそうだし、
ゴハンもそうですよね。
山下 すぐゴハンの話になる。
菅原一剛 このごろ、いい写真集が
なかなか本屋さんの一番前で
売ってなかったりするから、
気がつかれないんだろうと思うんだけど。
シェフ いい写真集イコール
売れている写真集とは限りませんからね。
菅原一剛 やっぱり若い子たちにはとくに、
いい写真集をいっぱい見てほしいなって。
ややもするとね、
ブレッソンの写真を見たことない、
っていう子がいたりするぐらいだから。
シェフ そうなんですか。
オリジナルプリントを見たことない、
っていう人はいるでしょうけど。
菅原一剛 ビートルズなんか聴いたことない、
っていう人たちがいっぱいいるのと
同じなのかもしれないね。
山下さんは、ブレッソンは‥‥
あれ?
山下 すごいすごい。タイトルが‥‥
シェフ 菅原さんのあたらしい写真集に見入ってます。
山下 ダスト・マイ・ブルーム。
ゴミ、産業廃棄物の処理場で撮った
写真を集めているんですけど、
ものすごくきれい。
へぇー。
菅原一剛 ブルースの曲なんです、
『DUST MY BROOM』って。
シェフ ちり? 私の花?
ロマンチックなタイトルなのかな。
菅原一剛 ちがうんです、BROOMって
「ほうき」って意味なんです。
花は、BLOOM。L。
 
シェフ あ、そっちか、ごめんなさい。
菅原一剛 自分のほうきのゴミを払う、
という意味なんです。
ブルーズ(音楽)ではこの言葉は
「やり直す」って意味で歌われてます。
やり直そうぜっていう。
シェフ 強さがある言葉なんですね。
菅原一剛 強さがあるわけ。
ここ(廃棄物処理場)の人たち見てたら、
そういうカッコよさがあったの。
山下 僕、演劇やってた頃に、
枕木だけで舞台美術やりたいって
思っちゃって。
その枕木に通じる美しさがあります。
シェフ 枕木。見立てですか。
山下 はい。で、もらいに行ったんです、枕木。
そしたら、あれ、
重油を染み込ませてあるんですよ。
シェフ そうなんだ。重いの?
山下 メチャクチャ重くて(笑)!
菅原一剛 しかも鉄芯が入ってるでしょう。
 
山下 そう(笑)!
シェフ くれたの?
山下 くれたんです。
菅原一剛 あれ舞台で使うのは無理でしょう。重たくて。
山下 何本か運んでやったんですけど、
いや、もう死にそうになりましたね。
切らないで組み合わせて
並べて使ったんですが。
菅原一剛 あれはね、木だけ削っちゃって、
鉄と木を分離して、
鉄は鉄で使って
木は木でまた廃材にするんですよ。





シェフ この写真、ゴミに、
「混じり気」がないんですね。
菅原一剛 そうですね。
シェフ 同じものがギュッと‥‥
山下 純粋なゴミ?(笑)
シェフ そう、すごい純粋なの。
菅原一剛 もう徹底的に分別されてるからね。
シェフ きれいな理由はそこですね。
シェフ ケーキみたいなのが。
ケーキがあるよ。
山下 これ、雪が積もってるんですか。

菅原一剛 そうなんですよ。
白い本にしたのもさ、
ゴミの山が雪で覆われてた時、
すごいきれいだったんです。
シェフ 暗さもないですね。
菅原一剛 スポットライト当てたんだもん。
シェフ 本当にライト当てたんですか。
菅原一剛 ううん、気持ちが。
山下 きれい、きれい。
  (つづきます)
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2009-12-29-TUE