前回の「糸井重里に恩返し」の回で
糸井から学んだことのひとつに
「無駄な努力と無駄な量」があると
おっしゃっていましたが、
いまの、この「恩返し」は‥‥。
まさにそんなかんじですね。
僕はいったいどこに向かっているのでしょう。
しかも、ひとつひとつのお話が
回を追うごとに濃くなってきています。
泣いたり笑ったりでたいへんなのです。
今回も、恩返し全項目の収録は
とても終わりそうにありません。
「ライフワーク」、そんな文字が
うっすら頭をよぎるようになってきました。
みうらさんがいったいいつ着替えるのか、
そんなところもおたのしみポイントの、このコーナー。
次回、みうらさんの洋服が変わった更新日の24:00までに
「じゅんの恩返し」宛てに
メールで感想を送ってくださった方のなかから
抽選で3名さまに、
みうらさんのイラストが入った
赤いトートバックをさしあげます。
最近メールでお問い合わせをいただくことも多い、
みうらさんの相棒「白と黒のあいつ」も、
今日は全般的にそっぽを向いていますが元気です。
さて、今日の恩返しは雑誌ガロについて、です。
ガロは「ウシに恩返し」の回でご紹介しましたが、
みうらさんが漫画家としてデビューした雑誌です。
まず、僕がガロと出会ったのは、子どものときです。
僕が子どもの頃は、貸本屋さんというのがあって、
風邪を引くと、親父が
商店街の貸本屋さんで本を借りてきてくれたんです。
僕はそれを狙って
がんばって風邪を引くようにしていたんですけれども。
みうらさんは、いろんなところで
がんばられる方ですね。
そうしているあいだに、貸本屋さんで
僕が読んだことのない本が
尽きるようになってしまい、
とうとう親父が手にとったのがガロでした。
はじめて出会ったガロは
白土三平さんの表紙で、
つげ義春さんの漫画が載っていました。
混浴の温泉でおばさんが、
ギョエッ、ギョエッと、ずっと言っていて、
温泉のガラスのドアみたいなところに
「へやで」という文字を書くんです。
その、つげ義春さんの漫画に
なんだかドーン、ときてしまって、
ガロと言えばエロ本、というイメージが
できてしまいました。
動画でおっしゃっていましたが、
そんな漫画雑誌の名を、
美大時代の、マージャンにあけくれるご学友が
みうらさんに浴びせることになるのですね。
そうなんです。
僕は、せっかく美大に入ったんだから
みんながやっているマージャンには目もくれず、
一生懸命漫画を描きました。
そうしたら、マージャン派のやつらが
僕の漫画を見て
「これはガロにしか載らない」
と言うんです。
どこの出版社に行っても、
「これはガロにしか載らない」
ガロに載せてもらえなかった漫画でも
「これはガロにしか載らない」
どこもかしこも
「ガロにしか載らない」
「ガロにしか載らない」世界って、なんだ!
そんなふうに言われる雑誌って
なんなんだ!!
けれども、ガロは、偉大な漫画家を
たくさん出した雑誌です。
ガロに連載されていた、
糸井さん原作で湯村輝彦さんが絵を描かれていた
「情熱のペンギンごはん」で、僕は
ヘタうま漫画というものをはじめて目にしました。
まずは、ペンギンに見えないペンギンが
出てくるということに
ものすごくびっくりしまして、
「これなら俺にもできる!」
そう思って漫画家をめざした人が
たくさん生まれたんです。
でも、「俺にもできる!」は無理なんです、
簡単にはできないんです。
ヘタうまは、下手じゃないんですよ。
漫画は、センスなんです。
なるほど。
でも、そうやって、
あのふたりが「ヘタうまブーム」を生んだことにより
ずいぶんいろんな人が
ガロに載りたいと思うようになって、
ガロから世の中に出ていった人たちが
たくさんいました。
それまでになかった人種が漫画家になった、
ということですね。
うん。とにかく、当時は
「ガロにしか載らない」という登竜門が
確かに存在したんです。
僕たちは、
そういうところ出身ですから、
いくらおしゃれな仕事をしたって、
腕のところにガロという
青ーい、大きーい入れ墨が、消えずにあるわけです。
ふだんはそれを必死で隠して生活しています。
「ガロにしか載らない」
人びとからそんなふうに言われた雑誌が
これまでにないタイプの漫画を生み、
ひとつの時代をつくっていった。
「ガロ出身」という誇らしい入れ墨を持つ、
しかしおしゃれなことをする場合はそれをひた隠し。
みうらさんの、24個めの恩返しでした。
みうらさんは、大学3年生のときに漫画「ウシの日」で、
ガロでデビューを飾った。
みうらさんと同時代のガロの作家に、
泉昌之さん、根本敬さんなどがいる。