いきものの先生 野村潤一郎
第4回 太陽が東から昇るように。
野村 人間も、いきものの一部です。
人間をとりまく事象について、
何らかの究明をしようというのであれば、
やっぱりプリミティブな生物世界を
知っていなきゃだめだと思います。
例えば男ってね、
道具にすげえこだわるでしょ?
たとえば、いまお持ちの、取材用カメラ。
いいカメラだよね?
ほぼ日 会社のカメラです。よく写ります。
野村 男はカメラをよく買い換えます。
僕もよく言われるんですよ、
「あんた、何台カメラ買うの?」
ほぼ日 「カメラ屋さん、やる気かい?」って。
野村 それから、レンズもね。
「なんでこんなにいっぱい
 レンズを持ってないといけないの? 
 よその家もこんななの?」
と言われます。
ほぼ日 車もそうですし、男性は道具が好きですね。
コレクションがどんどんたまります。
野村 人間はもちろん、チンパンジーも、
鳥でもそうなんだけど、
高等な生物のオスは、わりと
素手で仕事をしないんです。
道具を使って仕事をするんです。

ほぼ日 へええ!
野村 ある種の鳥は、サボテンのとげを
「さあ、どれにしようかな。これ、いいかな?」
と、選びます。
それをくわえて森に飛んでいって、
自分の選んだ「マイとげ」を使って
木から虫をほじくり出します。
チンパンジーは、アリ塚の中に草のクキを入れて、
それにかみついてきたシロアリを引っぱり上げて、
なめて食べます。
ピグミーチンパンジーも
棒を使ってエサを採ったりします。

卵を抱いている自分の連れ合いが
虫を取りにいけない、
食べ盛りのヒナが
ひし形の口を開けてないている。
道具を使って能率を上げることで、
オスはメスとコドモを養っていけるんです。
一生懸命なの。

高等生物のオスは、
道具にこだわることで、生きていける。
人間の男が道具を好きな理由は、そこなんです。

例えば原始時代、
シカをしとめに行こうってときに
木の棒を持っているヤツと
石を持っているヤツがいたとしましょう。
木の棒は長いし、石は強力です。
さあ、自分はどうします?

ほぼ日 長くて強いもの‥‥木と石‥‥。
野村 そう。そこでいちばんかしこい男は
石斧を作ります。
ほぼ日 なるほど。それが自分と家族の
生死にかかわることだから、
道具が好きなんですね。
そう思うと、男性が道具を増やしても
イラついたりしないですみますね。
野村 あんまりイラつかないであげてほしいけど‥‥
そう言えば、ライオンのオスは、
イラついたメスや娘にぶっ叩かれても
大丈夫なように、たてがみすごいんですよ。
ほぼ日 あのたてがみは、メスのイラつきから
身を守るためなんですか?
野村 傷を防ぐためですね。
王者たるもの、ハーレムの女どもに
ひっぱたかれてもびくともしないように。
そのための盾です。
メスはやっぱりメスなんだよね、
手加減なしですよ。

ほぼ日 メスはなぜオスを叩くんでしょうか。
野村 そりゃあ、オスが怒らないからですよ。
「男は女や子どもを怪我させちゃいけない」
という、いきものの法則があるんです。
動物だけじゃなくて、人間も全部そう。

ですから、オス犬はメス犬のことを
絶対にかみません。
女性は気がついてないかもしれないけど、
男はすごく手加減してるんです。
ベッドの上にいるときでさえ手加減します。
オスが本気になると怪我をさせちゃうから。

男の力はものすごいんですよ。
だから、男はいつだって
思いやりをもたなくちゃいけない。
いきものの真理から大きく外れることを
しないために。

ほぼ日 しかし、やってしまっていることも‥‥
野村 もしもそんな人間がいるんだったら、
農作物の肥やしになったほうがいいと思います。
オスとメスがお互いを助け合って
基本的な役割を果たそうとしないのであれば
ミミズやデンデンムシみたいに
雌雄同体でもいいし、
バイキンみたいに細胞分裂で増えればいい。
そういう生物になればいいんです。
高等生物になればなるほど、
環境の変化に追従できるように、
遺伝子を取りかえっこしたり、
けっしてやぶってはいけない
掟のようなものが必要になってくる。
人間もまた、ほかの高等生物と
同じなんですよ。
ほぼ日 そのあたりを無視して、
ちょっと悪い意味でも
フラットになっていますね。
野村 もともと、いきものの世界に
平等はありません。
もちろん差別もありません。
でも、区別はしなきゃダメなんです。
そうじゃなきゃ、
「物を離せば落ちる」とか
「太陽が東から昇る」という
あたりまえのことを否定することに
なっちゃいますから。

  (つづきます!)
2008-05-13-TUE
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