小田社長 |
被告人、前へ。 |
開発のかた |
はい。 |
小田社長 |
今日はこれだけ? |
開発のかた |
そうです。 |
小田社長 |
それじゃあ、いきますか。 |
開発のかた |
よろしくお願いします。 |
小田社長 |
ああ、で、こちら、糸井重里さんとこのみなさん。
東京から、はるばる来ました。 |
── |
よろしくお願いします! |
開発のかた |
よろしくお願いします。 |
小田社長 |
あれ、写真撮るの? |
── |
はい、あの、できましたら‥‥。 |
小田社長 |
お菓子の写真? |
── |
はい、あと小田社長の‥‥。 |
小田社長 |
ぼくの顔? そりゃダメだよー。 |
── |
え、ダメですか。 |
小田社長 |
載らんのがいいねぇ。 |
── |
どうしても‥‥ダメです‥‥か? |
小田社長 |
だって、恥ずかしいじゃない。 |
── |
わかりました。
幸い、カメラマンの田口が絵も少し描けるので
今回は「イラスト」で行かせていただきます。
(というわけで、今回の取材は
基本、田口のイラストでお届けいたします) |
|
開発のかた |
じゃ、まず、これから‥‥。 |
|
小田社長 |
これね、奥野(註:ほぼ日乗組員)さんね。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
たんなるブラウニーなんだけど‥‥(ぱくっ)‥‥。 |
開発のかた |
‥‥。 |
開発のかた |
‥‥。 |
小田社長 |
‥‥ま、味はよし。 |
開発のかた |
ありがとうございます。 |
小田社長 |
たださぁ、これ、マモル(開発のかた)。 |
マモルさん |
はい。 |
|
小田社長 |
さっき情報を読んだけどさ、これ、何で切ってる? |
マモルさん |
包丁です。 |
── |
あの、お話中、もうしわけございません、
「情報」とおっしゃいますと
六花亭の全社員が
毎日、小田社長あてに出しているという
「一人一日一情報」のことですか? |
小田社長 |
うん、いや、まぁ、パートさんも含めて
全社員が
そういうのを出す権利があるってだけなんだけど。 |
── |
でも、たくさん来るんですよね? |
小田社長 |
今日で650から700(通)くらいかな。 |
── |
多いときですと‥‥。 |
小田社長 |
800を超える日とかもありますよ。 |
── |
すごい‥‥それって、
ぜんぶ読むのに、どのくらいかかるんですか? |
小田社長 |
朝の8時から11時までが、情報を読む時間。 |
── |
はあー‥‥ちなみに、どういう情報が? |
小田社長 |
まぁ、それはほんとに、いろいろですよ。
接客してる販売員から
お店にこんなお客さまがいらして
うれしかっただとか、
工場の現場から
ソフトクリームのフリーザーが壊れただとか
改善したい問題点とか‥‥。
‥‥で、ユアサさ(開発のかた)、
このブラウニー、包丁で切ってるんだな。 |
ユアサさん |
包丁です。 |
|
小田社長 |
それがいちばんいいわけ? |
ユアサさん |
包丁じゃないと、端がすこし欠けちゃうんです。 |
小田社長 |
‥‥ブラウニーって、欠けちゃうとダメなのか? |
ユアサさん |
いや、そういうわけじゃないんですが‥‥。 |
小田社長 |
すこし欠けてるくらいのほうが
表情があって、いいと思うけどなぁ。
それとも、もっと大きくするか?
どうだ、ミツハシ? |
ミツハシ
さん |
わたし、大きくても食べれます。 |
|
小田社長 |
‥‥あのね、奥野さんね、
こいつがまた食うんですよ、このミツハシ女史が。
オレの5倍ぐらい。 |
ミツハシ
さん |
5倍は言い過ぎだと思います(笑)。 |
小田社長 |
これくらいが丁度いいんじゃないかって
ぼくが言っても、
彼女は
「いや、社長、これじゃ足りません。
もっと大きくしてください!」って
必ず論争になるの。
お菓子の大きさをめぐって(笑)。 |
── |
そうなんですか(笑)。 |
小田社長 |
逆に言うと、
彼女がたくさん食べないお菓子はダメだね。 |
── |
なるほど、優秀なモニターなんですね。 |
小田社長 |
そう、うちのパックンちゃん。 |
ミツハシ
さん |
おかしな名前つけないでください(笑)。 |
── |
今、切る道具にこだわっていたのは、
どうしてなんですか? |
小田社長 |
ブラウニーってのは、切るときに
どうしても欠けやすいんですよ、固いから。
あ、ひとつ召し上がるといい。 |
── |
(待ってましたとばかりに)いただきます!
‥‥おいしいです。 |
小田社長 |
食べてみたらよくわかると思うんですけど、
上の部分が固いもんだから、
このままだと、
包丁でひとつひとつ切っていかないと
ポロポロ欠けちゃうし、
売りものにならない「ロス品」が出ちゃう。 |
── |
もったいないですね。 |
小田社長 |
だからといって包丁で切ってたら、
効率が悪いでしょう。
それで困っちゃうわけなんだけど‥‥。
つまり、もっと大きくすれば、
ナントカカッターでも、いけるんじゃない? |
ユアサさん |
はい‥‥いけると思います。 |
小田社長 |
だったら、そっちのほうが表情が出るし、
大きくしようよ。
なるべくポロポロしない寸法を出してさ。 |
ユアサさん |
わかりました。 |
小田社長 |
味はいいから。はい次。‥‥ああ、これか。 |
マモルさん |
3日目です。 |
小田社長 |
3日目ね‥‥(ぱくっ)‥‥まあ、いいか。
‥‥これはね、奥野さんね。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
見てのとおりチーズケーキなんだけど、
下の生地が、
どうしても湿気ってきちゃうんですよ。 |
── |
なるほど。 |
|
小田社長 |
ついでに1個食べる? はい、どうぞ。 |
── |
ありがとうございます! ああ、美味しい。 |
小田社長 |
いや、まだうまくない。 |
── |
うまくない? |
小田社長 |
ま、ふつうだ。 |
── |
これでふつうですか? |
小田社長 |
うん、ふつう。
この下の生地がさ、奥野さんね、
日に日に、水分を吸っちゃうんだよね。
当然なんだけど。 |
── |
じゅうぶん美味しいと思ったのですが。 |
小田社長 |
いや、まだうまくない。
彼らがいろいろと試行錯誤して
3日目でも食べられるようになっただけ。 |
── |
さすが社長、きびしいですね。 |
小田社長 |
だいぶましにはなってきたんですよ。
まぁ、とうぜん、
1日目がいちばんうまいわけだけど。 |
── |
ははー‥‥。 |
小田社長 |
でさ、これ、バターが効いてんの?
何でこんなに平気なわけ? |
ユアサさん |
最初に空焼きをしたんです。 |
小田社長 |
ああ‥‥なるほどね。
じゃあ、例のあのチョコレートを塗ったら‥‥。 |
ユアサさん |
もっと「もつ」と思います。 |
小田社長 |
その手でいこう、ユアサ。 |
ユアサさん |
はい。 |
小田社長 |
なんとか、いけそうだわ。1月のお菓子で。 |
ユアサさん |
はい、ありがとうございます。 |
── |
(他の乗組員に)‥‥充分おいしいよね。 |
小田社長 |
いいや、まだうまくない。もっと良くなる。
たぶん「酸味」だと思うよ。 |
ユアサさん |
酸味‥‥ジャム、挟んでみましょうか? |
小田社長 |
ああ、それで味がしまってくるんじゃない?
やってみよう。
生地のほうは、オッケーだから。 |
── |
すみません、味の判断は、小田社長が? |
小田社長 |
イモ・クリ・カボチャ、コーヒー以外は、
ぼくですね。最終的には。 |
── |
その4つは‥‥。 |
小田社長 |
ぼくにはわからないの、キライだから。 |
── |
あ、なるほど(笑)。
ちなみに、ここで味が固まったら、その次は‥‥? |
小田社長 |
名前を決めて、担当者が値段を計算して、
お菓子になって店頭に並ぶ、と。 |
── |
その、お菓子ができあがっていく過程に、
何か一貫した「ポリシー」のようなものって
あるんでしょうか? |
小田社長 |
うーん、あるとすれば、値段についてのことかな。
今の六花亭をつくった父(小田豊四郎:初代社長)が
よく言っていたことなんですけどね。 |
── |
はい。 |
小田社長 |
「このお菓子で100円ほしいと思ったら、
値段は95円にしろ」って。 |
── |
ほー‥‥。 |
小田社長 |
足りない5円は、自分たちの努力で補えと。
お客さまから100円をいただかないで、
「もう5円」は、
自分たちで知恵をしぼったり、
一生懸命、はたらくことによって補えと。 |
── |
ははー‥‥少し前にベストセラーとなった
勝間和代さんのビジネス本には
たしか、正反対のことが書いてありました。
顧客単価を1円でも上げることが重要、と。 |
小田社長 |
まぁ、一般的にはそうなんでしょうね、きっと。
でも、ぼくらは、父の代からずっと、
このことを考えのベースにして、やってきたから。 |
── |
なるほど‥‥あ、そうか、だから、
六花亭さんのお菓子のなかには
「5円」のつく商品が、いくつかあるんですね。 |
小田社長 |
単品で35円の「ずいずいずっころばし」とか
75円の「ごろすけホーホー」とかね。 |
|
|
── |
あれは「5円づつ引いてた」んですね。 |
小田社長 |
まぁ、そうです(笑)。 |
── |
ほんとは80円もらいたかったんですね。 |
小田社長 |
ま、そう言われりゃ、そうです(笑)。
<つづきます> |